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第11話 君の名は、スライム。

作中で糞ばっかり言ってるなろう作品はこちらになります。

「ええ? ちょっとなに~!? 信じらんな~い。男に私のう〇こちゃんを処理させるわけ」


 俺は若干白目を剥きながら、ケンタウロスの言葉を右から左へと流した。

 甘ったるいというか、語尾が独特というか。

 女っぽいというか、気持ち悪いというか。

 そしてう〇こちゃんって何よ。そんな風にいうヤツはじめてだわ!


 ちなみにケンタウロスに、雌はいない。

 すべからく雄ばかりらしい。

 そんなんで子孫とかどう残してんだと思うのだが……。考えないでおこう。


 眼前にあるのも、むしゃぶりつきたくなるほどの豊満な胸ではなく、鎧と評して良いほどのムキムキの胸筋だった。

 下半身も立派な馬体をしている。馬であったなら、さぞ良血馬と称えられたであろう。


 上半身は人間。下半身は馬。

 どっちも中途半端な上、オネェと来ている。

 よっぽど中立でありたいらしい。


「周囲の部屋から苦情も来ています」

「やだ~。そうなの? ちょっと恥ずかし、いやん!」


 ケンタウロスの部屋から漂ってくる臭いは、糞尿という枠組みを超えていた。

 扉を閉めていても、口当てをしていても、臭いが鼻孔を突き刺してくる。

 もはや兵器だ。


「清掃員の処理を拒むのであれば、あなた方で処理してもらうことになりますよ」

「え~。自分でするのはねぇ。ちょっと……。ばい菌とか付いちゃいそう」


 俺の中ではすでにお前らは汚物認定されてるけどな。


「どっちにするんですか。早く決めなさい」

「いや~ん。ドランデス様。そんなに怒ってると、小じわ増えちゃうわよ」


 ウィンクする。

 気持ち悪ッ!! 今日の朝、散々吐いたのに胃の内容物をまたリバースするところだったぜ。

 しかし、ドランデスもタフだな。

 さっきから全く表情を変えない。慣れているのだろうか。


「ブリードさん」

「はい。清掃を始めてください」

「いいんですか?」

「ええ……。構いません。何があっても、私が責任を取ります。遠慮なくぶっ殺――失礼――業務を遂行してください」


 今、ぶっ殺せって言いかけたよね。

 やっぱり怒ってんだ。


 本音としては、こんな部屋に半歩だって入りたくないのだが、仕方ない。

 命令を遂行しなければ、俺の命が危うそうだ。


「じゃあ、ちょっとお邪魔します」


 仁王立つケンタウロスを押しのけ、俺は部屋に入る。


「あ。ちょっと~。勝手に入らないでくれる。乙女の園に」


 ああ、言いたい!

 すげー言いたい!

 お前、どう見ても男だろ!

 乙女じゃなくて、馬男。

 園じゃなくて、厩舎だろ――と。


「頼みましたよ」

「はいはい」


 上司への礼節を忘れて、俺は適当に返事した。


 中は一層臭かった。

 昔、馬小屋で一夜を明かしたことがあったが、まだ楽園に思えるほどだ。


 部屋にはまだ数体のケンタウロスがいた。

 藁をもぐもぐ食べたり、他のケンタウロスとだべったりしている。

 野生を忘れた犬みたいにごろりと転がり、腹を見せて寝ているヤツもいた。

 ああ、腹っていうのは人の方じゃなくて、馬の方な。


「お前ら、よくこんな臭いところにいられるな。気にならないのか」

「うーん。そりゃあ臭いわよ。……でもね。これがあの人のお尻からひり出したものの臭いだって思うと」


 オネェケンタウロスはポッと頬を染めた。


「愛を……。感じるのよね」


 クソ! 滅びろ、ケンタウロス! クソ!!


「ともかく、掃除の邪魔なんで。外で待っててくれよ」

「え~。外、今寒いじゃない。眠たくなっちゃう」


 冬眠するのかよ、お前ら!


「言うこと聞けよ。なんだったら、実力行使に出てもいいんだぞ」

「やだ~。やば~ん」


 いやん、という感じで、ケンタウロスはしなを作る。

 いちいち気持ち悪いな、こいつ。

 マジで滅びろ!


「しょうがないわね。みんな、事情を聞いての通りよ。寒いけど、出ましょ」


 パンパンと手を叩き、オネェタウロスは他のケンタウロスを促す。


「もう……。やだわ~」

「顔が乾燥しちゃ~う」

「お兄さん。意外と整ってる顔してるわね」

「あら、ホントだわ~!」

「今度、一杯どう。チュ!」


 口々に愚痴を言いながら、部屋を出て行く。

 最後のヤツなんか投げキッスをよこしやがった。

 唇ごとぶっ叩きたい。

 てか、こいつら全員オネェかよ!!


 ともかく部屋には1体のケンタウロスもいなくなった。

 これでやっと作業に集中できる。

 まあ、いてもいなくても、このすげぇ臭いで俺のやる気は端からないけどな。


 人生でもっとも深いため息を吐きながら、俺は目の前のう〇こを掬い上げた。


 すると、外から声が聞こえた。


「え? なに~。これ~」

「ちょっとぉしんじらんな~い」

「きゃああああああ!」


 ――たく、何騒いでんだよ、あのオカマどもは。

 とっとと外いって、排泄物片手に愛でも語ってろよ。

 愚痴を言いながら、半開きになった扉を閉めようとした。


「ん?」


 その時になって気づく。

 さっきまで扉の外にいたケンタウロスが、忽然と消えていたのだ。


 ――速いな。もう出てったのか。


 腐ってもケンタウロスだしな。

 下半身は馬だ。

 すっぽり消えるぐらいはわけないだろ。


 俺は振り返り、ドアを閉めかけた瞬間。


 びちゃ……。


 それは水滴の音だった。

 やたらと重たい。

 雨漏りでもしてんのか、と思い、俺は天井を見つめた。


「な――!」


 絶句した。


 ケンタウロスたちだ。

 天井に貼り付くようにしてぶら下がっている。

 だが、ケンタウロスに天井に貼り付く能力なんてない。


 スライムだ。


 廊下の端から端まである超巨大なスライムが、天井に貼り付き、ケンタウロスを飲み込んでいた。


 じゅくじゅくと卑猥な音を立てて、蠢いている。

 よく見れば、ケンタウロスだけではない。

 オーガ、ゴブリン、スケルトンといった定番のモンスターも、その腹の中で消化されようとしていた。


 俺も長く戦ってきて、それなりにスライムを駆逐してきた人間だが、こんなサイズのは見たことも、聞いたこともない。


「――――!」


 はたと気づく。

 俺はそっと少し離れた場所にある扉を見つめた。

 開け放たれ、鋼鉄製の扉がこちらを向いている。


 ――やはり……。


 こいつら、おそらくあの部屋にいたスライムだ。

 デけぇ。

 何をどう間違ったら、こんな大きさになるんだ。


 これは不味いだろう。


 正直、魔族どもが共食いしようがオカマになろうが、俺にはどうでもいいことだが、これでも雇用されてる身だ。

 何もしないわけにはいかないだろう。

 そもそも魔族が滅びたら、給料は誰が払ってくれるんだ。


 まあ、ケンタウロスは滅びてもいいがな……。


「しゃーねーな!!」


 火魔法(ファイル)


 俺は炎の魔法を放つ。

 初級魔法だが、スライムにはこれで十分だ。


 火球が天井に突き刺さる。

 ケンタウロスも巻き込んだが、死にはしないだろう。


 爆煙が晴れる。


「げ!」


 俺は息を呑む。

 そこに対流していたスライムがいなくなっていた。

 図体がデカい割には、すばしっこいらしい。


 なら、もっと広範囲の炎の魔法を食らわすまでだ。


 俺は魔力を練る。


 ―――― …………だ ――――


 不意に声が聞こえた。

 音声ではない。直接頭に何かが語りかけてきた。


 精神感応だ。

 俺はすぐ能力の正体に気づいたが、発信場所がわからなかった。

 遠くではないことは確かだ。ごく近い。


 そして今度はもっと明確に聞こえた。


 ―――― ……糞だ ――――


「は?」


 ―――― ……糞の臭いがする ――――


 おいおい。これってもしかして……。

 嫌な予感がした。

 俺は改めてスライムを見つめる。


 スライムの……声…………か?


 戦慄する。

 すると、その声は続く。

 口々にあちこちから聞こえてきた。


 ―――― 美味しそう ――――


 ―――― お腹空いた ――――


 ―――― エネルギー使いすぎた ――――


 ―――― 糞を食べよう ――――


 ―――― 食べよう! ――――


 強い思念を感じた。

 その瞬間、スライムが俺がいるケンタウロスの部屋へと押し寄せてきた。



 【本日の業務日誌】。

 オネェケンタウロス、マジコロス!


今日だけで、10000PVいただきました。

ありがとうございます。


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