様子見
「ありがとうリュオ。お疲れさま」
村に着くとカケルとリーナはリュオの背中から降りリーナはお礼を言いながらリュオを撫でていたがカケルはそれどころではない。
普段車やバイクに乗らないカケルにとってリュオの出したスピードは馴れておらず気分が悪く今にも吐きそうだ。
「大丈夫カケル?」
「あ、あぁ今はまだ大丈夫だ」
少しぐらい疲れて失速するかと思っていたが十分近くもあの速度を維持するとはさすがユニコーン普通の馬と違い馬力が凄い。
「そ、それでリュオはどこに住まわせるんだ」
「私の家に昔使ってた馬小屋があるからそこでならリュオも暮らせると思う」
あまりリーナの家を歩き回った訳でないからどんな部屋があるか分からないがまさか馬小屋があるとは思わなかった。まぁお陰でリュオの住む小屋に出す金を使わないからよかった。
「とりあえず俺は少し休んだらみんなの様子を見に行くけどリーナはどうするんだ?」
「私はリュオを連れて一度家に戻るわ」
確かにリュオをこのまま連れ回すのも可哀想だ。全力かどうかは分からないが怪我をしたまま走ってる以上、ちゃんと休息してほしい。
「そうか。ならついでに女性陣の方も俺が見とくからリーナは家で休んでていいぞ」
「いいの? じゃあ先に戻って晩御飯を作って待ってるから」
「ありがとう」
リュオと一緒に歩きながらこちらに手を振るリーナにカケルもリーナが見えなくなるまで手を振り続けた。
「……何だよ今のやり取りは! 俺もう完全に馴染んでいるじゃないか!」
動揺しながら一先ず休むために近くの木に移動するが先程のやり取りを思い出してしまい何故か恥ずかしくなりそれを消そうと木に何度も頭を打ち付ける。
「何やってんだよ俺は……」
馬鹿みたいに頭をぶつけたせいか余計気分が悪くなってしまった。
「少し眠ってからみんなの様子を見よ」
そのまま木に寄り添うように座り込んだカケルはそのまま眠った。
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目が覚めると空は既に茜色に染まっていた。
慌ててスマホを見て時間を確認するとあれから二時間ぐらい眠っていた。
「結構眠ってしまったな~。速くみんなの様子を見に行かないと」
急に立ち上がってしまったものだから立ち眩みで一瞬クラッとしてしまったが無事体調も回復したようなので先ず畑の方から様子を見ることにした。
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「おうカケルお帰り」
最初にカケルを出迎えてくれたのは巨漢のサザンだった。
「無事に馬は見つけれたのか?」
「あぁなんとかね。今はリーナと一緒に家に居るはずだから見たければ見に行っていいと思うよ」
まぁ見に行った瞬間、かなり驚くとは思うけどな。サザンの驚く姿があまり想像できないから楽しみだ。
「そうかなら後で見に行かせてもらうよ」
「で、あれから畑の方はどうだ?」
「畑か? ああ見てみろよ」
カケルの予定している畑の広さは最大三千平方メートルで一先ず最初は千平方メートルを目安に耕すよう指示したのだが、しっかりと耕しているようだ。
「あんたから貰った種もしっかりと植えといたからな」
「そうみたいだな」
作業していたみんなもあちこちで休憩していたがみんな何処かやりきったような清々しい表情をしている。
「ありがとうなサザン。お前がみんなを引っ張ってくれたからここまでできたんだ」
「何言ってやがるんだここまで出来たのはあんたのお陰に決まってんだろ」
笑いながらそう言うとサザンはバシッとカケルの背中を叩く。
絶対痕が着いただろというほど、背中がヒリヒリしてしょうがない。
「あんたには本当に感謝してんだ。俺だけじゃねぇここにいるみんなそう思ってるよ」
改めてそう言われるとなんだか照れてしまう。
「これから俺は女性陣の方を見に行くからみんなに今日は終わりと言っといてくれないか」
「いいぜ。それで明日はどうすればいいんだ?」
「明日のことは明日言うからみんなには今日と同じ時間にここに来るよう伝えといてくれ」
「おうわかった」
ガッツポーズをしながらニイッと笑うサザン。何だかんだ言ってサザンはこの世界でリーナの次に頼れる人物となってしまった。これからもサザンとの付き合いは良いものになるはずだ。カケルはそんなことを考えながら畑を後にした。
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「この量なら九百枚近くはあるな」
タオル製作所である建物に入ったカケルが見たのは恐ろしいほど大量に積まれたタオルだった。
材料も残り三分の一ぐらいしか残ってなかった。
「みんな今日はお疲れ様。お礼として一人三枚ずつタオル持って帰っていいから明日も今日と時間によろしくお願いします」
「ホントに、やったー!」
「速く持って帰りましょう」
一斉にタオルの方へ向かう女性達を見るとまるで混雑しているバーゲンセールのようなだった。
「ちょっと押さないでよ」
「あっ! それ私が狙っていたのに~」
ホントにバーゲンセールのようで暴力沙汰にならないことを神様に祈るしかない。駄目だあの神様に祈っても意味ない気がしてきた。
「まぁいいや。とりあえずこれなら明日から王都に売りに行けることができるな」
後はリーナからこの世界の通貨を聞いとかないと売れるものも売れなくなったしまうからな。それと材料も用意しとかないといけない。
問題はリュオがこの量のタオルを積まれた移動式屋台を引っ張って王都まで行けるかだけど、今日の馬力を考えると心配しなくていい気がする。後はどうにかしてユニコーンだとバレない方法を考えとかないと大騒ぎになる可能性があるから明日までには何かいい案を考えとかないと。
こう考えるとまだまだやることは山積みだが少しづつだが確実に村発展の希望が見えてきだした。
「とりあえず俺もリーナのためにタオルを持って帰るか」
女性達がタオルを持ち帰り寂しくなった建物の中、カケルも三枚ほどタオルをいただきリーナの家に帰ることにした。
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「た、ただいま~」
この言葉を使うのは何年ぶりだろうか。両親もいなければペットといないカケルにとっていつも家に帰ってもそんな言葉を言う人は誰もいなかった。だからなのだろうか少し恥ずかし気がする。
「あれ居ないのか?」
なかなか返事が返ってこずまだ帰っていないのかもしれない。
「いやそれはないな。あれからかなり時間経ってるし……なら何処かに出掛けたのか」
もしかしたら帰りよる途中で何かトラブルにあったのかもしれないと思い急いで外に出ようとしたとき遠くからドタドタと足音が聞こえてくる。
「おかえりカケル。ごめんねリュオと話していたから気づくのが遅くて……ってどうしたのカケルなんで泣いているの?」
「……?」
そっと右手を自分の頬に触れさせると何か冷たいものに触れた。そうリーナの言う通りカケルは何故か泣いていたのだ。
「大丈夫? 何か辛いことでもあったの?」
心配そうな表情をしながら近寄るリーナを見て気づいたのだ、自分が何で泣いていたのかを。
「大丈夫だ、ちょっと目にゴミが入ったからだけだから」
「えっ!? ゴミが目にそれって大丈夫なの!」
この世界にはゴミが目に入ったという言葉がないのかそれともただリーナが天然なだけなのか分からないがさっきよりも心配しているリーナを見ると苦笑いしか出てこない。
「そんなに心配しなくてもホント大丈夫だから」
「そう……カケルがそう言うなら……」
少し距離を取るリーナの顔はまだ心配そうな表情をしていたが顔を小さく横に振るといつも通りの笑顔のリーナになっていた。
「さっ、晩御飯出来てるから早く食べましょ」
「あぁ、もう俺お腹がペコペコだよ」
「フフッ、結構旨く出来たからね楽しみにしてね」
「ホントか! どんな味なんだろな」
嬉しそうに歩くリーナの後ろをカケルは泣いていた理由を考えながらついていく。
カケルが泣いた理由それはきっと帰ったときに誰かがいるという安心感を思い出したからなのだろう。この世界に来て二日目だがカケルの心の中ではこんな生活がずっと続けばいいのにという自分が少なからずいた。
「リーナ」
「ん? 何カケル?」
「……ごめんやっぱ何でもないや」
「もー何よそれ~」
こんなやり取りが出来る時点でやはりカケルはこの世界にかなり馴れてきているのかもしれない。
もしかしたら元の世界よりもこの世界に居た方がカケルにとっては幸せなことかもしれない。こうやって一緒に笑い合える人、同じ志を持つ人。この世界ではカケルが手にすることが出来なかったものを手にすることが出来ている。
――でも俺は帰らないといけないんだ。好きな人に自分の想いを伝えるために