これからもみんなで
「ふ~疲れた……」
「お疲れさまねメル」
「実に見事な手際だった感謝する」
魔都から犬人族の村に移動したカケル達はメルの指示のもと村人達をメルの描いた魔方陣の上に集め、メルの魔術の知識と魔王のチート級な魔法力の協力の末、無事に犬人族の解毒に成功した。
「みんなメル達に感謝していたわね」
「少し大袈裟な気もしましたが……」
毒から解放された犬人族達はメル達にすごく感謝し中には嬉しさのあまり泣きじゃくる者までいた。
更にはお礼のパーティーまでしたいと言い出したから断るのが大変だった。
時間的には夜中だったが鬼達がそろそろハンデル村に向かって移動を始めていてもおかしくない時間でこちらも急いで向かわなければいけなかったため犬人族には申し訳ないと思いながらしつこい犬人族を振り払う勢いで飛び出してきたのだ。
飛び出したのは良かったもののカケル達の乗っていた馬車の馬とそれを操作していた鬼に魔王の異獣が限界に達したため仕方なく彼らだけは犬人族の村に戻り休憩を挟むことになりカケル達はメルの乗っていた馬車に移動し休憩も踏まえて交代で御者をすることになった。
今はカケルとリーナそれとルムネリアが御者台におり他の人達は客室に居たのだが最初はアーシアの魔族嫌いがまだ残っていたらしく魔王との同席に落ち着きかなかったが魔王が気を利かせてなのか勇者アマトの話を始めた瞬間、アーシアはその話に釘付けになり見事に魔族嫌いの発作を治めた。
「それにしてもカケルとリーナが仲直りしてよかったね~」
「そうだが仲良くなりすぎだ」
「確かにそうですね……まさか子供を連れてくるとは思いませんでしたから」
「まぁ魔族の子供だけど……」
話ながら外にいるカケル達をみんなが見る。
手綱を握るリーナ。その隣に座るカケル。そしてカケルの上に抱き抱えられるように座るルムネリア。
何を話しているのかは分からないが三人はとても楽しそうで端から見ればまるで――。
「家族のようですわね」
「そうですね……アマトが見れば何と言うでしょうか……」
二人のイチャつきかたに激怒したアマトを想像したのかメルは頭を抱えて唸る。
「もう何があろうとあの二人の仲は裂けねーな」
「そこに気づくとは風の声を聴けるだけのことはあるな」
「まーな。俺としては複雑な気持ちだけどな」
ハヤトと魔王が何の話をしているのか気になったが誰も聞くことはなかった。
それは誰も教えてはくれないだろうなと思ったからだ。
そして御者を一通り交代した頃にはカケル達はハンデル村の目の前まで来ていた。
「おー見えてきた。懐かしのふるさとが!」
「なんだか懐かしいねー」
たかが一週間近く離れていただけなのに二人が懐かしいと思う気持ち。それは二人が様々な事に巻き込まれ濃密な時を過ごしたからだろう。
ゆっくりと近付いてくるハンデル村を見て感傷的になる二人だがふと違和感を感じる。
それはハンデル村がいつもより騒がしく見えたのだ。
「何かあったのかな?」
「んーどうだろ。なぁハヤト! ハンデル村に何があったか風に聴いてくれないか?」
「あー? ったく人使いがあれーなー。……待っとけ今聴いてやるから」
文句を言いながらも素直に聴いてくれるのに感謝しつつハヤトが聴き終わるのを待つとハヤトは何とも言えない表情で言ってきた。
「どうだったんだ?」
「あー……何だろうな。俺から言わせてみればバカらしいことなんだが……」
「いいから早く言えよ」
もったいぶるような言い方をするハヤトを急かすとハヤトは簡潔に答えた。
「勇者と鬼が同時にハンデル村に着いたぞ」
「えっ……嘘だろ……」
=================================================
「だから俺らはカケルの指示にしたがってここに来たんだよ!」
「つくならもっとましな嘘をつきやがれ! いくらなんでもあのバカが武装した魔族をここに連れてくるわけねーだろ!」
「だーがーらー! 武装してるのもここにいる鬼達を護衛するためだって!」
ハンデル村に到着したカケル達は騒ぎの元である村の中心に行くと、そこでアマトとグールが激しい口論をしていた。
村人も集まっていたが大勢の魔族が一気に押し寄せてきたのが原因かかなり警戒している。
その光景を見たカケルの体に『不味い』と電撃が走り慌てて二人の間に入った。
「ストップ! お前らストップ! 一旦ストップ! 俺の話を聞くためにストップ!」
「何すんだよカケル。俺は今、許可なしでここに攻めてきた魔族を懲らしめるとこなんだよ」
「アマトそれ勘違いだから! とりま俺の話を聞け!」
「何が勘違いだよ。邪魔するならお前ごと斬るぞ!」
背中に帯刀している剣の柄を握るアマトにカケルは更に『不味い』となると良いタイミングでリーナ達も来てくれた。
「魔王にアーシアがどうしてここに? おいカケル! せつめ――」
「説明するから落ち着けって」
ようやく大人しくなったアマトにやれやれと思いながらカケルは何があったのかを事細かに説明した。
「そうか……どうやら俺の勘違いのようだったな」
「だから最初からそう言っただろ」
「まぁこの件に関しては俺が何か目印となるのをグールに渡しとけばよかった話だからな。二人ともスマン!」
手を合わせ深々に頭を下げて謝罪すると二人は気にしていないようで「もういい」と言ってくれた。
「あのーカケルよ。儂らは早く家を作りたいんじゃが……」
「そうだよな。今日中に作りたいよな。じゃあ……あそこにサザンていうデカイ男がいるだろ。あいつに何処に家を建てていいか聞いてくれ」
「わかった。では皆のもの行動開始じゃ!」
村長の掛け声に鬼達は「おぉー!」と声を上げサザンの方に向かう。
「サザーン! 一旦鬼達はあんたに任かせるわー!」
「おう! 任されたー!」
大きく手を振りルービスを含む何人かの村人を連れていくとサザンは鬼達を先導して何処かに行ってしまった。
「みんなが世話になったようだな」
「なに、当たり前のことをしたまでだ。こちらこそお前の義妹に迷惑を掛けたすまなかった」
「元々あのとき俺様があいつを仕留めていれば問題のない話だ。それにアーシアがその程度でくたばるとは思わないがな」
アマトはアーシアの頭に手を置く。それをされたアーシアは嬉しそうに照れている。
「あと、メルもアーシアのためにありがとな。お前達がこうして仲良くしてくれるのを俺様は嬉しく思うぞ」
空いた手でアーシアと同じようにメルの頭に手を置く。メルは迷惑そうな表情をしているが嫌ではなさそうな感じだ。
「それじゃあ師匠。この先にアタイの店があるので早速行きましょう~」
「分かったからそう引っ張るなって翔べないんだから」
フェルは早く綺麗になった自分のレストランを見せたいようで空に浮きながらハヤトの腕を引っ張っている。
「じゃあ俺達も」
「家に帰ろうか。ね、ルムネリア」
「――ッ! うん!」
嬉しそうにルムネリアはカケルとリーナの間に入り二人の手を繋ぐ。天使のように微笑むルムネリアにカケルとリーナも自然と笑みを溢すと三人は自宅に向けて歩き出す。
「なあリーナ……」
「なにカケル……」
名前を呼ばれて横を見るリーナ。
「こういうのも悪くないな」
リーナはすぐに答えず下を向いて一瞬目を瞑る。
そしてカケルを見ながら満面の笑顔で答えた。
「そうね。私もそう思うわ」
=================================================
正直、鬼達がここに移住して多少賑やかになったがそれでもまだ村の発展にはまだまだだ。
鬼達の建築技術のお陰で建物の修繕は可能になったとはいえやることは山積みだ。
食糧はまだ不十分だし人間と魔族の間にはまだ妙なわだかまりがあるし何よりこの村にとって名物となるような物が存在しない。
発展にはお金を使ってくれる客が必要でありその客を呼ぶ目玉がなければこの村がこれ以上発展することはない。
いくらフェルの異世界料理(俺の世界のだが)レストランがあるとはいえそれは切っ掛けにしかならないはずだ。
だから今後はより経済に力を入れていかねばならない。そのためにも王様との交渉は必要不可欠だがどうやら王様にとって俺は邪魔な存在でしかないらしい。
けど、だからと言って俺は諦めるわけにはいかない。
俺は約束したから。
必ずこの村を発展させると。
思えば最初はリーナと始めた……二人でスタートした村発展だがいつの間にかこんなにも多くの仲間が増えた。
勇者のアマト。魔女のメル。ユニコーンのリュオ。サキュバスのフェル。王都の騎士団団長のアーシア。俺と同じ異世界転移者のハヤト。夜叉と呼ばれる鬼の女の子ルムネリア。元罪人のグール。魔王。そしてハンデル村の人達や鬼達。本当に多くの仲間が増えた。
俺を信じて着いてきてくれたみんなのためにも俺は必ずこの村を発展する。神様から貰ったこの『等価交換』の力で!!
こんな形で最後となりましたが後悔はしていません。ここまで読んでくれてありがとうございました。
また、気が向けば続きを書こうと思いますがそれはいつになるのか分かりませんので期待しないでください。




