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夜明け

 カケルが用意した大量のロープで鬼達は手分けして気絶する集団を三人まとめでぐるぐる巻きにし拘束する。

 村の外で気絶する者もルムネリアが次々と運んでいき全員をお縄にちょうだいしてゴミ置き場のように村の中心に一まとめ置いた。


 「かけるぅこのヒトでさいごぉ~」


 「そうか、ありがとな」


 この捕縛作業の間、喋りながら作業をしていたのはカケルとルムネリア、そしてアイラ達六人の子供だけだった。

 最初はアイラ達六人も喋らないで黙々と作業をしていた。それは自分達と姿が異なるルムネリアに怯え畏縮してしまい話すに話せなかったから。しかし、カケルがルムネリアと楽しそうに会話しているのを見たからか六人はルムネリアは見た目は怖いかもしれないが本心は優しいのではと思い勇気を振り絞ってアイラが声を掛けたのが切っ掛けでルムネリアとも打ち解けルムネリアの合間合間に子供らしい会話を始めたのだ。

 だかわ、大人の鬼達は別だった。作業中みんな何かを言いたそうにルムネリアをチラチラ見ながらずっと黙っており息苦しい空気だけが続いていた。ルムネリアやアイラ達六人は子供だからそういう空気になっているのに気付いていないがカケルは気づいている。大人達がどうやってルムネリアをのけ者しにようか考えていることに。

 あの戦いでルムネリアの夜叉による真の実力が周知された。それはより一層大人から化け物扱いされるだろう。今はまだ満月だから力が狂暴化し手に負えないから朝になり弱体化したところを狙っているはず。

 もしくはのけ者にしようにもルムネリアのお陰で助かったという事実がある。そのせいでのけ者にしようにも出来ないという可能性だってある。

 どっちにしろルムネリアをのけ者にすることには変わらないだろうがはてさてどうしたものか。

 ルムネリアを連れてここから立ち去るべきかそれとももう少し様子を見るかの二択で悩んでいると鬼達の中から村長が姿を現しルムネリアに近付く。


 「村長……」


 村長ならまず暴力的行動はしないだろうが何をしに出てきたのかは分からない。けど万が一の事を考えてカケルはいつでもルムネリアを連れて逃げれるよう背後にスタンバり準備をする。

 村長の様子をじっと見ると村長もルムネリアをまじまじと見つめていた。


 「……本当にルムネリア……なのか?」


 「うんそうだよぉ? わたしはわたしだよ?」


 「そうか……手を見せてくれないか?」


 「てを……? いいよぉ、はい」


 言われた通りルムネリアは村長に両手を差し出した。村長はじっと手を見ているとおもむろにルムネリアの手を掴み握った。


 「本当に……本当に乗り越えたのか……」


 「……ん?」


 「そうだ。ルムネリアは乗り越えたんだよ」


 ポンとルムネリアの頭に手を置いたカケルはざまぁみろと言わんばかりに村長に向かってほくそ笑む。


 「あんたは言ったよな夜叉は種族で定められた一種の呪いのようなもん……だから対処しようがないって。そしてルムネリアは子供だから何も知らないって」


 「た、確かに言ったが……」


 戸惑う村長にカケルは調子に乗って立て続けに責め立てる。


 「あんたの言ったことは全て間違ってたぜ。夜叉なんて呪いじゃなくて過度なストレスによるもんが原因だったしルムネリアは満月の夜に暴走することも気付いて一人で悩んでたんだぜ」


 「そう……なのか……」


 握る手を離して距離を起き出した村長にこれは攻め時なのではと強気な自分が出てきたのでここは休まずに畳み掛ける。


 「そうなんだよ。こいつは誰にも相談できずにずっと一人で悩んで……それなのにあんたら大人と来たら一方的に自分の身を優先し――」


 くいくいと袖を引っ張られたカケルは我に返ったかのようにルムネリアの方を見た。前に居たはずのルムネリアが後ろにいる。この時点で無意識に自分が前に出ていたことが分かる。


 「かけるぅいいすぎ……」


 「わ、悪い……確かにちょっと言い過ぎたかもな……」


 本当は言い過ぎたとは思っていないがルムネリアに言われたのならここは潔く言い過ぎたと認め引くのが大切だ。ここで意地を張ってルムネリアにストレスを与えるようなことをしたら本末転倒もいいとこだ。

 熱くなった頭をクールダウンさせたカケルは何をどのようにして言えば良いのかを頭の中で練り言葉にする。


 「スゥー……フゥー…………要は村長が過去の出来事に囚われずにもっと真摯にルムネリアと向き合えば良かったって話だよ。夜叉を種族の呪いだって決めつけずにな……」


 「…………そうじゃな。お主の言う通りじゃな」


 「それとルムネリアを虐めてたあんたらも少しは物を考えて行動しろ。あんたらが夜叉というのをどれだけ知ってるかは知らねーけどルムネリアだって望んでこんな力を手にした訳じゃねーからよ……」


 俯き耳を傾けるルムネリア。出来るだけオブラートに包んで言ったつもりだがルムネリアの中でこれはアウトだったのかセーフだったのかはよく分からない。


 「……何もかもお主の言う通りじゃ。元々の原因は儂らの心の弱さじゃった。もっと早い段階で儂がお主のようにルムネリアと接していれば誰も悩まずにすんだんじゃ……すまなかった」

 

 深々と頭を下げて謝罪をする村長にざわめく鬼達は互いに顔を見合わせ下を向く。ここまで来て謝らないつもりなのかと疑ったが鬼達は一斉に顔を上げると村長に倣って頭を下げて謝罪した。


 「ふぇ~え、え、これって……」


 「みんな反省したって事だよ。これでもうルムネリアを悪く言って傷付けるやつなんていないよ」


 「ほんとうにぃ?」


 まだ現実を受け止めきれないルムネリアにカケルは腰を落とし同じぐらいの目線になり右肩から抱き寄せると周りを見るように言った。


 「これがみんなの反省の形さ。まだ誰も顔を上げてないだろ? これは本当に自分達の過ちを後悔しているからなんだ」


 「じゃあもうわたしこそこそとおそとにでなくていいの!」


 「もちろんさ」


 目を輝かせてうきうきするルムネリアにカケルも嬉しくなっていると謝罪を終え、頭を上げていた村長がカケルの方を向いていた。


 「それとカケルにも世話になった。お主が居なければルムネリアの事も解決しなかったじゃろうし、儂らはこの村を捨ててたじゃろう」


 「いやさすがにそんなことを言われる筋合いは俺にねーよ」


 「そんな謙遜なさらずとも……お主が居たからこそ儂らは助かったんじゃ。何かお礼とかしたいんじゃ」


 「お礼なんていらねーてか貰えねーよ。周りを見たら分かるだろ」


 周りを見渡すと綺麗に建っていたはずの建物は全て崩れ去り見るも無惨な廃墟となっており、人が住んでいけるような場所ではない。


 「俺が後先考えずにその場の勢いに近い作戦のせいで村がメチャクチャになった。だからお礼なんて貰えねー」


 この壊れかたでは全てを修理するのにかなりの時間と資材が必要となる。

 一先ずの塒として簡易な小屋を建てたとしてもこの人数分をとなるとこれもまたかなりの時間が掛かってしまう。

 あれだけ偉そうな事をほざいた割りには謝る事や反省する事だらけで恥ずかしい。そんなカケルの心情を察したのか村長は「フォッフォッフォッ」と笑みを浮かべた。


 「なーに、そんな事を気にする必要なんてないぞ。儂らの手に掛かれば村の復興なんておちゃのこさいさいじゃわい。なぁ皆の者よ!」


 振り返り鬼達に杖をかざすと鬼達は皆、否定することなく肯定した。


 「あぁ、こんなの三日もありゃ余裕だぜ」

 「いいや俺なら二日とちょっとだな」

 

 意気揚々と村の復興時間を話し合う鬼達だがどれも二日や三日やと復興にしてはどれも期間が短すぎる。


 「ちょちょちょちょ! 二日や三日ってさすがにそれは早すぎるだろ。普通は何ヵ月も掛かったりするもんだろ!?」


 二日や三日で復興させるとなると数時間に一軒建てるペースじゃなければ不可能だ。鬼の思考回路を疑うカケルだが鬼達は逆にカケルの思考回路を疑い笑って一蹴した。


 「な、何で笑うんだよ……」


 「いやースマンのう。儂ら鬼の建築技術を疑う者に会ったことがなくてな」


 言い訳なのか真実なのかは置いといて今の村長の発言は笑った理由には全くならない。


 「建築技術を疑うもなにも世間一般的に考えて数時間で一軒建てるなんて不可能だろ」


 「じゃがこう見えて儂らは魔族の首都である魔都の建物のほとんどを建てたんじゃぞ」


 うんうんと村長の言葉に頷く鬼達。魔都は二回行っておりちゃんと街並みも観察しているからどんな建物が建っていたのかは目を瞑れば思い出せる。が、それでもあの金属類を使ったあの高層ビルのような建物をこの鬼達が作ったとはやはり思えない。


 「さてはお主……儂ら鬼の事を全て力で解決する戦闘民族と思っているのではないか」


 「ギクッ……!」


 心の中を見透かされて心臓がバクバクだ。正直に言えば鬼の事を武力大好きな戦闘民族だと思っていた。何より夜叉という存在がそれを助長していたから。


 「まぁその考えは間違えでもないんじゃが……」


 間違えじゃないんかい! と心の中で突っ込む。


 「儂ら鬼はこの他種族より優れた筋力を使って建築するのが得意なんじゃよ」


 「筋力が優れてたって家の設計図とか資材とか……あと手先の器用さとかもいるだろ。さすがに力があるからってそれは……」


 別に村長が嘘を言っているようには見えないがどうも信憑性がなく、信じるに信じれない。そんなお悩み状態のカケルの袖をルムネリアがまた引っ張った。


 「何だよルムネリアこんなときに――」


 「みてかけるぅつくったぁ」


 ルムネリアが見せてきたのは木で彫られたミニチュア馬の彫刻だった。


 「つ、作ったぁってこれをか。いつどこでどうやって!?」


 「えぇーひまだったからさっきここでつくったのぉ。これで」


 自慢の鋭い爪の刃を見せてニッコリするルムネリアにカケルはなるほどと納得した。爪で作ったから色々と粗削りでやや不格好に見えるがそれでもしっかりと馬の特徴は捉えられてる。


 「これで納得してくれたじゃろうか。儂らは力だけでなく手先も器用で頭の中で製作物をイメージしそれを設計出来ることを」


 道具なしで作ったルムネリアの作品を見た以上、信じるしかないだろう。それにこの集団が前に来たとき村をメチャクチャにしたとルムネリアは言っていたがそれにしては村が綺麗なままだと思っていたが壊された所をすぐに修繕していたから綺麗なままだったのだろう。


 「これは認めるしかないようだな」


 「そうじゃろ~そうじゃろ~」


 「けど資材はどうすんだ? さすがに全員分の家を建てるほどの資材は――」


 「そこも大丈夫じゃ。普段からいざというときのために資材は集めストックしておるわい」


 資材ももう用意できているためこれ以上言うことはないだろうと黙ったカケルだがふと何かを閃いた。


 「…………なぁ村長、ここって魔族領土じゃなくて無法地帯なんだよな」


 「そうじゃが」


 「村長……というよりも鬼達がわざわざこんな危険な場所に住んでる理由は特に聞かねーけど……この地に何か特別な思い入れとかは」


 「儂らとしては特にないはずじゃ。何となく選んだ場所じゃからのー」


 ということは鬼達は好きでこの地に居るわけではないということになる。他に場所があれば移動する可能性だってある。なら――。


 「なぁ村長……お礼の話だけどよ……俺の頼みを聞いてくれないか?」


 「おぉ! 何でも構いませんぞ。何せお主は儂らにとって恩人なんですからな」


 そう言ってもらえると嬉しいがそれでもほんのちょっとだけ後ろめたさはある。基本的にカケルは見返りを求めての行動はしない。それはもちろん図々しい奴だと思われたくないからだ。

 だが今回見返りを求めるのは自分のためというよりかは村の……ハンデル村のためだからだ。


 「鬼達全員で俺の住んでる村……ハンデル村に移住しないか」


 「い、移住じゃと!?」


 前触れのない移住宣言に周りがざわつくもこれは想定ない。誰だっていきなり移住しないかと言われたら戸惑うもんだ。


 「いきなり移住と言われても……儂らは魔族じゃぞ。人間の領土なんかに移住は――」


 「その点は問題ない。俺の住んでる村もここと同じで無法地帯だから」


 「じゃが他の村人が――」


 「その点も問題ない。てかそれよりも俺の住む村について説明した方が早いか」


 カケルは鬼達にハンデル村を発展させるために住んでいることを話した。そしてその発展内容である人と魔族が共存できる村にすること。

 ここまで話してもまだ周りがざわつく。まぁ人と魔族が共存できる村にするなんて常人なら言わないし思い付きもしない。場を返るため試しに人間代表として勇者もこの事を認め、魔族代表の魔王も前向きに検討してくれていると話すと勇者と魔王の単語に反応し本当かどうかの真偽を周りで話し合った。ちなみに更なる混乱を招かないよう自分が神様から呼ばれた異世界の出身者というのは伏せることにした。


 「……お主の言いたいことは分かった。それで儂らの答えを言う前に一つだけお主に聞きたいことがある」


 「何でもいいぜ」


 「お主がわざわざ自らのお礼として儂ら鬼の移住を提案したということは何か儂らにやらせたい何かがあるということじゃろ? それが何なのかを教えてほしい」


  鬼達の長をやっているだけでカケルの狙いをちゃんと理解しているみたいだ。それならこちらも遠慮せずに答えれる。


 「村を発展するにあたって家の修繕が必要なんだ。王都から大工を呼んで村中の建物を修繕するとなると時間と金がかかる」


 「だから儂らにその修繕を頼むと?」


 「そういうことだ。もちろん資材や道具はこっちが用意するし住む家も村の中だったら何処にでも建てていい。だからハンデル村に来ないか」


 村長に向かって真っ直ぐ手を伸ばす。カケルの手を見た村長は暫し目を閉じて考え込み、目を開けた村長はがっしりとカケルの手を掴んだ。


 「その話乗ろう。儂も人と魔族が共存できる村を見てみたいからのう。皆の者もそれでいいじゃろ!」


 「もちろんだぜ村長ー!」

 「私たちは村長に着いてくわー!」


 誰も否定しなかったことに安心し胸を撫で下ろすカケルをルムネリアが上目遣いで見てきた。


 「安心しろよ。約束通りルムネリアはちゃんと俺が面倒見てやるから」


 「……! うんッ!」


 嬉しくて勢いよく抱き付いてきたルムネリアを受け止めきれなかったカケルは尻餅と同時に両手を地面に付けるが左腕は骨折、右手首を捻挫と両腕を怪我しているから一気に激痛が走った。


 「イデッ……」


 「あぁごめんね。わたしうれしくてつい……」


 シュンと落ち込むルムネリアの頭を比較的軽傷な右手で撫でる。


 「そこまで喜んでくれるなんて俺も約束したかいがあったよ。これからもよろしくなルムネリア」


 「うぅ……ありがとうかけるぅ……ありがとう……」


 ルムネリアの目元から涙が溢れカケルの胸元に顔を埋めて泣きじゃくる。

 そんな二人の姿を彩るように太陽が昇り朝日が二人を照らす。

 朝日に照らされたルムネリアの角は光るのを止め伸びた爪も縮み元の長さに戻りいつものルムネリアの姿に戻った。

 けど、それを誰も指摘することはなくカケルもあえて口にせずに無言でルムネリアを抱き締め戻った喜びを伝えた。 

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