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月夜の戦い~襲撃~

 遠くの場所で極夜の盗賊団がいる事にカケルは頭が混乱していた。

 ここ鬼村は魔族領土に位置する場所だ。無法地帯でもないこの場所になぜ極夜の盗賊団が……そして遠方から様子見のような攻撃をしてきたわけは……。


 「あのヒトたちまたきた」


 「またって……前にも来たのか!」


 「うん……よっかまえにきたの」


 四日前と言えばカケルが初めて魔都に訪れた日だ。そんな日にここ鬼村に極夜の盗賊が襲撃してきたとは。けどあいつらはどうして鬼村を……しかも二度襲撃してきたのか。


 「あいつらの目的とか分かるか?」


 「うううんわかんない。まえきたときもムラをめちゃくちゃにしてかえったの」


 「めちゃくちゃ? 何か盗んだりはしてないのか」


 「わかんないけどたぶんなにもぬすまれてないとおもうぅ」


 極夜の盗賊団が何も盗んでいないというのにカケルは疑問を抱く。極夜の盗賊団はその名の通り盗賊集団だ。基本的に法律のない無法地帯に訪れた行商人や兵士達を襲い金品を巻き上げ時には命まで取るのだがあいつらにとって命は二の次。メインは金品にあるのにそれを取らずしてただ村を襲ったのは引っ掛かる。


 「本当に何も盗んでいないのか?」


 「うん。あのヒトたちむらをめちゃくちゃにしてみんなにめいわくかけた……」


 「そうか……」


 あれが本当に極夜の盗賊団かどうかはこの際どうでもいい。大事なのは確実にこれから二度目の襲撃をしようとするあの集団をどう対処するかだ。

 まず戦うという選択肢は除外だ。ならやるべきことは一つ。すぐさまこの場から立ち去り村の鬼達にこの事を伝えて逃げることだ。

 問題は鬼達が信用するかどうかだが信用しなければしないでルムネリアを連れて逃げるだけだ。そう今のカケルが優先するのはルムネリアを守り生き抜くことだ。

 そうと決まれば善は急げ。早くルムネリアを連れて村に行かねばと後ろを振り返りルムネリアの手を掴もうとするが、後ろにいたはずのルムネリアの姿が見当たらなかった。


 「あれ? ルムネリア?」


 もしかして一人で逃げたのかと思ったがそんなことはなかった。むしろ一人で逃げていた方がよかった。穴の空いた壁の方を見ると極夜の盗賊団目指してルムネリアが歩きながら外に出ていたのだ。


 「お、おい! ルムネリア何処に行くんだ!」


 「え? あのヒトたちがわるいことしないうちにわたしがやっつけるの」


 「やっつけるってお前なー……」


 鋭い指先をカケルに見せニコッと笑うルムネリアにカケルは何を言えばいいのかわからなかった。


 「かけるぅいった。わたしがあばれるのストレスのせいだって……」


 ルムネリアを言葉をカケルは何も言わずに耳を傾ける。


 「だからあのヒトたちをこらしめるついでにストレスをけすの」


 確かにストレスを発散されるなら誰かを殴るのが効果的。そして相手は悪逆非道な盗賊集団。殺すのはさすがに駄目だが痛めつけるぐらいなら誰も文句は言わないはずだ。


 「……わかった。お前がそこまで言うなら俺も止めたりしない。けど二つだけ約束だ」


 ルムネリアの前まで行きしゃがむとカケルは指を二本立てる。


 「一つは殺さないこと。そしてもう一つは俺が助けを呼ぶまで無理はしないこと。自分の身を守るのが最優先だ。いいな」


 「わかったぁ。やくそくするぅ~」


 「よーしいい子だ」


 ルムネリアの頭をわしゃわしゃと撫でる。道は決まった。ルムネリアがこうして前に出て戦うということはきっと村の鬼達を助けるためだろう。

 だがカケル的にはそれは納得いかないことだった。ルムネリアは村の鬼達に散々傷つけられているのにわざわざ守ろうとするのはルムネリアの心が広いからだろうがそれでは村の鬼達が肝心なとこをルムネリアに押し付けているようで気分が悪い。

 だからルムネリアが闘うと言った以上、村の鬼達を意地でも引き連れて戦いに加わらせてあの盗賊集団を返り討ちにするのだ。

 もちろんカケル自身も前では戦えないかもしれないが等価交換を使い後方支援には徹することが出来るはずだ。


 「……悪いな。守るって約束したのに肝心なとこで守れなくて……」


 「うううん。かけるぅはわたしをちゃんとまもってくれた。だからわたしもかけるぅをまもるの。かけるぅがりーなぁをたすけにいくために」


 ルムネリアにそんな事を言われたら嬉しくてたまらない。嬉しさと同時に申し訳なさがくるがやはり嬉しさの方が上回った。


 「お前はホントにいい子だな……さてとルムネリアから元気とやる気を分けてもらったことだし……いっちょやったりますかな」


 「うん! いっちょやったりますかぁー」


 笑い合う二人。これから戦うというのにこの緊張感の無さは不思議だったがそれは互いが互いを信頼しているということ二人一緒に外に出るとカケルは村の方に、ルムネリアは盗賊団の方に向かい背中合わせに走り出す。

 それぞれの役目を果たすために。



=================================================



 鬼の住む村デームル村を一望できる場所に集団をまとめる重厚感のある黒い鎧を纏った一人の魔族が様子を伺っていた。


 「……何か反応はあったか」


 「いや特にこれといった反応は無かったぜ。やっぱあの建物は物置小屋のようだぜ」


 前にこの村を襲撃したとき一つだけポツンと置かれ気になっていたため襲撃する前にあの小屋目掛けて魔法で攻撃を仕掛けたのだが本当にただの小屋だったようで拍子抜けもいいとこだった。


 「隔離するように建っていたから何かあると思ったがどうやら俺の考えすぎのようだな」


 「グールは考えすぎなんだよ。そんなややこしい事なんて考える必要なんてないぜ。やることは一つ。極夜の盗賊団に見立ててあの村で暴れることなんだからな」


 ガハハと牛頭のミノタウロスが隣で気軽に笑う。彼の言う通り極夜の盗賊団に見立てて暴れればいいのだ。それがクライネスの命令であり、ならず者として牢に閉じ込められていた彼らが牢から解放してもらえる条件なのだ。


 「そうだな。昔みたいに考える必要なんてない。本能のままに暴れたらいいんだ。おらー! 行くぞお前らー! とつげ――」


 グールは腰に帯刀する剣を抜いて剣先を村に突き付けながら突撃の合図を出した瞬間だった。目の前に白い影が横切ると後方から同士達の断末魔に似た叫び声が聞こえた。


 「……ッ! どうした! 何があった!」 


 後ろを振り返ると突然の出来事に同士達は統率を崩しあわてふためいている。既にやられたものは足である異獣から転落し気絶している。そのうち何名かは引っ掻かれたような傷痕が腕や背中にあった。


 「くっ……みんな落ち着け! 恐らく敵は一人だ! 全力で村に向かい走れば撒けるはずだ! 全員進めー!」


 全員に聞こえるよう最大限の声量で指揮して手綱を引っ張り村に向かう。それに釣られ後ろで混乱していた者も我に戻り先頭に着いていく。

 

 「何者かは知らないがまさか鬼村にここまでやる実力者がいたとは……だがそれなら何故、前回の襲撃時に何もしなかったんだ」

  

 走りながら思考する。村までの距離が三分の一までになり先程、魔法で攻撃した小屋があらかた目に見える範囲まで近付くと壁に空いた穴から小屋内部が見えた。

 小屋の中にはベッドやタンスと生活に必要最低限の家具が置かれ魔法とは無関係な傷がついていた。


 「まさか前回は出なかったのではなく出られなかったのか! そして俺は誤った判断をしたのか!」


 自らパンドラの箱を開けてしまったことに気付いてももう遅い。

 後方から感じた殺気が急激に近付きまさかと思い振り返る瞬間、顔が横を向いたのと同時にそれと目があった。

 全身が白く腕の先は生物としての形状を捨て凶器の塊。血のような深紅の瞳に恐怖を感じてしまい、グールは剣で横一線に凪ぎ払うがガチンと剣を掴まれそのまま強引にへし折られてしまう。


 「なっ……!」


 見た目はただのか弱い少女なのに一体どこにあのような力があるのか。同士に混乱するなと言った手前、自分自身が混乱してしまう。それが原因か振り上げられた右手に気付かず直撃しそうなときあのミノタウロスの男が少女に体当たりをかます。

 少女はしっかりと受け身を取ったようでダメージはないが距離を取ることができた。


 「悪い。助かった」


 「礼はいらん。それよりもお前は先に行きな」


 「お前はどうするんだ」


 「言わなくても分かってんだろ。こいつと戦うに決まってんだろ!」


 ピリピリと伝わってくる闘志にグールは何も言うことはなかった。あのミノタウロスの目的は暴れることではなく強者と命と命を削りあう戦いをすることだ。


 「油断はするなよ」


 「そっちもな」


 交わす言葉はそれだけでよかった。再び手綱を握り弾き異獣を走らせる。ここで特攻隊長でもあるあいつが抜けるのは痛いがここであの少女相手に多くの犠牲者を出すのも辛い。

 そのためこちらも最高戦力をぶつけるのだ。少女には悪いが自由を取り戻すためにもここで消えてもらう。


 「あっ、まって」


 少女は走っていく先頭に反応するがミノタウロスの持つチェーンの先に付いたトゲトゲしている鉄球が少女の行く手を塞ぐ。


 「おいおいどこ行こうとしてんだ? お前の相手はこの俺だ!」


 チェーンを引っ張り鉄球を戻すと今度は少女に向けて投げる。この重さにこのスピード。さすがにこれは受け止めれまいとにやけるミノタウロスだが少女は何気ない顔をして右手をつき出すとそのまま鉄球を片手で受け止めた。

 

 「なにッ!」


 少女は鉄球を離すどころかそのまま握り続けると鉄球からミシミシと嫌な音を立てるとグシャーンと粉々に砕け散った。


 「嘘だろ……俺の自慢の武器を……」


 「そことおして」

  

 あの大きさの鉄の塊を砕くなんて当たり前みたいな顔をする少女に怒りや恐怖ではなく喜びの感情が沸き上がってくる。


 「そうだよ……そうこなくちゃ面白くねぇ! 武器なんていらないシンプルな肉弾戦が俺の求める戦いよ!」


 首を傾げている辺り今の言葉を何一つ理解していないようだが、別に理解していなくてもいい。ミノタウロスが求めるのは理屈で行動するような息苦しい戦いではなく力と力がぶつかり合う正面からのやり合い。この少女なら無意識にそれをやってくれると確信を得ているから理解していなくても結構なのだ。


 「行くぞ!」

 「そこどいて!」


 二人同時に地面を蹴り間合いを詰める。衝突する音が遠くから聞こえるがグールは気にすることなく異獣を走らせる。目的である村を荒らすために。



=================================================



 ルムネリアに負わされた傷の痛みに耐えながらカケルは鬼村に走っていた。

 せめてある程度傷の手当てをして行けばよかったと後悔しながら走ると灯りが点いていなかった鬼村から次々と火の点いたランプを持った鬼達が家から出てきた。


 「なんかあっちの方で変な音しなかった?」

 「あっちって……あの化け物が住んでる家しかないだろ」

 「まさか暴れてるんじゃ……」

 「馬鹿か! 今夜は村長があの家に結界を張ってるんだから音なんて聞こえるはずないだろ」


 口々に何か言い争っているが家からほとんど出てくれたのはありがたい。一から集める手間が省けたから。


 「落ち着くのじゃ皆のもの」


 「「村長!」」


 まさか村長まで来るとはこれまたラッキー。村長を交えての話ならきっと上手くいくはずだ。


 「結界は正常に作動しておる。あの音はルムネリアとは関係ないじゃろう」


 「なら一体……」


 「恐らく極夜の盗賊団じゃろう」


 「そんな……」


 何処のタイミングで登場しようか悩んだカケルだが時間が推していることもあり走りながら鬼達に向かって叫ぶ。


 「すいませーん! ちょっといいですかー!」


 「お、お主はカケル!」


 村長の前まで全力で走ったカケルだが予想通り傷のせいで体調が悪いカケルはみっともなく転んで村長の前に登場してしまった。


 「こいつって化け物を庇った人間じゃ……」

 「まだこの村に居たのかよ……」

 「待って……あの人間怪我してない?」


 こそこそと何かを言われている気もするがそれは置いといて。服に着いた土埃を払い立ち上がるとそのまま村長の方を向く。


 「カケルよどうしたのじゃ。ルムネリアはどうした。それにその怪我……」


 「あー山ほど聞きたいことはあるだろうけどそれはちょっと待ってくれ。まず俺の話を聞いてくれないか? 割りと一大事なんだ」


 「……ルムネリアか?」


 その一言に周りの鬼がざわめく。だが、カケルが伝えたいのはルムネリアの事ではないので頭を掻きながら軽くため息をついて村長を睨む。


 「俺がこうして生きている時点でルムネリアは関係してねーって気付けよ」


 「まさか……満月による夜叉の暴走を回避したのか!? じゃがその傷は……」


 「どうしてそっちに行くんだよ……普通に乗り越えたんだよ」


 「の、乗り越えたじゃと!? 夜叉の暴走を!? ルムネリアが!?」


 驚きのあまり腰を抜かすんじゃないかとヒヤヒヤさせられたがなんとか踏み止まるも顔を見る限り頭の中は混乱しているようで襲撃の事を言っても大丈夫なのか不安だったが一人で戦うルムネリアの事が一番心配なのでお構いなしに混乱する村長に告げる。


 「さっき遠くの方で盗賊団が居たのを見た。恐らくこの村を狙っている」

 「それは知っておる。また極夜の盗賊団が来たんじゃろ」


 知ってたのかいとツッコミたかったが知ってたなら知ってたで話が早い。が、カケルは気になる事が一つあるので先にそれを聞いてしまう。


 「この村って魔族領土に属してんだろ? 何で極夜の盗賊団が襲うんだ?」


 「何じゃ、もしかしてお主知らなかったのか? ここデムール村は魔族領土には属しておらん。人間と魔族が条約を結んだのと同時期に我々は魔族領土を捨て何処にも属さない無法地帯に居を構えてるんじゃ」


 村長の説明にカケルは急いで地図を等価交換し、鬼村の場所を確認すると確かに地図の中心に円形に広がる空白部分に鬼村であるデムール村が書かれていた。


 「うわっ……本当だここ無法地帯じゃん……」


 ここに来た瞬間にとっとと地図見て確認すればよかったと自分の楽観的思考に叱咤しながらもどうりで鬼達が襲うか襲わないかの瀬戸際にいたわけだ。

 そして盗賊団が襲うわけもこれで分かった。となるとやはりあれは極夜の盗賊団ということになるのだろうか。


 「…………今は考察してる場合じゃないか……村長もまだ言いたいこともあるだろうけど俺の話を聞いてくれ」


 「…………言ってみるんじゃ」


 カケルの発言に暴発しそうな鬼達を片手で静止させると村長は頷き耳を傾ける。


 「今こうして話している間にもあいつらはこの村に接近している。ルムネリアがここにいないのはあいつが一人で盗賊団と交戦し足止めをしているからなんだ」

  

 ざわつく鬼達。カケルに聞こえない声で喋っているため何を言っているか分からないが会話内容は容易に想像できる。それはルムネリアが自分の意思で戦っているのかどうかだ。

 ほとんどの鬼達は暴走したルムネリアがターゲットをカケルから盗賊団に切り替えてそちらの方に行ったと思っているはずだ。

 そう思われるだろうとカケルは予測していた。重要なのはその誤った考えを正して鬼達に協力してもらうこと。それが今のカケルのやるべきことなのだ。


 「だからみんなも力を貸してほしいんだ。あの量はルムネリア一人じゃ厳しすぎる。だからみんなの力を一つに――」


 「一つにして倒そうと……それは無理な相談じゃな……」


 言葉を遮られ首を横に振る村長にカケルは嘘だろと思った。他の鬼はともかく村長なら理解し協力してくれると思ったからだ。

  

 「……どうしてなんだ!」


 「どうしてもなにも儂らにはあやつらと戦う力が無い」


 村長の一言に周りの鬼は深く頷く。それを見たカケルは込み上げてくる怒りを抑えきれず殴り付けるように叫んだ。


 「力が無いってどういう事だよ! あんたら鬼だろ! 魔族だろ! 俺ら人間と違って力があるだろ!」


 「確かにお主より力はあるが儂が言いたいのはそういうことじゃない。儂が言いたいのは個々の力の差よりも数の差があるということなんじゃよ」


 またしても頷く鬼達。つくづくこの村に住む鬼達には腹が立つ。数の差云々の前にルムネリアが一人で戦いよるから力を貸せと言うのに村長を含めここの鬼には……。


 「わ、私たちは戦うわ!」


 怒りで体を震わせ、やけくそに暴れてやろうかと思っていると鬼達の後ろから幼い少女の声が聞こえた。鬼達は誰が言ったんだと後ろを見ていると一人の……いや、六人の影が鬼達の隙間から飛び出した。


 「私たちは戦うわよ! お兄ちゃん!」


 飛び出してきたのはアイラ、キリキラ、シルセセ、ネーラ、ノノ、ヴァイタの昼間遊んだ子供達六人だった。

 この子らの登場は村長も他の鬼達もカケルだって想定しておらず全員がポカーンとするなか最初に声を出したのは村長だった。


 「カケルよ。この子らと知り合いなのか?」


 「知り合いと言えば知り合いかなー……昼間、村長の家出てルムネリアの家に帰る途中で会って遊んだんだよ」


 「なんじゃと……!?」


 隠すような内容ではないと思い包み隠さずこの六人との関係性を喋る。そして再び言葉を失った村長を無視してカケルは六人に近寄る。


 「戦うって言ったけど……本当にいいのか?」


 「本当は怖いッスけど……」

 「みんなで話したのよ」

 「お兄ちゃんの力になろうって!」


 六人の意志は堅く生半可な気持ちで言っているのではないとすぐに分かった。


 「いいのか? 無傷とはいかんかもしれんぞ」


 「覚悟の上だぜ!」

 「問題ない」

 「が、頑張ります!」


 本当に全員で話し合ったようでそう簡単に決意は揺るぎそうにない。


 「よしッ……なら一緒に戦ってあいつらを撃退しようか」


 「「うん!!」」


 「な、何を言ってるんじゃお主らは!」


 珍しく大声で怒鳴る村長に子供達はビックリしてカケルを盾に後ろに回る。


 「……何怒ってるんだよ……」


 「よくそんなことが言えるのー! お主は自分が何を言ってるのか分かっておるのか!」


 気付けば村長だけでなく周りの鬼達も眉間にシワを寄せ睨む……まさに鬼の形相で睨んでいる。

 もちろん鬼達が怒っている理由が分からないわけではない。むしろ自分でもどうかしているとも思っている。子供を戦に巻き込むなんて。だが、


 「……はぁー……俺だってこいつらを巻き込みたくないよ」


 「ならなぜ!」


 「そんなの決まってんだろ馬鹿野郎が! あんたら大人が我が身かわいさに戦うのを放棄したからだろ!」

 

 言い返せずに口ごもる鬼達にカケルは続けて言う。


 「あんたら大人と比べてこいつら子供の方がずっーと肝も座ってんだよ! 情けなくねーのか腰抜けどもが!」


 周りの鬼の何名かが反論しようとするのが目に入ったのでカケルは最後の一言を言い放つ。


 「あんたらみたいなのが居るからルムネリアだけが悲しい思いをするんだよ! 口だけで行動もできない無能どもはもう俺の……俺らの邪魔をするな!」


 言いたいことを言い終えたカケルは六人に「さぁ行くぞ」とこの場所から離れ村の入り口に向かう。盗賊団が到着する前に可能な限りの罠を設置するために。

 後ろを見ると立ち尽くしたままの鬼の姿が見えるがこれでいいんだと自分に言い聞かせる。自分は間違っていない。この戦を鬼達の勝利で終わらすのは彼らの行動次第なんだと。

 遠くから近付いてくる集団を見ながらカケルは願う。自分の言葉が鬼達の心に届いていることを。

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