今日やることは?
「おーいカケルーいい加減に起きたら~もう朝だよー」
「う、うーん朝?」
目を覚ますとカケルの部屋ではなくリーナの寝室だった。
「そうだ俺は異世界に来たんだった」
上半身を起こし欠伸をしながら背筋を伸ばすとリーナの顔がグイっと近づいてきた。
「なに寝ぼけたことを言ってるの。朝食できてるから早く来てね」
「あ、ああ分かった」
そう答えるとリーナは鼻歌交じりに部屋を出ていく。
「朝からテンションが高いなー」
正直もう少し寝たい感はあったがこれ以上寝てるとリーナに何をされるか分からなかったのでしぶしぶ布団からでて部屋を出た。
朝食の場所は客間ではなく台所の前いわゆるダイニングキッチンだ。
「やっと来たねカケル。カケルの分それだから早く食べましょ」
朝食はパンみたいな物に何かの野草のサラダと緑色のスクランブルエッグそして飲み物はカケルのお気に入りの白伊豆茶。
「いただきます」
試しに一口ずつ食べてみたが変な味とかはなく以外と美味しかった。
「ど、どうこの世界の料理の味は? 昨日のラーメン? に比べればあまり美味しくないかもだけど……」
「そんなことないよ。普通に美味しいから」
「ホント! よかったー」
曇った表情が一瞬で笑顔に変わりリーナも食べ始める。
――ホント朝からテンション高いなー
だが心の中でリーナの笑顔を求めている自分がいるため朝からこのテンションの高さでもいいなと思ってしまう。
「それでカケルは今日何するの?」
「そうだなー……なあリーナこの村には農業とかをする道具はあるのか」
「あるにはあるけどそれがどうしたの」
「道具があるならすぐにでも始めれるな」
まだカケルが何をするか察することが出来てないリーナはポカーンとしている。
「リーナ、この後村人達に農業をするぞと言ってきてくれないか」
「えっ別に良いけど……種は無いよ」
「種は俺が用意するから大丈夫だ」
だが種を出すには一つ聞かなければならないことがある。
「なあ今この世界の季節は何なんだ」
「季節? 季節は風循だけど」
取り合えず言葉のニュアンスからしてカケルは春だと予測する。
「よし。ならリーナこれから俺はある二つのことをするんだけど手伝ってくれるか」
「当たり前だよ。私に出来ることがあったら何でも言ってね」
「ありがとうリーナ」
リーナならきっとそう言うと思っていた。ホントにリーナが優しい性格でよかった。
「それで一体何をするの?」
「まず一つはこの村の食生活を豊かにするために農業をすることともう一つは……」
真剣な眼差しでこちらを見つめるリーナに言った。
「この村を発展させるためにまず一つの生産ラインを産み出すことだ」
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朝食から三時間ぐらい経っていた。外を見ると村長の家前には大人の村人が大勢集まっている。男性が六十人ぐらいで女性が三十人ぐらいだろうか子供も合わせれば百人は越えるだろう。
「大丈夫かなー、俺こんな大勢の前で話したことないんだけどなー」
村人の中には怖そうな目付きの男性もいるため恐怖で足がすくみそうだ。
「大丈夫だよ。自分を信じて」
リーナの笑顔を見ると何でも出来るような気がしてしょうがない。
「おい朝からいったい何のようなんだよ!」
「用があるなら速く話せよ!」
「子供たちが心配だから速くしてちょうだいよー」
痺れを切らした村人の罵声が聞こえてくる。
「何だよここの村人は低血圧な奴ばっかかよ」
「ごめんね。みんな今の生活にストレスを感じてるんだよ」
――確かにこんな生活をずっとし続けていたらストレスも溜まるだろうな。俺なら耐えられない
そんな事を考えていたらリーナはドアノブに手を掛けていた。
「それじゃあ先に私が行くね」
「おう」
笑顔で手を振るとリーナはドアを明けみんなの前に出ていった。
「お待たせしましたみなさん」
明るくみんなの前に出るが村人は不機嫌なまま、いやそれどころか逆に怒りのボルテージが上がったような気がする。
「遅いぞ!」
「リーナちゃん一体何の用なの!」
「早く用件を言え!」
村長の娘だと言うのに罵声の嵐が止まらない。今すぐ外に出てあいつらの顔面を一発ずつ殴っていきたかったが今それをしては全てがパーになる。
――てゆーかリーナはどうやってこの村人達を呼んだんだ? 様子を見る限り誰もこれから農業するなんて知らなそうなんだが……
「本当に待たせてすみませんでした。でも喜んでくださいこの村を救ってくれる英雄が昨日現れました」
英雄という言葉を聞いて罵声の嵐は止んだが今度は男性の笑い声が聞こえてきた。
「笑わないでください。本当のことなんです!」
さすがにいきなりあんなことを言えばこうなって当然だろうな。これ以上ほっとくと村人が呆れて帰りそうだったので段取りとは違うがカケルは外に出てリーナの隣まで行った。
「か、カケル」
今にも泣きそうな感じでうるうると瞳を震わせるリーナに少しでも落ち着かせるためにカケルはポンとリーナの頭に手を置く。
「安心しろここは俺に任せとけって」
リーナが下がりカケルが出たことにより笑い声は止んだが今度はあいつは誰だという声があちこち聞こえてくる。まあ当然の反応だろう。
「みんな俺がリーナの言うこの村を救う英雄だ」
少しでも信憑性を増すためにカケルは今だけ少しボロくなったスーツを着ている。
「俺が誰だとかホントに英雄なのかとか気になるかもだけど今はそんなことどうでもいい」
「はぁ? 何言ってんだよ」
「そうよそうよ貴方は一体誰なの?」
まあ想像通りの返しだが今のカケルは落ち着いている。だって隣にはカケルを信頼してくれるリーナがいるからだ。
「まあまあみんな落ち着いて。取り合えずこれを見てくれないか」
そう言いながらカケルは懐からスーパーとかで売っているキャベツの種が入った袋を取り出す。
「何だあの袋は」
「これは野菜の種だ。これ以外にもまだまだ他の種類の種があるぞ」
そう言ってカケルは次々と懐からたくさんの野菜の種の入った袋を取り出す。
「カケル……あんなにたくさんの種を……」
「あの人は一体」
思ってた通り食いついてきたがまさか隣のリーナまでも食い付くとは思っていなかった。
「俺はこれをみんなに上げようと思ってる。これがあればみんなは今よりかはましな生活が出来ることは間違いないはずだ」
ざわざわと周りで話し合う村人。この展開も予想通りなら次は絶対に……。
「おいみんな冷静に考えろよ! あんなことを言って俺達に何かをさせるつもりなんだよ!」
そらきた。絶対こういう言い方をすれば反抗する奴が出てくると思っていた。
「た、確かにそうだな」
「おいお前は何を考えてんだよ!」
「何って最初にリーナが言っただろ。俺がこの村を救う英雄だと」
「それが何だって言うんだよ」
何だかここまで予定通り話が進んでいく自分の展開力が恐ろしいとさえ思ってしまう。
「俺はこの村を発展させたいと思っている! だが一人では出来ない。だからみんなの力が必要なんだ!」
いつの間にか村人は誰も喋っておらずカケルの話を聞いていた。
「みんな頼む俺に……俺とリーナと一緒にこの村を発展させないか!」
しばらくの沈黙が続いたが一人の大男が声を上げた。
「いいぜ俺は賛同だ!」
一斉にその男に視線が向けられるなか男はカケルの目の前まで出てきた。
「なああんた、名前は」
「か、カケルだけど」
さすがに気丈に振る舞おうとするがこんなに上から威圧されるとどうしても怖じ気づいてしまう。
「お前の考えには賛同だが一つ条件がある」
「な、何」
名前を聞いたわりにはお前と呼ばれたのに疑問を感じたが今はこの男の条件を聞くのが先だ。
「作物が育つまでの間、俺達に充分の食糧をくれることだ。さすがに今の生活では倒れてくるものもいるからな」
「……えっそれだけ?」
「ああそうだが」
見た目に反して案外優しい性格をしているんだな。人は見かけによらないとはこの事だな。
「安心してくれ食糧に関しては今日からしていくつもりだから」
「本当だな」
「本当、本当だって」
いちいち睨まないでほしい。カケルにとって正直こういう人が一番苦手なのだ。
「おいみんな聞いての通りだ! 俺と同じように賛同するものは前に出てこい!」
いきなり男が叫ぶと村人は動揺し周りの人と話し始めた。
「だ、大丈夫かな」
「どうだろうな」
不安な気持ちを押さえつつみんなの行動を見守っていたら決意した用なの表情で一人また一人と前に出てくる。
「お、お、おおぉぉぉー」
どんどん前に出てくる村人。中には流されるように出てきた人もいたが戻らない時点で賛同してくれたということだろうか。
「おいカケル。これが俺達の答えだ」
「す、凄い」
「まさか全員が賛同してくれるなんて」
何人かは賛同してくないだろうなと思っていたが全員が賛同してくれたの予想外だった。これもあの男のお陰だろう。
「みんなありがとう」
「お礼なんていいからよ。俺達が何をすればいいのか教えてくれないか」
「そ、そうだな。まず男性の人は俺に付いてきてほしい。そして女性の人はリーナに付いていってくれ」
「ねぇ子供たちが心配なのだけど……」
一人の女性が前に出てきて不安そうに言うがカケルは子連れの人の場合のこともしっかり考えているため大丈夫。
「子供がいる家庭は子供優先で構わない。子供は将来の希望にもなるかもしれないからな」
「あ、ありがとうございます」
深々と頭を下げる女性は後ろに下がる。
「他に今ここで聞かなきゃいけないことはあるかー!」
全体を見回すが誰も何も言わない。
「質問はなしっと。それじゃあリーナここからは別行動になるけど俺の言ったこと覚えてるよな」
「ええバッチしよ」
「よしそれじゃあみんなー! これから村発展のための作業を始めるぞ!」
「「おおぉぉぉー!!」」
カケルが片手を天に突き上げたとき村の人達もそれに合わせるように気合いの声を出しながら片手を突き上げた。