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見えてくる希望

 カケルが鬼村で目覚めたのと同時刻、魔都でメルとハヤトは昨夜行方不明になったカケルを一刻も早く捜しだすためハヤトの能力を使ってカケルを捜そうと魔都の出入り口である正門まで来ていたのだが……。


 「なんで通してくれないんですか!」


 「魔王様命令だ。今日と明日の二日間、この都市からの出入りを禁じるよう言われてる」


 今朝、魔都全域に知らされた都市からの出入制限。一刻も早くカケルを捜しに行きたいのに正門の前に立つ五人の魔族兵士が正門を封鎖し警備しているためメル達は魔都から出れずにイライラしていた。

 

 「どうして魔王ッ……様がこんなタイミングで二日も門を封鎖させるんですか!」


 「そんなことは知らん! いいからとっとと去れ!」


 「嫌です! 私はどうしてもここから出たいのです!」


 既に十分程続いている意味のない口論に周りに居た魔族達も気になって集まってきていた。 

 ここの魔族達は魔都からの出入りを二日間禁じられたところで然したる支障がないため文句の一つも言わないのだが、ほとんどの魔族の基本思想は闘争。揉め事が起きればそれが些細な揉め事だろうが大きな揉め事だろうが関係なしに集まってくる。

  

 「いいぞ嬢ちゃーん! もっと言ってやれー!」

 「生温いぞー! 兵士の顔を殴ってやれ!」

 「女だからだって手加減してんじゃねーぞ!」


 集まってきた魔族の数は五十を軽く超え、二人の喧嘩をより過激なものにしたいのか全員が二人を煽り始める。


 「くっ……貴様らうるさいぞ! 黙らないと全員反逆者として処罰するぞ!」


 「あーん? やれるもんならやってみろやー!」

 「お前らのへなちょこ剣技に当たるわけねーよーだ!」

 

 五十人以上の魔族達は二人の煽りを止める処か標的を兵士に向けて暴言のオンパレード。まさに一触即発の状況にメルは完全においてけぼりになり放置されていた。


 「……このままこっそり脱け出せないでしょうか」


 「……いや、無理だな。外の方にも五人ほど見張りが着いている。脱け出すのは不可能だろ」


 遠くを見ながらそう言ったハヤトの言葉にメルは言い返すことなく俯いた。


 「どうして魔王は魔都からの出入りを禁じたりしたんでしょうか」


 「違うな。昨日も言った通り今この都市には魔王はいない。それにあの魔王は説明も無しに誰かの反感を買うような真似は絶対にしないはずだ」


 遠回しに説明するハヤトにメルは嫌でも答えがなんなのか分かってしまう。


 「やっぱりクライネス……ですね」


 「まぁそうだろな……魔王以外でこんな芸当出来るのはあいつしかいないだろうな」


 とことんクライネスはカケルとの一対一をご所望のようで外部からの妨害が来ないように打てる手は全て打っているようだ。


 「もうここには用がねーし一旦戻ろうや。このままだと俺らも魔族の喧嘩に巻き込まれかねないからな」


 「……そうですね。ここは帰りましょうか……アーシアも心配ですし……」


 魔族兵士と一般魔族がガンの飛ばし合いをしている中、メルとハヤトは群がる魔族の間を潜り抜けてフェルの家にしぶしぶ帰り始める。

 昨夜、メルの治療で怪我も治り血を分けてもらったアーシアは一命を取りとめたもののまだ目を覚ましてはいない。

 怪我が治ったからといって目覚めないアーシアを一人置いてカケルを捜しに行くのは心配なためフェルが残っているのだがそれも無駄だったようだ。


 「そんなに心配すんな。砂の時には巻き込まれたがあの馬鹿はちゃんと生きてるしそれにもう鬼村にだって着いているんだ。きっと嬢ちゃんを助けて帰ってくるって」


 落ち込むメルに優しい言葉を掛け帽子を潰しながら頭に手を置く。


 「べ、別に私は黙って一人で行ったカケルの事なんて心配していません。私はただリーナが心配なだけですから」


 ハヤトの手を払い除けてメルは一人先行して前を歩いていく。手を払い除けられたハヤトは軽いため息と一緒に頭をかくとメルを追い掛けるように歩き始める。


 「ったく……魔女の嬢ちゃんは素直じゃねーな」


 「今なにか言いましたか?」


 振り返り恐ろしい目力で謎の圧を掛けてくるメルにハヤトは一瞬、恐怖し気圧されたしまった。基本的にハヤトは妹以外には何の感心も抱かず話題とかに妹が絡まなければ特にこれといった感情を示さないのだがハヤトは久々に妹以外でここまで感情を表すとは思ってもいなかった。


 「べ、別に俺は何も言ってねーよ」


 「本当ですか?」


 「本当だって魔女の嬢ちゃんは疑り深いな」


 「んー……そうですか。私の聞き間違いでしたか」


 まだ疑う目付きでハヤトを睨み続けていたメルはそそくさと歩く速度を上げるとあっという間に魔族の群れを抜けてしまった。


 「あーらら……風から聴いた通り魔女はおっかねー存在なんだな。まぁそのおかげで魔族の中にいても平気なんだけどな」


 ここ魔都ではハヤトみたいに長期間暮らし魔族達と顔馴染みレベルになっていなければ他所の人間はすぐにたちの悪い魔族達から何かしらのいちゃもんをつけられて暴力を振るわれる。

 ただ魔女だけは例外だ。見た目は人間にそっくりなのに魔族は魔女を無視する。その理由をハヤトは風から聴いているから知っているがメルを含む魔女全員がこの事実を知っているのかは定かではない。


 「まさか魔女が魔族と同種族だったとはな……この事実を話していいものか……悩みどころだな」


 正確には魔女はこの世界に存在する魔族ということ。簡単に言えば魔族というくくりではなく亜人というくくりで一緒ということらしい。けど、仮に魔族なんだけど魔族じゃないんだよと魔女達に説明したところで気高くてプライドの高い魔女には納得なんてしてくれないだろうし理解もしてくれないだろう。


 「……ま、この事をあいつらに話す意味なんて全くないけどな」


 幸いこの事実を知るのはハヤト以外誰もいない。ハヤトさえ口外しなければこの事実が世に知れわたることはない。だけど嫌な予感がする。風から様々な事を聴けるハヤトにとっては誰よりも世界の真実を知りすぎて今後起こるであろう悲劇が存在するのも知っている。そしてその中には魔女が魔族と同一という件が少なからず絡んでるものがあることも知っている。


 しかしハヤト自身はこの事を能力上誰にも言えない。何でも知れるハヤトの能力は他者からすれば便利に思うかもしれないがハヤトは全然そうは思わない。

 この能力は知りたいことは何でも知れる。でも基本的にそれを他者に口外するのは禁止なのだ。

 風から聴いた事を他者に伝えるとハヤトの理性を壊すように激しい頭痛がハヤトを襲うのだ。だが人の居場所やある程度の他人の動向ぐらいなら他者に言っても頭痛が襲うことはないのだがそれ以外の事、特に集団で動くような事は他者に公言したら頭痛は更に激しさを増し最終的には記憶を失うのだ。


 「あーったくよー何で神様は俺にこんな使いづらい能力を渡すかねー。こんなんで村発展しろなんて無理にもほどがあるだろ。馬鹿かあの神様は」


 さすがにこの能力では神様の事までは聴けないがあの神様だ。風に聴かなくても遥か上空で高みの見物をしていると容易に分かる。


 「……さてと……これから何がおこんだろーな……まー今はカケルの事が最優先だけど……」


 ブラブラと歩きながら家に帰るハヤトはどうやってカケルを救い出すかついでに考えていたが、アオイとは関係無いことなのであまりいい案も思い付かず途中から散歩のように歩いていた。


 「あー魔女の嬢ちゃんが何も思い付かねーのに俺なんかが思い付くわけねーよな」


 こんなとき魔王がいればあいつ一人で解決しそうなのにと遠くに建つ魔王城を見詰めているととある案が雷鳴の如くハヤトの脳内で浮かび上がる。


 「…………まてよ……もし魔女の嬢ちゃんが魔法で遠くにいる奴に連絡出来れば……」


 珍しくアオイと料理以外の事で素晴らしい考えが出てくる自分に酔いしれながらハヤトはゆったりと口角を上げにやける。


 「ワンチャンいけるかもな。上手くいけばカケルも嬢ちゃんも助かるしクライネスだって排除できるかもしんねー」


 沸き上がってくる喜びを抑えてハヤトはすぐにでもこれをメルに伝えなければと歩きから走りに変わり全速力でフェルの家に帰ってゆく。



=================================================



 太陽が半ば沈み世界を赤色に染める夕方。鬼村の六人の子供達と遊んでいたカケルはあっという間に時が経っていたことに後悔していた。


 「あ、あ、あ、あぁぁぁー!!」


 「どうしたんッスか?」

 「急に叫んで気持ち悪ッ!!」


 「気持ち悪いゆーな!」


 憐れな目でカケルを見下す子供達に怒鳴りながら立ち上がったカケルは足下に散らばるボールやバット、グローブにラケットを見て更に血の気を引いたのを感じ財布の中を確認すると五万三千円が無くなっていた。


 「残り残額三十八万七千円……また無意味なものに金を使っちまった……」


 あれだけルムネリアとのやり取りでもう無駄遣いしないよう誓ったのにこの様だ。しかも五倍の金額を使ってしまっている。

 最初は本当に無駄遣いしないよう安めのサッカーボールだけで遊び鬼の子供達に人間の凄さを分からせてから退却するつもりだったが子供達の純粋な目で見られ女の子からもう一回もう一回とせがられ男の子からは別の遊びでもう一戦と挑まれ、ついついそれに応じていたら金は無くなり時間が経っていた。


 「……落ち込んでもしょうがない、早く帰らないとな」


 「も、もう帰っちゃうの?」


 「うっ…………わ、悪い。俺の帰りを待ってる奴がいるんだ。だからもう帰らねーと」


 寂しそうに言ってきたノノにカケルはまた気持ちが揺らいでしまったが頑張って心を鬼にして断った。


 「そうね……大人達も仕事から帰ってくるしこれ以上カケルお兄ちゃんがここに居るのはまずいわ」


 「シルセセの言う通りね。大人はみんな人間とは関わるなって言ってたし……バレたら私達も怒られるわね」


 「えー俺まだカケ兄ちゃんと遊びてーのに……」


 子供達の賛否両論の意見を聞きながらカケルは申し訳ない気持ちで一杯だ。出来ることならこの子達ともっと遊んでやりたいがここの鬼達に姿を見られたらまずいのも事実だし、これ以上ルムネリアを待たしたらまずいのも事実。


 「ホントに悪いな……機会があればまた遊んでやるから」


 「待て……遊んでくれるのはいいがこの道具はどうするんだ」


 足下に散らばる道具を指しながらヴァイタが聞いてきた。出した道具は等価交換で金に戻すことは出来ない。かといって全部持ち帰るには量が多すぎるし、別のに交換するとしても何も思いつかない。


 「んー……だったらそれやるよ。そしたら俺がいなくても遊べるだろ」


 「えっ!? いいんッスか!」

 「マジで!!」


 「いいよいいよ。俺からみんなにプレゼントだ」


 嬉しそうに道具を取るキリキラとネーラに対し他の四人はどうしようか迷っていたが最終的には拾っていた。


 「それじゃあな。また遊べたら遊ぼうな」


 これ以上、関われば帰る時間が更に掛かると思いとっととルムネリアの家目掛けて真っ直ぐ帰ろうとするのだが、


 「えっ!? ちょ、ちょっと待って! カケルお兄ちゃん何処に帰ろうとしてるの!」


 「何処って……あそこだけど」


 ルムネリアの家を真っ直ぐに向けると子供達は驚いて一歩カケルから距離をとった。


 「確かあの家って化け物が住んでるんだよね」

 「う、うん……大人でも歯が立たないんだよね」

 「だから誰も近づいちゃダメって……」


 六人の視線が一気にカケルに向けられる。表情から察するに完全に誤解されたなと思い、次に子供達が言う発言を予測しその返答の言葉を決めて息を吸い込む。


 「「もしかしてカケルお兄ちゃんがその化け物?」」

 「ち・が・う!」


 予想通りの勘違い発言にノータイムで返すとカケルはどう説明しようかと思ったが相手は大人ではなくて子供。下手にややこしく説明するよりかはシンプルに言った方が的確だ。


 「俺はあの家に住んでいる子の世話になっているだけ。それと大人は化け物って言ってるけど実際はお前らよりも歳が少ししたな可愛い女の子だよ」


 「それ本当ッスか?」


 「本当だ。証拠にほら、俺がちゃんと生きてるだろ」


 体に巻かれている包帯を見せないようにぐるりと回りピンピンしているのを見せると子供達は確かにと納得し頷いた。


 「じゃあ何で大人は化け物って言ってるの」


 「それは……」


 村長からルムネリアの事もそれに対する鬼達の反応を聞いているからこればっかしはカケルの口からはなんとも言えない。でも今言えることは一つだけある。


 「大人には大人の事情って奴があるんだよ。けど君達だけは信じてほしいんだ。あそこに住んでいる鬼は君達の変わらないんだって」 


 六人の側に近寄り一人一人の頭を撫でると六人は顔を見合わせて笑いあうと一斉にカケルに抱きついてきた。


 「私は信じる。だってカケルお兄ちゃんがそう言うんだから」

 「俺もッス」

 「俺もだ」

 「俺も俺も!」

 「わ、私も」

 「私もよ」


 六人の一言をしっかりと聴き心に刻みながらカケルは抱き付く六人をまとめて抱き返した。


 「ありがとうな。今日会ったばかりの人間の俺の言葉を信じてくれてありがとうな。ホントにありがとうな……」


 まだ希望はある。こうやってちょっとずつでいい。ルムネリアの事を話していけば誤解も解けて二度とルムネリアを悪く言う奴なんていなくなるはずだ。

 そのためにも今夜はルムネリアの夜叉の本能をどうにか押さえ込んで生きなければならない。それが出来て初めてカケルは村の鬼達に言い切ることが出来る。「ルムネリアは無害なんだ」と。


 「それじゃあ俺はもう行くよ。マジで心配している可能性があるからな」


 「うん。私達も大人には黙って明日その家に行くから。その時はまた遊びましょ。その子も一緒に」


 「……ッ! あ、あぁそうだな……」


 今日生き残れたとしてもカケルは明日、鬼岩石に行ってクライネスからリーナを助けないといけない。そしてそれが上手くいったら村長に宣言した通り今度はルムネリアを助けるためにルムネリアを連れてハンデル村に帰るつもりだ。

 きっとこの六人があの家に行った時、カケルはいないだろう。もしかしたらルムネリアも。

 信じてくれるこの六人を裏切るようにはなるけどこればっかりはしょうがない。ルムネリアを守るという約束を守るために。


 「じゃあな。ちゃんと俺の事は大人には黙ってとけよ」


 最後にそれだけを念をおして言うと六人はもちろんと頷いた。この六人ならきっと大人には言わないはずだと安心してカケルは六人に手を振りながらルムネリアの家まで帰っていく。

 六人もそれに呼応して手を振り続ける。お互いの姿が小さく見えるまでずっとずっと手を振り続けた。

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