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夜叉

 村長の後に着いていくと村の中で最も大きい家――村長の家に着いた。


 「さっ、入るがよい」


 「あ、し、失礼します」


 ご丁寧にドアを開けてくれた村長に感謝してカケルは村長の家に入った。

 村長の家は二階のない一階建ての家で部屋も寝室、客室、キッチンにリビングと不必要な部屋を全てカットした村長らしい家。

 家に入りカケルは客室に案内されシンプルなウッドチェアに腰を掛ける。村長はわざわざお茶を淹れて来てくれたようで白伊豆茶の入ったコップをカケルの前に置いてくれた。


 「あ、これはすいません」


 「別によい。形はどうあれカケルは客人だからの」


 「客人……か……」


 本当はこの村には来るはず無かったんどけどなと思い、貰った白伊豆茶を飲む。一口含んで分かる。この白伊豆茶はリーナが淹れる白伊豆茶よりも苦いと。苦いのが嫌いなわけではないのだがここまで苦いとなるとちょっと飲みにくい。


 「おや? 口に合いませんでしたかな」


 「い、いや。そういうわけじゃあ……」


 「鬼である我々は人間と比べ濃い味の物を好みますから人間であるカケルには少々苦いかもしれませんな」


 「へぇ~そうなのかー」


 異世界らしい種族の差による味覚違いに感嘆の声を上げもう一口、白伊豆茶を飲む。苦い。堪らなく苦いのだが反って癖になりそうな味わい。これはこれで悪くない。


 「もう少し雑談をしてたいところじゃが……そろそろ本題に移ろうかのー」


 鬼風味の白伊豆茶を楽しむカケルに村長はそう言ってきた。元々ここに来たのは村長と明るい話をしに来たのではなくルムネリアの秘密を知りに来たのだ。

 これから話されるルムネリアの秘密にカケルは顔を引き締め全てを受け入れる覚悟を作る。


 「まぁ、そんなに固くならんでもええ。まずはルムネリアの秘密の前にカケルがどのようにしてルムネリアと会ったのかを儂に教えてはくれんかのー」


 「俺とルムネリアが出会った経緯かぁ……」


 今の発言からしてやはり村長も知らないようだ。カケルが砂の時に巻き込まれルムネリアの家に墜落したカケルをルムネリアが助けたことを。

 しばしカケルは何処から話せばいいかと悩んだ末、この村長にならルムネリアの出会いだけでなくそれ以前にカケルに何があってこの村に居るのかも話しても問題なさそうだと判断し、カケルは村長に今までの事を話した。


 「……なるほど、そんなことがあったのか…………若いのに大変じゃのー」


 「いや……そもそもの話、こんなことになったのは全て俺に原因だ。俺がもっとあいつの事を見ていればこんなことにはならなかった……」


 思い返すだけで虫酸が走る。あれから何度もこの事を思い出し反省そして後悔を繰り返すがそれでも自分に対するイラつきは増すばかり。たとえリーナを助けれたとしてもこのイラつきだけは一生つきまとうだろう。


 「そうか…………その若さでそんな過酷な経験をしたお主ならルムネリアの事を話しても良いかもしれぬな」


 そう言う村長の目は外でルムネリアに接しているときと同じような優しい目をしていた。

 厳しかったり優しかったりと転々する村長の本心をカケルは見えないでいた。村長がルムネリアに接する気持ちがどちらなのかを。


 「村長……あなたはルムネリアの事をどうお――」


 「今は儂のどうでもよかろう。お主が知りたいのはルムネリア(・・・・・)の事なんじゃからな」


 村長の言い分は最もだった。わざわざここに足を運んだのもルムネリアの事を全て知るためだ。それにこれ以上、自分に関係ない他者の詮索をしたところでカケルがどうこう出来る問題でもないはずだ。

 

 「そうだよな……わりぃな妙な事を聞こうとして……」


 「フォッフォッフォッ分かればいいのじゃ」


 「なら改めて……ルムネリアの事を教えてくれないか。俺がルムネリアとの約束を守るためにも」


 カケルは約束した、ルムネリアを守ると。それを確実にするためにもルムネリアの秘密を知り、それを受け止めた上でないと本気でルムネリアを守れないかもしれないから。


 「……ふむ、では話すとするかのう。久々に長話になりそうじゃ」

 

 「あぁ、よろしく頼む」


 「ルムネリアの話に入る前にまず儂ら鬼について話そうかの」


 自分用に用意した白伊豆茶を飲んで一息ついた村長は鬼について語りだした。

 最初はルムネリアの秘密が鬼という種族に関わりがあるのだから話すのだと思い聞いていたのだが、これがまったく関係なかった。

 鬼の出生から始まり、鬼の生活態度、どの環境でも適応できるようにした鬼達の創意工夫、最終的には昔の偉大な鬼が残した戦績などもはやルムネリアの秘密を話すのを忘れ、話すのに夢中になりすぎた末、お茶を飲む休憩すら挟まずにノンストップで一時間も話続けた。


 「――とまぁ鬼についてはこんなもんかのぉ」


 「はぁー……やっと終わった……」


 こちらが質問をする暇もなく話続けられたせいで聞いてただけだったのに凄く疲れた気がする。


 「いや~儂の話をここまで真剣に聞いてくれるとはのぉ~」


 「そりゃあルムネリアの秘密が絡んでるからな……」


 「おおっと儂としたことが話に夢中ですっかり忘れておったわい」


 ふざけんなこのジジィが、と怒鳴りたくなる衝動をカケルはグッと抑える。それは相手が老人だからといった理由ではなく、鬼だからという理由でだ。

 ルムネリアもあの見た目に反して驚異の怪力ぐあいを見せた。なら、村長も年を取ったからといって力がカケルよりも衰えているというのはないはずだ。下手なことを言って怒りを買おうものなら身体の骨が何本折られるか分かったもんじゃない。


 「前置きも終えたことじゃし、いよいよルムネリアの秘密を話すとするかのう」


 今度こそはちゃんと話してくれよと目で訴えながら白伊豆茶を飲み、村長の言葉に耳を傾ける。


 「さっきも話したのじゃが……儂ら鬼は身体の色で特性があるのじゃ」


 「えっ、えーっと確か……赤は攻撃力、青が素早さ、緑が守備力が他に比べて群を抜いているんだっけか」


 「そうじゃそうじゃ、ちゃんと聞いてくれて嬉しいぞ」


 単にこの話を最初にしてくれたから覚えてただけで中盤からの話はほとんど覚えていない。


 「後、交配によって色が決まるんだっけ? 親が赤と青なら紫とか?」


 「そうじゃ、本当にちゃんと聞いておるのう」


 逆にこれ以外のことは覚えてないんだよなーと思いながら頬をかく。


 「まぁ、必ずしも色が違うもん同士が世継ぎを成したからといって色が混ざるとは限らんがな」


 「へ~、特異種みたいなもんか」


 その発言を聞いた村長の顔が険しくなる。話よるときはあれだけニコヤカにしていたのが嘘のようだ。


 「くれぐれも村に居る鬼達にそれを言うな。全員に殴り殺されるぞ」


 「うげっ!」


 殺されると言われカケルは口を押さえショボくれる。冷静に考えれば特異種なんて言葉は気軽に言うもんでもないし、鬼の気性の荒らさを考慮すれば確実に殺されるまで殴られる。


 「じゃが……特異種という言葉を知っているなら話が早いのう」


 「それってどういう…………ッ! ま、まさか!」


 「そのまさかじゃ。鬼でいう特異種とはルムネリアの事を指すのじゃ」


 他の鬼達がカラフルなのに対してルムネリアは色の無い白。よくよく考えれば村の中にはルムネリア以外に白い鬼は一人もいなかった。けど、


 「ルムネリアが特異種なのは流れで察したけどだからといってルムネリアを迫害していい理由にはならないだろ。俺から見れば角もあって力もある時点でルムネリアも他の鬼と同じだろ」


 「お主が人間だから言えるのじゃ。儂ら鬼からすれば色無き彼女は畏怖の存在なのじゃ」

 

 「畏怖の存在……ルムネリアが……?」


 あんなに小さくて可愛いルムネリアの何処に畏怖の部分があるというのか。ツンツンもしてないし困った人を助ける優しい彼女の何処に。


 「……彼女ルムネリアは数千年に一度生まれる怪物……夜叉なのじゃ」


 「怪物……? 夜叉……? あーもう何が何だかわかんねー!」


 ルムネリアよりも他の鬼達の方が怪物に見えるカケルにはもう何処から突っ込めばいいのやら混乱していた。


 「落ち着きなされ、今順を話してやるから。と、飲み物が無くなっておりますな。どれ、ちょっと淹れてきますわい」


 「あ、すいません」


 空になったコップ二つを持って村長は白伊豆茶を淹れに席を外した。一人しか居なくなった部屋の中でカケルはずっとルムネリアの事を考えていた。


 「ルムネリアが怪物で夜叉か……にわかに信じられないな……最初の話でも夜叉という単語は出なかったはずだ……」


 考えてもしかたないとカケルは一冊の分厚い本を等価交換した。財布の中を確認すると綺麗に五万円が消失していた。異世界物の本となると価値が分からないため何円失うか分からないギャンブル性があるからあまりしたくはないのだが、村長の長話に比べたらマシだろうと良しとする。

 カケルが等価交換した本は鬼達の長年の歴史が本だ。タイトルの文字がおそらく鬼の言語で書かれているためカケルは読めないのだがこの本を日本語版に等価交換すればまったく問題ない。

  

 「さてと、村長が戻ってくる前にちゃちゃっと夜叉について調べるか」


 最初のページを開き、目次から夜叉の項目を調べると最後らへんに『夜叉について』と書かれた項目を見つけ、そのページを捲る。 


 「どれどれ……」


 夜叉ついて書かれた内容は三ページにも満たず、村長が怪物と言い恐れた割りには短く薄すぎだ。だがそれは誤りだった。短いのは事実だったが内容は全然薄くないそれどころが濃すぎる。


 「何だよ……これ……」


 この本に書かれていた夜叉についてだが、最初の書き出しは村長が言っていたことがまんま書かれていた。そしてその次に書かれていたのが『夜叉……別名、白き悪魔。その存在は終焉を呼ぶ者とされその力は魔王にも匹敵すると言われている。』と書かれていた。文字として書いているだけなので実感は沸かない上、あの魔王と互角とは到底思えないが挿し絵に描かれているのが全身が白い鬼がありとあらゆる物を破壊する絵でその容姿は見ようによってはルムネリアそっくりだった。


 「おや? こりゃまたずいぶん懐かしい本を読んでおるのう」


 カケルが夜叉について最初を読み終えたぐらいに村長が新たに白伊豆茶を淹れ直したコップを持って部屋に入ってきた。

 コップをカケルの前に置いた村長が席に座ると同時にカケルは等価交換で元に戻した本を見せて尋ねた。このページに書かれた夜叉について事実なのかどうかを。

 村長は白伊豆茶を飲んで机の上に置くと頷いて肯定した。


 「やっぱ事実なのか……」


 「当然じゃ。その本の著者は儂らの祖先が魔界に居た頃の鬼族(きぞく)と呼ばれた時代の初代族長が書いたものじゃからな」


 本を閉じて等価交換で日本語版にし、背表紙を確認すると著者の所に初代族長メーベルと書いてあった。


 「今じゃその本を持つのは魔王様か儂くらいなのに一体何処で手に入れたんじゃ? その綺麗さからして儂の家にあるもんじゃないじゃろ?」


 「それは……あれだ……俺ってこういう古くて歴史を感じる本を集めるのが好きなんだよ」


 「ほぉ~そんなに分厚い本をいつも持ち歩いておるのか?」


 次々に痛い点を突いてくる村長にカケルは都合のいい言い訳を必死に考える。村長には等価交換の説明はしていない。それは村長を信頼していないからというわけではないのだが色々とややこしくなりそうなため言わずに伏せているのだ。

 けどこの状況はもう言わないと納得してもらえそうにない。言うか言わないか迷うカケルだったが村長は、


 「……まぁ良い。お主がそれを今持っている訳は儂にとってどうでもいいことじゃ」


 と、これ以上の深い詮索を止めてくれたことにカケルは安堵の息を漏らす。


 「で、お主は夜叉について全部読んだのか?」


 「いや、まだ最初の方しか……」


 「そうか……」


 白伊豆茶を一口飲みコップを置かず、手に持ったまま村長は遠くの空を見つめるように上を見ていた。


 「夜叉……それは誠に恐ろしい鬼じゃ。昔の偉大な鬼達や魔族、時には魔王さえも食い殺した存在じゃ」


 「マジで魔王もなのか……」


 この本に書かれているのは本当に嘘偽りの無いことなのかと夜叉に対する恐ろしさが遅れて込み上げてきた。


 「夜叉がいた時代に平和は無しと言われるぐらい血塗れの殺伐した時代じゃったそうじゃ」


 「何となく分かった気がするよ。鬼達がルムネリアを化け物扱いしてた理由が」


 鬼達は単純に自分の身を守るためにルムネリアを殺す勢いで攻撃していたのだろう。自らの遺伝子に刻まれた夜叉の恐怖に突き動かされて。


 「でもやっぱり俺は間違っていると思うんだ」


 「ほう……何処が間違っているというんじゃ」


 「そんなの全部に決まってる。今までの夜叉が残忍な性格だっただけでルムネリアもそうだとは限らないだろ! それにルムネリアはそんな性格じゃない!」


 「だからルムネリアは他者を傷付けるような真似はしないと」


 見つめてくる村長にカケルは無言で頷いて肯定する。こればっかりは自分は間違ってないと確固たる自信があったから。


 「そうか……お主も儂と同じ意見か」


 「同じってことは村長も……」

  

 「そうじゃ。今までの夜叉は産まれたときから既に破壊衝動の塊ですぐに親を殺すそうじゃが……ルムネリアが産まれたときはそりゃあ天使と見間違えるような優しい笑みを浮かべて産まれてきたと親は言っていた」


 村長と意見が一致したことは嬉しかった。だがそれならどうしてルムネリアを村外れの家に一人暮らしをさせているのか。ルムネリアの事を思うなら村長がルムネリアと一緒に暮らせばいいのに。それにルムネリアの親は一体。


 「…………これは!」


 夜叉のページで見開いたままになっている本に視線を落としたカケルは偶然見たくもなかった一文を見てしまった。 

 それは『夜叉は満月の夜に理性を忘れ狂暴性を増し、本能のままに全てを破壊する。』と書かれた一文を。

 これを見てしまったカケルの脳内は猛スピードで考えを張り巡らせる。


 一人で暮らしているルムネリア。心配しているのに村外れに送る村長。存在が不明なルムネリアの両親。ルムネリアを夜叉と言わずに化け物と言う村の鬼達。夜叉は産まれたときに親を殺す。唯一例外だったルムネリア。満月の夜に理性を忘れ暴走する。これまでの重要な点を押さえて考えた結果、カケルは信じたくない結論に至った。


 「どうやらお主は見た目の割りには頭が切れるようじゃの」


 「つまり俺の考えは間違じゃないなか」


 侮辱された気もするがそれは一旦置いておく。それよりも自分の考えが合っていたことの方が辛い。

 カケルの考えた末に導きだされた答え。それは――


 「夜叉の性質で満月の夜に鬼達の前で暴走したんだな……そしてその時に両親を殺したんだろ? ルムネリアが……」


 首を横に振ったのでもいい、口に出してでもい、カケルは否定してほしかった。村長にこの馬鹿げた考えを。

 だがその願い虚しく、村長はコップを机の上に置くと暗く俯き「そうじゃ」と肯定した。


 「そして今宵は満月。つまりルムネリアは今夜も暴走するじゃろう」


 「暴走するって分かってんなら何か対策はねーのかよ! 夜叉の暴走を止める方法を!」


 「夜叉の暴走を完全に止める方法なぞ無い。儂に出来るのはルムネリアの家に結界を張って外に被害を出さないことじゃ」 


 はっきりと言い切る村長にカケルはじわじわと怒りが込み上げてくるのを感じていた。


 「何が外に被害を出さねーだよ……最初から満月の日にルムネリアが暴走するって分かってたならそれなりにもっとマシな対策を立てれたんじゃねーのかよ!」


 「お主の言い分も最もじゃがこれは種族で定められた一種の呪いのようなもんじゃ。それを満月の日以外は押さえられる時点でルムネリアは凄いんじゃよ」


 「何だよそれ……ルムネリアは知ってるのかよ! 自分が満月の夜に暴走する事を!」


 「知らんはずじゃ。ルムネリアはまだ幼いからな自分が満月の夜に暴走していることも実感してないはずじゃ」 


 心の奥底からイライラが沸きだってどうにかなりそうだった。それほどまでに許せないのだ。幼いから危険だからという理由で本人に黙り周囲にも真実を話さずに秘匿する大人が。


 「よーく分かったよ村長。あんたの考えがな」


 「分かってくれたか。なら今晩は儂の家に泊まるがよい。お主にも事情があるのじゃ。村の鬼には儂が――」


 「はぁ? 何言ってんだよ村長。俺はあんたの考えを理解しただけだぜ」


 カケルの言葉に何を言っているんだと言いたげな表情をしている村長にカケルはニィッと口角を上げて言い放つ。


 「今日は……いや、これからは俺がルムネリアの面倒を見る! あんたらに任せていればルムネリアが不幸だからな」


 「か、カケル! お主は今自分が何を言ってるのか分かっとるのか!」


 そんなのは言われなくても分かってる。簡単に言えばなついていない猛獣を引き取ると言っているもんだ。でもこんな薄情な奴等に任せるよりかはこちらの方が何倍もマシに思える。


 「ということで今日、俺はルムネリアの家に泊まるんで。お茶ご馳走さまでした」


 コップの中に入る白伊豆茶を一気に飲み干し立ち上がったカケルに村長は慌てて腕を掴んできた。


 「馬鹿な発言は休み休み言うんじゃ。今日、ルムネリアの家に居れば間違いなく夜叉の性質で暴走した彼女に殺されるぞ」


 力任せに腕を引っ張られ前に進めない。老人といえど腐っても鬼だ。腕がもげそうだ。


 「お主は自分のせいで命の危機に晒されている人を助けたいんじゃろ!」


 それを言われると心が痛い。本当に暴走したルムネリアに殺されるかもしれない。そうなるとリーナを助けるのは無理になる。けど、


 「助けたいさそりゃ。でも俺はルムネリアを見捨てるなんて出来ない」


 「冗談抜きで死ぬんじゃぞ! 死んでしまえば助ける事は出来ないぞ!」


 「俺は死なねーよ、絶対に。リーナを助け出すまでは絶対に死なねーよ」


 予想外の返答に一瞬力を緩めた隙を逃さずカケルは掴まれた腕を振りほどく。追い付かれないように距離を空けるが村長は諦めたように座り直す。


 「分かった。もう止めやせんよ。じゃが暴走したルムネリアに殺されても責任は取らんからな」


 「あぁそれでいい。これからは俺がルムネリアの側に居るから村長はもう手を出すな」


 「いや、村の鬼のためにも今晩は結界を張らしてもらう」


 こればっかりは村長としての責務のため仕方ないだろう。カケルは結界を張ることだけは許可するとそのまま村長の家を出ていった。

 遠回りかもしれないが村の中心を避けて帰ろうかと思ったが別にそんな気を回す必要はないと判断し、堂々と村の中を通って帰ることにした。


 「あっ! 村長から野菜を貰うのを忘れた……まぁ等価交換があるからいっか」


 頭の中でルムネリアに謝るイメトレをし、夕食は何を作ってやろうかなとウキウキしながらカケルは村の広場へと入っていく。

  

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