共闘の終わりに
全てを焼き尽くすような炎の嵐は未だに収まることを知らなかった。
炎が邪魔で二人の暗殺者の様子が分からないが見える限りでは片方が抵抗を止めて地面に這いつくばり、もう片方はまだ炎に耐えている。
「この炎はいつまで続くんだ……」
「対象が燃え尽きるまでです」
燃え尽きるまでという言葉にカケルは背筋がゾクッとした。この手の魔法なら数秒したら自動的に収まるもんだが、死んでもなおこの世に原型を留める事すら許さない魔法なんてたちが悪い。
炎の熱気は遠く離れるカケルにも伝わる程の熱さ。その炎にまだ耐えてる暗殺者の一人は敵なのに凄いと感じてしまう。
「これがメルの……全力の魔法なのですか」
もう戦う意味が無いと判断したアーシアはレイピアをしまい、メルの近くまで歩いてくる。
「そうですね…………これは半分も出してないですね。全力でやればこの村も巻き込んでしまいそうなので…………」
「この威力で半分……!」
「こんな風に呆気なく威力の高い魔法を使う魔女はやっぱり怖いですか?」
冷めたような目でアーシアを見るメルにアーシアはしばらく考え込む。
「…………正直怖いですね」
「そう……まぁそうですよね。私だって怖いんですから」
わずかに震える左腕を右手で押さえる。そんなメルにアーシアは自分の胸に来るようにメルを抱き寄せる。
「大丈夫ですよメル。私は全てを受け入れると覚悟したんですから」
アーシアは優しい口調で右手でメルの頭を優しく撫でる。それを素直に受け入れていたがハッとした表情で我に返るとアーシアを押し退け距離を取る。
「子供扱いしないでください。こう見えても私はあなたよりも年上なんですから」
まだアーシアに思うところがあるのかメルの心に近付けないアーシアは歯痒い気持ちだったが、
「それでもあなたが短時間で魔女を拒絶しないようになったのは大きな変化です。な、なので……その……と、友達の一歩手前までの関係は許してあげなくもないです」
「…………ふぅ、まぁ最初はそこから始めていくのが無難ね」
右手に着けている籠手を外し、アーシアはメルに握手を求める。メルは何の迷いもなくその手を掴み滅多に見せない笑顔を見せた。
「これからは出来ればで良いので対等の扱いでお願いします……アーシア」
「もちろんですわ。だって私達は義兄様の義妹と偽妹なんですから」
「フフ、そうですね」
二人が手を取り合い見つめ合う姿にカケルは「よかったな」と呟いた。
「カケル、これで手当ては終わりのはずだよ」
「おっ、サンキュー、リーナ」
等価交換で出した救急セットの箱を閉めているリーナにグットゥと親指を立てる。
「具合はどうだ?」
「あぁ、さっきよりかはだいぶ楽になったわ」
そう言いながら起き上がろうとすると「うぐっ!」と顔をしかめる。
「無理しないで。手当てといっても本当に簡単な処置しかしてないから……」
「リーナさんの言う通りですよ。また傷口が開いたら大変です」
サザンの負った切り傷は血が大量に流れてたから深いと思われたが実際はそこまで深くはなかった。おかげで手当ての方は傷口にガーゼを当てて止血をして包帯を巻いてと本当に簡単な処置で終わったのだ。
後は病院に連れていって医師による適切な処置を施せればいいのだがこの世界の医療がどこまで発展しているかはカケルは知らない。それにここから王都まで行くとなるとどうしても時間が掛かってしまう。なら、ここはリーナとルービスの言う通り、サザンには大人しくしてもらい状況が落ち着いてから王都に連れていかねばなるまい。
「俺の事よりもあいつらはどうした」
無理矢理サザンを横に寝かせたリーナは炎の嵐が渦巻いている場所を指す。
「な、なんだよこりゃあ。まさかメルがこれに巻き込まれたんじゃ――」
「違うわよ!」
サザンの耳元で叫ぶリーナは片耳を塞いで迷惑そうな顔をする。
「サザンは見てないから分かんねーかもしれないけどあの炎の嵐はメルの魔法なんだ。そしてあの嵐の中に暗殺者がいるんだよ。……てかメルそこにいるし」
「そっ、そっか……早とちりしてすまん。…………にしてもあれが魔法とはな……」
サザンの驚き具合やリーナやルービスの表情からしてやはりこの世界の人達でもメルの魔法は飛び抜けているようだ。
「これで終わり……でいいのかな?」
「たぶんな……」
リーナもカケルと同じで煮え切らない気持ちだから不安そうに聞いてくるのだろう。
カケルは敵であろうと目の前から命が失われるのを見たくない。けど、殺らなければ自分が殺られてしまうといった矛盾がカケルの精神を削る。
それに比べ、メルとアーシアの堂々とした立ち振舞いは何度も死地を潜り抜けてきた貫禄がある。
カケルはこの手で人を殺したことは無い。でもこの手で殺した場合の言葉では言い表せない嫌悪感だけは理解しているつもりでいる。でもあの二人からはそういう感情が全く見れない。
それは殺しすぎて慣れてしまったのかそれともただ感情を押し殺して平静を保っているかどちらかは分からない。分からないがカケルは今になって実感してしまった。
この世界は平和とは程遠い、ライトノベルの舞台になりそうな殺伐とした世界だという事を。
「……さてと頑張って気持ちでも切り替えるか……」
口では簡単に言えるがさっきまて自分の命が狙われ、関係の無い人達まで巻き込んでいるんだ。いざ気持ちを切り替えようとしても上手く切り替えれる自信がカケルにはなかった。
「それにしても中々粘りますね」
「確かにそうね。ここまで耐えれているということはあれは魔族で間違いないでしょうね。いくら戦闘訓練を積んでいても普通の人間があそこまで耐えれるとは思いませんからね」
アーシアの推察に同感したメルが二度三度頷く。早くも仲良くなった二人にカケル達も「だよな」と納得する。
「もしものことがあるかもしれないので私はしばらくここに残ります。なのでカケル達はサザンを家まで運んでください」
「なら私も残りましょうか?」
「いえ、私は一人でも大丈夫なのでアーシアは念のためカケル達の側にいてください」
ということはメルの頭の中ではまだカケルが狙われている可能性があるということだ。そのために護衛としてアーシアを側にいさせるようだ。
「…………その方が良さそうみたいね」
アーシアもメルの言いたいことを理解したようだ。
「話もまとまったようだな。ルービス、サザンの右側を頼めるか」
「はい、任せてください」
ルービスがサザンの右腕を自分の肩に乗せたのと同時にカケルもサザンの左腕を自信がなかった肩に乗せる。
準備が終わり「せーの」の掛け声で立ち上がろうとした時だった。女性の声が聞こえたのは。
「"強く強く 更に激しく激しく 全てを浄化せし不動の水よ 今ここに降り注がん メイルシュトローム"」
女性の声が聞こえなくなるとあちこちから炎の嵐の上空に水滴が集まっていき、巨大な水の塊になる。
「あれは――ッ!」
普通の水ならこの熱気に耐えきれずにすぐさま蒸発するはずなのにあの水の塊は少しも蒸発なんてしていなかった。この時点であの水の塊は普通の水でないことになり、女性の声の後に出てきたことからあれは魔法だとすぐに推測する。
だが、急すぎる展開にカケル達はどうすることもなく水の塊を見上げたまま動かなかったというより動けなかった。
皆が見つめる中、水の塊は三、四秒程、空中で停止すると、前触れなく炎の嵐に落ちていった。いくら魔法といえどあの熱気を放つ魔法――しかもメルの魔法にあの程度の水の塊がどうこう出来るものではないとカケルはたかをくくっていた。
が、水の塊は炎の中に突っ込んでも蒸発することはなかった。そのままの形をキープした水の塊は地面にぶつかると水の塊は弾け、炎の嵐を呑み込む巨大な水の渦に化けた。
「皆さん伏せてください!」
アーシアの声で我に返ったカケル達は大急ぎでその場に伏せた。
「いってー! おい怪我人なんだからもっと優しくしろ!」
「すみませんサザンさん」
「悪い、急いでてついな」
うっかりサザンを担いでいたのを忘れていた二人は文句を言うサザンに謝り、それをアーシアは呆れ果てた表情で見ていた。
こんなやり取りを無視したメルは別の魔法の詠唱をしていた。
「"恵みの大地よ 我らを護る盾とならん プロテクション"」
カケル達を囲むように大地から高さ二メートルの岩が無数に出現する。閉ざされる視界。耳を澄ますと外から水と岩の激しくぶつかり合う音が聞こえミシミシと岩が軋む。
「外で一体何が起こってるの~」
「暗殺者の仲間がもう一人居たなんて……しかもこんな雑な攻撃をしてくるなんて……」
暗殺者にまだ仲間が居たというのは頷けるが、カケルが気になるのは暗殺者の中にメルの魔法と同等の魔法使いがいるというとこだ。
メルはこの世界では大魔法使いと呼ばれるたった一人にしか与えられない名誉ある称号を持っている。
今日までメルのマジな魔法を見たことはなかったが、今日初めて魔法を見てるからはっきり言える。
メルの魔法の右に出るものはいない、と。
けど、カケルは一つだけ引っ掛かるのが、つい最近、メルの他に大魔法使いを名乗る人物と会っている。もしその人物が自称とはいえ、手練れの魔法使いならメルの魔法と渡り合えるのではないか。
気付けば外が静かになり、もう大丈夫と思ったメルは魔法を解除し、バラバラと岩が崩れていく。
皆、外の様子が気になっていたのか、岩が完全に無くなると、すぐに暗殺者達が居た場所を見た。炎の嵐は完全に消火され、草が大量に生えていたはずが、見事に一本も残っておらず、剥き出しの地面しかない。
しかしカケルはその事については一瞬しか思わず思考は別の方向に向かった。
炎の嵐の中心部。そこには二人の暗殺者がいるはずなのだがカケルの目には二人ではなく三人映っていた。
「あの人は誰なのかな?」
「分かりませんが私達の敵なのは確実ですね」
「全く同意件ね」
疲れて自分にしか見えない幻かと思ったがリーナの発言にメルやアーシアが答えたとなるとあの三人目の人物が水の魔法を使いメルの魔法を打ち破った人物になる。
三人目の人物――正しいカウントで言うなら四人目だが、その人物は他の暗殺者同様にフードを深く被っていたのだがその人物だけ全身をローブで身を包み、人間なのか魔族なのかが分からない。分かるのは魔法を発動した時に聞こえた声が女性だったからあのローブの人物が女性だということだけだ。
「大丈夫?」
「くっ……お前に助けられるとはな」
ローブの人物は魔族暗殺者に手を差し伸べ、魔族暗殺者はその手を掴むとローブの人物はそのまま立ち上がらせるとそのまま自分の肩に腕を回す。
「わたしゃ……我らにこれだけの損害が出た以上、残念だけど諦めて撤退するしかないわ」
「悔しいがお前の言う通りだ。お前と一緒に今ここで戦ってもあの二人相手に正面から挑むのは無理だ」
「今回の責任は我が持つからあなたは安心しといて」
距離があるせいで二人会話は全部聞こえなかったが雰囲気からして諦めてこの場を離れる算段を建てているのだろう。
「このまま逃げてくれればうれしいんだけどな……」
と、呟くとメルが急に杖を構え魔法の詠唱に入りだした。
「メル何を!」
「決まっています。今この場であの二人を排除するんです」
「は、排除!?」
早口すぎる詠唱も最後のフレーズに入り、待て待てとメルの魔法を止めるのは無理だった。
「"風よ集いて敵を射ぬく矢とならん ウィンドアロー"」
周囲から吹き荒れる風がメルの周りに集束し、複数の風の矢と変わる。
約七本の矢は魔族暗殺者とローブの女性を敵と捉えると様々な角度で二人に襲い掛かる。
不規則な軌道で襲い掛かる風の矢だが二人は驚くこともなければ慌てるようなこともせず、冷静だった。
ローブのせいで顔は見えないが僅かに顔が上下左右に動いている辺りローブの女性は風の矢の動きを目で捉えれている。
視力に自信のあるカケルでさえ遠くからギリギリ目で追えるレベルなのに、あの迫る風の矢をしかも後ろにも回り込んでいる矢に対しても目で追えるということはあのローブの女性は魔法使いなのにかなり動体視力が良いということだ。
落ち着いて風の矢の軌道を見たローブの女性は右手を前に出し宙に何かを綴りながら詠唱を始めた。
「"炎よ 我を護れ ファイアーウォール"」
「行けー!」
取り囲んでいた風の矢が二人を一気に襲う。が、あと僅かで届きそうなところで二人を護るように火柱が上がる。その光景はメルがカケル達にしたのと全く同じだ。
「…………これを防ぐなんて……もしかしてあいつは……」
「まさかあいつが誰なのか分かったのか!」
正体さえ分かれば足をつかめると期待したのだが、
「ううん。誰なのかは分からない」
予想通りと言えば予想通りの返答で落胆するカケルにメルは続けて話す。
「でも一つだけはっきり言えることがあるの」
「マジで! それってなんなんだ!」
少しでも情報が欲しく、藁にもすがる思いでメルに訊ねる。
「あの魔法使いが人間じゃなくて私と同じ魔女みたいなの」
「魔女ッ!?」
「魔女ですって!?」
カケルとアーシアは似たように驚く。よくよく考えればあのローブの女性が人間ならあそこまで強力な魔法は使えないはず。魔女ならあの威力の魔法。使うのは頷ける。
「まさか暗殺者の中に魔女が混じっていたなんて……」
「でもなんで最初から出てこなかったんだ。最初からあいつが出ていれば楽に俺を殺せていたはずなのに」
最初からじゃなくてもゴブリン、魔族暗殺者のように不意討ちで魔法を使っていればアーシアやメルに邪魔されずに殺せていた。
「ねぇねぇ、さっきからずっと私達を見てるんだけど……」
怯えたようにリーナは二人に指をさす。二人の方を見るとローブの女性がじっとこちらを見ているが誰を見ているのかはフードのせいで分からなかった。
フゥゥゥン。
「このタイミングで魔法!?」
サザンを中心に浮かび上がる緑色の魔方陣。急いで避けないと直撃してしまう。
「慌てないでみんな」
「慌てるなって……逆になんであなたはそんなに落ち着いているのよ!」
「この魔方陣から発生する魔法は攻撃魔法じゃなくて――」
メルの言葉が最後まで続くことなく魔法は発動してしまう。目が開けれなくなるほど輝く魔方陣に終ったと実感するが、実際は輝く光はカケル達を攻撃せずサザンの特に傷口の周りに集まる。
「うわうわうわ、何なんだこれは!」
「メル、この魔法って……」
今になって冷静に聞き出すアーシアにため息をつきながらメルは説明する。
「この魔法は単純に言えば回復魔法よ」
「回復魔法ッ!?」
この世界の魔法は攻撃魔法しか存在しないと勘違いしていたためこんな便利な魔法が存在してたことにカケルは驚きを隠せなかった。
「サザン、気分の方はどうですか?」
「んー……おぉーこりゃあ凄い。痛みが全然無いぜ!」
「本当に!?」
確認のため、リーナはサザンに巻いていた包帯をすぐに外した。外した包帯から見えたのは痛々しい斬られた跡ではなく、傷一つ無い逞しい筋肉だった。
「凄い……傷が治ってる……」
「それは良かったですねサザンさん」
「あぁ本当に良かった……良かったんだが……」
口ごもるカケルに何か気付いたのかそれともカケルと同じ事を考えていたのかアーシアが隣に立つ。
「カケルも不思議に思ってるのですね。なぜ、攻撃せずに回復魔法を使ってサザンを治したのかを」
「あぁそうだ――ってメル?」
一歩、また一歩と二人に無言で歩み寄る。
「メル危ないから止まっ――」
引き止めようとするアーシアの肩をリーナが掴み首を横に振る。
「何で止めるのですか! 手負いとはいえあいつらは暗殺者何ですよ!」
「分かってる。でもここはメルに任せて」
メルに対するリーナの完璧な信頼感に心打たれたアーシアはそれ以上は何も言わずにメルを見守る。
歩き続けたメルは半分ぐらい進むとピタッと立ち止まると深呼吸をして気持ちを整えると、
「どういう風の吹き回しか知りませんがとりあえず私の仲間を助けてくれたのは感謝します」
「…………わた……我に感謝とは随分お気楽なんだな。我は貴様の大切な仲間の命を奪おうとしたのだぞ」
話の雰囲気から乱闘の流れは無さそうだが油断だけはしてはいけない。メルもそれだけは理解しているだろうからそんなには心配していない。
「カケルの命を奪おうとしたのは事実ですけどそれをやろうとしたのはあなたが助けたその魔族です。あなたは何もしていません」
「でも我はこいつの仲間だぞ? それにわざわざ助けたのも下手な傷を残して我らの足がつかまれるのを恐れただけで決して慈悲で助けたわけではない」
何となくだが向こうのローブの女性はわざとに煽るような言葉を選んで話しているような気がする。
「それ……嘘なんでしょ?」
「…………なぜそう思うんだ?」
「だってあなたって嘘つくとき少しだけ声が低くなるじゃない」
「――――ッ!?」
戸惑ったのかローブの女性は少しだけバランスを崩しよろめいた。
「貴様は誰と勘違いしているんだ」
「さぁ誰でしょうね。ただ……あなた魔女でしょ? しかもかなり高位魔力の持った。偶然あなたが私の知っている魔女と酷似しているからもしかしてと思ってね」
ローブの女性は何も答えずに黙ってしまう。
「ねぇ……もしかしてあなた……ミル――」
「これ以上貴様らと馴れ合うつもりはない!」
初めて感情的になったローブの女性は右手を突き出し詠唱すると右手から火の玉、ファイアーボールがメルの足下に直撃する。
「メルッ!」
煙が立ち込めメルの姿が見えなくなり、不安になったアーシアを先頭にカケル達も駆け付ける。
「大丈夫ですか!」
「は、はい……私は大丈夫ですけど……」
無事で一安心と思いきや煮え切らないメルの目線の先を見ると、
「あっ……居なくなってる……」
さっきまで居たはずのローブの女性と魔族暗殺者が居なくなっていた。しかもその二人だけでなく他の二人の暗殺者の遺体も無くなっており、あの一瞬でこの場から完全に消え去ったということだ。
「話聞いてたけど……やっぱりあのローブの人って知り合いだったのか」
正直これはプライバシー的に聞かない方がよかったのかもしれないがメルの喋り方から並々ならぬ因縁があるように思え、聞かずにはいられなかった。
「知り合い……だと私も思ったのですが……どうやら人違いでした」
「そうか……それはよかったな」
「そう……ですよね。人違いでよかったんですよね……」
普通、自分の知り合いが暗殺者だったら絶対にショックなはずなのにメルはその逆でローブの女性が知り合いで無かった事にショックを受けているように見えた。
「えーと……あのー……これからどうしましょうか?」
メルの暗い雰囲気にどう対応しようか悩んだアーシアはとりあえず話題を変えるため今後の事を聞いてきた。
「そうだな……危機は去ったとはいえあれで終わりとは思えないんだよな」
「えっ何で!」
リーナは事の重大にまだ気付いていないようだ。基本、暗殺者は憎いからという自分勝手な理由で人を殺しているわけでなく誰かからお金を貰い仕事で人を殺しているのだ。
カケルの命を狙いに来たのも誰かから依頼されたからに違いない。なら依頼を完遂するために日を改めてまた襲撃してくるのは決まっている。
それをリーナに簡潔に伝えると「嘘ッ!?」と手で口を押さえて驚いた。
これで全員が状況を把握したところで今後どうするのか皆で考えていると遠くから「おーい」と空からフェルが近付いてきた。
「あれは魔族! 暗殺者がまだ潜んでいたとは。しかも堂々と!」
腰に差しているレイピアに手を回したアーシアに全員が「ちょっと待ったー!」と大急ぎで止める。
「なぜ皆でして止めるのですか! 先手を打たれる前に先に手を打たなければ――」
「あたなはもう少し考えて行動してください! あの魔族がさっき言ってたこの村に住んでいる魔族なんですよ!」
「えっ!?」
大人しくなったアーシアを珍妙な生き物を見るような目でフェルは少し離れた距離で着地すると駆け足でカケルに近付く。
「見ない顔だけどその人は?」
「えーッと何て紹介しようか……」
今のアーシアはこちらの村発展に協力的になってるからフェルを紹介するのは問題ないと思うが少しだけ不安だ。
「んー長くなりそうだから後でいいや」
「えー! 自分で聞いといてだるくなるなよ」
「だってカケルって話すと長いんだもん。その人はあれでしょ? 新しい仲間ってことでいいんでしょ?」
フェルに話が長いと言われ地味に心に傷をおったカケルはこれ以上フェルに心の傷を抉られないよう「それよりも何しに来たんだ?」と話をそらす。
「あーそうそう。ここら辺で爆発音が聞こえたから何かあったのかなって様子を見に来たらカケル達が居たから何か知らないかなーって思って」
「そういうことか。なら話してやるからちゃんと聞けよ」
「うん。カケルはいいからリーナお願いね」
まさかの話す権利を取られた事にまたショックを受ける。リーナが申し訳なさそうな顔でチラチラとカケルを見る。
「いいよいいよ。俺のことはいいからフェルに何があったか話してげろよ」
「う、うん」
ニコニコしているフェルに自分の言葉の刃が他人を傷付けているんだぞと目で訴えるがもちろん無視された。
そんなカケルに「これが異世界の人間でこの村のリーダーだなんて」とアーシアに疑われカケルのライフはもうゼロに近い。
そんなカケルをメルが背中を擦り慰めるがそれが反って心に来た。
「えーと……じゃあ簡単に話すから聞いてね?」
「大丈夫だって。カケル以外の人の話はちゃんと聞くから」
「グハッ!」
常にディスり続けるフェルにうんざりするカケルを心配しながらリーナはついさっきここで起こった事をフェルに話した。




