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騎士団長、ハンデル村に来る

 さんさんと輝く太陽に鳥たちのさえずりが響く本日、カケルとリーナとメルは三人で村の見回りをしていた。

 今回、三人で見回る理由は今までアマトとメルが二人でやっていた建物の修理箇所調査がどこまで進んでいるかの確認とメルから二人の意見も聞きながらやりたいという事で三人で村見回りがてらどの建物の修理をするか話し合いながら歩いていた。


 「なるほどな~、写真で見るのとこうして実物で見るのとは結構違うな」


 「そうだね。写真のを見たら全部一緒に直さないとってなっちゃうけど自分の目で見たらどれを先に直すかの優先順位が自然に決まっちゃうね」


 今までは時間も無かったこともありタブレットに撮った写真を見ながら口頭で説明を聞いただけだったのであまり何とも思わなかったが、実際に見たことで考えが変わった。これは早急に建物の修理を急がねばと。

 レストランも含めてそうなのだがこの村の建物すべては戦争していた十年前から今まで、手入れや軽い修繕の何一つしていないのだ。いやこの場合は戦争による被害や無法地帯になったことにより生じた物資の不足や技術者がいなかったためしなかったというより出来なかっというところだろうか。


 「……いつか聞こうと思ってたんだけどメルとアマトはいつも何にで揉めてたんだ」


 「あっ、私もそれ聞きたかった」


 いつも遠目から二人の揉め合いを見て何でそうなってるのか聞きたかったのだが、聞いたらアマトがうるさいので聞きにくかったのだが、アマトが居ない今ならそういうのを気にすることなく聞くことが出来る。


 「あー、あれね。あれはアマトが建物を直すのはハンデル村の商業的になる建物を直した方がいいって言って私は村人達の家にした方が良いで意見が食い違ってただけよ」


 「あーそゆことね」


 二人共、頑固でそうそう自分の意見を曲げるような性格をしてないために起こった揉め事。二人らしい揉め合いにカケルとリーナは笑うことでしか返せなかった。


 「だって大きな建物よりも安全のためにみんなの住んでいる建物の方を優先した方が良いに決まってるじゃない」 


 「確かにそうだな。大きな地震とかがきたら簡単に崩れてしまいそうだしな」


 メルにこの世界の事を聞いたなかで自然災害の発生率はそんなに無いらしく、台風も無ければ噴火も無い。地震はあっても微弱で震度で言うなら一か二というところだ。


 「けど、これだけの数となると……」


 「誰の家を直せばいいんだろうね」


 住民の家はざっと五十~六十そこらでリーナの家も含めて直すとなると三、四日はかかる。できれば同時に直してやりたいのだがそれは無茶というもの。どうしてもどの建物を先に直すか決める必要がある。そうなれば必然的に村人達から「カケルはあいつをひいきしてんのか」と陰で言われる可能性が生まれてくる。


 「く~、やっぱ村を発展させるって難しいな」


 「なに当たり前な事を言ってるのよ」


 「だよな。……さてどうしたもんかな」


 三人で「う~ん」と腕を組、頭をかしげていると後ろから「カ、カケルさ~ん、た、大変なんです~」と手を振りながらルービスが走ってくる。


 「どうしたんだルービス! まさかとは思うが――」


 「は、はい。そのま、まさかです。み、見知らぬ鎧を纏った女性の人がい、異世界の人間は何処にいるって探し回っているみたいなんですよ」


 この流れからして察しはしたが今回、向こうの目的はカケルみたいだが、


 「一体、どうやってここに異世界の人間が居るって分かったんだ」


 この事実を知るのは王様と魔王、そしてこの村に住む人達だけのはず。ルービスの証言からして王様と魔王という線はないが、鎧を纏った女性なんてカケルは会った覚えがない。


 「……あのーその人の髪色って金色で鎧のあちこちに青い装飾とか着けてる人ですか?」


 「え? えーっと……鎧は知らないけど……髪は金色らしいです」


 「そう……ならあいつがここに? いやでもどうやってカケルの事を……」


 「なんだメル。誰か分かったのか?」


 確信めいた表情するメルに誰なのか聞いてみたが答えることなく、ぶつぶつと何かの仮説を立てていた。


 「…………考えても仕方ないですね。一先ずその人のとこに向かいませんか」


 「そうだね。道案内頼めますか」


 「も、もちろんです!」


 前みたいにまたルービスを走らせることになるが時間が惜しい。が、アマト達が来たときに比べさほど嫌な感じはしないのだが油断は禁物だ。

 走るルービスの後を追いながらカケルはメルにもう一度、メルに同じ質問をしてみた。


 「……確証ではありませんが、恐らくこの村に来た人物はアーシア・ベルネリアという王都直属の月光騎士団の団長です」


 「王都直属!? しかも団長!? 何でそんな人物が俺を探してるんだよ! なんだ王様が探りに来させた刺客か何かか!」


 「ううん。多分だけど王様は関係していないと思うの。だってアーシアはアマトの――」


 謎の人物がアマトと同じぐらいのインパクトを持った役職にビックリしたが次に発したメルの一言はそれをさらに超えるものだった

 

 「――義妹(いもうと)なの」



==================================================



 「だから私はここにいる異世界の人間に会いに来ただけなんです!」


 ルービスの案内の元、カケル達が向かったのは村の人達が水浴びでよく使う川の近くだった。

 そこに着くと例の女性とサザンが口論でケンカをしており、いつリアルファイトになっても可笑しくないぐらい険悪な雰囲気になっていた。


 「いくら女性だからっていってもよそ者であたかも王都直属の騎士団に入ってそうな奴に用もなしに会わせるわけないだろ」


 「ですから私は異世界の人間がどのような人なのかを知りたくて――」


 「それじゃあ会わせれねーんだよ。そもそもなぜ、知る必要があるんだ。それに何処からその情報を聞き付けたんだ」


 「そ、それは……」


 上手い具合に論破をしていくサザンを見ているとこのまま任せても良いのではと思ってしまったが、女性の腰に差してある鋭い一本のレイピアが存在する以上、二人の間に割って入らなければ血を見ることになってしまう。


 「にしてもさすがアマトの妹だな。あれだけ拒否られてるのに食い下がらない辺り、二人の血筋を感じるな」


 「なんか勘違いしてそうだから言うけど、アマトとアーシアは血の繋がった兄妹じゃないのよ」


 「えっ!? あんなに似ているのにか」


 髪色や顔付き、性格から何処をどうってもアマトとアーシアは似ているのだが、メルの言葉からカケルはその意味を理解した。


 「……もしかしてあのアーシアってアマトの義妹(ぎまい)か」


 「そうよ。幼い頃、身寄りのなかった彼女をアマトが助けたのがきっかけで彼女はアマトの義妹としてカロッサ家の養子になってるの」


 「幼い頃って……あいつは子供の頃からそんな無茶をしてたのか。てかそれならアマトにはアーシアの他にも義妹や義弟みたいなのが居るのか」


 あのアマトだ。身寄りがないって理由だけでアーシア以外にも引き取ってたのだろうと思い、呆れるが、


 「私も最初はそう思ったんだけど……アマトが言うにはそもそも身寄りのない人を助けたのは彼女だけだって」


 「へぇ~、何か意外だね」


 リーナの言う通り養子まではいかなくとも助けたのがアーシアただ一人だけなのは意外すぎる。それだけアーシアという人間に他者を惹き付けるような魅力があるということか。


 「助けた理由は私にも教えてくれなかったけど……アマトが彼女をとっても大事にしてるのは確かよ」


 「そうか……それよりも何でさっきから俺の後ろに隠れて話してるんだ」


 実はここに着いて謎の人物がアーシアと判明してからメルはずっとカケルの後ろに隠れている。


 「それは彼女が魔女という理由で私にいつも嫌味を言ってくるから出来れば顔も合わしたくないんですよ」


 「それでさっきからアーシアの事を名前で呼ばずに『彼女』って呼んでるのね」


 リーナの言ったことは正しかったようでメルはコクンと頷く。メルにもアマト以外に苦手な人がいるんだなと思っているとルービスが目の前まで飛び出ると慌ててサザン達を指差し出す。


 「なに、談笑してるんですか!? あれを見てくださいよ!」


 そんなに慌てる必要ないだろとサザン達を見ると話し合いがいつの間にか終わっており、アーシアは腰に差すレイピアの柄を握り、戦闘体制に入っていた。


 「ヤバッ! 急いで行かないと!」


 「何であなたは早く言わないのよ」


 「僕のせいですか~!」


 「もう、そんなことはいいから早く助けに行こうよ」


 急いで助けに入らないといけないのにメルがまだ引っ付いたままで上手く走れずカケルは足がもつれ、顔面から転んでしまう。


 「本当はこんな真似はしたくはないのですが……どうしても通さないつもりなら力ずくでいかせてもらいます」


 「やれるもんならやってみろよ。悪いがそう簡単に通すつもりは――」


 「うわぁぁああっと! ちょっ、ちょっと待ったー!」


 一回転しながら二人の間に入ったカケルは頭を軽く打ったのかそれとも一回転しただけで目を回したのか、頭をふらつかせながら二人に向かって両手をつき出す。


 「カケル、大丈夫?」


 「すみませんカケル。私が引っ付いてたばかりに……」


 少し遅れてリーナ達も駆け付ける。人が集まってきたからか握っていたレイピアの柄から手を離したが、顔はさっきよりも険しかった。


 「何であなたがここにいるの。あなたは王都に居るはずじゃ……」


 「私はアマトに先に戻るよう言われたからここに居るのよ」


 アーシアの問いに普通に返答をしているが近くにいたリーナの陰に隠れている辺り本当に苦手のようだ。


 「ま、まぁ魔女であるあなたが義兄様の側……じゃなくて、王都から離れているのなら安心して活動できるわ」


 安心した事により頬を弛ませてしまったアーシアは慌ててシャキッとした表情に戻す。


 「それで……えーっとあなたが異世界から来た人ですか?」

 

 「あぁそうだ。俺が異世界から来た――」


 ポンポンと肩を叩かれ、後ろを向くとサザンが「はぁあ」とため息をつきながら横を見るように親指で示してくる。横を見てみるとアーシアはカケルの事を素通りしてリーナの前に立っていた。


 「えっ、えっ、わ、私!?」

 

 「えぇ、魔女がアマト以外の人にそんなになついてるなんてこの世界の人ではあり得ないわ」


 自信満々に言い切るアーシアにカケルは大声をあげて自分の存在を主張する。


 「ちがーう! 俺だ! 俺が異世界の人間だ!」


 「ええ!? 平凡そうなあなたが!」


 「平凡そうって……」


 服装がこの世界の一般的な物なので異世界の人間には見えないかもしれないがシンプルに平凡そうと言われたらまるでリーナの方が異世界人のような派手さがあるみたいだ。


 「なんと言われようが俺が正真正銘異世界から来た人間だ。証拠にこれを見てみろ」


 何時でも等価交換が出来るように持ち歩いている財布から学生証を取り出し、アーシアに見せ付ける。


 「見たことのない文字ですね……それにこの似顔絵はかなりあなたに似てますね」


 「これで俺が異世界から来た人間だって信じてくれたかな」


 学生証を財布に戻している間にアーシアは少し考え込んでいた。


 「そっか……異世界から来た人間は女じゃなかったのね。でもそれなら彼が義兄様との勝負に勝ってるってことで……」


 考え込むアーシアにもう一度、信じてくれたか聞こうとすると不安そうにサザンが近寄り、


 「いいのかカケル? あいつに本当の事を言って」


 カケルの身の心配をして正体を隠してくれていたサザンにとってまだアーシアを疑っており、カケルがここにいるのが不安らしい。


 「んー、たぶん大丈夫だろ。アマトの義妹らしいけどアマトよりかは礼儀正しいみたいだからそう簡単に俺に危害を加えたりしないだろ」


 「アマトの妹!? あいつがか!?」


 きっとカケルのようにアーシアがアマトの義妹ではなく妹だと勘違いしていそうだがこれは後で話しておこう。


 「…………あっ! すみません、自己紹介がまだでしたね。私はアーシア・ベルネリア。そこに魔女がいるなら私が勇者の義妹というのは知っていますよね」


 「あ、ああ知ってるさ。俺は村上翔だ。気安くカケルって呼んでくれ」


 「カケルですね。では――」


 この流れは握手かと思い、ハンデル村に来た客人としては初めてまともな人な事に感動を覚えながら手を差し出すが――。


 「私と剣で勝負してもらいます」


 「…………へ?」


 なぜ、こんな話になったのだろうか。会話の流れからして勝負する流れなんて一つもなかったのに。


 「待て、待て待て待て待て。何で俺とアーシアが勝負するんだ? 勝負する意味なんて――」


 「あります。大いにあります。カケルは勝負で義兄様に勝ったと聞いています。義兄様が剣で敗けるなんてズルをしない限りあり得ません。だから私がこの目で確かめるためにカケル、私と勝負してもらいます」


 「あーこれは盛大に勘違いしてるわね」


 メルの言う通りだ。一体、何処の誰から聞いた話か知らないがこんな身形でアーシアやアマトみたいに剣を携帯していないカケルが剣術なんて使えるわけがない。そんな事に気付かずに剣で戦おうとする辺り、アマトと似ている。



 「ちょっと待てアーシア。お前、少し勘違いしているぞ」


 「勘違いって……あなたが義兄様との勝負に勝ったのは事実なのでしょう」


 「そうだけど……」


 「なら義兄様の敵討ちを含めて私はあなたと勝負しなければいけないんです」


 これは他にも色々と勘違いしていそうだ。一から説明しなければ誤解を持たれたまま話が進んでいきそうなため、リーナの陰に隠れるメルに目で「一から説明してくれ」と訴える。

 それに気付いたメルは嫌そうな顔で首を横に振るがリーナもカケルのジェスチャーに気付き、メルとこそこそ話す。

 リーナが何を言ったのか分からないが上手くメルを説得してくれたようでしぶしぶリーナの側から離れアーシアの元まで歩いて行き、リーナもメルの保護者みたいに付き添って歩いている。


 「さぁ、今すぐ私と勝負してください。義兄様を破ったあなたの腕前を見極めさせて――」


 「あのーアーシア……さん? ちょっといいですか」


 「何ですか。今取り込み中で――」


 「ホントはあなたと話したくないのですがアマトとカケルのためです。あなたも不本意かもしれませんが少し話を聞いてください」


 ふざけなし煽りなしのメルにアーシアは無言で見つめ返すと、


 「分かりました。素直に魔女の話を聞くのは癪ですが義兄様が関係する以上、仕方なく聞いてあげるわ」


 アーシアの上から目線な態度にイラつきを露にしているがリーナが急いでフォローに入りメルを落ち着かせる。

 なんとか落ち着いたメルは一から説明を十分ぐらいで済ました。くだらない部分はある程度かいつまんで説明していたが非常に分かりやすい説明で流石はメル任せてよかったと思う。


 「……では義兄様は剣で敗けたのではなく異世界のゲームで負けたということですね」


 「えぇ。まぁ、あれはほとんど私がやったようなもんだから実質はアマトというよりも私の負けに近いけど……」


 「それもそうね。あーよかったわ。義兄様が剣で敗けてなくて」


 勝負の真実を知ったアーシアは安心した表情で胸の前で手を合わせていた。

 

 「それにしても頭脳勝負で魔女が敗けるなんて、魔女って案外大したことないのね」


 「おい、そんな言い方はないだろ!」


 メルには悪いがアーシアの事を礼儀正しくていい人だと思っていたが全然違った。いや、普通はいい人で間違いじゃないのかもしれないが魔女が絡むだけでアマトのようなウザくなるのは迷惑だ。特に魔女であるメルが本気で嫌いになるのも頷ける。


 「別に私は間違いを言っているわけじゃなでしょ。魔女という種族が唯一誇れる頭脳戦で異世界の人間に敗けてるんだから大したことないのに変わりないじゃない」


 「そ、それは……」


 「違う!」と言い切りたかった。メルを倒したのはカケルではなくリーナでしかも運でだ。だが、それを言えばアーシアはメルに普通の人間に運で負けた魔女というレッテルを貼るはずだ。それはメルを新たに傷付ける事に他ならない。


 「カケル、別に黙っていていいですよ」


 「メル……でも、俺……」


 メルとは三週間程度の付き合いでしかないがそれでもメルの凄さは充分知っている。知っているんだ。だから悔しかった。上手く言い返せない、メルを庇えない自分が。


 「なに言ってるんですか! メルは誰がどう見ても凄い魔女ですよ!」


 後悔の念に駆られる中、声を上げたのはリーナだった。ゆっくりとアーシアの前まで歩み寄り、まっすぐアーシアを睨んでいた。


 「……まずあなたは誰よ」 


 「私はリリエラーナ・ハルヒューム。ハンデル村村長の娘でメルの友達です!」


 「リ、リーナ……」


 珍しく激情に任せて喋るリーナにカケルやメル、サザンまで驚いていた。リーナは全く怒らないわけではないがいつもならふてくしたような可愛い感じの怒り方なので、こんな風に怒るのをカケルは初めて見たのだ。


 「友達って……あなたは魔女がどんな種族か分かって――」


 「分かってるわよ! 魔女の事はお父さんから嫌という程聞かされてます」


 「なら――」


 「でもそれがなんだって言うんですか! 別にメルがみんなに迷惑をかけたわけじゃないんですよ! なのに魔女っていう理由でメルを悪者扱いして!」


 リーナの迫力に気圧されるアーシアは一歩後ろに退くが、負けじと言い返す。


 「ですが魔女が危険なのは事実。魔女が反乱を企てれば魔族と並ぶぐらいの驚異になります」


 「そんな事は絶対に起きないわ! 起きたとしたら魔女を悪者扱いしてきたあなたが原因じゃないの!」


 「くっ……あなたは怖くないのですか時の流れが違う者と一緒に居るのは!」


 こればっかりはすぐには答えれないだろうとメルも含め全員が思ったが、リーナはそんなのお構い無しに言い切った。


 「怖くないって言えば嘘になるかもしれない。同じ時を生きれないどころかメルを置いて先に死んでしまう」


 「リーナ……」


 「それでも私はメルを怖いとは思いません! たとえ私が先に死ぬとしても今生きているこの時間は大切にしたい。だって私はメルの友達なんだから!」


 リーナではなくアーシアが言葉をつまらせ迫るリーナに対して少しずつ下がっていく。


 「それにこの村は魔女だろうが魔族だろうが誰でも受け入れるハンデル村なんです! これは勇者であるアマトも認めた事実なんです!」


 「義兄様が……魔族を……!」


 信じられないといった顔をするアーシアは両手で口を覆う。そんなアーシアに息を吹き返したようにメルが追い打ちをかける。


 「リーナの言っていることは全て事実です! 前にアマトが言っていた別の志とは魔族と共存して生きていくという事なんです!」


 「そんな……義兄様が魔族と……!」


 「既にこの村には一人の魔族が暮らしています。いくらあなたが文句をつけようが王様に告げようとしても私達はこの道を進んでいきます!」


 二人係の言葉攻めに耐えきれなくなったアーシアは目元に涙を浮かべ、カケル達に背を向ける。


 「……分かりました。まさか義兄様がそんな道を歩まれてるなんて……。それでも私は……私は義兄様を……!」


 アーシアは最後まで告げることなく、そのまま走り出していった。大方、村の入り口辺りに馬を停めており、そこに向かったと思うのだが。


 「ありがとうございますリーナ」


 「えっ? 何が?」


 「そのー私の事を庇ってくれた事です。あんな風に庇ってもらったのはアマト以外では初めてだったので」


 メルの抱える魔女問題がどれ程のものかはカケルもリーナも全く知らない。だからカケルは下手に庇えなかったのだがリーナの思考はカケルが思ったよりも単純だった。


 「当たり前だよ。だってメルは私の大切な友達なんだから」


 「うぅ……リーナァ……」


 嬉しさのあまりメルはリーナにギュッと抱きついた。リーナもそんなメルを拒まずに優しく受け入れ頭を撫でる。

 その光景は友達というよりも姉妹のようだった。


 「それでカケルよー、いいのかほっといて」


 「うーん……どうだろう」


 見た感じ泣いていたようでかなり心を傷つけられていたがあそこまで魔女に敵対心を抱いていたなら腹いせでこの村に迷惑を掛ける可能性がある。


 「…………俺、ちょっと追いかけてみるよ」


 「あ、おいカケル!」


 「一人で大丈夫だからみんなにも大丈夫だって言っといてくれー」


 軽く手を振りながらカケルは走り去っていったアーシアを追い掛けていった。


 「あーあ行っちまったな」 


 「一人で行かして良かったんでしょうか」


 「んー大丈夫じゃねーんか? あのアマトの妹か、口はあれだがそうそう実力行使はしないから身の危険はないだろ」


 ボリボリと頭を掻きながらサザンはようやく一息つけると背を伸ばす。ルービスもそれを真似して背を伸ばすと、満足したメルが二人の元に近寄ってくる。


 「すみません。カケルの姿が見当たらないのですが……」


 「そういえばカケル……何処に行ったんだろ?」


 カケルの言動を無視して二人だけの世界に入っていたリーナ達に呆れながらサザンはカケルが走っていった方向を指差し、


 「あいつならアマトの妹を追ってあっちに行ったぞ」


 「それって……一人で、ですか……!?」


 わなわなと震えだすメルになんでこんなに取り乱しているのかと思いながらサザンは「そうだけど」と答えると、


 「なんで止めないんですか!」


 「止めるもなにも別に何の問題もねーだろ」


 「問題も問題、大問題ですよ!」


 アーシアを追うのに何の問題が生まれるんだと言おうとしたがそれよりも先にメルはカケルの後を追い始めた。


 「何してるんですかみなさん! 早くカケルを追い掛けますよ!」


 「あっ、待ってよメル~!」


 慌ててメルの後を追い掛けるリーナだが実際、リーナもメルがこんなに焦ってる意味が分かっておらず意味不明のままだ。サザンとルービスも同じで遅れてメルの後を追いながらメルに焦る理由を聞いた。


 「……確証はないから黙っていたのですが……万が一の事もありますから話しますけど……あまり驚かないでくださいね」


 そんな前置きいるのかと三人は疑問に抱きながら無言で頷く。


 「これは私がアマトよりも先に戻ってきた理由にも繋がるのですが――」


 メルの口から出た衝撃の発言にルービスは足を止め、リーナは足を引っ掻けてしまい転んでしまった。

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