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異世界で手に入れた等価交換の力で俺がこの村を発展させてやる!!  作者: 松原太陽
異世界で過ごした一週間
4/76

ハンデル村に着いて

 「ここが私の住んでるハンデル村よ」


 「ここがハンデル村」


 リーナに案内されたハンデル村は小さな村で全部の建物が木造建築だがどれも古くボロボロで不思議なことにこの村は草原と荒野の境にできており東側が荒野で西側が草原となっている。

 周りを見ると外に出ている人は少なく子供の姿も見えず、僅かに外に出ている人がいても皆、ボーッと空を見上げている。


 「それでカケルはこれからどうするの?」


 「えっ。あっうんそうだな……」


 現状これだけじゃ何をすればいいのか全く分からない。大抵のファンタジーゲームなら新しい村に着いたときは決まって村長のところに行くものだ。


 「じゃあ俺はこれから村長の家に行くよ」


 「村長ってことは私のお父さんに会いに行くのね。なら私も一緒に行くよ」


 「えっ! リーナって村長の娘だったの」


 「うんそうだよ」


 それならそうといってほしかった。知ってたら村長に村の現状を聞かなくてもリーナに聞けば良かったと思ったがもう遅い。村長の家に行くと言ってるため既にリーナは前を歩いている。

 仕方なくリーナの横を歩きながら村の中心まで歩いていたら変な違和感に気づいた。


 「なあリーナ、何で誰も働いていないんだ」


 そうこの村は誰一人働いておらずそれどころかほとんどの人が生きる気力を失っている。


 「働いていないんじゃなくて働く場所がないから働いていないの」


 「えっ何で? 普通は作物育てたりとか動物を育てたりとかするだろ」


 「無理なの」


 「何で」


 「もうこの村にはほとんどお金が残っていないの」


 やっと無理な理由が分かった。お金がないから動物が買えない、お金がないから種が買えず作物を育てることがでかきない。もっともシンプルで簡単な話だ。


 「ごめん俺、今かなり無神経なことを言ってしまって」


 「そんなことないよ。それにもうすぐみんな助かるんだから」


 「えっそれってどういうこと?」


 「私ね昨日変な夢を見たの。神様みたいな人が明日、天からこの村を救ってくれる英雄が来るって」


 恐らくその夢は本当に神様が見せた夢なのだろう。カケルがこの世界で動きやすくするためにやったことだろう。


 「だからリーナは英雄が来たと思って荒野に行ったのか」


 「うんそうだよ。いろいろ大変な目に遭ったけどこうして英雄を見つけることが出来たんだから夢に感謝しないとね」


 「うんうんそうだよな……ってええーー!」


 普通に頷いてしまったが何でバレたのだろうか微笑みながらこちらを見るリーナにカケルは驚きを隠せず立ち止まってしまった。


 「いつからそう思ってたんだ?」


 「カケルが不思議な能力を使った辺りかな。それでもまだ確信を持てた訳じゃないんだけどカケルがこの村に用があるって言ったときにもしかしてって思って」


 気付いていたなら最初に言ってくれれば隠さずに全て話していたのだが、それならカケルがどうしてこうなったのか話せば必ず信じてくれそうだ。


 「そうだよ。リーナの言う通り俺は神様に頼まれたんだ、この村を救ってくれって」


 「やっぱりあの夢のことは本当だったんだ。じゃあカケルが今からこの村を救ってくれるんだね」


 「今すぐは無理だけどな。先ずはこの村の現状知らないといけないし」


 今すぐは無理と言われたリーナはかなり落ち込んでいるようだ。どうやらカケルが思っていたよりもこの村はかなりギリギリの状態なのだろう。一刻も早く何とかしないと。


 「安心しろリーナ。俺が絶対にこの村を救うから」


 「ホントに?」


 「ああだって俺は神様に選ばれたこの村を救う英雄なんだぜ」


 正確には適当に選ばれただけだが嘘は言っていない。


 「そっか・・・・・・そうだよね」


 落ち込んでいたリーナも少しは回復したようでニコッと笑顔を見せてくれた。


 ――やっぱリーナの笑ってる顔は可愛いな。……ハッ!? 俺は何を考えているんだ俺には心に決めた人がいるだろ


 「どうしたのカケル?」


 心の中の葛藤に悶えるカケルを心配してリーナがこちらを覗き込んでくる。


 「だ、大丈夫だよ。それよりもこの村を救うために速く君のお父さんに会わないとな」


 「そうだね。私の家はもうすぐそこだから速く行こ」


 そう言うとリーナはカケルの手を掴みそのまま自分の家まで走りだす。 


 三分ぐらい走っただろうか密集した民家のエリアを抜けると周りには何も無い場所にポツンと一つの家だけが建ってあった。


 「ここが私の家だよ」


 村長の家というだけあって村で一番大きい建物だ。二階建てで見た感じかなり部屋の数も多そうだが他の家と同様にこの家もボロボロだった。


 「ただいまー」


 「お、お邪魔しまーす」


 家に入るリーナの後ろに続き俺も入る。

 靴を脱いで上がろうとしたがリーナはそのまま靴を脱がずに入っていく。


 「そうだよなここは異世界だよな。文化の違いとかあるよな」


 「ん? 今何か言った?」


 「ううん。何も言ってない」


 脱ごうとした靴を履き直し一つずつ部屋を確認するリーナの後を追う。


 「お父さんは居ないのか」


 「そうみたい。たぶん王都に言っているんだと思う」


 「王都に? 何で」


 「まあ立ち話も何だしこっちに客人用の部屋があるからそこで話すわ」


 案内され玄関から右側の部屋に行くとソファーみたいな木で出来た長椅子と机が置いてある。


 「座って待っていて私お茶を持ってくるから」


 お茶を取りに行ったリーナを待つべくカケルは椅子に座ったらミシミシと音をたてた。


 「おいおい大丈夫かよこの椅子。家もそうだが途中で壊れるなんてオチはやめてくれよ」


 家や家具にブツブツ言っている間にリーナがお茶を持ってきた。


 「お待たせ」


 部屋に入ってきたリーナはおぼんに乗せた二つのコップをカケルの目の前に置く。

 コップの中には白い半透明の液体が入っている。


 「なあこれって何て言うお茶なんだ」


 「それは白伊豆茶(しらいずちゃ)っていって白伊(しらい)っていう風邪に効く薬草の豆を煎じた物で、この世界では一般的な飲み物なの」


 葉っぱではなく豆から煎じるということは俺の世界で言うコーヒーみたいなものだろうか。飲んでみないことには分からないのでカケルは一口飲んでみた。


 「味の方は大丈夫? 口に合わなかったら無理して飲まなくていいから」


 多少の苦味はあるがカケルはそれこそがお茶の旨味だといっても過言ではないと思っている。それにこの白伊豆茶はカケルの好きなお茶の味ににている気がした。


 「うん美味しいよ。俺この味結構好きなんだ」


 「それはよかった」


 白伊豆茶を飲み一息ついたところでカケルは改めてリーナの話を聞くことにした。


 「それでリーナのお父さんは何で王都に?」


 「お父さんは村の為に王都や魔都に行って仕事を探してるの。だからしばらくは帰ってこないと思うよ」


 「そうか……ならリーナが話してくれないかこの村の状況を。できればこの世界がどんな世界なのかも教えてくれると嬉しいんだが」


 「分かった。なら最初はこの世界について話すね」


 そう言うと席を立ったリーナは飲み終わったカケルのコップと自分のコップをおぼんに乗せ部屋から出ていった。

 待つこと数分、部屋に入ってきたリーナは新しく淹れた白伊豆茶と古びた紙を持ってきた。


 「ありがとう。それとその紙はなんだ?」


 「これ? これはこの世界の地図なの」


 机の上に広げられた地図を見てカケルは驚いた。何故ならその地図には大陸が一つしかないからだ。


 「どうしたの?」


 「あっ、イヤ少し驚いてな。俺の世界では大陸が六つあったから」


 「そんなにあるの!? 凄いんだねーカケルの世界は」


 カケルもかなりこの世界に驚かされているけどなとは言えず視線を地図に向ける。


 「それよりもこの村は何処にあるんだ?」


 「えーとこの辺りだよ」


 指した場所は大陸の中心部分だった。


 「大陸の中心かー。てっきり大陸の中心は王都だと思っていたよ」


 「フフッ、王都はここから西側にあるこの場所で、その反対側が魔都なの」


 リーナは地図の西と東の中心部にある王都と魔都の場所を指す。

 二つの都市の場所を確認すると王都のある西側が草原が描かれており魔都のある東側はゴツゴツした岩が描かれていた。


 「それでこの世界は西側を王都に住む人類が、東側を魔都に住む魔族が支配しているの」


 「つまり俺がいた場所は魔族の領土だったのか……それじゃあ君が魔族の領土にいたのは不味かったんじゃないか」


 この世界にも領土の不可侵条約とかがあると思い心配したがリーナが言うには別に問題がないらしい。


 「別に今は魔族だからといって私達が魔族の領土に入ってはいけない理由はないんだけど……」


 「急に黙ってどうしたんだ?」


 リーナは何故か口ごもっている。


 「えーとそのーここで話が村の話に戻るんだけどね」


 「急に!?」


 「うん。実はねこの村、王都と魔都の領土の境にいるせいでどちらに所有権があるか分からない状態なの」


 それから外が暗くなるまでの間、リーナからこの村がこんなにも廃れてしまった理由を苦い白伊豆茶を飲みながらカケルは聞いた。


 「――十年前まではこの村は活気の溢れる楽しい村だったの。世界中は草花に溢れ争いとは無縁の世界だったわ。でもそれは長くは続かなかったわ。

 それは何処からともなく現れた魔王サタン率いる魔族の軍団により世界は変わったわ。東側を領土とし、次々と周りを荒野にし領土を広げていく魔族に人類は勇者と共に立ち向かったの。勇者と魔王の力は拮抗し決着は中々着かずついには魔族の領土はこの村の半分まで侵食していたわ。勇者と魔王は争いに巻き込まれたこの村で決着をつけようとしていたんだけど人類軍の王が魔王にとある提案をしたの。それは領土がお互い半分になったことによる和平とそれによる三つのルールの提案。

 一つ、領土内で起こった問題は領土内で解決すること

 二つ、法律は領土内のものを適応すること

 三つ、中央の村の所有権が決まるまで村から半径百キメイルの中は上記のルールから適応されないものとする

 そのルールを魔王は認め無事、人と魔族の和平が成立したの。こうして世界の均衡は保たれ、人と魔族の争いは終わったわ。この村を犠牲にしたことでね」


 全部話終えたのかリーナは白伊豆茶を飲むとふぅーと一息ついていた。カケルはリーナから聞いた話しを頭の中で整理するがとても衝撃的な内容ばかりで中々整理できない。恐らくキメイルとはこの世界の距離の単位なのだろうなと分かるがどうしても最後だけ分からないところがあった。


 「なあどうしてこの村を犠牲になったんだ? 今の話だと犠牲になるようなパターンではないと思うんだけど」


 「話したでしょ。和平の時に決められたルール」


 「ああ確かに聞いたけどそれがどうしたんだ」


 「あのルールのせいで私達は王に見放されたのよ」


 感情を抑えて言っていたがリーナはギュッとコップを握り、目元には涙がうっすらと浮かび上がっていた。


 「見放されたってどういうことだよ」


 だがそこでカケルは見放された意味に気づいてしまった。


 「もしかしてこの村がこんなになっても王が助けたいのは……」


 「そうルールによってこの村から半径百キメイルは無法地帯。だからその中でなら魔族と人が争おうが何の問題にもならないの」


 「そんなのおかしすぎるだろ! それなら和平なんて結ばずに勇者に魔王を倒してもらえば良かったじゃないか!」


 「簡単な話よ、恐れたのよ勇者が魔王に負けるのを」


 本当におかしな話だ。普通なら王は勇者の勝利を信じ待つものだ。


 「だから王は万が一にも勇者が負けても魔族が攻めてこないよう先に手を打ったの」


 「そうかこの村の周辺ならいくら魔族と争ってもルールに適応されないからか」


 「そう。それで王は私達が死なないよう必要最小限の食糧と水分を贈るだけでこの状況を打開しようとしてくれないの」


 そうかとカケルは分かってしまった。村人が全員死んだらこの村の存在する意味がなくなりそうなると空白の領土がなくなりルールのせいで表立って魔族と争うことがなくなるということに。


 「じゃああれか王は和平とか言っときながら本心は魔族を倒したいということか?」


 「そういうことになるね」


 「わかった。リーナのおかげでここの世界事情が理解できたよ」


 コップの中に入っている白伊豆茶を飲み干す。


 「カケル、私は貴方が夢で見たこの村を救ってくれる英雄だと信じてる。けど考えれば考えるほど無理なんじゃないかって思ってしまう自分がいるの」


 現状を振り返り落胆し力なく椅子に座っているリーナだがカケルは無理だとは思っていない。


 「リーナ言ったろ。俺はこの村を救うって」


 「確かに言ったけど……一体どうやって?」


 神様はきっと、いや神様がこの世界の状況を知らないわけがない。そんな神様が適当とはいえカケルを選びこの力を与えたってことは使い方次第ではこの村が救えるということだ。


 「どうやってって……決まってるだろ俺は英雄なんだ出来ないことはない、だから……」


 バンッとカケルは勢いよく立ち上がりリーナに向かって宣言した。


 「俺がこの能力……等価交換の力でこの村を発展させてやる。そしてこの村を王都や魔都に引けを取らない世界一の村にしてやる!」


 言った……言ってしまった。今世紀最大と言っていいほどの大宣言。これでもうカケルは後戻りはできない。


 「無理しなくていいのよ。確かに等価交換は凄かったけど……」


 「無理じゃないって! それにこれからどうすればいいかも……」


 一歩、リーナに詰め寄るとグゥ~と気の抜けた音がカケルのお腹からなる。


 「あっ……」


 こんな場面でお腹が鳴るのは非常に恥ずかしい。今まで生きていてカケルがここまで恥ずかしい気持ちになったのは初めてかもしれない。


 「フフッ、そうよねもうこんな時間なんだしお腹だって空くよね」


 確かに外はもう真っ暗だがそれにしてもこのタイミングでなるか。今ならあの時お腹を鳴らして赤面したリーナの気持ちが分かる。


 「待ってて今何か作ってくるから。それとカケルは来たばかりで住むところがないからこれからはこの家に泊まっていいからね」


 そう言って部屋から出ようとするリーナをカケルは止めた。


 「待て」


 「ん? 何か問題でもあった?」


 「いや問題はないむしろ大助かりだけどここまでしてもらうんだ今日の晩御飯は俺が作るよ」


 「いいよ。その気持ちだけで充分だからそこで待ってて」


 ここで引き下がるわけにはいかない。

 今日これ以上リーナにお世話になるのはカケルの小さなプライドが許さない。


 「いいから晩御飯は俺が作る。それに食糧は限られてるんだろ」


 「まあそれはそうだけど……」


 「なら俺が作るべきだ。俺がお前に異世界の料理を食わしてやる!」


 それから五分後、何やかんやでリーナを押切、台所までいったカケルだがいきなり緊急事態だ。


 「これどうやって火をつけるんだ?」


 台所にはガスコンロみたいな物がついていたが何処にも火をつけるようなスイッチがない。


 「えっ、どうやってってこうやってだけど」


 戸惑うカケルを不思議そうに見ながらリーナはコンロに手をかざすとボッとコンロに火がつく。


 「えっ! えっ! リーナ今何したんだ!?」


 「何って魔法だけど?」


 「魔法!? この世界では調理するために魔法で火をつけるのか!?」


 「そうだけど……えっ、カケルの世界では違うの!?」


 異世界だからある程度のことは覚悟していたがまさか魔法をこんな形で使うとは全く予想していなかった。


 「そもそも俺の世界では誰一人魔法なんて使えないから」


 「えっ、じゃあどうやって火をつけるの?」


 「それはー、まぁ科学の力でとしか今はいいようがないなー」


 「かがく? それって何?」


 「んー長くなりそうだからそれはまたの話な」


 取り合えずご飯を作るべくカケルはラーメンの二人分の材料と器を計三千百円分を出した。


 「それで何を作るの?」


 「ラーメンっていって俺らの世界ではとても人気な食べ物なんだ」


 「そうなの? どんな料理なんだろう楽しみだな~」


 約三十分かけて作ったラーメンは今まで作ったラーメンの中でもかなりうまく出来た気がする。

 ラーメンを客間に運び早速カケル達はラーメンを食べることにした。


 「熱いから気を付けて食べろよ」


 「う、うん」


 一口食べてみたが少し味付けが濃かったなと思いこの味がリーナの口に合うか怪しかった。


 「ど、どうだ?」


 ラーメンを口にしたリーナに恐る恐る感想を聞く。


 「……! とても美味しいよ! 私こんなに美味しいもの初めて食べたよ」


 「良かったリーナの口に合って」


 ホッとしカケルもラーメンが伸びる前に食べる。


 ――ラーメン一つでここまでの反応となるとこの村の発展に地球の料理を使うのも一つの手か


 ふと顔を上げるとリーナが美味しそうにラーメンを食べているのを見ると不思議な感じがする。


 ――何年ぶりだろうなこうやって誰かと一緒にご飯を食べるのは


 昔、母親が作った料理を家族三人で楽しく食べる記憶がフラッシュバックする。


 「ん? どうしたの私の顔に何かついてる?」


 「あっごめん。ちょっと昔のことを思い出してね」


 リーナはそれ以上聞くことなくまたラーメンを食べ始める。

 幸せそうに食べるリーナの顔を見てカケルは心の中でもう一度宣言した。


 ――絶対にこの村を救う。リーナが幸せに暮らせるためにも


 それから約七分ぐらいでラーメンを食べ終えたカケルは自分の作ったラーメンにかなり満足していた。


 「ご馳走さま。とても美味しかったよカケル」


 リーナも食べ終えたらしく、笑顔にお礼を言うリーナを見ると何故かドキドキが止まらなかった。


 「ま、まぁこれから泊めてもらうんだこのくらいは当たり前だよ」


 席を立ちお椀を片付けようとするリーナをカケルはまた止める。


 「食器も俺が片付けるからリーナは他のことをしてくれていいから」


 「いいの?」


 「いいのいいの。それにこれから世話になるんだこれくらいは当たり前だろ」


 ウ~ンと悩んだリーナは笑顔で言った。


 「じゃあお願いしていいかな」


 「おう任しとけ」


 「よろしくね。私は水浴びに行くから」


 「水浴び?」


 多分この世界で言う風呂みたいな物だろうか。もしそうなら上手く温泉を湧き出させればこの村の発展に大きく関わるはずだ。


 「後でカケルも行く?」


 「いや俺はいいよ」


 「そう……あっ! あと、こっそり後をつけて覗かないでよね」


 「の、覗くわけねーだろ!」


 たまにリーナはカケルのことを信用してるのかしてないのか分からなくなるときがある。


 「じゃあちょっと準備してくるね」


 「あ、あぁ」


 そう言ってリーナは二階に昇り自分の部屋に入るとカケルは食器を重ね台所に移動すると上からドアの開く音が聞こえた。


 「……あれリーナ、タオルは?」


 水浴びの準備を終えて二階から降りてきたリーナの手には着替えだけしかなかった。


 「タオル? それって何?」


 「タオルっていうのは体の水滴を拭き取る布だよ」


 「それってこれのこと?」


 そう言いながら取り出したのは掌サイズの皮っぽい布だった。


 「なぁリーナ」


 「ん? 何?」


 「この世界の人達はみんなそれで体を拭くのか」


 「えっそうだけど……」


 カケルは頭を抱えながら二百七十円でバスタオル出す。


 「その布じゃなくてこっちを使え」


 バスタオルを投げリーナはおっとっととキャッチする。


 「これがタオル?」


 「少し大きめのな。たぶんそれよりかは拭きやすいと思うから」


 畳まれたバスタオルをバサッと広げ大きさを確認し感嘆の声を漏らしたリーナはバスタオルを畳み直した。


 「ありがたく使わせてもらうねカケル。それじゃ行ってくるね」


 笑顔でそう言うとリーナは家の外に出ていった。


 「水浴びか……水浴びに行くということは近くに川とかがあるのか……それなら明日からでも畑や田んぼを作れるな」


 明日から村の為に何をしていくか考えながらカケルは食器を洗い片付けていく。

 片付け終わったカケルは客間に戻り財布の中にある残りの金額を確認した。


 「二万九千六百四十円か……今日だけで五千九百七十八円も使ったのかー。まぁまだ三億円あるし村人全員の食糧調達や道具や種も十分買えるか」


 財布をバックに戻し今度は自分の格好を見る。


 「さすがにこれ以上スーツで動くのは難しいか」


 リーナの服を出したとき二千円位使ったから恐らくこの世界の服はそんなに高くはないと言うことだ。


 「よしこの世界の服ならそんなに目立たないだろうな」


 たぶん今日最後の等価交換で出したのはこの世界の男性服だ。

 白い半袖のシャツに皮で出来たベストに藍色の半ズボン割りとオシャレな服が出てきた。


 「おっ、中々センスのある服だなお金も予想通り二千円だし、よーし早速着替えるか」


 異世界の服に着替えてから三十分後リーナが水浴びから帰ってきた。


 「お帰りリーナタオルはどう……だっ……た」


 「あっカケルただいま。カケルのくれたタオル凄かったよ。本当に簡単に体が拭けるんだね」


 まだ乾ききっていないのだろうリーナはバスタオルを首にかけ長い髪を拭いていたがカケルはリーナの着ている服に声が出なかった。

 先程まで着ていたミニスカと色は同じ桃色だがスカート丈が長く全体から見ると袖のないロングワンピースだった。

 こうやって見るとリーナは白よりピンクの色が似合うなと思うが夜だからだろうか凄く大人っぽく見える。


 「あれ? カケル着替えてたの? その服とても似合うね。……あれ? どうしたのカケルぼっーとして」


 近づきカケルの目の前で「おーい」と言いながら手を振る。


 「あっごめんごめんちょっと見とれ……じゃなくてぼっーとして」


 危うく見とれてたと口を滑らしそうになったが何とか踏みとどまる。


 「……? 大丈夫疲れてるんじゃないの? 今日はいろいろあったしもう寝ましょう」


 「そ、そうだな」


 本当に今日はいろいろあっからゆっくり休もうと思い、リーナの案内のもと二階の寝室に案内された。


 「布団はここでいいかな」


 この布団も皮で出来ているのだろうか既に一枚敷かれている。だがそんなことよりも驚くべきことにその布団の隣にリーナが新しく布団を準備していた。


 「よしこれで準備完了! さっ寝ましょう」


 「えっもしかして俺、リーナの隣で寝るのか!?」


 「えっそうだけど……」


 この子は本当に何を考えてるのだろうか普通年頃の女性は今日初めてと会った男性と一緒に寝ないだろ。てゆーかここもしかしてリーナの部屋なのだろうか。


 「……まぁもういいよ。今日はもう何も言わないよ」


 考えるのを諦め布団に潜るカケルに隣でリーナがワーワーと何か言っていた。


 「えっ、何? 私何か可笑しなことした?」


 布団に入るカケルにリーナは追求してくる。


 「何もしてないから。さっ早く寝よ」


 「も~何なのよそれー!」

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