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魔族の料理人

 次の日、カケル達は王都でタオルを販売していた。

 先日話した通り、アマトとメルはいつもの広場ではなく別の広場でタオルを販売している。

 そしてタオル販売をして約三時間が経ちそろそろタオルの在庫が無くなろうとしていた。


 「ありがとうございました。良ければまた来てください」


 「おう、今度は友達を連れてくるからな」


 リーナの接客もだいぶ様になり、今ではリーナ目当てで店に来る人だって何人かはいる。


 「リーナ。後、百枚ぐらいだから最後のもう一踏ん張りといくぞ」


 「うん。よーしまだまだ頑張るよ~」


 かなりの回数、タオル販売をしてきているがまだタオルを求める人は多く列は未だに長いままでこの様子ならまた途中で客を帰すはめになるだろうとカケルは誰にも見えないところで軽くため息をつく。


 「カケル~、バスタオル取ってくれる」


 「あぁ」


 リーナに言われバスタオルを取ろうとしたが残りがもう三十枚程度しかないため残りのバスタオルを一気にカウンターまで持っていく。


 「あいつらは大丈夫かな」


 久々の二人でのタオル販売でカケルはふと別の所でタオルを販売しているアマトとメルが気になってしまう。

 カケルとリーナは何回か二人でタオルを販売していたからなんとかなっているが、アマトとメルは二人でタオルを販売するのが今回で初めてなため上手く出来ているか不安になる。


 「すいませーん。タオル三枚くださーい」


 「はーい。今は二人の心配をしている場合ではないな」


 思考を切り替え、ずくにタオルを三枚用意し女性の客に渡す。


 「ありがとうございました」


 「ウフフ、こちらこそいい買い物をさせてもらったわ」


 「そう言ってもらえると嬉しいです」


 「ウフフ、それでは」


 手を軽く振る女性客に礼で返すと次の客に意識を切り替える。

 そしてその客を終えたら次の客に切り替えるという作業を繰り返していくうちにいつしかカケルの頭の中からアマト達の心配事がどっかに飛んでいってしまった。


 「カケル、次で最後の客にして」


 カウンターの下からリーナの声が聞こえ、分かったと頷くとカケルは新に来た客にラストのタオルを売るとそのまま大声でいつもの台詞を言う。


 「すいませーん! 今日のタオル販売はこれで終わりでーす! よろしければまた二日後にお願いしまーす!」


 「あー、終わってしまったか」


 「また二日後こーよおっと」


 長い列もあっという間に無くなり移動式屋台の前は静かになる。


 「ふぅ、今日もお疲れリーナ」


 「カケルもね」


 疲れて座り込むリーナにカケルは棚の近くに置いてあるバックの中から水入りの二本のペットボトルを取り出す。

 

 「リー……」


 ペットボトルをリーナに渡そうとしたとき余りにも背後が無防備なためカケルはつい悪戯心で水入りペットボトルを等価交換で冷えた水入りペットボトルに交換する。


 「フフフ」


 ゆったりとリーナに近付きながらカケルは冷えた水入りペットボトルをリーナのうなじに当てる。


 「ひゃあうッ!」


 奇妙な声を上げ、うなじに手を当てるとリーナはカケルの顔をじっと見つめた。


 「むー」


 「悪い悪いそう怒んなって。ほら水」


 膨れた顔で受け取り、蓋を開けたリーナはコクコクと飲みだす。

 そんなリーナの隣にそっと座ったカケルも蓋を開け、水を飲む。


 「……ありがとう」


 膨れた顔でまだ怒っているようだがちゃんと礼を言う辺り流石だなと思う。


 「スマン、マジで悪かったて。その冷えた水で勘弁してくれな」


 「別に~、私は怒ってないけど」


 ああは言っているもまだ少し怒ってるようだがすぐに機嫌を良くするだろう。


 「……」


 まだ太陽は昇っておりスマホの時間でもまだ二時半だ。

 アマトとメルは終わり次第、こちらに来るはずなので順調だったならもうすぐ来るだろう。


 「……日本……!」


 「……ん? リーナ今なにか言ったか?」


 「えっ? 私何も言ってないけど」


 何処からか日本という言葉を言った人の声が聞こえリーナかと思って聞くがリーナは首を振る。


 「えっ、じゃあリュオか」


 「……リュオも別に何も言ってないって」


 リュオでもないなら何かの聞き間違いか空耳かと思いもう一口水を飲む。


 「おい! 話を聞けって! 文句を言う前に私の日本料理を食べてみろって!」


 「ブフッー!」


 「どうしたのカケル!? 急に水を吐き出して」


 カケルはゴホゴホと咳き込み大丈夫だとリーナに告げるが内心は大丈夫ではなかった。

 それは間違いなくこの異世界では聞けないはずの単語が聞こえたのだから大丈夫ではない方が無理だろう。


 「今の声は何処からか……」


 「ホントに大丈夫?」


 急に辺りを見回す行動に心配するリーナだがカケルは声の主を探し続ける。


 「……あいつか!」


 レストランらしき建物の近くで一人の女性が何か騒いでいるのを見つけたカケルは移動式屋台から飛び降り女性の元まで走り出す。


 「えっ、ちょっとカケル!?」


 リーナの呼び掛けが聞こえてないのかカケルは走るのを止めなかった。

 

 「もー、急にどうしたのよ。ちょっと離れるけどリュオはそのまま居てね」


 「ヒヒーン!」


 リュオに待つよう指示したリーナは移動式屋台から降り、カケルの後を追った。



==================================================



 女性は必死に自分の料理を食べてもらおうと何度も男性料理人に料理の入った小箱を渡そうとするが男性料理人はどんな料理なのかの興味も示さずに断るばかり。


 「いいからまずはアタシの日本料理を……」 


 「うるさい! そんな聞いたことのねぇ料理なんて食べれるかよ!」


 さすがに同じ料理人として丹誠込めて作った料理を食べれるかと言われたら頭にくる。


 「食べれるかよって、あんた仮にも料理人ならそんなこと言ったら駄目でしょ!」


 「料理人だから言ってんだよ。いいからとっとと失せろ!」


 「あ、まっ、待って……」


 嫌気の射した男性料理人は女性から目をそらし、ドアを開け家の中に入る時言った「……ったくそもそも魔族なんかを雇うわけねーだろ」という言葉を彼女は聞き逃さなかった。


 「またなの……また魔族ってだけで拒絶されるの……」


 何度も同じ言い方をされ心に傷をおった女性は小箱を抱き締めながらその場に座り込んでしまう。


 そんな一連のやり取りを建物の陰から見ていたカケルは遅れてやってきたリーナにアイコンタクトを送り、女性の所まで歩み寄っていく。


 「すみません。少しいいですか」


 「えっ……?」


 恐る恐る声を掛けると女性はゆっくりと顔を上げカケルの顔を見た後、勢いよく立ち上がり身だしなみを整えだす。

 背丈はカケルと同じぐらいだろうか。布地が薄くビキニのように上下で分かれ、お腹が出ている黒い服にミニスカート、きらめらかな白い肌を隠すような黒のタイツを着用し、はねっけのあるピンク色のショートヘア。両サイドにアップで結ばれた髪はとてもフサフサしており、口から見える八重歯につり目のせいか強気な性格の子に見える。

 そして彼女の最大の特徴といっていいのが豊満な胸に背中に生えるコウモリみたいな羽と腰から生える長く先の尖った黒い尻尾。これだけで彼女が普通の人間でなく、魔族であるということが分かる。


 「コホン、それで私に何か用?」


 落ち込んでいたのを悟られないように強気に振る舞う女性にカケルは苦笑いを隠せなかった。


 「そんな顔してどうしたのよ。初対面の人にしかも先に話し掛けといて」


 「あ、あぁごめん……」  


 いきなり怒られてしまったカケルを後ろでリーナはクスクスと笑っていた。


 「それで何の用なの? 生憎私は暇じゃないのよ」


 さっきまで落ち込んでたくせにと言いたかったが初対面の人に言うのは失礼だと思い、ぐっと堪える。


 「えーと、さっき君が言ってた日本料理が気になって……」


 そこまでカケルが言ったとき女性はカケルの目の前まで詰めよった。


 「それってアタシの日本料理を食べたいってこと」


 「ま、まぁ……そういうことになるかな」


 至近距離で睨み付けられ数歩、後ろに下がろうとしたとき女性はガシッとカケルの手を握った。


 「それならそうと早く言いなさいよ」


 機嫌よく握った手を上下に振る女性にカケルは戸惑ってしまう。


 「後ろのあなたもそうなの?」


 カケルの後ろにいたリーナにもやっと気付いたのか話し掛けた。


 「え、えーっと……はい。良ければ私も食べてみたいです」 


 「ホントに!? なら善は急げって言うし早速あそこのフリースペースに行くわよ」


 そう言って彼女が指したのは丸い木の机と椅子がたくさん並べられており、そこでは複数の人達がご飯を食べたり話をしたりして過ごしていた。


 「よーし席が空いている内にさっさと行くわよ」


 女性は握った左手を放すとそのままリーナの右手を掴み、二人を引っ張ってフリースペースに移動する。

 無理矢理フリースペースに連れてこられたカケルとリーナは女性が見つけた奇跡的に三つ空いていた席に座った。


 「じゃあ早速、アタシの作った料理を食べてちょうだい」


 そう言って女性は机の上に白い小箱を置く。


 「……えっ? もしかして料理って……」


 リーナが完全に白い小箱が女性の作った料理と勘違いしていたのでカケルは小箱をコンコンと叩く。


 「リーナ、これは料理を入れる箱だから。この中に料理があるんだよ」


 「あ、そうなの」


 納得して安心するリーナだが、カケルは小箱を叩いてこの女性に更なる疑問を抱いていた。

 小箱を叩いた時、いや小箱を見た時からだ。この小箱がプラスチックでできているのに気付いたのは。この世界にはプラスチックなんて存在しないはず。なのに何故あの女性はプラスチックの小箱を持っているのだろうか。魔族である彼女が。


 「……開けていいか」


 この女性に関して気になることは山ほどあるがまずは女性が作った料理を食べてみないことには分からないため開けていいか聞いてみる。


 「もちろんいいわよ」


 「で、では」


 女性の言う日本料理がカケルの知る日本料理か分からない以上、小箱の蓋を開けるのが少しだけ怖かった。


 「どんな料理なんだろう」


 隣でリーナがどんな料理が出てくるのかワクワクしている。

 一呼吸おき、カケルは小箱の蓋を開けた。


 「……こ、これは!?」


 蓋を開け、出てきたのは海老や様々な野菜が黄金色の衣に包まれた料理。


 「後はこのつゆを着けて……さぁどうぞ。私が作った天ぷらを召し上がれ」


 彼女が腰のポーチから出した二本の箸にお椀と媚茶色液体の入ったペットボトルを出し、箸をカケルとリーナに渡しペットボトルの中身をお椀に注いだ。この媚茶色の液体に小箱に入ってる天ぷら、これでカケルは彼女が本日本料理について知っていることが分かった。


 「じゃあいただきます」


 「……いただきます」


 彼女の事が気になりすぎるカケルは見た目完璧な天ぷらを食うのが恐く中々口にできない。


 「えーと、この天ぷら? をこのつゆに付けて食べたらいいのかな?」


 「ええ、それがこの天ぷらを美味しくいただく食べ方よ」


 言われた通りにリーナは野菜の天ぷらを一つ取ってそれをつゆに付け、汁が零れないように口の中に入れていく。


 「モグモグ……」


 「ど、どうかな?」


 リーナの感想を待つ女性は何処かソワソワしていた。


 「ゴクン……」


 食べ終わり、しばらくの沈黙が流れる。


 「……! 美味しい……これ凄く美味しいよ」


 「ホ、ホントに!」


 「うん! ほらカケルも早く食べてみてよ」


 彼女の作った天ぷらを絶賛するリーナはまだ一口も食べてないカケルにグイグイ迫ってくる。


 「分かったからそう迫らないでくれ」


 テンションが上がるリーナを落ち着かせ、カケルは海老の天ぷらを取り、つゆに付けて口に入れる。


 「モグモグ…………!」


 「どうどう」


 天ぷらを口にしたときカケルはあまりの美味しさのせいで言葉がでなかった。サクサクの衣にしっとりとした海老の食感。様々な店でいろんな天ぷらを食べてきたがこれほど美味しい天ぷらを一度も食べたことがなかった。


 「確かにリーナの言う通りすげぇ旨いな」


 「そうでしょ! ホントに美味しいよね」


 二人が天ぷら食べ、美味しい美味しい言う度に女性は照れはするもとても嬉しそうにしていた。


 「まだあるから遠慮せずに全部食べてね」


 「うん!」


 「こんなに旨いんだから絶対に残すかよ」


 天ぷらの美味しさと昼を食べて無かったせいで天ぷらを食べ終わるまでの間、カケルの頭の中から女性に対する疑問点がどっかに飛んでいた。

 

 それから数分後、小箱一杯にあった天ぷらをあっという間に無くなり二人の胃の中にへと入っていた。


 「ごちそうさまでした」


 「ごちそうさま」


 いつの間にか昼食の代わりになった天ぷらの文句の無い味にカケルとリーナはかなり満足をしていた。


 「やっぱり一生懸命作った料理を誰かに美味しく食べてもらうのっていいわね」


 「はい、とても美味しかったです。……えっとそういえば私達まだ名前を知らないですよね……」


 リーナのその発言にしまった! またやらかしたと心の中で叫んだカケルは天ぷらの美味しさのせいで弛んだ頬を引き締める。


 「そういえばそうね。アタシ達、会ったばかりなのにどうして今まで名前を聞かずに話してたんだろうな」


 ホントその通りだ。リーナと初めて会ったときもお互いに名前を聞かずに話を続けたことがあった。前回のミスを生かせれてない自分に嫌気が射す。


 「えーっと、今更なんだけどアタシはフェル・シャルム。特技は見ての通り料理よ」


 「私はリリエラーナ・ハルヒューム。リーナって呼んでくださいフェルさん」


 「フェルで良いわよ。後、タメ口でも良いから」


 右手を差し出し笑うフェルにリーナは少し間を置いて、笑顔でフェルの右手を握る。


 「わかったよフェル」


 「それで……あなたは?」


 リーナとの自己紹介を終わらしたフェルは今度はカケルの方を向く。


 「俺は村上翔だ。カケルって呼んでくれればいいから」


 「フフッ、よろしくカケル」


 差し出された右手を握るカケルは少しだけ緊張した。


 「さてと自己紹介も終わったことだし……あなた達の目的を教えてくれる?」


 「目的?」


 「そう。何でアタシに近付いたかのね」


 フェルの言われた事の意味が分からず首を傾げるリーナだがカケルは違った。


 「……まぁフェルが作った日本料理が気になったのは本当なんだけど……」


 カケルがフェルに近付いた理由、それはフェルが本当に日本料理を知っているのかを確認するためだけではない。


 「……フェル、君の料理の腕を見込んで頼みたいことがあるんだ」


 「頼みたい事?」


 「……君の料理でリーナの村の発展に協力してくれないか」


 そう言ったとき、フェルだけでなくリーナも驚いていた。まぁリーナには何も言っていなかったから驚くのも仕方ないだろう。


 「待って待って待って。アタシの料理で村の発展に協力してって……全然話が見えないんだけど」


 「確かにそうだな。じゃあ今から詳しく話すからリーナは俺が何か言い忘れをしていたらカバーしてくれ」


 「えっ……うん、分かった」


 二人係の説明で今、ハンデル村がどのようの状態なのかを十分近く掛けてフェルに説明した。


 「そう……そういうことね」


 「分かってくれたか」


 「えぇ、取り敢えずはね」


 説明も終わり、フェルに理解できたか確認するとフェルは口元に手を押さえ頷く。


 「それで……協力はしてくれるか」


 新たな村の発展のためにここは是非とも首を縦に振ってほしいところなのだが……。


 「……ごめん。協力はできないわ」


 「えっ、何で!」


 「何でって……そもそもこれってアタシに何のメリットがあるの?」


 分かっていた。それを言われたら返す言葉がないことも。薄々断られるかもしれないとも。だがこうもあっさり断られるとは思わなかった。確かにメリットがあるか無いかと言われたら無いとしか言えないが……。


 「それにカケル達だって見てたんでしょ? アタシが店の人から受け入れられなかったのを」


 「それは……」


 「アタシが断る理由は自分にメリットが無いのと、私が……私が魔族である以上、協力したところでカケル達の迷惑になるだけだからよ」


 俯きながらそう言うフェルの体は少し震えていた。それは薄着で寒いからでないのは明らかだ。


 「フェル……」


 ここまでこちらの事を思ってくれているフェルに対して掛ける言葉がない。

 一体フェルにどんな言葉を掛ければ良いのだろうか。


 「何言ってるのよフェル。魔族だからといって私達は困らないし、フェルにもちゃんとメリットだってあるんだよ」


 「えっ?」


 「はっ?」


 何時もならカケルの発言に対してリーナが驚いたりするのだが今回はその逆だった。


 「リーナ、お前何言って……」


 「えっ? だってカケルの予定ではハンデル村を人と魔族が共存できる村にすることなんでしょ? ならフェルが居たって問題ないじゃない」


 「た、確かにそうだけど……メリットの方が……」


 この話でどちらかと言えばこちらの方が重要な気もするがそれに関してもリーナは「全く問題ないよ」と笑顔で言った。


 「私達に協力してフェルが得られるメリットはねー……」


 無駄にためを作るリーナの顔はかなり自信満々だった。


 「私達の村なら自分の店が持てるということだよ」


 「自分の店が……!」


 さすがにそれは厳しいだろうとカケルが言おうとしたとき、フェルが「待って」と声をあげた。


 「な、何だ?」


 「ねぇ、確認なんだけどハンデル村なら魔族の私を受け入れてくれるのよね」


 「えっ……えーと……」


 村人全員にはカケルの予定している村発展の計画については話しをしており、長い時間……といっても三日間も使って必死に説得したため魔族が来たところで追い出したりせず受け入れてくれるはずだ。


 「……あぁ大丈夫だ。受け入れてくれるはずだよ」


 「ホントに?」


 「ホントだ」


 確認を終えたフェルはそうと呟くとカケルの両手を握った。


 「やる! それだったらアタシ、カケル達に協力する!」


 「へっ?」


 まさか自分の店が持てるっていうだけで協力してくれるなんて思わなかった。


 「マジで?」


 「えっ? マジだよ。だって自分の店が持てるなんてチャンスがあるんだからやるに決まってるでしょ」


 この展開にまだ頭が追い付かないカケルはチラッとリーナの方を見るとリーナは笑顔でブイサインを送っていた。


 ――何だろうなこのデジャブ


 「じゃあ早速、カケル達の村に連れてって」


 「イイッ! 今から!」


 「そうよ。こういうのは速い方が良いに決まってるでしょ」


 フェルの言うことにも一理あるがこんなに早く動かれたところですぐに店をあげれるわけではない。

 というか冷静に考えてみればハンデル村にレストランみたいな場所なんて無かったはずだ。そう考えたとき嫌な予感がしたカケルはリーナの袖を引っ張り、耳を寄せフェルに聞こえない声で話す。


 「なぁハンデル村にレストランなんてあったのか?」


 「うん。少しボロボロなんだけどちゃんとした建物があるの」


 「へ~」


 初めて知ったことに驚いてしまうがリーナの言う少しがどれくらいなのかが気になってしまう。


 「あ、カケルとリーナこんな所にいたのね」


 ヒソヒソ話をしている最中に名前を呼ばれたカケルとリーナは左を向くとそこにはメルが立っていた。


 「メル、何でこんな所に!」


 「それはこっちの台詞よ。広場に行ってみればリュオだけで二人は居ないから心配して探しにきたのに……何その言い方は」


 「そ、それは……」


 「ごめんなさい」


 待ち合わせをしていたことをすっかり忘れていたことに恐らく腹を立てているメルにカケルとリーナは謝った。


 「……ねぇカケル。その人は誰なの?」


 一連のやり取りを見ていたフェルは頃合いを見て聞いてきた。それと同時にフェルの存在に気付いたメルは不思議そうにフェルを見ていた。


 「ああ、そういえば紹介がまだだったよな。彼女はメルって言って俺達と一緒に村の発展をしてくれる大切な仲間の一人だよ」


 「そうなんだ。アタシはフェルっていうの。これからよろしくメル」


 自己紹介をしたフェルは右手を出し、メルに握手を求めるがメルは握手には応えず戸惑っていた。


 「これからよろしく……? カケル、これってどういうこと」


 「ああもー言うからちゃんと詳しく話すから睨むな」


 滅多なことでは睨んだりしないメルに軽く怯えながらカケルは何故、待ち合わせの場所からここまで来たのかを詳しくかつ迅速に説明した。


 「なるほど、だから魔族と一緒に居たのね」


 「気付いていたのか」


 「ええ、見た瞬間にね」


 それもそうか、フェルの格好を見れば誰だって彼女が魔族だって気付くだろう。


 「それでメル……」


 「ん? 何?」


 「この提案に関してどう思ってるんだ」


 村で一番頭の良いメルにはここで上手くいくかいかないかの判断がほしい。そう思ってメルに聞いてみるとメルは腕を組みしばらく考え込む。


 「……私は良いと思うわよ」


 「ホ、ホントか!」


 「ええ、だって村を発展する上で衣・食・住は欠かせないもの。その食に力を入れるんだから否定するわけないでしょ」


 とても説得力のある理由を付けてくれたお陰で否定されたらどうしようかと不安だらけだったカケルの心は少しだけ安らかになるがまだ話の続きがあったらしく、メルはフェルの方を見ながら話し出した。


 「それに……カケルの言う人と魔族が共存出来る村にするなら魔族である彼女の存在はとても心強いものだと思うの」


 「メル……」


 メルのその発言にリーナは今にでも泣き出しそうな顔になっていた。


 「えっ、ちょっとそんな顔しないでよ」


 「フフッ、ごめんね。メルが言ってくれたことが嬉しくてついね」


 リーナが嬉しくなるのも無理ないだろう。何たってカケルも今の台詞が頭の中でループするぐらい嬉しかったものなのだから。


 「フェル、これで君の事を受け入れてくれる人もいるって事が分かったな」


 「そうね。これで変な緊張を持たずにハンデル村に行けるわ」


 素っ気ない態度で話すフェルだが、少しホッとしたような雰囲気を感じた。


 「後はアマトがフェルを受け入れてくれるかどうかなんだけど……まぁ多分大丈夫かな」


 ポツリと呟いたメルの一言にカケルはここにいてもおかしくない誰かがいないことに気付いた。


 「そういえばメル、アマトは何処にいるんだ?」


 「そうだ。ここで話をしてたせいですっかり忘れてた」


 すっかり忘れてたと言うからアマトの存在を忘れてたんだろうなとカケルやリーナは思ったのだが、実際にメルが忘れてたのはアマトではなかった。


 「リーナ、それにカケル……実はちょっとめんどくさい事になって……」


 「めんどくさい事って……?」


 アマトがいる以上めんどくさい事が起こるのは仕方のないことなのだがメルの様子を見る限りかなりの大事なのだろう。


 「アマトがさっき王様に呼ばれてお城に向かったの。だから私も今からお城に行かないといけなくなったの」


 「えっ……それってつまり……」


 この流れの最後を速い段階で理解したカケルは冷や汗をかく。


 「うん。それが理由で私達しばらくはハンデル村に戻れそうにないの」

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