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異世界で手に入れた等価交換の力で俺がこの村を発展させてやる!!  作者: 松原太陽
異世界で過ごした一週間
26/76

番外編:メルの病気にお薬は?

 アマトとメルの決闘が終えてから一週間が経ったある日の事だった。

 今日は王都でのタオル販売もなく、カケルは一人で村の見回りをしていた。


 「今日は何もなく平和な日だな~」


 風に揺れる髪を抑え、村のみんなが畑仕事をしているのを座って眺めながらカケルはしみじみそう思った。

 あの決闘以来、特に問題も無く順調に進んでいく日々にカケルはすっかり平和ボケしていた。こんな雰囲気のせいか今ならつり目気味の目も下がっているような気がしてくる。


 「リーナも仲良くやっているみたいで良かったな~」


 決闘の時にリーナがメルに命令した"私と友達になってください"。最初は仮初めの友達にしかならないと思っていたが二人の仲は確実に深まっていき、今日も二人でリュオのお世話をしているのだ。

 これからも問題なく物事が進んでいければいいなと決して有り得るはずのない事を考えながら今後何をしていこうかなと考えていた時だった。

 ドッドッドと遠くからそんな音がこちらに近付いてくる。何だろなと思ったそれは途中で誰かの足音だと分かる。


 「一体誰だ……?」


 冷静に考えるとこんな足音、普通の人が出せるものでもない。ならこの音は何だろうか。言い表せない程の不安が心の底から溢れてくる。

 そんな事を考えている内に足音は近くなり、畑仕事をさしていた村人達も気になり始めていた。


 ――あの時みたいにめんどくさいことが起こりませんように


 必死に特に何でもない、もしくはそんなに大きな問題でないことを祈っていたら足音が徐々に小さくなっていた。

 それは目的地に近付き、減速するかのような感じ――。ということはこの足音の正体は……。


 「ヒヒ~ン」


 鳴き声と共にカケルの横に現れたのは真っ白い綺麗な毛並みと対照的な荒々しい青白い鬣。そして額に生える鋭い一本の角。紛れもなくリーナの飼っているユニコーンのリュオだ。


 「何だリュオか……」


 足音がリュオだったことに安心する。だが本来ならリーナも近くにいるはずなのに姿が見えない。


 「なあリュオ。リーナはどうしたんだ」


 「ブルッ、ブルッ」


 問い掛けたところでリュオの喋っている事が分かるわけがない。それをリュオも理解しているのかカケルの襟を食わえ、引っ張ってくる。


 「おいおいおい、絞まる絞まるって」


 それでも引っ張っるのを止めない。これはリーナ達に何かあったのではそしてそれを伝えるためにリュオが来たのでは……。それならば急いで向かわねばと思った時、リュオはまるで釣りをするかのように一二とタイミングを図り、三でカケルを空中に放り投げた。


 「うわあああぁぁ!」


 驚きの声を上げ、地面に落ちたときのダメージを少しでも軽減させようも身構えるとストンと地面でなくリュオの背中に落ちた。

 端から自分を乗せるために襟を引っ張ってたのかと納得し座ろうとするとリュオはカケルが背中に乗ったのを確認するやそのまま走り出した。


 「ちょ、ちょ、待てよ……。俺まだ座って……」


 無視して走り続けるリュオの背中から落ちないよう丸太にしがみつくようにリュオにしがみつく。そんな滑稽な姿を見ている村人の顔は皆、ポカーンとしていた。



==================================================



 リーナの家もとい村長の家の裏にある馬小屋に着いたリュオはさっきみたいに緩やかに減速して止まる……ことはせず急ブレーキで止まる。その反動に耐えきれなかったカケルはみっともなく地面に落ち腰を打つ。


 「いててて……」


 打った腰を擦りながら立ち上がる。リュオは落ちたカケルを気にする素振りもなく、馬小屋の中に入っていく。


 「ったく人を勝手に連れてきておいて何だよ……」


 カケルも馬小屋の中に入ろうとすると「カケル~!」と名前を呼びながら長い髪を揺らしてリーナが馬小屋から出てきた。相変わらず白い服で馬小屋にいたのかと思うが何処も汚れてないから不思議である。


 「大変、大変なの!」


 「大変って何が大変なんだよ」


 服に向けられた意識を戻すように騒ぐリーナだが、何が大変なのかの本題が分からずリーナを落ち着かせようとするがそれでもリーナは落ち着くことなく慌てている。


 「とにかく大変なの!」


 「だから何が大変なのか教えろって!」


 「それは見たら分かるから早く来て。メルが大変なの!」


 ようやく進展したと思えば大変なのはリーナではなくメルであった。腕を無理矢理引っ張られ、馬小屋の中にへと足を踏み入れていく。

 馬小屋に入ると大量にまとめられた干し草に長い桶に淹れられた水。そして地面いっぱいに広げられた草の上に横たわるメルにそれを心配するリュオの姿があった。


 「メル!」


 最初はそんな大したことではないだろうと思っていたがぐったりと項垂れているメルを見たとき自分の甘い考えに叱咤した。

 近くに行き、メルを抱え起こすとハラリと帽子が落ち、隠れていた顔が露になる。

 いつもすましたような顔をしているメルだが今はその面影もなく頬を紅く染め、はぁはぁと息を乱していた。


 「おい大丈夫か!」


 手を額に当て熱を測るとかなり熱く、この様子を見る限り風邪にかかった可能性がある。


 「さっきまでは何ともなかったのに急に倒れてずっと苦しそうにしてるの」


 話を聞いて普通の風邪でない事が分かったが急にこうなるのは異常だ。ならメルが苦しいことを誰にも言わず、今までずっと我慢していた可能性もある。

 熱がある以上、一度部屋に連れていき頭を冷やす必要がある。症状が分からないため下手に等価交換で薬を出すのは躊躇いがあるが解熱剤ぐらいなら飲ませても大丈夫だろう。


 「メル、大丈夫か」


 そこまで考えたカケルは部屋に連れていく前に負担が掛からぬよう軽く体を揺すり、今メルに意識があるのか確認する。


 「う、うう……」


 呼び掛けに答えるように弱々しく瞼を上げる。うっすらとだが意識はあるようでカケルは早速メルを部屋に連れていこうと抱き抱えて立ち上がる瞬間、メルの右手がギュッとカケルの左肩を掴んだ。


 「……はぁ……だい……はぁはぁ……」


 か細く呟いているが息が上がっているせいで何を言っているのか全く聞こえない。が、きっと助けを求めてるのだろうと解釈する。


 「安心しろ。すぐにお前を部屋に連れてって楽にしてやるから」


 今度こそ立ち上がろうとするが中腰ぐらいまでメルを持ち上げたときメルが抱きつきながらカケルに体を寄せ、態勢を崩したカケルはそのまま後ろに倒れこむ。


 「いててて、また腰打ったし……」


 「二人とも大丈夫!」


 「ああ、一応無事だ。メルも俺がクッションになったから無事だと思うぜ」


 何故メルがいきなりこんなことをしたのかは分からないが熱があるのだ気が動転したのに違いない。

 もう一度立ち上がるため上にのし掛かるメルを落とさないように一旦座るとガシッとメルの両手がカケルの胸ぐらを掴む。


 「はぁはぁ……うだい……私に……ちょうだい……」


 「ちょうだい……? 何か欲しいものでもあるのか?」


 問い掛けるも答えが返ってくることはなく、ひたすら何かを求め続ける。

 同じことを繰り返すほどメルの声は大きさを増し、次第には紅い瞳でこちらを見詰めながら力なく胸ぐらを揺する。


 「ちょうだい……私にアレをちょうだい……」


 必死に何かを求めてくるがひたすら"アレ"としか言わないためメルが今何を求めているかが分からない。


 「ちょうだい……私にアレを……早く……ちょうだい……」


 「だからアレって何か教えてくれよ。じゃなきゃ用意できるもんも出来ねぇーって」


 「お願い、アレが何か教えて」


 「いいから……アレを……アレを私にちょうだい……」


 意識が朦朧しているのか何度問い掛けようが"アレ"を教えてくれることはなく、無意味なやり取りが続くなかまるでこの事態を変えるように一人の男性が馬小屋に入ってきた。


 「さっき無様な姿をしたカケルがリュオの背中に乗ってここに来るのが見えたんだが……何かあったのか?」


 逆立てた金色の髪を掻きながら失礼な発言をしたアマトは悲惨な馬小屋の状況を見て「あぁ……なるほどな」と一人納得していた。


 「そうだ! アマトなら知っているんじゃないか、メルの言っているアレが」


 「そうかもね。ねぇアマトは今メルが欲しがっているアレって分かるの?」


 二人の質問に「あぁ」と素っ気なく答えると気だるそうにメルの元まで歩いていく。

 メルの元まで行くとアマトはメルの首根っこを掴みひょいと持ち上げる。


 「ちょっ、アマトいくらなんでもその扱いはないだろ!」


 「んあ? ごちゃごちゃ騒ぐな。メルの声が聞こえねーから」


 そう言うとメルを自分の耳元にまで寄せ会話を始めた。



 「おいメル。もしかしてお前、いつもの症状が出てるのか?」


 そう聞くとメルはコクリと頷く。


 「そんな症状があるお前はわざわざ王都まで行っているのにアレを持ってくるのを忘れたと」


 その質問にもメルは申し訳なさそうにコクリと頷いた。だが驚くのはさっきまでカケル達の話を聞いていなかったメルがアマトの質問に対してしっかり反応をしていることだ。

 つまり口では酷い事を言っているメルだが心の底ではちゃんとアマトの事を信頼しているということだろう。


 「それで……メルのこれは何なんだ?」


 「これか? ……これはいつものエネルギー切れだよ」


 「エ、エネルギー切れ!?」


 まるでロボットみたいな現象だなとツッコミを入れたかったがこの世界でそんなツッコミをしたところで誰も理解してくれそうにないからぐっと我慢する。


 「えっと……そのエネルギー切れって何なの?」


 的確な質問にツッコミたい衝動を捨て激しく同意する。アマトは軽く息を吐くと、メルをその場に下ろした。

 下ろされたメルは未だ苦しそうにはぁはぁと息を荒くしている。


 「……まずこいつが魔女なのは二人とも知っているよな」


 いきなりそんな質問をしてきてカケルとリーナは一度顔を見合わせてから無言で頷いた。


 「そんでこいつは魔女の中でもぶち抜けて頭が良くてな……そのせいかこいつは普段から常にあれこれ考えるもんだからたまにこんな風に倒れるんだよ」


 エネルギー切れの説明にカケルは納得できたがリーナはまだ首を傾げてハテナマークを浮かべている。


 「メルの症状については分かったんだが肝心のアレが何なのかがまだ分かんないんだが……」


 「ちっ! めんどくせーなー」


 このタイミングで舌打ち! 相変わらずアマトの考えは分からない。メルの言っているアレがこの症状を治すものなら早く用意して上げた方が良いに決まっているのに……。こういうのが原因でリーナがアマトから距離を空けているのに何故気付かないのだろうか。


 「お願いアマト。今はアマトにしかメルを助けることは出来ないの。だからアレが何なのか教えて」


 両手を合わせ上目遣いにお願いをするリーナに頬を赤らめながら顔をそっぽ向くアマトだが目線だけはしっかりとリーナを捉えていた。


 「し、仕方ねーなー。リーナの頼みだからお、教えてやるよ」


 「ホントに!? ありがとうアマト」


 「フンッ、俺様は勇者だぞ。困っている人がいたら助けるのは当たり前じゃないか」


 「その態度が無かったらもっと良かったんだけどな~」


 ポツリとリーナは呟くが聞こえていたのはカケルだけで何とも言えない悲しさが襲ってくる。

 後、『勇者の癖に助ける人を厳選するな!』と言いたいが折角リーナが聞き出そうとしているのだから水を指すような真似だけはしない方がいいだろう。


 「それでメルの言っているアレって何なの?」


 「簡単に言えば……甘い食べ物だな」


 「甘い食べ物……?」


 「そうだ。メルはこうなった時には何時も甘い食べ物を食べて症状を治しているんだ」


 そういえば本で読んだことがある。脳が疲れた時は糖分……ブドウ糖を摂取するのがいいということを。それなら知ってか知らずかは分からないがメルが甘い食べ物を欲する理由も頷けるし、それなら一番良い甘い食べ物もすぐに等価交換で出す事が出きる。


 「甘い食べ物だな。それなら今すぐに出すぜ」


 「……ホント……?」


 甘い食べ物に反応するメルはゆっくりと頭を上げこちらを見てきた。

 そんなメルに「もちろんだ」と答え壁の近くまで運びもたれ掛かせる。


 「早く……アレを……」


 「待ってろよ。今出してやるからな」


 今、手持ちには千円程度しかないが千円もあれば十分だ。頭の中であの有名なお菓子思い浮かべる。


 「…………これでいいかな?」


 等価交換でカケルが出したものそれは八十八円のミルクチョコレートだ。

 ミルクチョコレートの袋を半分だけ開ける。甘い香りが漂い、艶やかな茶色い板をメルの口元まで運んであげる。


 「ほらメル、甘い食べ物だぞ。いつも食べている物じゃなくて俺の世界の食べ物なんだけど……」


 チョコレートの香りに気付いたメルはスンスンと匂いを嗅ぐとパクっとチョコレートを一口食べた。


 「どうだ……?」


 「モグモグ……」


 ゆっくりと咀嚼するメルを三人と一匹が見守る。本で読んだ内容通りならチョコレートは頭の疲労回復にはバッチリならはずだ。

 チョコレートの割には長い咀嚼を終えたゴクンと飲み込んだ。沈黙が続くなかその沈黙を破ったのはメルのうるさいぐらいの感嘆の声だった。


 「んんんん~美味しい~!!」


 叫んだメルはカケルからチョコレートを奪い取るとパクパクと全部食べてしまった。残ったのはパッケージ袋とアルミニウムだけになってしまった。


 「カケルこの甘い食べ物は何!」


 「えっ……チョコレートだけど……」


 「チョコレート……チョコレートかあ……」


 パッケージ袋を見ながら染々呟いたメルは先ほどみたいなしんどそうな雰囲気はなく何事もなく立ち上がる。


 「さてと……ではリュオのお世話の続きでもしますか」


 「えっ、あぁ……うん……」


 急に元気に行動を始めるメルに戸惑いを隠せないリーナだがその気持ちは痛いほど分かる。でもリーナはそれを口にすることはなくメルの言う通りリュオの世話に移る。


 「あれ? 何がどうなって……」


 「気にするな。甘い物を食べたメルはすぐに通常運転になんからな。後はまたああなれば甘い物を与えれば良いというのだけを覚えとけばいいからな」


 それだけを告げるとアマトは名残惜しそうにリーナを一目見ると馬小屋から出ていってしまった。

 恐らくアマトはまだ見回りの途中で、問題事が解決したため持ち場に戻って行ったのだろう。


 「……アマトの言う通りかもな。メルは無事に回復したことだし俺も見回りに戻るか」


 頭を掻きながらふわぁ~と欠伸をし、馬小屋から出ようとするとリュオの世話をしていたメルがこちらに近付いてきた。

 てっきり壁に掛かっている道具を取りに来たのかと思ったのだが違うらしくカケルの側まで行き、少し背伸びをして耳元で囁いてきた。


 「……また私にチョコレートをちょうだいね」


 それだけを言い残すとメルはリュオの所に戻り作業を開始していた。

 僅かに香ったチョコレートの匂いにあの甘ったるい言葉にくらっとしかけた意識を取り戻し、楽しく作業をする二人に微笑みながらカケルはポケットに手を突っ込み畑にへと戻っていく。

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