二回目の王都で
次の日。カケル達は朝早くから王都でタオルの販売する準備をしていた。
「これで準備完了かな?」
前回店を開いた場所に移動式屋台を横に二台並べ、タオルのセットも出来ている事を確認し三人を呼ぶ。
「これで店の準備は出来たの?」
「あぁバッチシだ」
初めての慣れない店の準備にメルもアマトも疲れているようでアマトはその場に座っていた。
「ったく何で俺様がこんなことを」
「それは私達が決闘に敗けたからでしょ」
「うるせっ!」
こんなやり取りが出来ているうちはまだ大丈夫だろうな。それにアマトは勇者として今まで戦ってきたのだからこの程度で疲れるわけがないか。
「にしてもまさかあんな朝早くから叩き起こされるとは思わなかったぜ」
「それは私も同感」
「俺もだ」
アマト達が疲れている理由は他にもある。実は今日は九時から十時の間に王都に着き、店の準備をする予定だったのだ。そのため朝はかなり早く起きなきゃいけないことは三人とも分かっていたのだがまさか朝の三時にリーナがみんなを起こすとは誰も思ってもいなかったのだ。
「三人とも早くこれを着けないともうすぐ人が集まってくるよ」
「そうだなごめんごめん」
エプロンを着けたリーナが三人分のエプロンを渡すとタッタッタっと駆け足で屋台の方に戻っていった。
「なんでリーナはあんなに元気なんだ?」
「寝た時間は一緒のはずだよね?」
朝からテンションの高いリーナに疑問を抱く二人だがそんなことをいちいち考えてたら切りがない。
「リーナは毎日ああだから気にしないほうが良いと思うぞ」
「……そうね。カケルの言う通りだね」
考えることを止めたメルはカケルから青色のエプロンを受けとると見よう見まねでエプロンを着けていく。
「ほらよアマトの分だ」
「ああどうも」
アマトには黄色のエプロンを渡すとアマトは嫌な顔をしながら立ち上がり適当にエプロンを着ていく。
「みんな準備できたなら早く来てよ。人も結構集まってきたし」
カケル達がエプロンを着け終わるのを確認したリーナがカウンターテーブルから身を乗り出し手招きをしている。
「分かったから乗り出すなって」
「なら早く来てよ」
「だってカケル。急いで行かないとリーナもっとに怒られるよ」
そう言うとメルはアマトの腕を掴んでリーナの居る移動式屋台の隣にある昨日カケルが出した二台目の移動式屋台に移動する。
「お、おい引っ張るんじゃねーよ」
「嫌よ。だってこうしないとどっかに逃げるかもしれないでしょ」
ガーガーと喚くアマトを無視してメルはアマトを引っ張って歩いていく。
「メルって……見かけによらず力が強いんだな」
もしかしたらメルと腕相撲なんかりしたら平然とした顔で負けるかもしれない。
「ほらカケルも早く早く」
「ん、ああ今行くよ」
これ以上待たせたらメルの言う通りもっとリーナに怒られるのでカケルも駆け足でリーナの居る移動式屋台まで移動する。
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「ありがとうございました」
タオル販売を始めて四時間が経過しているにも関わらず人の列はまだまだ続いていく。
「ありがとうございました」
「あざっした~」
隣のメル達も初めての販売とは思えないぐらいの手際の良さで順調に捌けていた。
「カケル、そろそろタオルが無くなりそうだよ」
後ろからタオルを取りに行ったリーナの声が人のざわめき声に紛れて聞こえてきた。
「そうか、後何枚ぐらいだ?」
「えーと……タオルが十枚とバスタオルが六枚だよ」
「分かった。ならそれ全部持ってきてくれ」
「はーい」
指示された通り、リーナは計十六枚のタオルをいっぺんに持ってきた。
「よし最後の人踏ん張りだ」
それから十分後、カウンターテーブルに並べられたタオルは全て無くなり完売となった。
「こっちのタオル全部無くなったけどそっちは?」
どうやら隣で販売しているメル達もちょうど売り終わったようでこの後どうするのかこちらの様子を伺っている。
「大量にあったタオルがもう売り切れたのにまだ列がこんなにあるなんてな」
今からこの人達を帰す心苦しさは一生無くなりそうにないなと思いながら適当な台に昇る。
「すみませーん。タオルが無くなりましたので本日のタオル販売は終了です。また二日後、同じ時間にここで販売したいと思っているのでよろしくお願いしまーす」
「そうか~、もう終わりかよ」
「あらら、仕方ないわねまた今度にしましょうか」
一言づつ文句や落胆の声を出しながら家に帰ったり他の出店に行く。でも今回もまた来るからなという雰囲気は感じ取れた。
「さてと片付けにはいるか」
「そうだね」
と言っても完売してるため片付けなんて階段を上げて白い布を被せるだけの簡単作業なので五分もかからなかった。
「ふぅ~、やっと終わりか」
「かなり疲れたわ」
よほど疲れたのか片付けの終わったメルとアマトは移動式屋台の車輪にもたれ掛かるように座り込んだ。
「お疲れさま」
「二人ともありがとう。お陰で二千枚のタオルを無事に売り切ることが出来たぜ」
「……そう……それなら良かったわ」
どうやらかなり疲れてるようで返答に若干のラグがある気がする。この二人は今まで王都の人達の為に沢山の魔族と戦ってきたのに販売の接客をするだけでここまで疲れてるのは意外だった。
「それで販売が終わったなら私達は一度家に戻ってそれなりの準備がしたいのだけど」
「つーか寝てぇー」
昨日二人が村の発展をするためにも一度家に戻り、衣服や道具などの準備をしたいと言っていたので販売が終わったら二人を一度家に帰らすつもりでいたため、変に断る必要もないだろう。
「いいぜ。その間に俺とリーナの二人で食糧とかを買ってるから」
「じゃあ二時間後、ここに集合でいい?」
連絡する手段がない以上、メルの言う通りにした方がいいのだろう。
「そうだな、そうするか。なら二時間後にここでな」
「ええ二時間後ね。じゃ早く行くよ」
「言われなくても分かってるよ」
立ち上がり御者台に移動したアマトが二匹の馬の手綱を握りバシッと弾くと馬はゆっくりと歩き街中に姿を消した。
「じゃあ俺らも行くか」
「うん!」
カケル達も御者台に移動しリーナが手綱を握るとリュオはゆっくりと歩き、野菜や穀類、果物らしき食べ物がある店まで行った。
そして二時間後、互いにそれぞれの用事を済ませ集合場所に集まったカケル達は、他に用事もないので暗くなる前に村へ戻ることにし二度目のタオル販売を無事に終わらせたのだ。




