命令
ががアマトとメルに命令する内容は決闘を始める前から既に決まっている。それは……。
「アマトとメルには俺達と一緒にこの村を発展させてほしいんだ」
「それが貴様の命令か?」
「ああそうだ。これが俺があんたらに命令する内容だよ」
「ふーん」
二人はぐるりと周囲を見渡し村の様子を見る。
「その命令なら私はいいけど……発展って具体的にどうするの?」
もっともな質問だ。カケルはこの村発展の内容を話そうとしたときリーナが声を出す。
「そういえば私もカケルがこの村をどんな感じに発展するか聞いてないや」
それを聞いて俺カケル“しまった”と心の中で叫んだ。考えてみれば最初の夜、リーナに村の発展のやり方を話そうとしてたしか空腹のせいでそのまま話が流れた気がする。
「なんだリーナも知らなかったのか? 俺らもどんな風に発展するか知らないし……いい機会だから話してくれないかカケルが考えてるこの村の発展方を」
カケルが話しやすくなるよう上手く会話を繋げてくれたおかげで下手な会話を繋げる必要が無くなった。
「サザンの言う通りだな。……えー、俺がこの村を早い段階で発展させるために考えているのは……魔族と手を組み、この村を人と魔族が共存できる村に発展させることなんだけど……」
そこまで言うとドンッと机を殴り怒ったのは予想通りアマトだった。
「貴様ッ! よくも勇者である俺様の前でそのような事を言えたな! さては貴様村を発展させるふりをして魔族を進撃させるつもりだな! ええいッ! そうなる前に俺様がこの場で」
「アマトうるさい黙ってて」
今にも机の上に乗り出して斬りかかろうとするアマトをメルが杖で頭を叩きおとなしくさせる。
「いって……何をするんだメル! 今ここであいつを消しておくのがこの世界のためだろうが!」
「アマト落ち着いて。まだカケルが敵と決まったわけではないし、まずは最後までカケルの話を聞きましょ」
「うぐぐぐ……」
メルの諭すような口調にアマトは悔しそうにうねり声を出すと舌打ちをして椅子に座り直す。
「しかたない。メルの言う通り話は最後まで聞いてやる。だが協力するかどうかは話終わった後だ。まぁ魔族の手を組むと言っている以上、俺様が貴様などに協力するつもりはないがな」
一通り言い終えるとさっきまでうるさかったのが嘘かのように静かになる。
「話を遮って申し訳ありません。続きをお願いします」
「あ、あぁ」
アマトは協力しないとは言っているが決闘でカケル達が勝っている以上、アマトに拒否権などありはしないのだが今はほおっておこう。
「えーと、魔族と手を組むとは言ったけどあくまでもこれはそう出来たらいいなでまだ決定じゃないんだ」
そうこの考え事態は昨日思い付いたものだ。というのも最初は俺の世界にある物で色々な生産ラインを産み出しこの村を経済的に発展させるつもりだったのだが昨日、極夜の盗賊団に襲われた時に魔族と共存できるのではないかと思いついたのだ。
極夜の盗賊団は人と魔族でなりったた集団。だがそこには種族の壁がなく、もしかしたら魔族と共存できる道があるのではないかという考えが出てきたのだ。
「というと?」
「まずは魔族のリーダーである魔王と話してみたいと思うんだ。もちろんすぐにというわけじゃないけど」
「なるほど。あなたがわざわざ決闘までして私達に協力させようとしている理由が分かったわ」
頭がいいだけあって今のだけでメルは何かに気づいたようだ。
「ようは勇者であるアマトを使って人類は本当に魔族と争うつもりもなく、共存を望むってことをアピールするってことだよね」
「あぁそうだ。ちなみに勇者がいれば他のことでも色々と役に立つかもとも思っている」
「貴様ッ! ふざけるなよッ! 俺様を便利道具扱いしやがってッ! 絶対に俺様はやらないぞッ!」
手をブンブンと振り回し怒っていることを表現するアマトだがメルは今度は杖で殴っておとなしくさせるようなことはせず話しかける。
「でも私はやる価値はあると思うよ。アマトだって気づいてるんでしょ、魔王とは話し合えるかもしれないって」
「……」
メルの言っていることがよく分からないがアマトは理解できているようで腕を振り回すのを止めていた。
「それに私達は決闘に敗けてるんだからいまさら拒否することなんてできないんだよ? まさか勇者であるアマトがルールを無視して逃げるつもり?」
「……だあぁぁぁッ! 分かったッ! やるよやればいいんだろッ!」
「さすが勇者アマト。素直でよろしい」
メルの話術にまんまとはまったアマトはかなりなげやりな言い方だったがカケル達に協力はしてくれるらしい。
「……ん?」
アマトの横を見るとメルがこっそりとブイサインをしている。
ほぼ出会ったばっかなのにまたメルに助けてもらったし、なんとなくだがメルとは上手くやっていけそうな気がしてきた。
「さてと俺の命令も終わったし次はリーナの番な」
「うん」
笑顔で頷くリーナ。一体どんな命令をするのだろうか気になってしょうがない。短い間がリーナと一緒にいてそこまで物欲な性格ではなく優しい性格だから酷い命令はしないと思うが何せ決闘中にリーナはメルと不仲な感じになってるし、アマトにいたっては嫌悪感しか抱いていないはずだ。そんな状態でリーナが優しい命令をするのかどうかも分からない。
「じゃあ私の命令なんだけど……まずアマトからね」
カケルの時とは違いリーナはそれぞれに別の命令をするつもりのようだ。
アマトもリーナの命令なら何でも聞くと言わんばかりにソワソワしていた。
「アマトはね……できるだけその怖い顔を止めてあまり怒らないようにして」
「……は?」
予想外の命令で何とも言えないマヌケな顔をしたアマトを見て、カケルとメルは思わず笑ってしまいそうになった。
「待て。待て待て待て待て待て待て」
「待てって……何で?」
「そりゃあ命令があんなのでいいのかってことだよ」
「うん。だってアマト会ったときからずっと怖い顔してるし、ずっと怒ってるし、正直私そういう人苦手だからこれから一緒に頑張るなら直してほしいかなーって」
「なっ……」
折れた。今のは完全に心が折れた。
どんなにタフな精神を持ってるやつでも好きな人にああ言われたら立ち直れないだろう。ちなみにカケル自身も彼女にあんなことを言われたら立ち直るのに一ヶ月以上は掛かるだろう。
「フフッ。残念だったねアマト」
「……うるせッ」
「じゃあ次はメルね」
急に名前を呼ばれたメルは弛んでいた表情から真顔に早変わりした。
「メルにはね、えーと……そのー……」
「どうしたの? 早く言えば。私はどんな命令も聞くから」
「んーと……これは命令というよりも私からのお願いなんだけど……」
アマトの時とは違い、モジモジしながらメル達には見えないように手を組んだり放したりを繰り返していたリーナは、椅子から立ち上がりメルの元まで移動した。
「なに?」
「えーと……そのー、良かったら……なんだけど……そのー」
「はっきりしないわね。早く言いなさいよ」
中々命令してこないことにメルもだいぶ苛立ってきていた。
「う、うん。えっと……私と……その……」
顔を赤く染め、照れるリーナは空を見たり俯いたりしながらを何回か繰り返すと覚悟を決めたような表情をした。
「私と友達になってくれませんか!」
「え! と、友達!?」
友達になってくださいと頭を下げるリーナにメルは戸惑いを隠せないでいた。
「まさか私に対する命令が友達になってくれだなんて……」
「ダメ……かな?」
「ダメというわけじゃないけど……」
煮え切らない返答を見るやメルはきっと決闘中に言った事を気にしているのだろうか。まだ他にも何か気にしているようだがそれがなんなのかまでは分からない。
「一つだけ質問していい?」
「え、はい」
「どうして私と友達になりたいの? 私は貴女に酷い事を言ってるのに」
そう言うとメルの顔はどんどん申し訳ないという表情になっていた。
「たしかにあの時は少し傷ついたけど……」
オブラートに包み込まずに言うストレートな発言にメルは渋い顔をしていたがリーナは気にせずに話続ける。
「それはメルがそれだけ真剣だったって事だし……それにあれは私もいけなかったんだと思うし……なにより私はメルと楽しく過ごしたいと思うからかな?」
リーナの話したなかに何か心にくるのがあったのかメルは少し泣きそうな表情になるもぐっと堪えていた。
「初めて会ったから分からないのかもしれないけど私は魔女なのよ? 貴女達とは違う種族なのよ。それでも私と友達になりたいの?」
「うん。例えメルが魔族だとしても私はメルと友達になりたいの」
初めてメルが普通の人でもなければただの魔法使いでなく魔女という別の種族だと知ったのにリーナは考える間もなく即答する。
「……ッ! あなた簡単に言うけど魔女がどんな種族なのか知ってるの! 魔女は……魔女は……」
言葉を出せば出すほど泣きそうになるメルの肩にそっとリーナは右手を置く。
「知ってるよ魔女がどんな種族なのかも今まで何があったのかも」
「じゃあなんで……」
掠れた声で問うメルにリーナは座るメルと同じ目線になるようしゃがみ母が子に話すように優しく話す。
「メルは魔女である前に私と同じ一人の女の子だよ。だから魔女なんて関係なく私はメルと友達になりたいの。だから私と友達になってくれませんか?」
「……あなたって呆れるくらい馬鹿なのね」
「どうなのかな? まぁ賢いとは言われたことはないけどね」
「フフッ、きっとそこがあなたの……リーナの良いところなのかもね」
やっとメルがリーナのことを名前で呼んだことにリーナは嬉しそうにしていた。
「その……私で良ければ友達になってあげる……けど……」
「ほ、ホントに!?」
「ええ、私もリーナと一緒に居たいと思うし……だからそのー、これからよろしくお願いします」
自分なりの精一杯の笑顔をしながら右手を出すメルにリーナもとびきりの笑顔で右手を出し握手をした。
「私もこれからよろしくねメル」
二人が仲良くしている姿を周りにいたアマト達が温かく見守るなか遥上空、地上からはとても見えないぐらいの空にある小さな黒い穴からヒメラギは顔を覗かして様子を見ていた。
「凄いなぁ、まさか勇者と魔女を仲間にするなんて」
顔を覗かしていたヒメラギは下に繋がる穴を閉じると地上を見るのに使っていた双眼鏡を指の上でクルクル回しながら宙を漂っている。
「ランダムで選んだとはいえ彼は中々頑張ってくれているね~。まぁ僕が助けなければさっきの決闘は敗けてただろうけど」
指の上で回す双眼鏡を上に弾き、キャッチするとそのまま宙で仰向けに寝転がる。
「ホントに今回は上手くいくな~。前回、真面目に選んだ人は何もできずに二日であの村を去ったしな~」
しばらく横になって漂っているヒメラギは眠気が差してきたのかふわぁ~とあくびをする。
「あー、彼女の肉体を借りるとき少し力を使ったから無性に眠いな……」
宙でぐるぐる回りながら寝るか寝ないか考えるヒメラギは手に持つ双眼鏡をその場に落とすと、両腕と背筋を伸ばし頭の後ろで手を組む。
「眠いからやっぱり寝よ。さてさて起きたら下がどうなってるか楽しみだ」
そうワクワクしたがらもう一度あくびをするとヒメラギは深い眠りについた。




