真剣勝負の神経衰弱
「じゃあまずは順番決めだけど……そっちがよければ俺らから先にやろうか?」
このゲームの順番決めは大抵じゃんけんで決めたりするのだがこの世界にじゃんけんがあったとしてもカケルの世界のじゃんけんと一緒か分からないため、最初が不利と分かっててあえて提案したがアマトはそんなのも気にせずに早くも突っ掛かってきた。
「はあ? 何言ってんだよ。こんなの俺様から最初に決まって……んぐッ!?」
全てを言い切ろうとする前に急に隣から伸びてきたメルの左手がアマトの口を押さえ発言を遮る。
「ええ、そっちからやったんでいいわ」
「う、うん。じゃあ順番は俺、アマト、リーナ、メルの順番でいいか」
「ええ、それで問題ないわ」
やはり魔法使いだけあって頭が良かった。実はカケルの予定では先に俺らからやると言えばアマトが絶対に食い付いてきて「俺様が最初に決まっている」とか言って上手くアマト達から先に始めされる予定だったのだ。
「ブハッ、おいメルッ! 一体何をしてるんだッ! 決闘において相手に先手を取らせるなどとッ!」
「うるさいなぁ。なら少し耳を貸して」
勝手なことをしたメルを怒鳴り付けるアマトだが、メルはそんなのもお構い無しにアマトの服を掴み、アマトの耳元が自分の口辺りにくるように引っ張る。
「何を話してるんだろうね」
「さぁ、何だろうな」
大方、作戦会議というやつなのだろうがアマトが素直に聞くのだろうか。
「……分かった?」
「クッ……仕方ない今回はお前の言う通りにしてやる。ただし敗けるなよ」
「何言ってるのよ。私は端から負けるつもりはないよ」
どうやら作戦会議は終わったようでメルはアマトの服を放し、自由にさせる。
「待たせてすみませんでした。ではさっそくそちらから始めてください」
ちゃっかりとカケルから間違いなく始めるように念を押して言ってくる。
「あぁ、それじゃあやるか」
カケルから始まるこの神経衰弱。メルの考えた作戦がどんなものか気になるがひとまずそれはおいとき、まずどこからめくってみるか考えたが一番最初にめくるんだここは直感にまかせ、中央に並ぶ二枚をめくる。
「……二と七か」
まぁ始めからそう都合よく揃うことはないのでそのまま位置を覚え元に戻す。
「次はアマトの番な」
「ハッ、そんなの言われなくても分かっとる」
そうブツブツ言いながらアマトは迷いなく左の奥、アマトから見て右の手前の二枚をめくると五と一だった。
「チッ! ハズレか」
悪態をつきながら元に戻し、リーナの番がやってきた。
「どうしようか……う~ん」
悩みながら手を机の上でウロウロさせながら右から二行目の四列目をめくると一の数字だった。
「あっ、この数字はたしか……」
めくったカードを見て嬉しそうな表情をしながらリーナは先程アマトのめくった場所をめくり同じ数字の一を当てる。
「わぁ、やったよカケル」
「よしッ、いいぞリーナ!」
「えっと取ったカードはここに置いといて……と」
取ったカードをカケルと自分の間に二枚を重ねて置くとリーナは勢いずいて右角と一行下をめくると九と最悪の七だ。
「あらら、先に下からめくればよかったね」
「う~」
しぶしぶカードを裏向きにするとすぐさまメルがカケルとリーナのめくった七をめくり自分の物にする。
「フフ、これで同じね」
「クッ……」
メルが思ったよりもルールを把握している以上この勝負はそう簡単に勝てる気がしなくなってきた。
「……四と六ですか……まぁまぁね」
一組とったメルは続けて二行目の左から四列目と三行目の左から二列目をめくり裏に戻す。
「これで一周ですね。次どうぞ」
「あ、あぁ……」
もしかしたらだが決闘内容を神経衰弱に、いや二対二にしたのは間違いだったかもしれない。
メルの頭の良さはカケルが思っていたより良く、既にカケルの世界の数字を読めている上に、カケルよりも神経衰弱というのを理解している気がする。
「……クッ」
なんとかカードを揃えようと頑張り自分がめくった場所の一行上の横に並ぶ二枚のカードをめくるも、一と二組目になる七で揃えることが出来ずカケルの番が終わりアマトの番になる。
「……ん? なんだこれは?」
アマトは自分のめくった隣をめくるとKのアルファベットと髭の王様が書かれたカードを見て顔をしかめた。
「えっと……それはキングと言って数字では十三な。だからそれも同じ数字というか文字を揃えれば取れるからな」
「そうか……」
カケルの説明を聞き終えたアマトはそのままKの隣のカードをめくり、十だったので戻す。
「次は私だね」
自分の番が来たリーナはまたもや机の上で手をウロウロさせていた。
「え~っと……これかな」
悩みに悩んでリーナがめくるのは一番下の行の右から四列目をめくると十の数字だ。
「やったッ!」
小さくガッツポーズをしたリーナはアマトのめくった場所をめくり十の一組目を揃える。
「へぇ~貴女運がいいのね」
「エヘヘ、それほどでも」
だがメルの言う通りリーナの引き運には驚かされる。もしかしたらこのリーナの運が最後までいい感じに続けばまだまだこの勝負、どっちに転ぶか分からない。
「よーしこの調子でどんどんいくからね」
「あぁ頼りにしてるぜ」
だがリーナの運は連続で続くことはなく左下の二列を右、左の順でめくるもQと二でまたしてもメルに有利な状況でメルの番に移る。
「どうもありがと。お陰でまた楽に取ることができるわ」
そう言いながらメルは真ん中のカケルがめくった二と先程リーナのめくった二を揃え自分の手元に置く。
「ごめんカケル。また私やっちゃたよ」
「気にするな。俺なんてまだ一組も取れてないんだから謝るなら俺の方だ」
「カケル……」
「いい雰囲気のなか悪いのですが続けますよ」
「えっ! あっ、あぁ悪いな続けてくれ」
メルに指摘され何処と無く恥ずかしい気持ちになるがリーナは一体なんのことみたいな顔をしている。
「……では」
メルはアマトのめくった十の隣をめくると最悪にもそれは七だった。
「フフフ、どうやら私の方が運が良いのかな?」
余裕な笑みを浮かべながらメルは二組目になる最後の七のある真ん中の上の行にあるカケルのめくった七をなんの迷いもなくめくり、二回連続でカードを揃えてしまった。
「これで三つ目」
好調にめくり続けるメル。一体今度は何処をめくるのかと思ったが、メルは特に何か考えるような素振りもなく、そのまま一行目の判明していない二枚をめくった。
「……すいません、この数字は何でしょうか? これもキングと同じ物なんですか?」
「あぁそうだよ。それはジャックって言って数字でいうなら十一だな。ちなみにさっきリーナがめくったのはクイーンと言って数字は十二な」
「なるほどそうですか。ではこのJと八は違うので戻しますね」
急に丁寧な言葉で話すメルに妙な疑問を抱いたがそれは今まで話した結果、単純に人に物を訪ねるときは丁寧な言葉使いになるのだろう。
「今度は俺か……」
早くも三周目が来たのだが正直に言うとかなりきつい状況だ。ヒントといえるほどカードが公開されてるわけでもなく、メルみたいに直前にカードが揃う瞬間が来たわけでもない。
ここでカケルがカードを取らなければ後が苦しくなるのは目に見えている。だからここでカケルもリーナと同じように一枚目に既に公開されているカードと同じ数字のカードをめくらなければならない。
「……」
一人神経衰弱をやるときは間違えてもすぐにまた自分の番がくるためそこまで神経衰弱というものが難しいとは思ったことがなかったのだがここまでみんなとやる神経衰弱が奥の深いものだとは思わなかった。
「頑張ってねカケル」
隣で両拳をギュッと握ってカケルを励ましてくれるリーナ。この声援に答えるためにもここは絶対にしくじるわけにはいかない。
「……これだッ!」
悩んだ末にカケルは真ん中の二の下をめくる。
「……よしッ!」
カケルのめくった数字それは既に左の角で公開されている同じ数字の五だ。心から嬉しい気持ちが溢れてくるがそれを抑え、間違って別のカードをめくらないように気をつけなければならない。
「やったねカケル、これで同じだよ」
「そうだな」
なんとか自分も一組揃えることができホッと一息のつきたいところだがまだ勝負は終わっていない。それに自分の番もまだ続いている。
「俺は絶対に敗けたりしない」
どや顔で決め台詞もいい、この調子のまま次も揃えたかったが六行目の左から三、四列目をめくるも三と二で揃えることが出来なかったが、他の三と二はまだ公開されていなく、恥ずかしく残念だがいい感じに自分の番を終えることが出来たと思う。
「……」
カケルの番が終わり続いてアマトの番なのだが、先程からアマトは沈黙続きなうえ不機嫌な顔をしている。
「どうしたのそんな不機嫌な顔をして? ほら早くして」
「チッ……」
メルに言われ不服そうにアマトは二行目の左端をめくるとKでアマトは、嬉しそうな顔も何かのリアクションもすることなく一行目のにあるカードをめくりKを揃える。
「やったねアマト。貴方もやっと揃えることができたね」
「フンッ」
メルが誉めてるのにも関わらずアマトは機嫌を直すどころか余計に不機嫌になった気がする。
それにメルの言い方もどちらかといえば誉めてるわりにはあまり感情がこもっていない。
「……」
アマトが一組取ったことによりまだアマトの番で、アマトは二行目のKの隣をめくり、八だったためアマトは右上の角の左隣にあるカードをめくり、連続で八を揃えた。
「マジかよ」
ここに来てアマトの連続獲得によりせっかく追い付いた差がまた広がってしまった。
「いいよ、アマトその調子でどんどん減らしてちょうだい」
「言われなくても分かってる」
まだ続くアマトの番。カケルは試しにアマトが二行目の八のあった所の隣をめくると予想したところ本当にアマトは八の隣をめくった。
「やはり……いや、それよりも……」
予想が当りメルの作戦が分かったのだがそれよりもアマトのめくったカードが九だったことにカケルは焦りを隠しきれない。
「これか……これは……」
公開されている九は右上の角という比較的に分かりやすい場所にあるためアマトも確実に九を揃え連続で三組を獲得した。
「これ……ヤバイかも……」
リーナの言う通りこれはヤバイ。まさかここにきてアマトに三回も連続で取られるとは。だがこれによりカケルは確実にメルの考えた作戦が分かった。
念のためカケルはもう一度、アマトのめくる場所を九の隣は四でその一つ隣も空白だから、その空白の隣と予想するとまたもや予想通りにアマトはその場所をめくる。
「またこれか」
また同じ九にイラッとするアマトはそのまま隣をめくり、六だというのを確認し裏向きに戻す。
「今ので分かったぞ……メルの作戦が……」
メルの作戦それはアマトに順にカードをめくらせ露になった所をメルが取るということだ。それにメルの順番は最後、一番情報が多い状態で回ってくる。
恐らくメルの作戦は見事に成功したと言えるだろう。メルの作戦に気づいた今、カケル達に出来る唯一の対抗策と言えば赤のジョーカーを取る、もしくは運に任せるしか道はない。
「リーナ、厳しいかもしれないがここから盛り返すぞ」
「私もそのつもりだよカケルッ! 二人で一緒に頑張るよッ!」
二人で意思を統一し士気を上げ、リーナの番がやってくる。
「うぬぬぬぬ~」
妙な唸り声を上げながらリーナは机に広がるトランプを凝視している。
アマトのせいでかなり差がついてしまった以上、ここからカケル達も連続で取らないといけない。
「これだッ! ……やった!」
リーナが選びに選び抜いた場所は四行目の左から二列目で、出た数は三だ。
リーナは安堵の一息をつくと、カケルが公開した六行目の三をめくりまた一組を揃える。
「ありがとう。カケルのおかげで取ることができたよ」
「そんなことないって。それにまだ勝負は終わってないんだ。まだまだ何が起こるか分からないぞ」
「あっ、うん、そうだね」
注意されシュンとしたリーナは取ったカードを手元に置き、再び机のトランプを凝視しする。
――頼むリーナ、頑張ってここはもう一組取ってくれ!
カケルの心の叫びが聞こえたのかリーナは五行目の左から二列をめくるとQだったのでリーナは左手で握りこぶしを作り、簡単な喜びを表現すると、その列の一番下にあるカードをめくりQを揃えることに成功した。
「よしッ! いいぞリーナ!」
「ムッ……」
リーナの連続獲得にメルも顔を少しばかり歪めていた。
「よーしまだまだ行くよ~」
かなりテンションの高まってきたリーナは右から二列目の四行目をめくり六を見つける。
「これって……たしか……」
たぶんリーナが六を見て固まっているのは、六が既に二枚公開されていたことに気づいたからだろう。ちなみにカケルもこの六を見るまで他の二枚の六のことをすっかり忘れていた。
「ごめんカケル。分かっていたカードを先に取らなくて」
「気にするな。俺も忘れていたんだからよ」
このまま二人とも忘れていた状態でメルに六を取られるのが一番最悪なパターンだったんだから一枚は別の六とはいえ取ってくれたことはありがたいもんだ。
「さぁ、まだリーナの番だ。さっきのことは気にせずどんどんめくってくれ」
「そうだね。いつまでと引きずってたらダメだよね。よーしなら今度はこれにしよッ!」
気持ちよく切り替えたリーナがめくったのは先程めくった六の隣だ。一体何が出てくるのかとハラハラしながら見ていると六の数字が見えた。
「うそッ! またなの!」
「やったー!」
ついにメルが動揺して声を上げた。
リーナは急いで六を揃え、連続四組揃えを成し遂げた。つまりアマトにつけられた差を縮めたどころか巻き返したのだ。
「おぉー! 凄いじゃないか!」
「ヒヒーンッ!」
近くで見ているサザン達もリーナの大活躍に歓声を上げる。
「チィッ! おいどうすんだよメル! また逆転されたじゃねーか!」
メルの肩を掴み怒鳴るアマトだがメルはアマトよりも怒りの声で手を乱暴に振り払う。
「うるさいッ! アマトは黙って!」
「なっ!?」
多分だがアマトもここまでメルに強く反抗されたのは初めてなのだろうか、戸惑い弾かれた手をそのまま戻そうとしなかった。
「メ、メル?」
「なんですか? 速く続けてください、まだ貴女の番ですよ」
「は、はい!」
メルに急かされ慌ててリーナが右端の五行、六行目のカードをめくると両方とも五で更に連続獲得記録を伸ばしていく。
「ムゥッ……」
「おいメル少し落ち着けッ!」
「アマトだけにはその言葉は言われたくない! いいから黙って見てて!」
かなり感情を露に怒りだすメル。それにビクッと怯えながらもリーナは左端の六行目をめくり一だったため、既に一は場所が分かっているのでリーナは難なく一も揃えどんどんリーナ一人でメル達を圧倒していく。
「……」
メルの放つ謎の気迫にリーナは気圧されているのかそれとも申し訳なさなのかリーナは次のカードをめくろうとしなかった。
「リーナ、今はあいつらのことは気にするな」
「う、うん……」
カケルの言葉に頷くもリーナはやはりどこか申し訳なさそうな顔をしており右端の三、四行目をめくり十と三だったので長かったリーナの番がついに終わった。
「……ねぇ貴女」
「な、何?」
急に声を掛けられたリーナはビクビクしながら返答する。
「もしかして私のこと侮辱してますか?」
「侮辱なんて……私別にそんなことは……」
「じゃあ何でそんな顔してるのよ」
「えっ……」
両手を顔に当てるリーナだがそんなことしたって自分がどんな表情をしているかなんて分かるわけない。
「そんな顔されたのは何年ぶりかしらね。……絶対に後悔さしてあげる!」
キィッと睨みながらメルは五行目の五列目をめくるとそのカードは数字でもなければ一文字のアルファベットでもない。そのカードは赤色の道化師の格好をするジョーカーだ。
「このジョーカーのルールはもちろん覚えているわよね?」
「くっ……このタイミングでか」
赤いジョーカーは手元のカードが多い方が少ない方に数を合わせ、捨てたカードを裏向きに元に戻しシャッフルするというものだ。
リーナには申し訳ないがカケルは先程リーナが取ってくれた六、五、一の三組を戻しシャッフルをして並べ直した。
「これでお互いまた同じ数になった。さぁ貴方の番です」
「あぁ……」
平静を装うメルだがまだどこか焦りが見える。だが今はそんなことを気にしている暇はない。ここは一発狙おうとせずリーナに繋げれるよう一組も取れてないカードをめくるのが妥当なはずだ。
「くっ、Kと九か」
どちらも一組取られてるため、この数字のカードをリーナが揃えれる確率があまり高くない。
「すまんリーナ」
「大丈夫だよカケル。私がまたどうにかして揃えるから」
なんとも頼もしい発言にカケルは安心してしまっていた。そのせいかカケルはメルの力を少々油断していたのかもしれない。
この後アマト、リーナ両方とも一組も揃えることが出来ずにメルの番が来たのだが、メルはまるで最初から知っていたかのように俺が戻したカード三組を全て揃え、最後にもう一枚の黒い服のジョーカーをめくり机の上のトランプをまたシャッフルし、四×六の形に並べ直しメルの番が終わる。
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たぶんだが今日の私はいつも通りの私ではないと思う。
頭に血が昇るなかわずかに残る冷静な思考でメルはいろいろ考えていた。
こんなにも感情を表に出したのはいつ以来だろうか。怒りに身を任しアマトに怒鳴るなんてことは今の今までなかったはずだ。
――でも一体なんでこんなにもイラつくのだろうか?
この神経衰弱という決闘が複雑すぎるからか?
違う。この神経衰弱のルールはいたって単純で、内容的には私の好きな部類に入る物だ。
ならアマトがうるさいからか?
それも違う。アマトがうるさいのはいつものことだし、それに私はアマトに対しては基本的に感謝の気持ちを持っているぐらいだ。
だってアマトは孤独で生きる意味を持たない自分に唯一生きる意味を持たせてくれた人間だ。そんなアマトを呆れることはあっても嫌いになることは一生ない。
ならカケルという異世界から来たものが目障りだからか?
たぶんこれも違うと思う。話をしていてもそこまでイラつくこともなかったし、どちらかと言えば異世界の話を聞きたいぐらいだ。
ここまで考えてイラつく理由が全くといっていいぐらい無いなら消去法でこのイラつく原因は彼女しかいない。
つまりリーナが原因か?
たぶんそうだ。リーナを見ていると心の奥底から何かが沸き上がってくる感じがする。
けど彼女はアマトの言う通り見た目もいいし性格もいい。そんな彼女のどこに私はイラついているのだろうか?
私がリーナにイラつく理由はきっと彼女が何も考えずに運だけで神経衰弱を成功させているからだろうか?
いいや、きっとそれは理由の半分でしかないはずだ。私がリーナにイラつく理由、それは……“魔女”である私に侮辱にも似た憐れみの目を向けたからだ。
“魔女”それは魔力に特化し、千年もの時を生きる種族。人々から忌み嫌われる哀しき種族で、魔女としてこの世に生まれた私は毎日が地獄のような日々だった。
魔女として生まれたせいで私は長い時の中で何度も何度も辛い思いをした。
周りの人達から恐怖、怒りの目を向けられそんな目を向けられた時は決まって避けられるもしくは石を投げられていた。
最初の方はそこまで辛くはなかった。何故なら私には同じ種族の仲間と大切な妹がいたからだ。一人じゃないと思えば全く辛いとは思わなかった。
でもメルが物心ついた頃には私の周りには同じ種族の仲間、大切な妹の姿さえなかった。
それはメルが天才だったが故に起こったことだった。メルの魔法使いとしての能力が高く、高位の魔女すらも超える能力は魔女からも嫌われることとなってしまいメルは本当に一人ぼっちになってしまった。
こうして一人になり自分の生きる意味も分からなくなったメルに『勝った者が正義』、『勝った者が全てだ』とアマトが教え、メルを連れ出してくれたことでメルの世界は広がった。
最初は勇者と一緒に行動しているメルに腹を立てている者が沢山いたがアマトと一緒に魔族と戦い、メルが魔族の幹部一人を倒したとき周りの反応はガラリと変わった。アマトと共に国民の人達からたくさんの歓声を浴びた。無論ほとんどがアマトだったが少なからずメルに対する声もあった。そのなかには同じ種族の魔女の姿もあったが私にとってはもうどうでもいいことだ。
――一度私を捨てたのに今さらそんな風に受け入れられた所で私は絶対に戻ったりはしない。私が信じられるのはアマトただ一人で、私の生きる意味はただ勝負に勝つだけ。
だからメルはゆるせないのだ。勝つのに必死になってる自分にあんな目を向けたリーナに、メルとは真逆の人生を送ってきたような彼女だけには絶対にゆるせない。
――だからこの勝負はアマトのためだけじゃない、私のために私の生きる意味を守るためにも私はこの勝負に絶対勝つ!
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――なんで私達は戦っているのだろうか
ふとリーナは思ってしまった。この決闘に何の意味があるのかを。
考えてみればみるほどこの決闘で自分が得れるものが何なのかが分からなくなってくる。
敗ければ何をされるか分からない。それは分かっている、分かっているのだがそれはむこうだって同じだ。
アマトが私に何を命令するのは大体分かる。それに関してはカケルだって把握しているはず。けどメルは? メルは一体何を命令してくるのだろうか。そもそもメルとリーナは本来ならこの決闘に参加するはずのなかった者同士なのに、メルは命令する権利を得るためにとかでなくカケルやアマトよりも勝ちにこだわっている気がする。
それに何て言うのだろうか最初見たときに感じたおっとりとした優しそうな感じが今は消え失せ、ギラギラしたナイフを周りに突きつけているような感じがする。
それにメルだけでなく、この決闘の神経衰弱にだって違和感を覚えずにはいられない。
カケルは自分の世界では誰もが行う決闘だと言っていたが、どちらかと言えばこれは決闘ではなく遊びの一種ではないかと私は思っている。
何故そう思うのかと言えば単純な話しやってて楽しかったからだ。
たぶんだがカケルはお互いにケガがないようにするためにあえて嘘を言ったのだと思う。
そう思うとカケルは優しい人だなと思うのだが、そもそもこんな決闘に自分達を参加させたのは少し引っ掛かりがあるし自分の事を婚約者と言っておきながら平然と自分の事をアマトを釣るための餌にしたのは許せない。だが今はその事についてカケルに文句を言っている場合ではない。文句を言うならこの決闘が終わってからだろう。だって今のカケルは魂のない抜け殻の状態になっているからだ。
きっとカケルの頭の中ではこの神経衰弱に勝てる勝算があったに違いない。けどそれをメルが覆してしまったことでカケルの勝ち筋がなくなってしまい既に諦め状態なのだろう。勝手に人を巻き込んどいて自分よりも先に諦めているのはさすがに勝手すぎると思う。
でもこの勝負に敗ければ自分達がどうなるかなんて分からない。無責任なところもあるけどこうして異世界からはるばるこの村を救いに来てくれたカケルと永遠のお別れをするのかもしれない。
――私はそうなるのは嫌だ。
アマトの餌になるという裏切りにも似たひどい行為を食らったがそれでもリーナはこれからもカケルと一緒にいたいと思うし、カケルと一緒にこの村を救いたいとも思っている。だからカケルが諦めても私はまだ諦めない。例えこれ以上メルの怒りに触れるようなことだとしても私は絶対に諦めるつもりはない。
この状況で唯一リーナ達が勝てるとすれば自分が全てのカードを揃えることだけ。
普通に考えれば無理な話しかもしれない。でも手離したくないものがある以上やるしかない。
リーナはそういう考えに行き着くとひたすら集中する。
絶対に揃えるんだという確固たる意志を持って。




