異世界に来てまずすることは
「う、ううん……」
目を覚ますと村上翔は広い荒野で横になっていた。
「あれ、ここはどこだ。俺は今まで何を……」
気を失っていたせいか記憶が混乱している。
順に何があったのか思い出していくと神様が自分を異世界の地に落とした事を思い出す。
「今、こうして地面に倒れているってことは俺は無事に異世界に来れたということか……」
落ちたわりにはどこも痛みはなく、かすり傷もないため神様が上手くやってくれたのだろう。よいしょっと立ち上がってみたが自慢のスーツが汚れているだけでホントに自分自身にはなんともなかった。空を見上げ神様にお礼を言うやカケルは早速、自分の持ち物を確認した。
「あの時、持ってたスポーツバックがそのまま来たのかな」
ファスナーをおろし黒のスポーツバックを開けてカケルがまず手にしたのは手鏡だ。
鏡に写るのは大きめなつり目、首にある小さなホクロ、そして少しボサボサしている茶髪のショートカットおまけに身長は平均の百七十一センチ。
「見た目に変化なし。ということは俺は完全に異世界転移したということか」
見た目の確認を終え手鏡をバックに戻しカケルが次に取り出したのはスマホとタブレット、それと電池式の充電器だ。二つとも充電はMAXだが……。
「もちろん電波はないよな……」
スマホは主にメモを使うだけになろうがタブレットだけはまだ違う使い方が残っている。上手くいくかどうか不安になりながらカケルはアイコンの一つを押すとあるアプリが起動した。
「おっ、無事についたな困ったらこれでなんとかなるかもしれないな」
そうカケルが起動したのは電子書籍のアプリ。本を読むのが好きなカケルにとってこれほど嬉しい物はない。本の種類はライトノベルから雑学本、政治や物事の仕組みなどなど様々な種類がある。
「よしタブレットは使えるとして後は」
続いて取り出したのは五百ミリリットルのミネラルウォーター二本。
「水分はあるが食料はなしか……」
何も食わずにどれだけ平気なのかわからないため速いとこ食料は手に入れておきたいと思いカケルが次に取り出したのは財布だ。
中身を確認すると三万五千六百十八円と本来ならかなりの大金だがこの異世界だと使い道が全くない。
「これだけお金を持ってるのに全く使えないなんてな……ハァ~」
財布をしまい、カケルはどんどんバックの中から持ち物を取り出していく。
折り畳みがさにタオルが二枚に絆創膏が三枚と外に出てきた時のための必需品ばかり出てくる。
バックの中をすべて出し終えたカケルは地面に並べられ道具を見て座り込む。
「俺が異世界に持ち込めたのはこれだけか」
この異世界の文明がどこまで進んでいるのかはわからないが確実に言えるのは。
「これだけの道具で異世界を救うなんて無理じゃないか」
弱音を吐いても仕方ないため気を取り直し、カケルは取り出した道具をバックに入れ直す。次にやるのは神様がくれた特別な力がどのようなものなのかを調べることにした。
「まず異世界に来て手にいれる能力でメジャーなものといえば身体能力の強化!」
試しに全力疾走で百メートル走ってみたが大体十二秒ぐらいで足が速くなってはいない。
「足はいつも通り……ならパワーの方はどうだ」
近くに落ちている手頃な石を広い全力で握ってみたが砕けるようすはなく、全力で殴ってみたら自分の手が痛いだけだった。
「いってーーー! な、なるほど身体能力は全く向上していないと」
次に試すのは異世界でよくある魔法だ。
「まあ俺も多少は頭が良いしどちらかといえばこっちの方が俺に向いている気がするんだよなー」
タブレットに入っている電子書籍の一つ、魔法についての考察本を思い出しながらカケルは思い付く限りのやり方をしたが火や水、雷など何一つ出てくることはなく虚しさだけが残った。
「まさか魔法もダメなのか。な、なら次は……」
他に思い付くのは人の心を読むとか魔物を操れるとかタイムリープなどだがどれも一人では試せそうにない。特にタイムリープの発動条件が死に戻りのパターンなら試して失敗したら終わりだ。
「じゃあ俺の能力はなんなんだよー!」
困惑し天に向かって叫んだカケルは空にキラーンと何かが光るのを見た。
「ん? あれは一体……」
よく見ると光った所からこちらに向かって何かが降ってくる。
見た感じ鉄製の箱みたいだが今はそれどころではない。
「あれ当たったら死ぬじゃん」
急いで落下地点から離れると数秒後にその場に鉄製の箱が落ちてきた。地面に抉りこまれた鉄製の箱を見ると背筋が凍る。
「空を見上げてなかったら絶対当たってた」
恐る恐る近づいて見るとそれは箱と言うよりもケースみたいな形をしていた。
「なんでこんなのが落ちてきたんだよ」
地面に埋まる鉄製のケースを地面から引っこ抜くとケースには手紙がついていた。
「手紙? 宛名は俺みたいだし読むとするか」
封を切り手紙を取り出して読んでみる。
『やあそちらの様子はどうだい?』
この文面この感じ、明らかに神様からだ。
『実は君に救ってほしい村の名前を教えずに異世界に落としてしまったからこの手紙に書くことにしたよ。』
そこまで読んでカケルはやっと思い出した。
救うのはこの世界ではなくてこの世界にあるとある村だったことを。
『村の名前はハンデルだから頑張ってね。できるだけ近くに落としたつもりだからあとは自分の力で探してください。』
「おいー肝心の村の場所をもっと明確に書けよ!」
手紙を読み終え項垂れていたがよく見るとまだ手紙には続きがあった。
『そうそうこの手紙と一緒に君の能力発動のためのアイテムを贈ります。』
「おっ! マジで!」
ついついケースを二度見してしまう。
手紙を置き早速ケースを開ける。
「さーて俺の能力を引き出すアイテムはどんなものなんだろなー」
ワクワクしながら開けるとケース一杯に日本円札が入っている。
「はあ!? どういうことだよこれ」
急いで手紙を確認するとそこには。
『現金三億円です。有効活用して村を救ってください。』
そこで手紙は終わっていた。
「いや俺の能力を教えろよ! なんだよ金を使った能力って全然分からねーよ!」
気が動転し騒いでいたらぐぅ~とお腹のなる音がしカケルはその場に座った。
「そういえば昼飯まだだったなー。はぁ~。どうせくれるなら食べ物かこの世界の通貨をくれればいいのに」
目の前に三億円があるのにこの世界では役にたたないとはこれほど悲しいことはない。
「あーコンビニのおにぎりでもいいから何か食いてーなー」
そう呟いたらカケルの目の前にコンビニのおにぎりがトンと出てきた。
「なっ、これは……」
幻覚でも見ているのだろうかと疑心暗鬼になりながらおにぎりに手を伸ばすとそれはたしかに幻覚でもなく実物だった。
「なんでコンビニのおにぎりが……しかも昆布」
もしかしてと思い今度はコンビニの鮭おにぎりが欲しいと口にすると先程と同じように目の前に鮭おにぎりが出てきた。
「出てきた! てことは俺の能力は欲しいものを実体化する能力ってことか!」
だがそれだと神様が持ってきたお金は一体何に使うのだろうと思い考えていたら昔、錬金術についての本に書いてあった内容を思い出した。
「も、もしかて」
カケルはバックから自分の財布を取り出し中身を確認すると二百円なくなっていた。さらに念のために最初に出した昆布のおにぎりに向かって鮭おにぎりになれと言うと一瞬で昆布おにぎりは鮭おにぎりになった。
「そうかそういうことかおにぎりは消費税抜きで一つ百円で俺はおにぎりを二つ出したそして同じ金額の物同士の入れ替わり……なら俺の本当の能力は」
やっと神様が大金をくれた理由が分かった。この能力ならたしかにお金は必要かも知れないと納得する。
「そうか俺の能力は等価交換の力なのか」
だが能力が分かったところで。
「この力でどうやって村を救うんだよ?」