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異世界で手に入れた等価交換の力で俺がこの村を発展させてやる!!  作者: 松原太陽
異世界で過ごした一週間
12/76

不吉な気配

 ハンデル村から出て速二十分弱が経過していた。

まるで足の傷など無かったかのように素晴らしい走りをするリュオ。このペースなら十五時までには着きそうだ。

 懸命に草原を走るリュオの顔も手綱を握るリーナの顔もとても楽しそうだが隣に座っているだけのカケルは特にすることがないため流れ行く風景を見ることしか出来なかった。


 「どうカケル? この世界の風景は」


 さすが経験者なだけあって隣を見ながら話す余裕があるようだ。


 「そうだな……俺の世界よりかは綺麗な風景だと思うよ」


 「そうなの? てっきりカケルの世界はここよりも綺麗な所なんだと思ってたのにな~」


 かなりカケルの世界に夢を見ているが、カケルの世界は自然がどんどん減っていたり、争いが絶え間無く続いていたりとこの世界とはあまり変わらない気がする。

 いや無法地帯があるとはいえ争いを無くそうとしている時点でこの世界がカケルの住んでた世界よりも素晴らしいとさえ思える。


 「俺が住んでた場所はこんな風に自然を見れるような所がなかったからな」


 こんな風景を見てしまうと元の世界に戻りたくないという感情が沸いてしまうがそれでもカケルは元の世界に戻りたい。

 この綺麗な風景を上回るほど大好きな彼女に会うために。


 「……カケルの世界って争いとかってあるの?」


 「……あるよ。昔起こった争いならたぶんこの世界で起こった争いよりも酷いと思うよ」


 それを聞いたリーナの顔は暗くなっていた。まるで悪いことを聞いてしまったかのように。


 「気にしなくていいよ。あくまでも昔に起こったことで今は割と平和なほうだから」

 

 昔に比べ、今は平和な時代なため戦争がどれほど恐ろしく哀しいものかカケルは知らない。だけど歴史の教科書や戦時中に生きていた人達の話を聞くだけでも戦争がどのようなものなのかが容易に想像できてしまう。

 だが出来るのは想像だけで実際に争いの中を生きてきたリーナの気持ちまで分かることは出来ない。


 「リーナ……」


 「あっ……ご、ごめんね。折角の記念すべき日なのにこんな暗い雰囲気にして」


 忘れていた。リーナは……いやハンデル村の人達全員はまだ争いの場にいることを。それなのにカケルは無神経なことを考えていた。


 ――本当に俺はあの村を救えるのだろうか。戦争の恐ろしさというのを知らない俺が


 「カケルどうしたの?」


 「ごめん少し考え事をしていただけだから」


 「そう……それならいいけど」


 駄目だ。こんな簡単にリーナが心配している以上、自分が村を救うことなんて出来はしない。

 ならリーナに心配されないようにするためにはもっと頼りのある、そうサザンみたいな人間にならなくては。


 「リーナ!」


 「えっ、な、なに」


 今すぐに頼れる人間にはなれない。だけど絶対に村を救いたいというやる気なら言うことが出来る。

 一日目の夜にカケルはこの村を救うと宣言したがあの時は物事を軽く考えていた。だけど今は違う、今は本当に救いたいんだという断固たる気持ちがある。


 「聞いてくれ……俺は絶対にハンデル村を……」


 あと少しで言えるそのとき楽しく走っていたリュオから苦悶の声が聞こえてきた。


 「どうしたのリュオ? 疲れたの」


 走り続けるリュオに呼び掛けるも一向に止まろうとしない。


 「どうしたんだよ何でまだ走り続けてるんだ?」


 「カケルどうしようリュオが『後ろから何者かがこっちに近づいてくる』って言ってるんだけど」

 

 「なに!?」


 リーナは手綱を握り操縦している以上、後ろを確認出来ないためカケルが後ろを向くと遠くから土煙みたいなのが舞い上がっていた。


 「あれは一体……」


 目を凝らすと土煙の舞う先頭に複数の黒い点が見える。


 「リーナ! リュオの言う通り何かがこっちに来てる」


 あれが本当にこっちに来てるのかは分からなかったが妙な胸騒ぎがしてしょうがない。

 今逃げなきゃ何もかも失ってしまうそんな胸騒ぎが。


 「カケル距離ってどのくらい?」


 もう一度後ろを向くとさっきよりも黒い点がはっきりしており、うっすらだが何かの生き物に乗る人の形が見えだした。


 「だいぶ近づいている。このペースだと追い付かれるぞ」


 「分かった。リュオもう少しスピードを上げて!」


 疲れもあるのだろうかそれともまだ傷が痛むのか差ほどリュオのスピードが変わることがなかった。


 「くそっ! 一体誰だよこっちに来てるのは」


 また後ろを向くとうっすらだった人の形が今ははっきりと見えるぐらいこちらに近づいていた。

 だがその時、カケルは見てしまった。異形の獣に乗る人と魔族の姿。各々が腰にサーベルや短剣を装備していたのを。

 あんな格好をして馬車目掛けて走ってくるものなんて古今東西、盗賊に決まっている。


 「なぁリーナ」


 「えっ、何? もしかして撒けたの?」


 「すまんまだ撒けてない」


 後ろを見ると撒いているどころかどんどん距離を詰められている。


 「ねぇカケルこっちに来てるの何か分かった?」


 「えーっと、サーベルや短剣を持った人と魔族の集団だからたぶん盗賊だと思うんだけど……」


 にしても人と魔族が一緒になって盗賊やるなんてさすがは異世界といったところか……なんてそんなこと思っている場合じゃない。


 「あいつらの乗っているあのワケわかんない動物が案外速くて、数分もすれば追い付かれる状況なんだが……ん?」


 「ワケわかんない動物に乗って武器を持つ人と魔族の盗賊……それってもしかして」


 何かブツブツと呟いているリーナに声をかけようとしたとき、バッと真剣な眼差しでカケルの方を見てきた。


 「ねぇ! 誰でも良いからその集団にヘビとドクロのマークを付けてる人がいないか確認してくれる」


 「ヘビとドクロのマーク?」


 こんなときに何故そんなことを確認しないといけないのか分からなかったがリーナから出る謎の気迫に威圧されてしまい、カケルは後ろから来る集団で一番目立つ右端のかなり太ってるゴブリンにそのマークがあるか目を凝らして探してみた。


 「ヘビとドクロのマーク、ヘビとドクロのマーク、ヘビとドクロのマーク……ん? もしかしてあれかな?」


 太ってるゴブリンの右肩にメビウスの輪になる形でヘビが自分の尻尾をかじりそれに少し重なるようにドクロマークの刺青があった。


 「一応、右肩にヘビとドクロのマークの刺青をしてるゴブリンを見つけたけどそれがどうかしたんだ?」


 「そう……やっぱりあの集団は……」


 険しい表情をし手綱を握るリーナの手からかなりの汗が出ていた。それだけでリーナが焦っているのが分かる。


 「もしかしてリーナはあの集団が何なのか知っているのか!?」


 「たぶんだけどこの世界であの集団を知らないのはカケルぐらいだと思うよ」


 「マジか!? あの集団はそんなに有名なのか!」


 盗賊みたいな身なりに人と魔族の集団、この世界では誰もが知っている集団。ここまで言われればあいつらがただの盗賊じゃないのは容易に想像がつく。


 「あの集団はね、王都と魔都の両方から指名手配されている極悪非道の盗賊集団……」


 この時、カケルが少しでも周りの様子を気にしていれば左右から迫ってくる部隊に気づくことが出来たのかもしれない。


 「……極夜(ごくよ)の盗賊団ッ!」


 その瞬間、カケル達は左右からどこからともなく現れた極夜の盗賊団と並走することになった。

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