もう一人の村の代表者?
「おいおいおい何だよこりゃあ。馬かと思ったらユニコーンじゃねぇか」
外でのびのびと庭の草を食べるリュオに、いつも男気溢れる感じのサザンの顔はポカーンと口を開け間抜けな顔をしていた。
「おっ、サザンこんな朝早くから来てくれてありがとう」
「おいカケル!」
勢いよくカケルのとこに駆け寄り肩をガシッと掴むや前後に何度も何度も揺らすサザン。
「どういうことだよあれは馬じゃねぇだろ! どこからどう見てもユニコーンじゃないか!」
「ちょっ、待って待って! ちゃんと話すからゆ、揺らさないで~」
「お、おう悪い」
離してくれたのはいいがかなり揺らされたためかなり気持ち悪い。ただでさえ昨日リュオの背中で上下に揺らされて気持ち悪かったのになんで今日も気持ち悪い思いをしないといけないんだ。しかも今回は前後にだ。
「それでなんで馬じゃなくてユニコーンがここに居るんだ」
「実はな……」
カケルは昨日、村の外で起こった出来事をサザンに話した。
「ほぉ~それは災難だったな」
「まあな……でもお陰でリュオがここに居るんだ。俺は災難だとは思ってないよ」
カケルは草を食べるリュオに近よりそっと背中を撫でてやる。撫でられているのをリュオは特に気にすることなく黙々と草を食べ続けている。
「にしてもあんたホントに何もんだよ。ユニコーンを従わすなんてよ」
「従わすなんて……俺はリュオのことを友達だと思って接しているだけだよ」
まぁリュオがカケルのことを友達だと思っているかどうかは分からないが多少は心を開いてくれているはずだ。
「へぇ~だからユニコーンもなついているんだな」
「ん~リュオが一番なついているのはリーナだけどな」
「ん? リーナにか」
そんな会話をしていたら遠くからリーナの声が聞こえてきた。
「リュオ~、こっち来てー」
リーナの声が聞こえてた瞬間、リュオは頭を上げリーナの位置を確認すると草を食べるのを止めリーナの呼ぶ方に走っていく。
「ほらな」
「どうやらその通りのようだな」
「じゃあ俺らもリュオの後を追うぞ」
一体何が何だか分からないみたいな顔をしてサザンは素直にカケルと一緒にリュオの後を追う。
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「エヘヘ、来てくれてありがとうリュオ」
リーナがいた場所はタオル製作所の前だ。
カケルとサザンがそこに着いた時には既にリュオはリーナの頬に頭を擦り付けていた。
「ホントになついているんだな」
サザンは改めてリーナと仲良くするリュオを見てその場で立ち尽くしている。
「ありがとうリーナ。途中で一人にして悪かったけど全部積めたのか?」
「うん。建物の中にあるタオルは全部積めたよ」
そう言ってリーナの見る方をサザンが見ると野太い声で驚きの声を上げた。
「何だよこれは」
「これ? これは移動式屋台だよ。これからこの村を発展させるための大切な道具だよ」
十五万円も使って等価交換した移動式屋台は長さ五メートル、幅三メートル、高さ四メートルの大きさで全体を白い布で被せているが中は……後に説明するだろうから今は置いておこう。タオルは既に移動式屋台の中に入っている木箱の中に収納されている。
「それでサザン。今日こんな朝早くから来てもらったのは一つ頼みごとがあるんだ」
実は昨晩、リーナと明日どうするかの話し合いをしているときにどうしても後一人この村を任せないといけない人がいるという話になった。それでサザンなら任せて大丈夫だということになり、今日集合時間より二時間ぐらい前に来るようお願いしていたのだ。
「それで昨日も言っていたが頼みごとって何だ?」
「見て分かるように今日、俺とリーナは王都にこの村で作ったタオルを売りに行くんだけどその間サザンに俺らの代わりに村のみんなをまとめて欲しいんだ」
頭を下げ、じっとサザンの返事を待っていると。
「ほう、そう言うことか……いいぜ俺でよければあんたらがいない間、俺がみんなをまとめてやるよ」
任せろと言わんばかりに右拳を自分の胸にドンと当てるサザンの姿はとても男らしい。
「へへッ、サンキューサザン」
頭を上げたカケルはグットゥと親指を立てる。
最初からサザンなら快く了承してくれると思っていたから断られる心配はしてなかったが少しは断られるのではないかと不安もあったりした。
「それでタオルは一体何リベルで売るんだ」
「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれた……聞いて驚けタオル一枚二リベル、バスタオルは四リベルだぁ!」
たぶん、今この瞬間カケルは異世界に来て一番テンションを上げて喋っている気がする。決してリーナみたいにテンションを上げてみようと思ったからではない。
「おぉ二リベルと四リベルか手堅く行くな」
「だろ」
今朝リーナから聞いた話でカケルはこの世界の通貨単位がリベルということを知った。
リベルは人類と魔族が和平を結んだときにお互いの領地で使えるよう作られた新たなお金らしい。
リーナに頼んで実物を見せてもらうと十円玉ぐらいの大きさの金貨だった。純金かと思って聞いてみたところリーナが言うにはプロンというこの世界で簡単に採れる一般的な鉱物らしい。
試しにリーナから借りた一リベルを等価交換で日本円にしてみたところ百円玉に変わった。
後は王都の人達が基本的にどれくらいのリベルを持っているか聞き、俺らの世界の値段とほぼ一緒にしたわけだ。
「俺の予想だとその金額でその出来なら絶対に売れるいや完売出来るはずだ」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
今日のカケルはこれでも以外と緊張していたので少しだけ肩の力が抜けた。
「カケル、こっちの準備が出来たからいつでも行けるよ」
カケルとサザンが話している間にリュオを移動式屋台に繋ぎ馬車みたいにしてくれていた。
「ありがとうリーナ。じゃあ早速行こうか王都に」
「うんッ!」
御者台にカケルとリーナは座りリーナはリュオに付けられている手綱を握る。
リーナは馬車を運転したことがあるらしく手綱を握るリーナの姿を見ると初めリーナのことがカッコいいと思えるほど様になっている。
「それじゃあ二人とも頑張ってこいよー」
「おうよ。あ、あとみんなの分の昼食はリーナの家の裏に置いているからよろしくなー」
「ああみんなのことは任せとけ」
危うくサザンに昼食のことを言い忘れて出発してしまうとこだったが何とか出発前に伝えることができた。
「それじゃあ行くよカケル」
「オーケーリーナ。よろしく頼むぜ」
「うん、任せて。リュオ走っていいよ」
リーナの手綱による合図を受け取ったリュオはゆったりと動きだし徐々にスピードを上げていく。
「いいよリュオその調子だよ」
リュオの足の傷も一晩でだいぶ良くなっているらしくその回復速度はさすがユニコーンといったところだろうか。
「それじゃあなー」
馬車から後ろに顔を出し、遠くなるサザンに手を振りながらカケルとリーナは村の運命を背負い王都に向かう。




