表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

鳴くフレッドよりも鳴かぬアランが身を焦がす

今話もよろしくお願いします。

 あー忙し忙し。ちょっとアンタ、ボーっとしてる暇があったら手伝いなさいよ。


 あ?冒険?モンスター?依頼??いつの話してんだかッ!アタシ今育児で忙しいのッ!んな子ども放って外行けるワケないでしょォッ!!育児は戦争よ!!しかもアタシ犬なんだから!!!分かってる!?!?

 猫の手じゃなくて犬の手借りてる育児!ヒャッホォウ!!前世でも育児経験ねーわ!!今世でも初★体★験!キャッッハァアアン?!?!!?さあ笑いなベイビー!!!アタシの華麗なステップでその癇癪をおねんねさせて弾ける笑顔でアタシを照らしなさァァァァァいッッ!!!!!



 うん、どうしてこうなったか、説明しよう。

 ボッロボロのドラゴンに遭遇したマリー達。そんな金と名誉の塊が簡単に手に入りそうな状態で目の前にいるんだから手を出さずにはいられない、ってなっちゃった男勢。しかたないよね、依頼内容が討伐じゃなくても、パーティーの目標じゃなくても、やっぱり冒険者で男なんだから、ドラゴン倒して金と名誉をゲットしたくなっちゃうのもしかたない。

 それに反してアタシはもうさっさと逃げたくて逃げたくて震える状態だったんだけど、マリーが逃げるまでアタシも逃げるわけにはいかない。ここでみんなが逃げられるように率先してドラゴンの気を引いて、ってできればいいけどアタシにそんな力はない。残念ながらアタシは転生してきただけの普通の犬だ。尻尾を巻いて後ろの方でウロウロしながら情けない声を出すぐらいしかできない。

 マリーとエレナの説得と、ボッロボロのドラゴンに全く歯が立ちそうになかったことと、ボロボロなだけあって動きが緩慢だったこと、笑えない威力のブレスは最初に1回されたけどそれっきりだったこと、って感じで幸運に幸運を重ね掛けした超絶ラッキーステージだったから、かつてサーペントから逃げた時の惨状っぷりに比べれば随分楽に逃げられた。


 で、街に戻ってギルドに報告したら、討伐隊を編成したり国に報告したり騎士団来たりとバタバタし始めて、マリー達は偵察したからそれでお役御免、さよーならーかと思ったのに、アタシの偵察能力に目をつけられてまさかの討伐隊に組み込まれるというアンラッキー。

 テンションダダ下がりだったけど、めっちゃ強い冒険者とか騎士団で構成された討伐隊はボッロボロの死にかけドラゴン相手に余裕で勝った。すっげー。ファンタジーの世界の人間ってつえー。

 はっきり言って道案内しかしなかったけど、討伐隊として正式に加入してたワケだし、まあ報酬とか?いろいろあったんじゃない?アタシは犬だから特に何もなかったけどね。ドラゴンの肉とか食べてみたかったわー。


 つまり懐がぽっかぽかで余裕ができたんだろうね。余裕ができてデキてた。マリーが。アランと。

 たまげたね。正直フレッドの方がメンはイケてたと思うんだけど。口も達者だったと思うんだけど。フレッドもしかしてそうなの?そうなんじゃないのー?って密かに思ってたのに、全然そんな素振りを見せてなかったアランとデキてた。

 まじかよ。



 夢のマイホームで3歳のオリバーくんと1歳のルイーダちゃんと暮らしてます。アタシは犬のプチです。犬的感覚で言えばもう立派なオバチャンです。オバチャンは人間のベイビーズの育児を頑張ってます。ツラい。何がツラいってベイビーズはアタシに容赦ないところがツラい。布団にされる。許そう。叩かれる。……許そう。乗られる。……うん、許そう。引っ張られる。……ああ、うん……許、そう。

 アタシのマリーの子どもだからね、大事にするけどね。にしてもベイビーズはアタシを動くデカいオモチャだと思ってるんじゃなかろうかね。しかたないけど、それにしても大変だわ。ぐずるベイビーズを笑わすためにアタシが覚えた奇行の数がすごい。どれだけアタシが必死か。きっと人間だったら鬼みたいな形相になって逆に泣かしてるところだわ。犬でよかった。万歳ポーカーフェイス。


 育児って大変だよねー。アタシは忙し忙し言ってるだけだけど、母親であるマリーは忙しい以外にもいろいろある。それは不安だったり寂しさだったりイライラだったり、それらを抱えて育児以外にも家事とか夫の世話までしないといけない。アタシがマリーをケアするには限界があるし、それにアタシだってベイビーズの相手で体力ゴリゴリ削られてるし。マリーが消耗していくのをやきもきしながら見るしかない。

 おいアラン、どうにかしろ。

 アランが今何して稼いでるか知らんけど、一応働いてはいるみたいで昼間はいない。夜はいる。だからアタシは見ている。夫が妻の話を聞くという、かなり重要なイベントが失敗しないように、アタシは見ている。眠いのを必死に堪えて見ている。おらアラン。夫の勤めを果たせ。


「どうした、プチ」


 アタシじゃねーよ。アタシのケアはいらねーよ。どことなく暗い雰囲気で気まずいのは分かるけどだからってアタシに逃げんじゃねーよ。ねー、マリー。


「プチ、オリバーとルイーダの面倒をよく見てくれてるから……アランもプチとこうやって一緒にいるのって久しぶりじゃない?」

「そういえばそうかもな、プチはいつも子どもたちと一緒に寝てるもんな」

「プチにはたくさん助けてもらってて……ありがとね、プチ」


 マリー、当然よ。アタシがマリーを助けずに誰がマリーを助けるの。まあアランだけどね。おらアラン。働け。


「すまんな、プチ。俺も手伝えればいいんだが」

「ふふ、仕事があるんだから、無理しないで」

「マリーも無理するなよ。疲れてないか?」


 お、なんだ。アラン、意外とデキるヤツか。まあさりげなくデキてたもんね。いや何考えてんだアタシ。と、とにかく、これなら自然とマリーの話を聞く流れになるでしょ。ちょっと安心。横になろっと。



 一瞬で寝た……だと……。

 昨晩どうなったかサッパリ分からないじゃないの。アタシのバカ……うまくいってますように。ああ、そわそわする。まだ誰も起きてない。ベイビーズの夜泣きは大丈夫だったのかな。もう、なんで熟睡してたんだか。アタシも年かね。はあー、テンションダダ下がるわー。


「おはよう、プチ」


 あ、おはようマリー。元気そう……うん、元気ね、なんだかツヤツヤしてない?うん、いいと思うよ。マリーが元気になったならアタシは嬉しい。アタシは嬉しいよ……。



 アラン’sカウンセリングは成功したようで、夫婦仲もよろしいようで、これ以上ベイビーが増えても困るけど、まあマリーがなんだかんだ幸せそうだからいいよ。アタシはマリーが幸せなら幸せだよ。

 で、カウンセリングのおかげか、エレナがよく遊びにくるようになった。まだ独身なのかな。アタシと同じね。アタシはオバチャンになっちゃったけど。別にいいし。行き遅れ?何のことやら。アタシは晩婚化とか高齢出産とか……いや、やめよう、アタシ、犬だし……もう関係無いし……知らんし……。

 昔話に花を咲かせることもあれば、育児のことを話したり、夫の不満、いや、ノロケ?を話したり、いろいろと話せて楽しそう。やっぱりこうやって会話するってのはどうしても犬のアタシにはできないから、エレナが来てくれてよかった。アランナイス。いい仕事したね。アンタが夫でよかったよ。


 おかげでエレナがまだ冒険者だとか、新たなパーティーメンバーを迎えて未だにフレッドと同じパーティーとか、フレッドへの不満、悪口、その他もろもろ……そういうことかい、エレナ。マリーもそう思ってる顔してるよ。全く、エレナは冷静ぶってるけど……ふっ、何も言うまい。アタシはただの犬さ。

 ベイビーズが泣き出せばマリーとアタシがすぐに宥めるけど、おろおろしてるエレナってなんだか微笑ましいじゃないの。冷静に指示を飛ばしてたあのエレナと同じとは思えないわー。ねえマリー、面白そうだからエレナにベイビーズの相手させてよ。

 アタシの考えが伝わったのか、抱いてみる?って言われてルイーダを渡されるエレナ。ふふふふふ、いいねえ~~~~その顔!いいじゃないのいいじゃないの!!アタシの心のアルバムに永久保存してあげる!


「エレナ、そんなに緊張しないで、ルイーダも緊張してる」

「そう言われても……あっ、泣きそうじゃない?やっぱりマリーがいいよね、ごめんね、ああ……。」


 あ、そういえばアタシのリスニング力、最強じゃない?ここまで人間の言葉を理解している犬はもうアタシしかいないって言ってもいいね。このリスニング力を活かして育児を完璧にこなす。ふっ、才色兼備の次はいったい何を自称すればいいのやら、己のハイスペックっぷりが恐ろしいわー。



 今日も今日とて戦争だ。響く泣き声、止まぬ好奇心、飛び交う雑貨、蒸れるお尻、食事攻防戦、そして訪れる静寂、束の間の休息。

 アタシは床に身を投げ出して全力で休む体勢だ。長期戦ではちゃんと休めるかどうかが勝利の秘訣だからね。知らんけど。

 マリーがアタシの隣にしゃがんでアタシを撫でている。ああ、マリー、あなたの手が触れたところから疲労が飛んでいくような気分。最高。パタパタ聞こえる。アタシの尻尾も嬉しそうだ。


「あれ……?」


 マリーの手が止まる。アタシの首を触る。ちょっと、そんなに一点集中で弄られても……ううん、何してるの、マリー。


「プチ……ハゲてる……」


 は?



 何故かその晩、アランとマリーが深刻そうにアタシの首を凝視し、時に触り、溜め息をつくような状況になっていた。


「プチ、女の子なのに……」


 マリー、えっと、気にしなくても、ほら、アタシ犬だし。そんな、ね?平気よ?確かにアタシもビックリだけど、放っておけばまた生えてくるでしょ。


「ストレスか……?」


 アラン、その、うん、否定はできないけど、でもマリーを手伝えるのはアタシの喜びで、マリーのためならいくらでもハゲたっていいんだけど。


「プチ、無理せずに休んでていいからね」

「今度、俺が1日オリバーとルイーダの面倒を見るから、マリーはプチと散歩に行ってやってくれ」

「うん……」


 マリーと1日過ごせる……?!それはなんて魅力的な……!いや、でも、なんていうか、えっと……。


 どうしてこうなった?

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ