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登竜門

今話もよろしくお願いします。

 どーも御機嫌よう、プチことアタシでーす。よろしく~。


 ふふん、いつまでもアタシがテンション爆上げ状態だと思った?チッチッチ、そんなワケないでしょ、成長しないと思ったら大間違いよ。もうね、劇的成長したから。サーペントに会った頃とは全ッ然比べ物にならないから。

 ま、あの頃はアタシも若かったし?お転婆娘だったワケ。今では年相応の落ち着きも兼ね備えちゃって、超淑女。しーかーもー、賢い。才色兼備を自称したいわー。アタシの外見知らんけど。



 サーペントに遭遇してから、アタシとマリーは意思の疎通ができないものかと、それはそれは頑張った。意思の疎通、まあコミュニケーションよね、コミュニケーションに言葉は必要不可欠なワケで、つまるところ本格的にアタシが異世界の言葉を学ぶキッカケになった。

 もうね、大変。大変すぎて大変としか言いようがない。世界で一番最初に翻訳をした人、すごすぎ。何も分かんないもん。身振り手振りとか、状況とか、繰り返されるフレーズとか、そういうのを総合的に見てどの言葉がどの言葉にあたるか、っていうのを決めていくんだよ?意味分かんなくない?恐らくこの翻訳が最も適当だけど、それが本当に100%同じかなんて誰も教えてくれないし、誰も分からないし、自分の判断をとにかく信じ続けないといけない。ツラすぎる。この言葉とこの言葉が同じだと仮定して、それを条件にこの言葉を仮定して、仮定して、仮定して……仮定の連続って感じ。ほら、英和辞典じゃなくて英英辞典で単語を理解しろ、とか言われるじゃん。はあああ?って感じだけど、納得だよね。あやふやな仮定の土台の上にある言葉で本質を理解できるわけがない。言葉は生きている、とか言うけど、そりゃ仮定が複雑に絡み合ってんだから、どっかの仮定がちょっと変わったらそれはもうビッグウェーブ起きちゃうよね。仮定のビッグウェーブ。

 あれ?なんか話違うかな?まあいいや。とにかく大変だったの。そのうえでアタシの言葉の理解の程度がどれほどすごいのかっていうのをよーーーく分かってほしい。


 ちなみにマリー達のパーティーは中堅って言われるぐらいの強さになったみたい。サーペントとの遭遇が、引き際を見極めることの大事さをよくよく考えることに繋がったみたいで、強いとは死なないこと、死なないとは逃げること、みたいな?そんな感じの結論に達したんだと思う。無理せず撤退、安全第一な戦い方に変わっていった。

 もちろん、個々が圧倒的に強くて死ぬとか逃げるとかと無縁の最強パーティーもあるんだろうけど、そういうのは一部の特例の中の特例だよね。自分達の実力が分かってて、コツコツと地道に実績を積み上げて、確実に強くなっていく、それがマリー達のパーティー。それができずに無理をするパーティーは1年経つ前にいなくなる。

 出会ってから何年経ったか分からないけど、でもマリーは大人の女性!って感じになった。綺麗になったよ~~~マリー綺麗だよ~~~美人~~~~アタシ幸せ~~~~!!



 今日も1日が始まる。ちなみにアタシはもう馬小屋で過ごしてない。なんと……マリーと同じ部屋で寝てる!宿が変わったっていうのもあるけど、アタシの信頼度が増してるよね!いやあ~~~淑女してよかった~~~~!!……じゃなくて、当然の結果よね。そこらのクソガキよりもアタシの方が賢いし。


「おはよう、プチ」


 おはよう、マリー。アタシ、お花を摘みに行きたいんだけど……散歩、散歩しよ、お花摘まなきゃ。


「ふふ、散歩行こ--」


 気持ちもお腹もそわそわしてるけど、だからって外に飛び出したりしない。ちゃーんとマリーの半歩後ろをついて行く。淑女として当たり前。


「おはよう、マリー、プチ。散歩--?いってらっしゃい」

「おはようございます、女将さん。いってきます」


 おはようございまーす、女将さん。いってきまーす。

 外に出てすぐに茂みに向かってくれるマリー。さすが、乙女心が分かってる。ちょっと待っててね。


 さて、散歩はお花を摘むことだけが目的じゃない。街の人達との何気ない会話がマリー達のパーティーにとって大事な情報。特に変わったことがないか、気になることがないか、困ったことがないか、とりとめもないたくさんの世間話の中からマリーはそんな情報を集めてる。

 どうしてそんなことをするのか、それはマリー達のパーティーの目標が関わってくるから。冒険者が何を求めるか?強さ、名誉、金、ロマン、復讐、救済、いろいろあると思うけど、マリー達が目標とするのはみんなが幸せに生きること。きっと、マリー達がパーティーを結成するまでいろいろあったんだと思う。アタシはそれを知らないけど、でも素敵なパーティーだなって思う。はあ、アタシのマリー、素敵。

 そんなわけで今日もアタシと一緒にマリーは朝の街を散歩する。


「おはよう、マリー、プチ。今日も朝から------」

「おはようございます、アンナさん。市場に行----ですか?」

「そう--。最近みんな--食べる--。--------」

「成長-です--、今-いくつでした--?」

「上の子が10--で下の子が7---」


 ふっ、どうよこのリスニング力。虫食いだらけでも会話がなんとなく分かる。素晴らしい。ここまで人の会話を理解する犬がアタシ以外にいたら教えてほしいくらいだわー。


「プチ-------!おはよーーーーー!」


 あら、カール君じゃないの。おはよう、そんな慌てて走ったらこけるでしょ。


「こら、カール。ごめんなさい-、マリーさん。この子---プチ--のこと-----」

「----、--遊び-行きます-」

「ありがとう、でも無理しない--」


 こんな感じでマリーもアタシも人気者。ぐるっと街を一周したら宿に帰って、朝食。ここの宿の女将さんはアタシのためにわざわざ肉を用意してくれる。どれもこれもマリーのおかげ。



 さて、今日もギルドへれっつらごー。最近はマリーの姿を見ると群がってくる男が多くてやってらんない。アタシのマリーが欲しけりゃ一昨日来やがれってもんよ。


「お、マリー--、プチ、今日も美人さん--、結婚----」


 うっせー!どっか行けー!


「プチ、----吠えなくて-大丈夫だから」


 マリーは優しすぎるのよねー、不安になっちゃう。変な男に騙されそう。絶対にアタシが守るけど。


「マリー、エレナ、この依頼……」


 フレッドとアランはいくら騒がしくてもちゃんと依頼の内容を見ててすごいわー、感心する。しっかりしてるねー。この2人ならアタシのマリーを任せてもいいんだけどなー。このパーティーってそういうのないのかなー。


「偵察?-----街道で?--近く---」

「---気になる-」

「放っとく---いかない--」

「しかしこれ--情報が少な----」

「だから偵察に行く---」


 んー、街道に何か出た感じ?人と物が行き来できなくなるのは困るじゃないの。そんなに強いモンスターがいるのかなー。知ってるモンスターが相手ならいいんだけど……。



 というわけでやって来ましたよ、依頼にあった街道に。こっちの方って特に強いモンスターいないはずなんだけどなあ。だからこそ変なのが他所から来るんだろうけど。

 さて、こういう依頼ではアタシが大活躍しちゃうパターンですよねー。耳と鼻をフル活用しましょーねー。


「最初の被害ってどこだ--」

「----、---向こうだ-」

「プチに臭いを覚えて-----」


 お、闇雲に探し回らなくてもよさそうな感じ?よかったー、早めに偵察終えられそう。こういうのは明るいうちにぱぱっと終わらせるに限る。

 しばらく街道に沿って歩き続ける。依頼内容を頭に叩き込んだエレナに指示された通りに少し街道から外れて進む。しばらくしてエレナがここ、と立ち止まる。でしょうねえ、なーんか変な臭いすると思った。これは何の臭いなのかねえ……。


「プチ、知ってる?」


 エリー、アタシこの臭いは知らない。だいぶ臭いは薄れてるけど、でも間違いなく知らない。


「知らないモンスター-……プチ、案内してくれ」


 はーい、アラン様とお連れの3名様ご案内いたしまーす。この臭いがより強く臭うのは……こっちかねえ……。



 どんどん街道から離れて行って、切り立った崖の麓に辿り着く。川がある方に、滝がある方に臭いが続いてるけど……そろそろ近い気がするなあ……一旦立ち止まって、ちらっとみんなを振り返る。まだ行くの?


「どうする?」

「姿を確認する----した方がいい-----」

「慎重に行--」

「プチ、ゆっくり」


 エリー、分かった。匍匐前進するぐらいの気持ちで行くからね。

 耳と鼻に全神経を注ぐ。間違いなくどこかにいる。あまり身を隠せるような障害物が無いのがツラいな……崖の陰から、そーっと……よし、セーフ。この先にはまだいない。いないけど……臭いがまったく動いてないのが気になるな……これは、休んでるのか、気づいてるのか……。

 次の壁に到着。遠くで滝の、水が落ちる音が聞こえる。このせいで音が分かりづらいんだよね、しばらく聞き耳をたてて……うーん、変化なし、臭いも変化なし。死臭じゃないから生きてるはずだけど……若干血の臭いがするのは、怪我なのか、それとも……。

 そーっと、そーっと……あ……。

 エリー、ダメ、あれは、ダメだ。エリー、帰ろう。エリー。


「帰ろう」

「ここ--来た--」

「プチが言---」


 あ、ちょっと、早く、気づかれた、来る、早く、エリー、早く。


「早く--」


 あっ。

 やっぱり、コイツ、この見た目、ファンタジー定番の、最強種じゃん。


「あ……」

「----……?」

「---……」


 傷だらけで、鱗が剥がれて、斬撃の痕が残ってて、片翼は力なく垂れ下がっているけど、でも、とても敵うとは思わない、この威圧感、やっぱり、これは。

 ドラゴンだ。

ありがとうございました。

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