藪をつついてサーペントを出す
今話もよろしくお願いします。
ちーーっす!アタシでーす!!ちっすちっす!!元気ですか~~?アタシは元気で~~~~す!!!
いやあ~~~ワン生いいよ!うん!充実してる!オススメ!
やっぱりアタシの思った通りだったね!飼い主のために生きるってイイ!飼い主の笑顔のために動くって最高!何よりポニーテールちゃん可愛い!可愛い飼い主だからこそ頑張れるってもんよ!!
羨ましいでしょお~~?可愛い飼い主と愉快な仲間達に囲まれて、可愛がられて、必要とされて、みんなを笑顔にできる!!アンタも犬になるう~~~~??なれるもんならなってみな~~~~!!!キャハハハハハッ!!!
ちょっと振り返ってみようか。
転生してワン生を謳歌しようとしていたら、ゴブリンに襲われちゃって、絶体絶命!もうダメかも!?って思ったら人間に拾われてどうにか助かったアタシ。ポニーテールちゃんの腕の中で眠っちゃったけど、目が覚めてみれば周りは人だらけ!え~~!アタシ、これからどうなっちゃうの~~~?!
正解は、馬小屋で生活するようになりました。
街中に入ってから目が覚めたから、めちゃくちゃビビった、パニクった。人間だったら間違いなくギャーーー!って叫んでた。ていうか犬でもギャーーー!って叫んだ。ポニーテールちゃんに宥められて落ち着いたけど、いくら元人間と言えど、いきなり人間だらけの空間に来たらキツイわー。めっちゃキツかったわー。
宿までずっと抱きかかえられて移動して、宿の女将さんに多分アタシのことを話して、んで馬小屋を使わせてもらえることになったっぽい。まあ、屋根あるし、藁が敷き詰めてあるから寝心地はいいけどね……馬ってデカいわ。怖いわ。踏まれて死ぬかと思った。
アタシはまだまだ子犬だったし、しばらくは馬小屋でポニーテールちゃんを見送る生活が続いた。他に宿に泊まってる人とか、女将さんとか、女将さんの娘さんとかが馬の世話ついでによくかまってくれた。ひたすら媚びた。
強面のおにーさんとか、いたずらしてくるクソガキとか、酔っ払いとか、媚びるに媚びれない相手も時々来たけど、クソガキ以外は悪意が無いことも多かったから癒しの提供もできた。クソガキはどうにもならん。本気で噛みつくわけにもいかんし、吠えたら調子に乗るし、やりづらかった。まあ最終的に大人に怒られてんだけどね。ざまみろクソガキ。
そんな感じで可愛がられながらスクスク育った。拾われてからどれぐらい経ったのかな?とりあえず今のアタシは成犬サイズになった。小柄な大型犬ぐらいの大きさだね。ちなみに成犬サイズになる前から、それなりの速さでそれなりの距離を走り続けられる程度にまで成長した時点で、ひたすらポニーテールちゃんの帰りを待つ生活が終わった。そう!一緒にお仕事できるようになったの!何してるか知らなかったけど!
しばらくはポニーテールちゃんの後ろをひたすらついていくだけだったけど、どうやらモンスターを倒すのが主な日課みたい。ファンタジーお馴染みのギルドで依頼を受けて報告するっていう一連のアレ。ポニーテールちゃん達はゴブリンをよく倒していて、初めてゴブリンの群れを全滅させる一部始終を見た時なんかはアタシも嬉しくなってテンションあげあげだったね~~~!!ゴブリンは駆逐すべし!!
で、ゴブリン狩りがどんなものか分かったら、やっぱり手伝いたくなるじゃん?だってアタシ犬だし。それで思ったのは、ちゃんと依頼達成しましたよー、モンスター倒しましたよー、って証明するのにモンスターの体の一部を持って行くんだけど、えーっと、討伐証明部位って言えばいいのかな?それの回収のために群れを全部倒してから、バラバラに転がってる死体全てを回って部位を切り取るって大変だよなー、って思って、死体を1か所に集めることにした。
まあ、物を運ぶって犬のやることっしょ。本当は倒したいけどね。それにアタシが遠くにある死体を優先して引き摺ってくればみんな撫でてくれたし。これ喜ばれてるよね?役立っちゃったよね??いやあ~~アタシめちゃくちゃ犬してる!褒めて褒めて!!んも~~~テンションあげあげですわ~~~~!!
それからはいかに役立つかで必死だよね。討伐証明部位を入れた袋をポニーテールちゃんからブン捕って運んでみたり、いち早くモンスターの気配に気づいて唸ってみたり、変わったものを見つけたら知らせてみたり。変わったものが珍しい、高価なものである確率は超低いけどね。数撃ちゃ当たるってヤツよ。みんなが笑ってるから楽しいね!次は何をしちゃおうかな~~!!ってもうノリノリよ。ちょー楽しい。
そんなこんなで、今ではすっかりアタシも立派なパーティーメンバーなんですよお~~!わざわざアタシのためにオーダーメイドでバックパックまで作ってくれたんだからね~~~!!うん、ただの荷物持ちとか言うな、分かってる。
あとは言葉が分かればなー、って思うんだけど、アタシの頭が悪いのか、それとも犬の頭じゃ限界があるのか、どうも固有名詞ぐらいしか分からない。とりあえずアタシはプチって呼ばれてる。これはもしかしてあれかなー?ポチかなー?異世界言語でいうポチな感じかなー?
んで、ポニーテールちゃんはマリーって呼ばれてる。残りの3人は、剣を使ってる金髪男がフレッド、斧を使ってる黒髪男がアラン、魔法使ってる茶髪女がエレナ。フレッドもアランもアタシを可愛がってくれるけど、エレナだけはあまりアタシに関わってこない。思い出してみれば、最初出会った時にマリーといろいろ言い合ってたのはエレナだし、いろいろ思うところがあるのかもね。アタシは知らん。来るなら来い。
今日も馬小屋で目覚めれば、茂みにお花を摘みに行って、マリーから肉と水をもらって、出発まで胃を休める。
「プチ!----」
笑顔でアタシの名前を呼ぶマリーに駆け寄れば、アタシ専用のバックパックを着けてもらって、まずはギルドへ依頼を受けに行く。初めのころは犬を連れて街中を歩く冒険者、ってのが珍しいからか、アタシをジロジロ見てくる人が多かったけど、最近じゃあアタシも顔が知られちゃって、アタシに挨拶する人間までいるんだからね。媚びた甲斐があったわー。
ギルドに着けばもっとすごいことになる。強面が次から次へとアタシの名前を呼ぶもんだから、ひたすら見上げて尻尾を振る程度にしとかないと、いちいち媚びてたら仕事前に疲れ切って働けなくなる。モテる女はツラいねえー。あっはっは。
アタシが愛想を振りまいてる間に依頼を受けて、街の外へれっつらごー。何度も往復したいつもの道を進んでいく。今日もゴブリンの討伐かなー。毎日あれだけ殺してるのになんでアイツらいなくならないのかねー?恐ろしい繁殖力だよまったく。
街道からそれて森の中に。うーん、臭う!ゴブリンどもの臭いがプンプンする!ゴブリン以外の臭いなんて知らないけどね!アタシの聴覚と嗅覚からは逃げられないぞ!待ってなゴブリン、全員駆逐してやる!アタシのマリーがね!
森を奥へ奥へと進んでいくと、草を踏みしめる複数の足音が聞こえてくる。軽く唸って警戒を促す。いつものやりとりだ。パーティーメンバー全員が周囲を警戒し、慎重に歩みを進める。アタシは数歩先を歩いて群れのいる方向を確かめる。
……こっちかな?
茂みに隠れながら耳と鼻に意識を集中させる。先程よりもハッキリと音が聞こえる。人間とは違う動き、違う臭い。音は……少しずつ近づいている。
……ビンゴ。
伏せてゆっくりと尻尾を揺らす。これもいつものやりとり。全員が茂みに身を隠してアタシが向いている先に目を凝らす。アタシも耳と鼻に意識を集中させて、アタシの判断が間違ってないか、他の気配が無いか、周囲の警戒を続ける。
姿が見えてからはアタシのマリーとエレナのターン。一方的に魔法と矢を撃ちまくる。ゴブリン達に気づかれたら反撃の体勢を整えられる前にフレッドとアランがブッ飛ばす。その間アタシは周囲を警戒し続ける。今日も幸先の良いスタートだ。
ゴブリンの群れを全滅させれば、死体を集めて討伐証明部位を回収し終わるまで周囲を警戒。これを昼食を挟んで日が少し傾くまで続ける。今日もアタシのサポートはバッチリ。我ながら惚れ惚れしますわー。
ゴブリンの群れを片っ端から先制攻撃で片づけて、昼食でマリーに鳥を撃ち落としてもらってそれを食べて、胃を休ませればまた群れを片っ端から片づけていく。
そろそろ終わりかなー?って頃にまた足音が聞こえる。いつものやりとり、いつもの索敵、いつもの短期決戦、いつもの回収。最後の最後でちょっと大きい群れに当たったから、討伐証明部位の回収にも時間がかかる。周囲を警戒していると、かさり、と小さな音が聞こえる。
……聞き間違いか?
耳と鼻に意識を集中させる。やはり聞こえる。かさり、かさり、と今までに聞いたことのない音が、臭いが近づいている。何だ?何が近づいている?ゴブリンではないことをどうやってマリー達に告げればいい?警戒するべきなのか?しなくてもいいのか?分からない。恐らくこの回収が終われば街に戻るはず。気が緩み始めているだろうから、いたずらに警戒を促して疲れさせたくない。
行くか。
音のする方向へ向かう。音の発生源はアタシがいる方向とは別方向に向かってる。音はかなり小さい。相手が大きいのか、小さいのか、分からない。ずいぶん隠密行動が得意なようだけど、音と臭いを完全に消せてない時点でアンタの負け。諦めなさいな。
ここだな。
目の前に茂みがある。音は聞こえない。気づかれているのか?相手も動いていないみたい。でも残念、臭いがダダ漏れ。さて、問題は相手が何者か分からないから、先制攻撃をしようにも―――
咄嗟に後ろに飛び跳ねた。伊達にアタシだって犬をやっていない、人間以上の反射神経で動ける。茂みから襲い掛かってきたのは……え?蛇?蛇のモンスターって言ったら、サーペントとか?ていうか、うわ、デカい。アタシより大きくない?緑色の鱗が怪しげに光ってる。何あの牙。何か黒いの滴ってない?いかにも毒ありまーす!危険でーす!って感じ。
ていうかムリ!ムリムリムリ!!頑張って冷静に観察したけどさ!!爬虫類とかやめてよね!!しかも蛇って!!!ムリーーーーーーー!!!たすけてーーーーーーーー!!!!!マリーーーーーーーーー!!!!!!
うわあああああコイツ容赦ないんだけど!!!めっちゃ噛もうとしてくる!!!!その!!!!意味分からんほどにデカい牙で!!!!!何度も!!!!!!急接近!!!!!!イヤアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
マリーを怒らせてしまった。
アタシの悲鳴を聞いてすぐにみんな駆けつけてくれたけど、サーペントは簡単に倒せるような相手ではなかったみたい。全員が全力で牽制して、命からがらに逃げ切った。森から出たころには日はだいぶ傾いていたし、フレッドとアランの武器はボロボロだし、エレナは魔法の撃ち過ぎで顔色が悪いし、マリーは矢を全て使い切ってた。
その晩、宿に着いてアタシは馬小屋で1頭反省会をしてた。はあー、調子に乗りすぎてたわー。なんで単独行動したのかなー。倒すのはアタシじゃなくてマリー達なのにさー。ホント何がしたかったんだろー。全滅の危機だったじゃんかー。ああー、嫌になる。
足音が聞こえてきて、視線を上げればマリーが来ていた。姿勢を正して……おすわりをしてマリーを待つ。
「プチ……。-------- --------」
相変わらず何言ってるか分かんないけど、怒られていることだけは分かる。ごめんなさい、マリー。もうあんなことしないから……。
「----- --------」
マリーはアタシに何を言ってるんだろう。どうしてアタシは言葉が分からないんだろう。雰囲気じゃなくて、言葉で怒られていることを分かりたいのに、分からない。ねえ、マリー、アタシ、分からない……。
「-- ------- プチ。」
マリーがアタシをぎゅっと抱きしめてくれる。ねえ、マリー、泣いてるの?泣かないで、マリー。マリーは笑顔が一番似合うんだから。お願い、マリー、笑って。
アタシのせいで怖い目に遭わせてごめんなさい、もう2度とあんな怖い目には遭わせないから、もうマリーを泣かせないから、マリーを守るから、ねえ、マリー、笑って。アタシの大好きなあなたの笑顔を見せて。
「ふふっ、プチ、---- ----- ----------」
ああ、マリー、やっぱりあなたは笑顔が似合う。
ありがとうございました。




