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廃人×魔法=面倒事  作者: あうあい
第一章 廃人×魔法=面倒事
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第七話 略式事情聴取

新しい登場人物

平野寛人:光莉の学校のPTA会長。

 ちょっと待て落ち着こうか。入学式の時を思い出すんだ。確か、PTA会長挨拶のときの平野さんはもう少しフォーマル……いや、かなりフォーマルであったぞ? それなのに今のこれって。イメージ崩壊もいいところだ。ある意味詐欺だぞ。三百歩譲ってこれはよしとしよう。渡良瀬は……ジャージの刺繍か。一歩譲ろう。坊主って何? まだスカートのままなんだし、どうして気づいたんだ? これか、Yシャツの裾が左の方が前だからか。観察力がいいな、この会長さんは。凄い。

 暫く黙ってしまった自分を見て、何を考えたか、平野会長さんは、


「何かあったか? はは〜ん、おじさんの格好良さに惚れ込んだのかい? すまんが、おじさんには……」

「正直言うと、一瞬平野さんの観察力に惚れかけましたが、それは気のせいでした」


 何を考えているんだか。こいつバイなのかよ。とっとと終わらせないとな。

 後、一瞬だけ目の奥に鋭い光が見えたような気がしたけど、元からなかったように直ぐに引っ込んでしまった。それにどうせあの科白(せりふ)の後に続くのは家族のことだろうし。喋らせておいてもいいけど、目的を見失っている感がある。

 彫りの深い顔が崩れて、今度は大口を開けて豪快に笑い始めた。


「ハハハ! 愉快なもんだな、坊主。実に面白い。勿体ないな、養子に欲しいくらいだよ」


 言って、また哄笑する。


「他の手が考えられませんか、そんなに自分を側に置いておきたいのでしたら。尤も、全てお断りしますが」


 うん。一々こうして反応するのが駄目なんだろうな。今度は放置しようか。


「それもそうだな。久し振りに仕事中に笑ったぞ。よし、もういいぞ。事情聴取終わり!」

「ありがとうござい……え?」


 ついつい自然な流れで降りる所だった。今度はどういうこと? すとんとさっき座っていたところに戻る。


「だから、事情聴取終わり。もう帰っていいぞ」

「その言葉本当なんですか?」


 思わず目を細めてそう言った。


「うん、本当本当。こんなに面白い子が殺人事件なんて釣り合わない。どうせなら世界を恐慌に陥れる方が遥かにお似合いだ。絶対にその方がいい」


 対する平野さんは、心の底から愉快そうに返してきた。

 これって褒め言葉として捉えていいのだろうか。


「あ、うちの文音なんかも巻き込んでいいぞ。 寧ろ、伴り……」

「ありがとうございました! これにて失礼致します!!!」


 即、パトカーから出てきた。

 その瞬間に多分ミクペリアを一台くすねられたけど、まあいい。伴侶なんて誰かに強制されたくない。だから許嫁はあまり好きじゃない。それとは別に、文音はどうなんだろう。可愛いという事しか分からない。一回見れば忘れないような体質なんだから、記憶にあれば、すぐに思い出せる筈なんだけど。考えても仕方がないな。

 それよりも問題は。閉めたドア越しの殺意は何だったんだろうか。ドアを閉めた瞬間、不快感が背後から差し迫ってきたのだ。すごく(うなじ)の辺りがちりちりした。思わず振り返ると、深谷の纏った闇とは別の雰囲気がパトカーから感じられた。

 心臓を、肺を、(はらわた)を、筋肉を、何もかもが悉く引き裂かれて、脳内をぐちゃぐちゃに掻き混ぜられたような、不快感。


 三分間熟考して、何も分からないという結果を得られた。

 どうせ三分考えれば十分なので、しょうがなく思考を放棄した。


 しっかしまあ、ミクペリアか。右のポケットが軽いから多分、あれはセレン・ティアーゼかな。ぷよぷよの同人誌ばかり入っているやつだっけな? だとしたらいずれ取り返さないと、動力源が一つ減る。ウィアルのCPを毎日一回は見ないとそこら辺で干涸びて死ねるくらいには。

 因みに自分の場合はスマホを同機種複数台持ちは当たり前なので、二つ名をつけて区別している。ミクペリアだとセレン・ティアーゼとレヴィーの二台。対してiPhone5Sはまだ一台しか持っていないので、二つ名はない。とか言いつつも、昔はARROWS X LTEを三台持っていたけど、特に区別はしなかった。要するに気分の問題。


 逃げて逃げて、スクールバスに乗り込んだ。去年、サマーフェスタなるお祭りを学校主催で開催してお金を集めて新しく購入したバスだ。だから他のバスに比べると綺麗なのが特徴。そして素晴らしいところその一。「とまります」ボタンが付いている。今までは「次(のバス停)お願いします!」なんて声を張らないといけなかったのだが、これが要らない。集中して音MAD鑑賞に勤しめる。その二はない。

 寝ていたせいで太陽の位置で時間を目測するしかなかったが、見てみるとスマホの画面には十二時二十分の表示。後十分で一便目が出発する時刻だ。あの事件が起きた後だから、学校側の対応はどうなるのだろうかと思っていたが、今日は通常通りのようだった。その所為もあり、バスの方も通常運転をすることになった。


 そして自分はその安里線のバスの中で、どうやってセレン・ティアーゼを取り返すかということを考えていた。まずは平野さんに会わなければならない訳だし、そこら辺をどうしようか。文音経由でどうにかなるような人でもなさそうだし、そもそもの話、自分は文音なる人物を知らない。文音とつながるコネがあってもおそらく住所までは知らない筈だし。更に言えば、この娘は保健室登校すらしなくなっているという。いつだったか持ち前の地獄耳でそういう話を聞いた。

 地獄耳といっても、聴覚がいいという意味で、実際に家から十キロ離れた那覇空港からプロペラ機の給油音が余裕で聞こえる。限界を測定したことはないが、多分、この耳なら半径千五百キロくらいまでなら集音できるかも知れない。


 考えれば考える程、八方塞がりな気もするが、気のせいだろう。抜け道は必ずある。これはこの世の常識。

 ……やっぱり何も思い浮かばないな。学校にも来ない訳だからストーキングもできないし、軽犯罪にあたるのでこれではいけない。どうするかな。兄弟でも学校に来ているのなら話は別なのに。

 そして閃いた。高校二年生の兄がこの学校に通っている情報を思い出した。

 これならあの同人誌も取り返せる。


 計画に満足すると、耳にイヤホンを差し込んで、早速「運命のダークサイド」をエンドレスループした。

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