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廃人×魔法=面倒事  作者: あうあい
第一章 廃人×魔法=面倒事
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第六話 と思ったらすぐ治ったので許す

新しい登場人物

東江先生:保健室の先生。美人なので莫迦な男子どもは、わざわざ怪我してまで会いに行く(by祐俐)。アラサーじゃないの?(by光莉)本人の前で言わないの(by祐俐)。了解(by光莉)。解せぬ(by東江)。

 前回魔法の説明を放り投げられて自分不機嫌。納得いかない説明だったらどうしようかな。スレムとバイバイすればいいかな、どうするかな。

 かなり毒気付いているのだが、相手のスレムは気にも留めない様子。寧ろ今、仰向けに横になっている自分の膝の上にポフンと降りてきやがったくらい。

 目が見えないからって……。


「 まあまあ落ち着いて。 ちゃんと魔法の説明はするから 」

「……」


 どう落ち着けと。こうか。深呼吸か。


「スーハー」

「 2000 」


 実は、スレムって地球人なんじゃ……。でも、スライム。うーん……。


「 それで魔法といっても種類が色々あってね、流派で分かれているんだけど、流派ごとに扱える事象が違うの。 例えば、さっき深谷って子を部屋から出そうとする時には、テルサ流とかで意識を改竄(かいざん)したりしないといけないから難しい訳。 間違って違うところを弄ったらいけないし 」

「何だか、C#でメモリ操作ができないのに似ているな」


 もう気にしたら負けな気もしてきた。

 黙って聞こう。

 って前にも思ったっけな。


「 よく分からないけど、多分それ。 どんな魔法でも、下位互換のベースとなった魔法を先に習得しないといけないの。 それから、私は前に行った恒星系から二百万光年離れたここまでワープで来た時に、相対性理論を扱うフェリシア流を使ったんだけど、これは物理の知識も必要だから勉強が大変で、面倒だからといって、テレポート自体をを扱うサイコ流で済ます人も多い。 それに個人によって好き嫌いと得意不得意もあるし適性もある 」

「聞いてて思ったけど、随分と体系化されているんじゃない?」

「――えーと、まあ、あなたたちで言うとダークマターの正体について知りたがる物理学者みたいな感じかな」

「なんじゃそれ」


 てか魔法なのに一般相対性理論使うのか。そんでもってテレポートを直接扱う魔法もあるのか。よく分からんな。

 いつの間にかこめかみを左手で押さえていた。目はまだ見えてない。


「 うーん、丁度ね、今ね、魔法の体系化を恒星系を挙げて進めている訳。 でも既に十億年過ぎているからね、そしたら今度はあなた達で言う太陽、私たちは明星(めいせい)って呼んでるけど、膨張を始めちゃってて、残り八十万年くらいしか住めなくなってしまって、それまでに早く体系化をしたいって感じで。 だから銀河を超えて人材を探し求めているの 」

「話がデカ過ぎるわ、羨ま死ね」

「 何で?!! 」

「それにそもそもの話、何でそんなに遅いの? 馬鹿なの? 先に移住先の恒星系を決めればよかったのに」

「 うーんとね……、私たちもよく分かんない。 気付いたらそうなってた 」


 役に立たないな、色々と、もう。


「それじゃあ、『恒星系を挙げて』って言ってたけどそれはどういうことなのかな」

「 明星には惑星が十三あるの。 衛星を入れると二百六十五個の天体があるの。 そのうちに知的生命体と呼べるのはイールドとユブケルにしかなくって。 それぞれ第四惑星と、第五惑星の連星のようになってる衛星なんだけどね。 もう一つ生命体自体はある天体は第六惑星かな 」

「分布がバラバラだな」

「 しょうがないよ。 そういうものなんだから 」

「確かにこっちの第四惑星も、本来は水が大量にあったそうだし、そこら辺は割り切るしかないか」

「 そういうこと 」


 大分分かってきた。

 目の前のこのスライムは八億光年も離れたどこかの銀河系の恒星系の中の惑星から来ていて、その目的は魔法の編纂の協力の取り付けということ。そして、その魔法には面倒な仕組みがかなりあること。

 大体この二つかな。


「ああ、そうだ。どうしても聞きたいことがある。魔法はどうしてどうやって使えるの? こっちでは使えないの? あと、オッドアイって何か魔法と関係があるの?」

「 うーん? 魔法は何かそういう感じで最初っから使えるような環境だったみたい。 慣れに近い感じかな。 逆にその方面の研究が進んでいないこの恒星系みたいなところでは、魔法はあんまり使えない。 雰囲気がないと使えないみたいな? 」

「どこぞの地球に飛ばされてきた魔王とその手下と女勇者と一般女子高生の話に似ているね」

「 何のこと? 」

「こっちの話。続けて?」

「 まあいいや。 だからこっちでも魔法が使えないわけではないんだよ。 ただ、みんなが魔法を信じれば使えるようになる。 そしてその雰囲気の中で出来るものが藹気(あいき)で、これを練ってエネルゲンを抽出して、それをエネルギー源として魔法が使えるの。 オッドアイに関して言うと、個人差はあるけど、ある程度のレベルに達したらそうなる。 隠すこともできはするよ? 見た目だけは。 本質は見抜かれてしまうし、隠すとしたら別の魔法が必要なんだけど。 こんな感じの説明でいいのかな? 」

「うん、ありがとう。分かりやすかった」


 ただ、それよりもですね、重要な案件が一つございましてですね、どうにか処理しないと不便なんですよね、目とか。

 スレムもそれに気づいたようで。


「 あ、そうだ。 目を直さないといけないね。 魔法を使うときは、呪文をちゃんと、声に出して唱えないといけないよ? 」


 じゃあ、リアル東○は、あれはどうやったんだ?謎ばかりだな。それに|ここ(地球)は魔法が使えないんじゃ。


「 じゃあ、テレパシーで送るよ? 」


 自分の中の疑問はスレムの言葉で一旦消えた。

 そして『ガンラダ テルヴェ』と頭の左側で響いた。

 って、FEVEROID顔負けのノイズ混じりの合成音声じゃないか。最近のフィバロはいい音声のものが減っているがそれよりも酷い。慣れてないと聞き取れないんだからな、あれ。

 まあいいか。ひとまずは呪文をちゃんと声に出して唱えておくか。


「ガンラダ テルヴェ」


 呪文を詠唱してみた。すると、今までなぜ気付かなかったのか、(まぶた)に張り付いていた何かが剥がされる感覚がした。

 ちょっと目をパチパチしてみた。うん、大丈夫、ちゃんと自分の意志で動く。

 何だろう、この当たり前なのに当たり前じゃない何とも形容し難い感覚は。

 上体を起こすと足の上にスレムがちょこんと丸まっていた。のだが、何故だか懐かしむような目だった。

 考えても仕方がないや。他人だし。

 そう思って、感謝の言葉を忘れたことに気づいた。


「ありがとう、スレム」


 そう言うと柔らかい微笑むをたたえて、


「 どういたし 」


と返ってきた。


 うん、笑顔が一番だ。


 するとスレムは急に顔を(ひそ)めた。

 あ。


「もしかして……」

「 うん、来たみたい。 それじゃ、ちょっと隠れておくから、待ってて 」


 スレムはそう言うと、ズプリズブリとベッドに潜り込んでいった。まるで水みたいに染み込んでいった。

 成程。それであんまり身を出せなかった訳だ。


 引き戸の開く音がして、深谷が入ってきた。カーテンの隙間から見えた彼女の手には、重い荷物を携えていた。自分で言っておきながら、申し訳ない。カーテンをシャーッと開けて、ずんずか自分に向かって歩いて来た深谷は、何故だか、怒っていた。


「先輩、こんなに重い荷物だなんて知りませんでした……よ、って何で、目が開いてるんですか! 何ですか、当てつけですか、そうですよね!」


 何がいけなかったか、自分を見ると怒るから激怒するに変わった。何だろう、目が治っちゃ駄目だとかそういうものでもあったのかな。今までの態度を鑑みるに、少なくとも自分に好意を抱いている訳じゃないし、何だろうね? ツンしておきながら、本当はデレだとしたら、それはお断りしますな。嫌いだし。

 取り敢えずは適当にっと。


「何で怒っているのかは後で聞こう。粗方、気付かなかった人が悪い。それよりも! 見て見て、目がパッチリ治っちゃったよ! やったね!」


 ヘブンレイ!

 って冗談はさておき。


「私としては極めて嬉しくないのですが」

「何そのラノベヒロイン宜しくな反応。少しだけトラウマがあるから、言うんだったらちゃんと言いなさい」


 深谷はさっと顔を伏せた。


 多分これで何も言わない筈だ。

 綺麗にフラグを折ったことに後悔はない。闇の雰囲気を醸し出そうが、何しようが、前言撤回はしない。このまま放置してヤンデレになって、いかにも殺人とか起こしそうなレベルで病んだら、考えなくはないが。まあ、そうなっても自分は多分受け入れないと思う。

 気のせいだけど、殺人鬼になったら最初に自分を殺しそうだ。


 そう思って再度見た後輩の顔は、色々とぐしゃぐしゃだった。


 ……。ああ、これは、あれだ。メンタルの弱さを全く勘定に入れてなかったアレだ。

 流石にこういう反応をされると申し訳ない。

 かといって、自分には自分の都合がある訳で。


「深谷」

「何ですか?」


 何そのレイプ目、ちょっといいかもしれない。闇の深淵から絞り出すようなその声もいい。

 冗談だけど。


「お先に失礼しようと思って」

「どうぞご自由に」

「…………。祐俐に確認取ってくる」

「(びくっ!)――……お願いします」


 少しだけ顔が明るくなった。絶対に違う意味で捉えていると思うし、こうなったら断れないんだけどなぁ、まあいっか。ケセラセラ。

 布団からもぞもぞ這い出て鞄を受け取った。

 同時にやっと気づいた。誰かが制服のスラックスをスカートに履き替えさせていた。誰なんだ、こんな悪戯をした奴は。

 深谷を見ると、驚いた様子。

 ならこいつは白だな。となると、ベッドの下まで物理法則を無視して潜り込んでいったスレムしかないな。


「……一体どっちが本当なんですか?」

「いやそんなことを訊かれても、男は男だし。」


 納得いかないみたいだけど、ここは別に説得しておかなくてもいいや。


 誤解かもしれない何かを残したまま、深谷と一緒にカーテンで仕切られた空間を出た。

 保健室の東江先生は、デスクに向かって何やら作業していた。声を掛けないのもなんだし、一応報告はするか。


「東江先生、お邪魔しました」

「あ、もう大丈夫? 貧血とかはない?」

「はい、お蔭さまで、だいぶ良くなりました」

「そう? これからは気を付けるんだゾ☆」

「――はい、気を付けます。では」

「うん。お大事に~」


 それから、深谷と保健室を後にした。スレムはどうせ来るだろうと、謎の自信が湧いて放置しているが、実際に大丈夫だろう。結局何も話すことがなく分かれ道になったので、適当に挨拶してスクールバス乗り場へと向かった。



 何故だろうか。何も悪いことをしていないのに、立ち入り禁止のテープが貼られた事務室前に着くと、尻込んでしまう自分がいた。ああ、そうか、つい最近3DSのROMの吸い出しに成功したからか。別に、技術の向上を目的にしているから、どうってことないんだけどさ。むしろ楽しかったし。

 しかし、生徒への事情聴取とか執り行われそうなのに、一切そういったものがないのも却って不気味だな。どういう事なんだろうか、と。


 そう思っていた時期もあったかも知れない……。などとぼんやり思い出しつつ、一人の警官に連れられて、自分はパトカーの中に入った。事情聴取の場所を、せめて面談室なんかに出来なかったんでしょうか、みたいな不満不服は抱えてい沢山たが、しょうがなく従った。って。バックミラーが二つもあるのな。流石特殊車両。


 革張りのシートにどっかりと座り込んで、まさに事情聴取を受けようとして、運転席の方を見ると。


「ん? 渡良瀬のところの坊主じゃないか! よろしくな!」


 豪快そのものを体現したかのような、彫りの深い顔をした平野会長さんがいた。

 ええと、これ何と言えばいいのか分からんな。

 いやいや、入学式でPTA会長挨拶のときにすごくお堅い感じで、挨拶されていたあの会長が? 実は警察官をしていて? その上でこんなアレと来ただと?

 やばいの一言では済まされないような状況なんですが。


 二の句が継げず、少なくとも緊張が原因ではない冷や汗を、だらだら流して自分は固まってしまった。

 パトカーの中を沈黙が暫しの間続いた。

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