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廃人×魔法=面倒事  作者: あうあい
第一章 廃人×魔法=面倒事
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三話目 登校したら教師が銃撃されてた

新しい登場人物

安谷屋(あだにや)達成(たつなり):光莉の隣家に住む友達。親が医者の同級生

深谷(ふかがや)(かおり):IT研究部入部希望者

東風平(こちんだ)先生:数学教師。頭が切れて、奇跡をよく起こす

 今日も夏休みに入ったばかりなのに学校だった。いや、ね? 補講ならまだしもね? お姉ちゃんに脅迫されてね? 希望制講座を受けることになったんですよね? 本来なら家の地下室に引き籠って、ゆっくりや歌ってみたなどの動画の編集をしている、夢のような夏休みがね? あっさり消えてしまった……。尤も、その講座が(知的好奇心をくすぐる)超エキサイチングで興奮するような講座だったので、文句を言うつもりは毛頭ありません。


 という訳で、いつも通りスクールバスに乗って学校に来た。

 そして、この学校は活気溢れていて、いつも騒がしい。

 休み時間になると、お前ら小学生なのか!? と思ってしまうくらいには。これで県内随一の中高一貫校なのが不思議だ。

 だからと言って、普通はここまでは煩くならない筈なのだが。いつもより騒がしい。晴嵐中学校・高等学校と書かれた校門のここまで聞こえる。何かあったのかな。


 下車して人だかりに行くと、どうせ自分には関係ないだろと高を括ったのが間違いだったと分かった。

 事務室前の玄関から校舎内に入ろうとしたら、人だかりが出来ていた。流石にここまで来ると、何もなくて、実はドッキリである可能性以外には、何もないことは無かろう。

 人だかりの中心に何があるのか、ちょいと背伸びして見てみる。後からついてきたお姉ちゃんも自分に続く。あれ?結構、お姉ちゃんって背が高いのな。


「ねえ、祐俐姉、これどういうこと?」

「こっちが聞きたいわよ」


 知った顔の男が仰向けに倒れていた。撃ち抜かれたようでお腹の辺りから血を流していて、ブルドッグのような顔がひどく蒼白だった。眼は閉じている。


(寧ろ、知った顔というより、今日受ける筈だった講座の東風平先生だな…)


 人間、強い刺激があると、正常な判断を失うもんなんだな。この時すぐに救急車呼ぶことが優先だっただろと、後日正常な判断ができる状態で内省した。

 人だかりの中に隣の家に住んでいる達ちゃんを見つけたので話しかける。それでも。


「これ、どういうこと? 何で東風平先生撃たれてるの?」


 挨拶を忘れてしまうくらいには動揺しているかも。言った後から気付いたけど、遅かった。


「女子かと思ったら、お前さんか」

「誰が女子だと言いたいの?」

「見ての通りだ。自分もさっぱり分からない。何があったんだか」


 すぐには話を逸らされたことに気付かなかった。やっぱり駄目だな。


「そう。あ、救急車は?」

「もう呼んであるって。警察のほうも」

「そう」


 それっきり、会話は続かなかった。

 救急車のサイレンが遠くから聞こえる。どうか東風平先生が助かりますように。先生のすんばらしい授業を受けたいです。

 ……余談だが。救急車の付添人には教頭先生が付いていったのだけど。よく手入れのされた禿頭だったので日の光を全て綺麗に反射してた。反射した光で失明しちゃうから、お手入れは程々にして欲しい。


 手持無沙汰だな。しょうがないから図書館に行こうか。

 この学校、図書館には工夫を凝らしていて、部屋の構造もそうだが、内装や家具や置物の便利さといったら、市立図書館顔負けだ。椅子が色んな所にあるし、ブースもあるし、あと、パソコンが沢山あるのも個人的には嬉しい。寧ろこのために学校に来ている。幾つかは私物化してしまった。


 でも今日は、そのために図書館に行くのではなく、あくまで本を探しに行くのだ。作文の課題図書を探しに。どうせ暇なんだから、昆虫のスケッチは家でやると決めた訳だし宿題を終わらせて、後は動画編集と中国に墓参りするときの持ち物の心配をするだけでいいようにしたい。


 図書館の入り口に課題図書のリストがあるが、その中に小説はなかった気がする。見てみると、まあ、予想通り小説はなかった。

 小説のどこが悪い! 確かにラノベは、エロ方向に向かっているから宜しくないし、だから最近はご無沙汰だ。それを考えると、一般文芸の中にも『ノルウェイの森』みたいに、青少年が読むべきではない本があったりするわけだし。かといって、エロのない愛は不完全な気もする。例として、イチャラブ本を挙げる。


 でも課題は課題。リストの中から適当に一番短いものを選んだ。館内図書検索用のパソコンで検索すると、自分と同じ考えの人が先にいたようで、貸し出し中と表示された。

 しょうがないので二番目に短いものを選んで検索すると、これまた貸出し中で。こんなことを繰り返していると、六番目に短いやつしか選べなかった。しかも新書だ。児童書の中には新書サイズで本を出版している文庫もあるけど、それ以外の新書なるものはあまり好きじゃないし、何より苦手だ。


「読むか」


 そういって、カウンターに向かって歩いて行った。

 そのままカウンターの後ろにある部屋に入る。ここは本来、司書のみが入れるところなのだが、IT研究部に入部出来た人なら自由に出入りできる。またここは、ありとあらゆる校則に縛られないという特権もある。勿論、お姉ちゃんも一樹も入っている。


「あ、DSが来た」


 但し、その代わりに入部条件が(一般人には)厳しく、その条件にはいずれかのプログラミング言語で事務作業系のアプリケーションを作ることが一つ挙げられる。もっとも、動作環境を問わないため、iPhoneのアプリを作っても、Windows用のアプリを作ったりしても何でもいいのだ。そう考えるとかなり敷居が低い。これは顧問からの課題。

 二つ目の課題は、自分たちから課題を課する。


 そして、目の前には入部希望者。珍しく、女子だ。一つ目の課題は先週クリアしている。早速二つ目を終わらせてきたよう。感心の極み。名前って確か、深谷(ふかがや)だっけ?

 ただ、態度が大きいのが問題だな。しかも、DSって駄目な先輩の略だし、時代遅れという意味もあるし、ってDSは不滅だよ! 偶に出来る先輩という意味になるけど、普通はその時に3DSとか呼ばれる。失敬してしまうな。


「誰がDSだ、こら。名前で呼びなさいな。光莉だ」


 そこら辺に鞄を丁寧に放って、後輩をたしなめる。


「いーじゃないですか、先輩。あ、課題やってきました」

「そうか。じゃあ見せて」


 たしなめても聞かないようだ。用件を聞くことに徹しよう。精神が持たなさそうだ。


「メールで送ったんですけど、アレレ?まさか、まだ確かめてないんですか?駄目だなあ、だからDSなんですよ」

「煩い。それよりも、メールで送ったのか。普通に開けないじゃん。まだVirtualBoxのインストール許可が下りないからなぁ。エミュじゃないといけないし」

「え? ウイルスってメールで送ったほうがリアリティが出るじゃないですか」


 そう。課題とはウイルスなどのクラッキング行為が出来るかどうかを確認するものだ。クラッキングするには、ハードウェアとソフトウェアの両方の知識がないと出来ないので、どれくらいパソコンに精通しているのか確認するには最適。この課題をパスすることで、初めてこの部活に入ることが出来る。

 この課題をパスできた人は極めて少ないが、合格できた人たちには、ある特徴がある。それは、脳内のねじが六本くらい飛んでいること。だから皆、頭がどこだかおかしい。

 というか、どんなリアリティを求めているのか分からないが、倫理的にどうなの、その行動?流石に自分はソースコードを見せる程度にとどめたぞ?

 エミュレーターであれば、その動作環境が壊れるだけで済むし、個人情報を入れていなければ安全なのだが、実デバイスでやられるとかなり困る訳なんだし。


 因みに、VirtualBoxというのはマルチOSエミュレーターソフトの名前。エミュレーターとは、動作環境を、異なる動作環境で疑似的に再現するソフトのこと。略称はエミュ。例えば、パソコンでAndroidを起動できるソフトも立派なエミュだ。

 そして、VBは『マルチ』と付くほどなので、多くのOSを起動できる。優れものだが、案外重かったりもする。

 あ、脱線した。話を戻すぞい。


「ソースコードだけでいいのに」

「家においてきました、はい」


 若干興奮気味の口調になっていた。何に興奮しているんだか。


「じゃあ、今ここでソースコードを打ち込める分だけ打ち込んで。言語は自由だから」

「機械語で行きますね」

「おいこら待て、そんなの誰も読めないから」

「しょうがないですね。DSでも読めるようにC#にしてあげますね」


 『DS』と『あげますね』をかなり強調されて、ものすごくイラっと来たが、耐えよう。

 しかし。もしも、本当に機械語でプログラムを打てるのであれば、かなりの逸材だ。というのも、プログラマというのは、普通は機械語以外のプログラミング言語を使って、プログラムを作っていくものだ。そして、機械語はというのは機械が直接読み取ることのできる言語で、普通のプログラマでも読めない。そんなことが出来る人材はかなり貴重だ。どんな勉強をしたんだか、自分たちよりも数枚も上手のハッカーですな。バイナリもそのまま読めるんかな。


 さて。そんなこんなで、深谷がニコニコ動画をみようとするのを、やめさせつつ、課題図書のページを捲っていると、風に乗ってパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 何かあったのか?しかも何だか近づいているようだし。


「今日って何かあったっけ?パトカーの音が近づいているみたいなんだけど……?」

「聞こえませんが」

 まだ、二キロくらい離れてるしな。そりゃ当然か。


「ハッ!もしかして、ロー○ンから餡パンをパチってきたのがバレたとか?あり得ない、完璧な犯行だった筈なのに……」

「嘘でしょ?!!!?!」

「嘘です」

 ………………。


「嘘つきは泥棒の始まり!本当に盗んでいないんでしょうね!?」

「異議あり!そもそも、嘘つきだからといって、それが直接泥棒になる訳ではないし、それに嘘なら、この前、某知事が…!」

「言い訳している時点で怪しい!」

 まず、県警もこれだけで出動しちゃうもんなの?!緩すぎやしませんかね!?


「退学が嫌ですからね」

「理由から性格が丸わかりだな……」


 自分もそういうことを素で言っていそうだな。直そう。


「それは、別に本当に冗談なんですけど、先輩こそおかしいですよ?」




「――え?」


 まるで自覚が無く、唐突に感じた。


「だって、先輩、東風平(こちんだ)先生の事、忘れてるじゃありませんか」


 不思議そうに、不可解であるように、懐疑の目で覗き込まれる。


「ッ!!」


 いや。よくよく記憶をまさぐると、千鶴を起こしにいった後からの朝の記憶がごっそりない。自覚が無いわけではない。ことになる……かな。

 先天的に、一度見たり聞いたりハプニングが起きたり、つまりは体感したものは、はっきりと細かい所まで忘れないようになっているのに。確かに、記憶がおかしくなっているのだ。『青が消える』を馬鹿にはできないな。今の今まで慢性的な色覚障害だと思っていたんだが。


 いや! そもそもの話として! そこまで覚えていなかったのか……! 正直たじろいだ。自覚が薄かったなだけに。『突然のシリアス』だなんてタグは誰が作ったの? 身を以て体験すれば分かるだろうけど、冗談にならないくらいかなりきつい。何かが心の奥底に侵入してきているような感覚が耐え切れない。


 深谷の強い視線に、思わず目を閉ざし顔を背けてしまった。

 この後も何か言っていたようだったけど、正直覚えていない。

 いつの間にか口の中が乾いていて、動悸が激しくなって、肩で息をしていた。


(あ、るぇ――?)


 頭がガンガンする。ひどい目眩だ。

 ダメだと思う間もなく――意識が飛んだ。

まだ魔法は出ませんが、いましばらくの辛抱をお願いします

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