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使節の手記

先日、使節団がニホンという新興国から帰還した。

交渉の前座として我が国の防空網をかき回し、国内を混乱に陥れた彼の国を、おどしをかけてきた野蛮な国だと見る者もいたが、同時に高度な技術力と軍事力を持つことも判明しており、交渉の席に着くにあたって相手が掛けて来るであろう高圧的要求をかわし、交渉をどこまでこちらのペースに持ち込めるか、そこに焦点がおかれていた。

しかし、使節団が持ち帰った協定は我が国に対して想像以上の大きな恩恵をもたらすものであった。交渉の場・ニホンで一体何があったのだろうか。それを探るために使節の1人が書き記した手記を見てみようと思う。


〜〜〜〜〜


使節団代表ミヒラ=スケレタルの手記


10月2日

この日の朝、我々はニホンの客船に乗りニホン国本土へ出発した。

我々の案内役としてニホン国の外交担当機関からダイゴ=ミナミという者が派遣されている。本人は「南大悟」と名乗っていた。ニホン国では姓名の順序は我が国とは逆のようだ。


ニホンの船は城と見間違う程大きく、鉄で出来ていて帆もついていない。まさに異世界の船とも言うべき我々の常識からかけ離れたものだ。それによる船旅も我々の常識からかけ離れた快適すぎるものである。船と思えないほどの速さで海を進んでいるのにも関わらず、あまり揺れもせず、艦内は船の中とは思えないほど明るいし、湿気もない。そして優れた食糧保存技術によって、船内で出る食事は新鮮でみずみずしく我々が今まで地上で食べてきたものより美味な程である。


客船の護衛として「あきづき」という、ニホン国がイラマニア王国への最初の接触に用いたニホンの軍艦が伴走している。こちらも客船と負けず劣らず大きいが、南殿の話によるとニホン海軍は、この「あきづき」を初めとするゴエイカンという種の軍艦を50隻、また艦艇総数ならば140隻の艦を所有しているという。海軍の一般的な軍艦所有数としては少ないが、それはこちらの世界の一般的な帆船軍艦であればの話である。これほどの艦が50隻または140隻あるとすれば、少なくともこの極東世界などあっという間に征服できるだろう。




10月3日


この日の夜、ついにニホン国・ナガサキ市に到着した。

ニホンの港は継ぎ目の無い石造りで覆われており、とても強靱な仕様になっている。これほどの頑丈さなら、我が国のように嵐が来るたびにいちいち多大な損害を出さずに済むだろう。

港に降りた我々の前に自走する巨大な箱、バスという種の「自動車」が現れる。南殿の説明によると「自動車」という乗り物は内蔵の動力を持っており、我が国における馬車のような扱いだと言うが、馬車とはとても似ても似つかぬ姿である。


港から市街地の中へ入って行くバスから目にしたものは見たこともない程に繁栄している都市だった。

そびえ立つ高層建造物群、その間を自動車がめまぐるしく尚且つ規則的に動いていて、地面は先程述べた継ぎ目の無い石造りで出来ている。さらに街全体がまばゆいばかりの光を放っており、夜だというのに街中は視界の限り見渡せるほど明るく、とてもこの世の都市とは思えないほど美しい。まさに異世界の都というべき別世界が、そこには広がっていた。




10月4日


国会と呼ばれる立法府、内閣と呼ばれる行政府、ナガサキの宿にてニホン国の政治形態についての簡単な説明を受けるなかで我々は最大の発見をした。

私は今まで「ナイカクソウリダイジン」と呼ばれている者がこの国の王だと思っていたが、それは内閣という行政府の長であり我が国における宰相にあたる存在で、それとは別にニホンには「天皇」と呼ばれる皇帝と皇族がいることが分かった。今回は謁見の予定はないがこれほどの大国の頂点に立つ存在、いつかお目通り願いたいものだ。


我々は明日ニホン国の首都トウキョウへ出発する。南殿の話によるとトウキョウは都市としての規模が根本的に違い、人口や建造物の高さ、交通網など、ナガサキを始めとする地方都市とは比較にならないらしい。

そもそも地方都市であるナガサキですら、列強たる七龍各国の首都と同等か、それらを凌ぐ規模の都市である。トウキョウとは一体どのような姿をしている都市なのか想像もつかない。




10月5日


この日の昼過ぎ、我々はバスに乗り「長崎空港」に向かい、そこから「飛行機」に乗って首都・東京へ出発した。飛行機とはニホンの遠隔地間を結ぶ輸送機関の一種である。その名が示すとおり空を飛ぶ巨大な乗り物で、各都市や離島に置かれている「空港」という空の港を往来しており、1300リーグ以上離れている長崎東京間をわずか1時間ほどで行き来出来るほどの速さを誇る。


長崎を出発して1時間後、我々は首都・東京の羽田空港に到着した。さすが首都の交通の要衝というだけあって、羽田空港の規模は長崎のそれを大きく凌ぐものであった。

ここでも我々はバスに乗り、市街地の中へ入って行く。宿に案内され、南殿から今後の予定について説明された後、それぞれの個室にて我々は長距離移動による体の疲労とこの国に来てから驚きっぱなしの心の疲労を癒した。


船といい自動車といい、そして飛行機といいニホンの乗り物はどれもこれもとてつもない速さで走るのに、何故あんなに快適な乗り心地なのだろうか。

ニホンの交通手段のどれか1つでもイラマニアに導入することができたなら、我が国は経済的に大きな発展を遂げることができるだろう。




10月6日


会談を明日に控え、我々は南殿の案内でこの国の首都である東京を観光することになった。長崎の町並みでさえ驚愕したが、東京の規模と人口、町並みはそれらニホン国内のあらゆる地方都市を隔絶したものである。

250ルーブをゆうに超える超高層建築物が立ち並ぶ新宿、この国を治める皇帝の居城、伝統的な建物が並ぶ浅草、「鉄道」という日本国内の遠隔都市間を結ぶ大規模陸上輸送機関の拠点である東京駅、そして私が何より驚いたのはニホンで一番高い建造物だという「東京スカイツリー」という名の超巨大な塔である。


理由としては700ルーブをゆうに超えるその高さ然り、そしてもう一つはその建築期間である。この様な建物を我が国が建てようとすれば30年、50年でも足りないだろう。何より技術が無い。七龍各国でさえ不可能だ。それをニホンはわずか4年で作りあげたという。東京に存在する超高層建築物は全て同じ様な期間で作られたものらしい。恐るべき技術力である。


我々は南の案内でこの国ではもう見慣れた「エレベーター」という昇降装置に乗り、東京スカイツリーの第一展望台に登る。

そこで我々を待ち構えていたのは、その眼下地平線まで続くこの世界のどの都市よりもはるかに壮大な栄華を誇る大都市圏だった。地上500ルーブから見下ろすニホン首都圏の広大さと巨大さを我々は恍惚として眺めていた。


我々は明日、国力において明らかに七龍各国を凌ぐこの強大国家を相手に協議を行わなければならない。如何なる要求を出されても、この圧倒的な国力差を前にしては、イラマニア王国はその全てを受け入れざるを得なくなるだろう。我々の世界の外交常識では強国は弱国に理不尽な要求をたたきつけるのが当然だ。しかし、この国の役人たちが我々に接する態度はその様な傲慢さを感じさせないものだった。明日彼らが豹変しないことを祈ろう。




10月7、8日


2日間に渡った協議は一言で言えば大成功に終わった。


国交開設においてニホン政府が求めてきた用件は大きく分ければ、イラマニアにおいての交渉で提示したものと同じ相互不可侵、公正な交易、そして早急な食糧の輸出であった。かつて彼らが元いた世界では、一億を超えるその膨大な人口を支えるために、海外から食糧を輸入していたという。


彼らが求めてきた食糧は年間総量1520万ヤガル(1600万トン)というこれもまた膨大な量であり、我が国一国だけではこの輸出量を満たすことは当然出来ない。しかしノーザロイア5王国全ての輸出可能量を合わせれば、ニホンが求める量を十分に満たせる。そこで我々は、食糧の輸出と併行して他の4カ国に対してニホンとの国交開設を促しその仲介等を買って出ることを提案した。しかしこれほど大量の物資を運搬できる設備や手段が我が国や他の4カ国には無いことも同時に伝えた。


するとニホンはそのことを予見していたらしく、なんと我が国に陸上輸送路や湾港施設を整備・建築すると言ってきた。あれらの設備を導入できればイラマニア王国は経済的に大きな発展が出来るだろう。


ニホンはこれだけの国力を誇りながら、その政府や国民は、他国に対して奢ったり見下したりすることのない温厚で気品ある性格を持っている。そのことは彼らの憲法の条文や、軍事力にものを言わせ食糧を略奪することを善とせず、このように正当な取引、交易での購入を求める外交姿勢からも分かる。彼らの侵略戦争を嫌悪する思考やそれを禁止する法は、過去ニホンが存在した元の世界で勃発した我々の想像を絶する大戦争に起因しているらしい。

ニホン人の主張によると彼らが元いた世界では、我々の世界にとって常識を逸脱しているこれほどの技術力や軍事力は普遍的で一般的なものであった。すなわちニホンだけが突出していた訳ではなく、むしろ彼らを超える技術や軍事力、国力を持つ国が存在していたという。彼らの世界とは一体どのような世界だったのだろうか。


〜〜〜〜〜


使節団の帰国後、イラマニア王国・スーサ市で日本政府のODAのもと、貿易基地の建設と同時に、食糧輸入が始まることとなる。



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