小話 日本軍の秘密を探れ!
グランドゥラ記者の取材日記です。
グランドゥラの手記
2月4日 マックテーユ占領作戦の4日前
1月30日、我々報道団を乗せてミスタニア王国の首都ジェムデルトの港を出航した「世界魔法逓信社」の船が、この日の未明いよいよセーレン王国に到着した。
シオンの街の灯がわずかに見える。このまま行けば夜明けには接岸出来そうだ。その時、目映いばかりの光が我々に降り注いだ。
「我々は日本海軍である! これより先はセーレン王国の領海です! そこの船、止まりなさい!」
視界に船舶が無いことを確認して静かに近づいたはずなのに、瞬く間に日本の海軍に囲まれた。後から聞いたが、日本の艦が発する「レーダー」という目に見えない監視網にもろに引っかかったらしい。
日本海軍の臨検を受けた我々は、身分と所属を照会し、アルティーアの人間でも、軍人でもスパイでも無いことを説明しようとした。船員たちは突如現れた日本軍に恐れおののいていたが、これは逆に好機であると私は考えた。
「私は世界魔法逓信社ミスタニア支部の記者、グランドゥラ=パラソルモンという者です! 貴国が上げたイロア海戦での戦果をお聞きし、その真実を確かめるためにここへ参りました!」
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基地司令室
「へぇ〜、この世界の報道員か・・・面白いじゃない」
基地司令の鈴木は、部下の報告を興味深そうに聞く。
「我々のことを正しく世界へ発信するためのいい機会です」
艦隊司令の長谷川も、報道員の受け入れに肯定的な姿勢を見せる。
その後、上陸許可が下りた逓信社の船は港に誘導され、報道員たちは基地へと足を踏み入れた。
その後、基地の2トップによって基地の広報係として正式に任命された辺土名光樹二等海佐/中佐によって、報道員たちは基地の中を案内されることとなった。
「日本海軍中佐の辺土名光樹と申します。皆さんに日本軍について紹介せよとのご命令を承っております」
「報道団団長のグランドゥラ=パラソルモンと申します。宜しくお願いします」
「・・・では、まず我々の艦をご案内しましょう」
辺土名二佐の先導により、報道団は護衛艦「ゆうだち」の内部へと案内された。
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2月4日 続き
我々は初めに「ゆうだち」という軍艦に案内された。
まず、日本海軍の軍艦の砲は「エフ・シー・エス」という「射撃指揮装置」によって制御されている。戦闘時において「エフ・シー・エス」は、まず「レーダー」という目に見えない監視網によって捜索・探知された敵艦との距離、相対速度を算出する。これにかかる時間は刹那である。算出された情報から予測される敵の艦の未来の位置に向かって砲弾が放たれるのだ。このために、日本の軍艦の砲は、海を行く船であれ空を飛ぶ竜であれ、反則級の正確射撃が可能なのだという。
そこには、我々の知る大砲の様に、砲弾を詰め、火薬を設置し、砲の角度を決めるという人の手による作業は入らない。それらは全て自動的に行われ、それ故あり得ない程の連射速度をも実現している。
驚くべきは砲の正確さだけではない。これは所詮、日本の軍艦の一装備に過ぎないからだ。我々は次に「ミサイル」という兵器を紹介された。まるで大きな槍のような形をしたこれらは、艦のあらゆる場所にその発射装置が置かれている。
恐るべきはその速度と射程、そして種類の多用さ、そして何より、ミサイルは砲弾とは違い、ミサイルそのものに敵を追尾する機能があるのだ。
次に案内された艦は航空母艦と呼ばれる種の艦で、名を「あかぎ」と言った。
航空母艦とは「戦闘機」という日本軍特有の航空戦力の離発着を行うための艦であり、その姿は他のものとは明らかに異なる。まるで海の上に浮かぶ広大な荒野の様な真っ平らの甲板を持っている。何でも戦闘機は離発着に滑走が必要らしく、そのためこのような造りになっているのだ。
「戦闘機」とは空を飛ぶ乗り物で、音の速度を超えることも出来ると説明されたが、正直その意味があまり掴めなかった。つまりものすごく速いということだろう。我々の知る航空戦力である竜ではとても迎撃することは出来まい。さらにこの戦闘機もミサイルを発射する事が出来る。
他にも日本軍の航空兵器には「ヘリコプター」と呼ばれるものがある。ノーザロイアの住民たちが「巨大な羽虫」と騒いでいたのはこれだろう。回転する羽から出される音は、確かにけたたましい羽音の様だ。
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「すさまじい・・・。これではアルティーア帝国軍が手も足も出ない訳ですね」
辺土名の説明を聞いたグランドゥラは息をのむ。日本の兵器については、理解できない部分も多いが、この国の技術力が並外れていることはよく理解できた。
「貴方方は国交を結んでいる各国に、異世界から来たと述べているそうですが、それは本当ですか?」
グランドゥラは最大の疑問を辺土名にぶつける。
「はい、もう半年は前になりますが、貴方たちから見れば異なる世界、または異なる惑星と呼べる場所から転移して来ました」
初めはただの戯れ言かと思っていたが、ここで見せられた日本の力の片鱗を見せられると、その説明が1番理にかなっているだろう。
「ご案内したい艦がもう一種あります。こちらへどうぞ」
その後、報道団は3隻目の艦「きりしま」へ案内された。
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我々は「イージス艦」という艦種の軍艦である「きりしま」に案内された。対空戦闘に特化した特別な艦なのだそうだ。正直外見だけでは他の艦とはどう違うのかが分からなかったが、後の説明によりその脅威性を思い知ることとなった。
イージス艦の根幹を成すのは「イージスシステム」と言うもので、これに備え付けられている「エス・ピー・ワイレーダー」はイージス艦を中心に500リーグ(約350km)以上の範囲内に飛行している目標を、同時に200以上も捜索・探知、及び追尾、評定を行うことが出来るという。これに捉えられた獲物を襲うのは、先程述べたミサイルによる正確射撃だ。また、イージス艦にも当然艦砲が搭載されている。この艦一隻を沈めるために、我々の知る軍艦と竜が何隻何騎必要となるのだろうか?
私は母国がこの国と対立する道を選ばないことを願う。
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イージス艦の紹介を終え、「きりしま」のタラップを下りる辺土名二佐と報道団の面々は、次なる場所へと案内される。
「次に基地内部をご案内致します」
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——日本の兵士には2種類の人種がいた。まず象牙色の肌と黒い髪、黒い目を持つ者たち、そしてウィレニア大陸文明圏風の風貌を持つ者たち。前者の方が数は多く彼らが日本人である。では後者は何者なのか。
その正体は「アメリカ人」という、日本がかつて存在していた世界の他国民である。日本軍は現在、転移に巻き込まれた「アメリカ軍」という同盟国軍と行動を共にしている。日本がかつて存在していた世界での同盟国であった「アメリカ合衆国」という国は、彼らの世界では「最強の国家」としての地位にいたらしい。
アメリカ軍代表のアントニー=ロドリゲス氏によると、この世界でのアメリカ合衆国の建国を条件に戦争に全面協力しているとのことである。これは日本に続くさらなる強大な国家の誕生を示唆している。
我々が基地の中で驚いたのは、日本軍がアルティーア帝国軍兵士の捕虜を厚遇していたことだ。
朝昼晩の3食が保証され、虐待も無い。傷を負った捕虜を治療するための施設もあった。さらにこの扱いを受けられるのは、上級の指揮官だけではない。末端の兵士1人1人にまでその好待遇は及んでいた。
なぜこのような一文にもならないことをしているのか尋ねたところ、武器を捨て敵の軍門に下った捕虜は人道的観点からそのように扱うきまりだということだった。ただ、そのせいで自分たちの食い口が貧相になってしまっていて困っていると笑いながら話す辺土名中佐の思考は、我々には理解の及ばぬものである。
基地の見学を終えた我々は、その日得た情報をまとめるためシオンの宿へと向かった。その道中でシオン市民にも日本軍について取材を行ったが、その評価は総じて「いい人たち」であった。我々はこれらの事実をそのまま支部へ送ろうと思う。
私がこの取材で何より驚いたのは、これらの装置や驚異的な技術力、軍事力は魔法によるものではないことである。それどころか日本人とアメリカ人を初めとする異世界の民は魔力を持たない民なのだ。
「死の民」と呼ばれているジュペリア大陸北西部の「あの帝国」の民と同様に・・・。
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翌日、彼の取材を元に発行された世界魔法逓信社の記事は、全世界を驚愕させることとなる。




