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戦後 壱

2月16日 戦争終結直後 首都南部


「我々も退散だ」


神殿の最上階に潜入していた8人の海兵隊員は、機材を片付けながら帰り支度を整えていた。


「何も忘れものは無いな?」


首都南部特殊作戦班班長のデイビス中尉が部下たちに注意を飛ばす。

その後、退散準備を終えた海兵隊員たちは荷物を抱えて階段を降りて行く。その時、全員が異変に気づく。下から時折、ガヤのような声が聞こえ、なにやら集会の様なものをしている様子だ。少し警戒しながら、ギャングたちが集っている礼拝堂まで降りる。


「・・・?」


「首都に侵攻され、我が国はニホンとか言う、今まで聞いたことも無いような辺境国家に降伏したという! だが、国がどうなろうとここは俺たちの城だ! ここは俺たちの手で護る!」


「おおー!!」


普段ここに無目的にたむろしているはずのギャングたちは、首領サルカスの言葉にやる気に満ちた顔で呼応していた。

デイビス中尉は8人を率いて、集会を邪魔しないように階段をこっそり降りると、集会に参加していた下っ端ギャングの1人に後ろから近づいて耳打ちする。


「部屋を貸してくれて感謝する。我々も首尾良く仕事を終えることが出来た」


「あれ、あんたら2週間の賃貸予定じゃなかったのか?」


突如現れた例の謎の一団に驚きながら、耳打ちされたギャングはデイビスの言葉に首をかしげる。


「日本軍が首都まで来て危ないからね。我々も本拠地へ帰ることにした。これが約束の礼金だ。後で首領に渡しておいてくれ」


デイビスはデフール金貨10枚が入った袋を渡す。


「お、おう・・・。」


ギャングは差し出された袋を戸惑いながら受け取る。正直、この者がちゃんと礼金をサルカスに渡すかどうかは不明だが、この場を去る海兵隊員にとってはどうでも良いことだ。


「互いに自分たちの住処を護るために頑張ろう。武運を祈る」


そう言い残すと、デイビスたち8人は速やかに礼拝堂から退出した。

その後、スラム街を抜け首都の南端に到達した首都南部特殊作戦班は、首都の北西部よりAAV7に乗って現れた首都北西部特殊作戦班7人と合流し、上陸部隊が司令部を置いている首都の海岸へと向かう。


その後、彼らによってウィルコック神殿にてギャングの一派が武装決起集会を行っていることが日本軍へと伝えられるのだった。


〜〜〜〜〜


2月25日 日本国 佐世保港


2017年に退役した「くらま」に代わり第2護衛隊群第2護衛隊に編入された「かが」が、此度の戦争に派遣されていた第2護衛隊と第11護衛隊を率いて日本へ帰還した。彼らの前には、大海蛇の万歳アタックを食らい、戦闘不可となった第3護衛隊群第7護衛隊の「ふゆづき」が、同じく第7護衛隊の「みょうこう」と「ゆうだち」の曳航と護衛を受けながら、一足先に帰還していた。


途中で横須賀を母港とする第11護衛隊と別れ、佐世保へ入港する彼らの目に入ってきたのは、港にて日の丸を振りながら、彼らの帰還と戦果を祝う佐世保市民の人波だった。


「・・・日本だ! 何もかも懐かしい!」


「かが」艦長反谷一佐は、その様子に涙を流していた。


(何もかも懐かしいって言う程、離れてはいないっす・・・)


感激の台詞を述べる反谷に、航海長 坂上承平二等海佐は小声で冷静な突っ込みを入れる。


「甲板に集合!」


艦内に響いたアナウンスにより、「かが」のヘリコプター甲板に集合した自衛官たちは、港に集まる佐世保市民に向かって隊列を整える。


「敬礼!」


直後、一糸乱れぬ動きで敬礼を取る面々。その様子を見た市民の歓声は一際大きなものとなった。



日本=アルティーア戦争 


戦闘参加艦艇 計42隻


海上自衛隊/日本海軍 計 33隻

護衛艦 23隻

航空母艦/戦闘機搭載型護衛艦 1隻

強襲揚陸艦 3隻

輸送艦 2隻

補給艦 4隻


アメリカ海軍第7艦隊 計 9隻

ミサイル巡洋艦 3隻

ミサイル駆逐艦 4隻

ドッグ型揚陸艦 2隻


戦闘参加人員 計 19、400人


海上自衛隊 約9、000人

陸上自衛隊 約4、000人

アメリカ海軍 約3、000人

アメリカ海兵隊 約3、400人


殉職者 23人(内戦死者 0人)

負傷者 982人


〜〜〜〜〜


終戦から2日後 2月18日 東京 首相官邸 首脳会議室


戦後処理と今後に関する事柄を協議するため、閣僚や議員、官僚たちが集まっていた。


「アメリカ建国を知った各国の大使館や組織からの要求が出ています。『自分たちの国も作れ』と。特に民団や総連、中華系団体からの要求が激しい・・・」


外相 峰岸は日本国内における諸外国の圧力が高まっていることを伝える。


「よって各国の建国を日本政府が行う代償として、軍事技術や科学技術など、我々日本政府が求める全ての機密情報の開示に応じることを各国の大使館には条件として通告致します。また建国にかかる費用はある程度、彼らの日本国内における資産から負担させます。アメリカは祖国を作るために身を切って戦争に協力してくれたのですから、それくらいはして貰わなければ、割に合いませんよ」


次に防衛相 安中が戦後処理について説明する。


「占領統治についてですが、自衛隊と米軍で治安維持を行うのは首都クステファイと現在我々の占領下にあるマックテーユ、そして今回の攻撃対象にはなっていない海上貿易の中枢ノスペディとその周辺の街のみで、他地方都市については属領に散らばる治安維持軍を本土に引き上げさせ、任務に当たらせます。帝国は正規軍が壊滅しているため、これは急務となるでしょう」


その後、防衛省がプレゼンした内容は次の通りである。


まず、前提としてアルティーア帝国の占領統治はサヴィーア=イリアムを代表とする帝国暫定政府を介する、所謂、間接統治の形で執り行う。

故に数日後、主に外務省と防衛省の官僚をアルティーアに派遣して、帝国暫定政府を監督し共同宣言を執行するための「総督府」を設置する。


そして28の属国と51の属領。帝国による過酷な搾取や民族強制移動に遭い、経済力が貧しく将来的な市場価値の低いこれらの地域については切り捨てる(独立させる)

これにより、後に割譲させる「ヤワ半島」も除くと、帝国の支配領域は戦前の3分の1にまで減少する。その上で属国属領については、領内の治安が比較的安定しており、尚且つ利用価値のある資源が認められる国家に限り、こちらから国交樹立の使節を送る。但し向こうから使節が訪れる場合には拒否しない。

また、国境地帯については、帝国軍事局隷下の国境警備隊にそのまま警備に当たらせる。戦力が不足する場合には帝国暫定政府の求めに応じる形で陸上自衛隊を派遣する。

属領を失うことにより、帝国内の食糧事情が危うくなる場合には帝国本土内における農村地帯に農業指導員を派遣する。

その他、細かい内容については現場の判断にゆだねる。


おおざっぱに説明するとこんな感じだ。


ちなみに帝国暫定政府を監督する府の長の役職名については「総督」にするか「統監」にするか、それともただ単に「長官」にするかを各省間の協議で少し揉めた。


説明を終えた安中が着席すると、次に経産相 宮島が立ち上がる。


「経済産業省からは先程のお話にも上がった“資源”について詳しく説明させて頂きます」


宮島は、まず初めにボーキサイトとカリ鉱石の鉱床が、セーレン国内で発見されていることを説明する。


「これらの採掘権は我が国がセーレンへの請求権を持つ“王国奪還の見返り”と、“戦費の支払い”の代償として彼の国の政府より差し出させます。どうせ我が国が請求する戦費は、占領が明けて間も無い彼の国に支払えるものではありません。具体的に要求するのは“すでに開発されているものを除く資源鉱床の調査採掘権”となります。」


その後、宮島は外交交渉によって彼の国に認めさせる予定の“治外法権”と“免税特権”によって、まだ王国の手が入っていない全ての地下資源を、王国の法に煩わされることなく自由に調査・採掘することが可能になることを述べる。


「我らが欲する資源は、どちらにせよまだこの世界ではまだ価値が低いか、その有用性が見いだされていないものばかりです。セーレン国内でも、金銀銅鉄石炭はすでに各地に鉱山が開発されていますし、これらの条件を飲むことは、彼の国にとってもさしたる損失にはならないでしょう」


ここまで説明したところで、宮島はペットボトルの茶を一口含み、一息ついた。


「次にアルティーア帝国に関する資源についてお話します」


宮島は持っている資料の頁をめくる。


「まず勝者の権利として“ヤワ半島の割譲”を彼の国に要求します。皆さんご存じの通り、ここには良質な鉄鉱石を出土する鉱山と、その精製に必要な石炭を産出するための炭田が各地に散らばっており、我が国の鉄鉱業、重工業を再燃させるために、必須の資源地帯であります」


その後、宮島は帝国の他の領域の資源について語り出す。


まず、属領属国の扱いは防衛省の説明の通りであること。次に帝国本土領域内についての地下資源は、賠償金の減額を譲歩として、セーレンへ求めるものと同じ“すでに開発されているものを除く資源鉱床の調査採掘権”を要求することを述べる。

実際にどんな資源が眠っているかは、セーレン島以上に情報が無いため、新たな調査が必要となるだろう。


説明を終えた経産大臣が席に座ると、再び防衛大臣 安中が手を上げて発言を開始した。


「先程の経済産業省の説明に捕捉する形ですが・・・」


新たな資料を手に取ると、安中は次の説明を始める。


「今後新しく製造する軍事品は、これら新たな資源供給源から国内へ搬入される材料を元に1から作ることに成ります。自衛隊が使用する外国製の武器兵器についてですが、アメリカとは協定によりそれらのブラックボックスが、拳銃から戦闘機、イージスシステムまで、その製造技術も含めて全て明かされることになってはいます。

しかし国産品はともかく、外国製のミサイルや兵器などはその生産体制が整うまで、しばらくはライセンス生産で作るよりも製作費が高騰する可能性があります。対策として、資源採掘には現地人を我々の価値基準からすれば破格の安価で雇用する案があります」


安中は資料をめくりながらさらに説明を続けた。


2019年の日中衝突後、日本は国家予算を増やし、軍事費を増大させて来た。

しかしこの世界では国家予算の上限額が減っている状況ながら、少なくとも軍事品の生産体制が整うまで、さらなる軍事費の増大を行うという二律背反をこなさなければならない。その代償として、削減の筆頭標的に上げられたのが「地方交付税交付金」だ。地方の財源は減るが、今の日本に必要なのは安定した“武力”なのである。

ただ地方交付税交付金削減には、もちろんそれに至る理由がある。都会で職を失った人々が、国産食糧の高騰に焚きつけられ、逆転を狙い農業や漁業に従事するために故郷である地方都市に流出する現象が全国的に発生していた。故に、大都市の人口減少と、地方の人口増大が急速に進んでいた。予期せぬ形で東京一極集中と地方の過疎化が解決されたのは喜ばしいことではあるが、このため、税収増加と第一次産業隆盛による恩恵が地方の財政を潤している一方で、大都市の税収は減っていた。結果、地方と大都市の財政格差が徐々に是正されていたのだ。


「この状況ならば『地方交付税交付金』の予算を多少減らしても、恐らくは問題無いでしょう」


軍事費予算の運用について説明を終える安中は、予算について事前に会合の場を設けていた総務省大臣 高岡正則の方を向く。


「総務省としても、防衛省の意見に異論はありません」


安中の視線に気づいた高岡は、地方交付金を所掌事務に持つ総務省の立場から、彼の提案にフォローを入れる。


「もっとも予算がかかるのが、“第42航空群の完成”でしょう。この世界では日本は積極的に海外における利権を持たねばなりませんから、新たな航空母艦はやはり必要です。現在『あかぎ型2番艦』の建造が転移により滞っていますが、これの建造を再開し、搭載する航空群の完成も急ぐ必要があります」


安中は、空母と共に設置が決まったが、転移により編成が不十分なままになっている海上自衛隊航空集団の新たな“群”についての説明を行う。


「今年、ライセンス生産によるF−35C 6機の納入が行われ、同機の保有数は49機となりますが、これ以降は艦上戦闘機の製造を1から自前で行わなくてはなりません。F−35Cを1から作るとなると、先程の原材料費対策を行ったとしても、生産体制が整っていない今では、1機当たりどれほど予算がかかるかは不明瞭です。

これも対案として『F−4EJ改』に更なる延命措置と改修を加え、艦上戦闘機として活用する案があります」


F−4EJ改の艦上機への改修案は、元々転移前から少数ながら存在していた意見であったが、“艦上戦闘機”として実際の戦闘に使うのは不可能と判断され、偵察機のRF−4EJのみ試験的な艦上機への改修が行われていた。

改修されたファントム偵察機『RF−4EJ改』も導入はされたものの、東亜戦争の時点では、まだ「あかぎ」は未完成だったために投入されなかった。故に、此度の日本=アルティーア戦争で初めて実戦に投入されたのだ。

結果として事故は起こらなかったし、元の世界では時代遅れの“ファントム”も、この世界の竜相手ならば十分に無双出来る。これらのことが記載された鈴木実海将補の報告書によって、一度は一笑に付された案がここで再燃したのだった。


(もう、休ませてやれや・・・)


特務大臣の笹場茂は、本来なら退役が決まっていたはずのF−4をさらに酷使するという安中の案に心の中で突っ込みを入れる。


「まあ、どちらの案を取るかは追々決めましょう。まず大事なのは帝国への総督府設置の件です」


首相 泉川は議題を元に戻す。首相に話題を振られた外相 峰岸は、追加の説明を行う。


「早ければ明後日には、各省庁の官僚と“総督”、そして帝国軍捕虜を乗せた『いせ』が日本から出発します」


峰岸は再び手元の資料を取り説明を始める。


「政策内容については、ある程度政府からも注文を付けますが、状況が状況ですし、先程も述べた通り、詳細は現場の判断にゆだねる形を執ります。」


説明を終えた峰岸が着席すると、泉川は背もたれに寄りかかりながら、ため息をついた。


「・・・・よし、変更点は無しです。このまま行きましょう!」


その後少しの時間を経て、会議は解散された。


2月20日、役人たちと捕虜を乗せた「いせ」が日本を出発した。


国民が歓声を送って見送る中、ごく少数の人々がプラカードを持って、日本を去る「いせ」に向かって抗議を行っていた。


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