ダウンフォール 参
怒濤の3連話の終結です。
カルフニルムド通り
「きゃあああ!」
大通りで繰り広げられる銃撃。聞き慣れない音と自軍の兵士たちが一方的に惨殺され、足を進める敵軍の陸上兵器によって、彼らの骸が時折踏みつぶされる様を見て、家屋の中に閉じこもっていた1人の女性が悲鳴を上げる。
〜〜〜〜〜
少し前 上陸部隊の揚陸直後 クステファイ 元老院 大議事堂
突如立ち上がったサヴィーア、親子のものとは思えない冷たい目で見つめ合う皇女と皇帝。一時の沈黙が大議事堂を支配した後、サヴィーアが口を開く。
「父上、いや陛下。今日で現・アルティーア帝国は終わりにしましょう」
「なんだと!!」
皇女が発した言葉に、議員たち、皇太子と第二皇子、そして皇帝は驚愕する。沈黙に包まれていた大議事堂は再び喧々囂々に包まれた。
「サヴィーア、お前気でも狂ったか!?」
皇太子ルシムはサヴィーアの正気を疑う。
「私は正気です、兄上。私は約束したのです。ニホンとの戦争を終わらせ、この国を未来へ存続させるために!」
「馬鹿な! 蛮族への降伏などそれこそ帝国を滅ぼすというもの! やはりお前正気ではないな!」
この期に及んでまだ日本人を蛮族呼ばわりする第二皇子ズサル=バーパルにサヴィーアは軽蔑の目を向ける。彼らが蛮族ならその蛮族に負け続けた我々は何だと言うのか。
「近衛兵! サヴィーアをとり押さえろ!」
皇帝の口から、彼の周囲に控えていた近衛兵団に命令が発せられた。皇帝に従属する兵士である彼らは、皇女であろうが関係なくサヴィーアを取り押さえようと近づいてくる。サヴィーアは懐からナイフを取り出し、戦闘の構えをとる。
「こいつ・・・! 抵抗するならば切り捨ててかまわん!」
「はっ!」
殺しの認可、新たな命令を下された近衛兵団は 瞬く間にサヴィーアを取り囲んだ。その中の1人が彼女に近づいて来る。
「殿下、これも陛下のご命令故、どうかお許しを・・・」
近衛兵はサヴィーアに向かって剣を振り下ろした。
「くっ!」
とっさにナイフで防御の体勢を取るサヴィーア。しかし、屈強な近衛兵が振るう剣の前にそんなものは役に立たない。ナイフは簡単にはじき飛ばされ、その刃が彼女に襲いかかった。
〜〜〜〜〜
元老院外 首都 中心街
「シトス様より連絡! 元老院へ突入せよ!」
元老院の周辺部、皇族貴族の居住域である中心街の至る所に身を隠していた帝国軍兵士約650名から成るクーデタ軍が元老院正面門扉へと突撃を開始した。
「襲撃だ!」
元老院の門を護っていた衛兵たちは突如現れた大軍に応戦体勢をとる。
「なんとしても門を開き、内部の要人たちを確保するのだ! この国の存続のために!」
すでに日本の力を嫌と言う程思い知らされた彼らは、戦争を集結させるため、本来自分たちが護るべき存在である政府首脳、そしてかつての仲間たちに、刃を向ける覚悟を決めた。
〜〜〜〜〜
元老院 大議事堂
容赦無く皇女の御身に降りかかる剣。サヴィーアは命の終わりを覚悟する。
(・・・これまでか!?)
キインッ!
皇女が死んだ。誰もがそう思ったその時、信じられない光景が近衛兵団、元老院議員たち、そして皇帝の前に現れた。
皇女へ振り下ろされる一太刀、別の近衛兵がその刃を受け止めていたのだ。
「お前、何をする!? 一体何者だ!?」
サヴィーアに剣を振り下ろした近衛兵は、仲間であるはずのその近衛兵の正体を尋ねた。
「・・・・この命は、今の我が主サヴィーア=イリアム殿下より賜ったもの。殿下の身に火の粉が及ぶなら、この命尽きるまで火の粉を防ぐ盾となりましょう!」
口上を述べながら、サヴィーアをかばった近衛兵はその兜へと手をかける。
「お前は・・・!」
兜を脱ぎ捨て素顔を現したその正体に、その場にいる全員が驚愕した。
「シトス=スフィーノイド!!」
すでに公職を追放された元軍事大臣。帝国を欺き収監から逃亡した指名手配犯が再び元老院に現れたのだ。
「殿下、ご無事で?」
シトスは近衛兵の太刀を振り払うと、自身の後ろで床にへたり込んでいた皇女の身を案ずる。
「クーデタを切り出す前にこちらに合図を送る手筈だったでしょう。焦りましたよ」
シトスの言葉にサヴィーアは、はっとした様子で懐を探り、手鏡を取り出した。
「申し訳ありません・・・。緊張のあまり頭から抜け落ちていました・・・」
「全く間に合ったから良いものを、危うく命を落とすところだったのですよ。貴方は抜け目の無い方だと思っていましたが、意外と弱いところもあるのですね。ある意味で安心しましたが」
そう言うとシトスはサヴィーアの手を引き、彼女を立ち上がらせる。
サヴィーアはすこし後ろへ下がり、離れたところへ避難する。それを確認したシトスは再び視線を前へ、皇帝の方へと向け直す。
「国を裏切り、今や札付きとなった売国奴が洒落た騎士のまねごとか? かまうな、まずはシトスを切れ!」
皇帝の更なる命を受け、近衛兵たちは標的を皇女から元軍事大臣に切り替える。
「これも国のためだ! 悪く思うなよ!」
弁明を語りながら剣を構えるシトス。直後、近衛兵の1人が彼に剣を振り下ろした。
「はぁっ!」
シトスに襲いかかる一太刀、しかしそれは空を切る。
「何!?」
「遅いぞ、こっちだ!」
「な・・! ぐはっ!」
声のした方を振り向いた瞬間、首に剣が突き立てられ、その近衛兵はあっけなく絶命した。
「こいつ・・・!」
「怯むな、全員でかかれ!」
近衛隊長の指示を受け、近衛兵たちが一斉にシトスに襲いかかる。
シトスは次々と襲いかかる近衛兵たちの剣をかわすと、彼等が着る甲冑の隙間、首や顔、腕の部分にあるわずかな隙間に向かって正確に刃を突き立てて行く。
「ぐわっ・・・!」
「げぇ!」
「ぎゃあぁ・・・!」
彼が繰り出す鮮やかな剣裁きの前に、近衛兵たちは次から次へと倒される。
「つ、強い!」
数分後、気づけばすでに10人以上の兵士たちが倒されていた。予想外の剣豪振りを見せるシトスに近衛兵たちは怯む。
「殿下には指一本触れさせん。剣など久しぶりだ」
豪語するシトス、しかし彼は息切れを起こしていた。数十人相手に1人で渡り合っているシトスの体力は確実に削られていたのだ。
(早く来てくれ〜!)
表面では余裕を装いながら、とうに限界が近い彼は帝国軍兵士の到着を心の中で懇願する。
その時、傷だらけの衛兵が息を切らしながら大議事堂の扉を開けた。
「ご、ご報告申し上げます! 元老院の正面門より多数の帝国軍兵士が押し寄せて来ております! 門を護っていた衛兵は全滅! 議員の方々と陛下は早くお逃げ・・・」
全てを言い切る前にその衛兵は倒れた。後ろから一突きにされ、もう息は無い。
「やっと来たか、遅いぞ!」
此度のクーデタに参加した帝国軍兵士約600名が大議事堂に到着したのだ。
「申し訳ありません! 衛兵の抵抗が思いの外激しく、元老院入口の確保に手間取りました!」
元老院正面はすでに占拠され、こじ開けられた門扉からは衛兵の骸を越えて、クーデタ軍の兵士たちが次々と元老院の中へ入って来ていた。
「まあいい、殿下は無事だ! 一部は議員たちの身柄を確保しろ! 他の多数は私を援護してくれ!」
シトスの命令を受けて兵士たちは速やかに二手に分かれる。一方は議員席を取り囲み、もう一方はシトスの周りに付いた。
「議員の皆様方はその場から動かぬようお願い致します。我々も無駄な犠牲は出したく無い故・・・」
クーデタ軍の兵士たちは議員たちに剣を向ける。たまらず議員たちは震え上がり、手を挙げて降参のポーズを取る。
「帝国を守るために存在するお前たちが、このようなことをして無事に済むと思っているのか!?」
剣を向けられ怯える議員たちの中で、皇太子ルシムは兵士たちに向かって叫ぶ。
「これはこの国を護るための行動です! 皇太子殿下もここは我々に従って頂きます・・・」
「くそっ・・・!」
このとき、皇族貴族からなる元老院議員214名の確保が完了した。
「陛下、ここは危険です。皇城へ退避を」
「・・・うむ」
乱闘騒ぎとなった元老院を尻目に、2人の近衛兵を引き連れ、皇帝ウヴァーリトは大議事堂を密かに退出した。
(父上・・・!)
退散しようとする皇帝の姿をサヴィーアは見逃さなかった。乱闘の合間をぬって父親の後を追いかける。
〜〜〜〜〜
ヘリ強襲部隊 元老院上空到着時
大議事堂の中央では、帝国軍兵士と近衛兵との激しい戦いが繰り広げられていた。
「このっ! 敵が多すぎる!」
「うわあああ!」
その戦いは帝国軍兵士からなるクーデタ軍の一方的な優勢であった。今までシトス1人を相手にしていた近衛兵は帝国軍兵士の到着により、数の差に圧されて一気に形勢が逆転してしまったのだ。
「抗戦の意志が無い者は武器を捨てよ!」
乱闘の騒音と悲鳴が渦巻く大議事堂内に、シトスの声が鋭く何度も響き渡る。
その声に導かれ、近衛兵たちはまた1人、また1人と手にしていた剣を床に落として行く。瞬く間に兵力の圧倒的な差で圧され、すでに全滅間近だった近衛兵団は生き残った者も武器を捨て降伏した。
ここにクーデタ軍による元老院制圧が達成されたのだった。
「皇帝は何処だ!?」
1人のクーデタ軍兵士が叫ぶ。前方の玉座にはすでに皇帝の姿は無かった。
元老院の本会議場である「大議事堂」の出入り口は2つ。正面門扉から続く正門と、皇城との連絡通路につながる裏門である。皇城の「南麗宮」と元老院は渡り廊下でつながっていた。
正面門扉はクーデタ軍が抑えている。如何なる要人の出入りもクーデタ発生以降、正門では発見されていない。
「となると、陛下は裏門から逃亡されたということだ」
シトスは皇帝の行方を考察する。
「3分の2の兵士は私と共に南麗宮へ向かえ!」
議員たちの制圧に必要な人数を元老院に残して、シトスに率いられたクーデタ軍は裏門へと急ぐ。
元老院に残ったクーデタ軍の兵士たちは、彼らの後ろ姿を目で追いながらクーデタの成功を祈る。
そしてシトスたちが元老院を後にした直後、新たな軍勢が大議事堂の扉から侵入してきた。
「我々は日本軍だ! ここは我々が占拠する! 全員武器を捨てろ!」
突如現れた奇妙な装束に身を包んだ兵士たち、その1人、海兵隊員のダレン=タヴァナー中尉が2発の威嚇射撃を天井に向けて撃ちながら武装解除を呼びかける。
「あれが、ニホン軍の兵士か・・・」
クーデタ軍の兵士の1人がつぶやく。それを聞いた議員は、ついに現れた敵国の兵に再び震え上がった。その後、クーデタ軍の兵士たちは、議員たちに向けていたその剣を次々と床の上に落とす。彼らにはすでに日本に反抗する意志は無い。
「お、お前たち、何をしている! 早く奴らを追い返せ!」
ためらいも無く武装解除するクーデタ軍に皇太子ルシムは驚愕していた。
「殿下、これがこの国を護るための行動です」
全員が武器を捨てたことを確認したタヴァナー中尉をはじめとする日米の隊員たちは、小銃の銃口を下ろした。強襲部隊隊長の安藤一尉の元に無線で任務完了の連絡を入れる。
「元老院の占拠を完了しました!」
スーパースタリオン1機から降り立った陸上自衛隊員と海兵隊員により、元老院は占拠されたのであった。
「ニホン軍の方々、私はクーデタ軍のストリア=アミダロイドと申す」
1人の帝国軍兵士がタヴァナー中尉に近寄る。
「話は聞いている。あなた方の勇気には敬意を表する」
そう言うと、タヴァナーは兵士に向かって敬礼する。
「皇帝は何処に!?」
陸自隊員の1人がストリアに皇帝の行方を尋ねる。
「・・・取り逃がしてしまった! 今、シトス様と我々の仲間が後を追って南麗宮へ向かっておられる」
それを聞いたタヴァナー中尉は飛行中の安藤一尉に更なる報告を入れる。
「第一確保目標はすでに皇城へ逃走した! 身柄の確保を頼む!」
「了解!」
〜〜〜〜〜
皇城 南麗宮
元老院の裏門から、かなり長い渡り廊下を進むと、皇城を成す4つの建物のうち、ここ「南麗宮」にたどり着く。南麗宮は皇帝・皇后の執務及び居住の為の施設である。
「なんとも五月蠅い音だ・・・」
皇城の周りでは、着陸可能な地点を探して、2機のチヌークと1機のスーパースタリオンが飛んでいた。
クーデタ軍と日本軍、2つの軍勢が自分を血眼になって探している。早急に皇城から避難しなければ、命が危ない。
南麗宮の廊下を進んでいた皇帝と2人の近衛兵はある部屋の扉の前に立つ。
そこは南麗宮の2階に位置する皇帝の寝室、その部屋にある机の下には隠し扉が設けられていた。
「この城と首都を捨てることになるとはな・・・」
つぶやきながら自身の机へと一歩ずつ近づく皇帝。2人の近衛兵が机をずらすと、城壁の外へとつながる隠し扉が床に現れた。
その時・・・
「陛下!」
部屋の扉の方から女の声がする。彼ら3人が声のした方を向くと、そこには1人の女性が立っていた。
「サヴィーア! ここまで追って来たのか!」
予想外の来客に皇帝ウヴァーリトは驚く。
「陛下、いや父上! 皇帝たる貴方が国を置いて逃げ出すのですか!?」
隠し扉の中へ足を進めようとしていた皇帝に対して、サヴィーアは声を荒げてその是非を尋ねる。
「私が健在であれば、国など幾度でも興せる。ここは一度引き下がり反撃の機会を待つのだ」
皇帝の言葉も、彼女の耳にはただの言い訳にしか聞こえない。
「首都70万の民を見捨て、逃げ出す皇帝など必要無い!」
「逃げるのではない。戦略的な退避だ!」
「違う! 貴方はただご自分の命が惜しいだけだ!」
「っ・・・!」
皇女が容赦無く突きつけたこの言葉に、皇帝ウヴァーリトは返答に詰まる。
「・・・陛下、貴方はこの国の未来への存続を邪魔している」
一際冷たい表情を見せたサヴィーアは、懐からナイフを取り出した。
「一体何をするつもりだ!?」
「・・・・」
彼女はうつむいたまま、皇帝の問いかけに答えない。
「そのお命・・・頂く!」
直後、彼女はナイフを構えたまま皇帝ウヴァーリトに向かって走る。皇女の行動に皇帝は思わず動揺する。
「お前たち、かまうな! 奴を切り捨てろ!」
2人の近衛兵が皇女の行方を阻むようにして立ちはだかる。そのうちの1人が、一直線に走る皇女に対して剣を振り上げた。
「・・・殿下の邪魔を、するな!」
間一髪、遅れて到着したシトスが、寝室の出入り口から剣を投じる。放たれた刃は剣を振り上げていた近衛兵の顔に突き刺さった。
「ぐわっ!」
その近衛兵は、あらぬところから繰り出された攻撃と、その激痛に倒れ込む。もう1人の近衛兵も予想外の出来事に、意識が一瞬サヴィーアから外れる。
(今だ!)
その一瞬の隙をサヴィーアは見逃さなかった。近衛兵2人をかわすと、あっという間に皇帝の懐に潜り込んだ。
「はあっ!!」
一突き。ナイフの一刀が皇帝の首を貫いた。返り血がサヴィーアに降りかかる。
「かはっ・・・・!」
倒れ込む皇帝。床に横たわる直前、サヴィーアはその体を抱きかかえた。
「お休みなさい・・・良い夢を・・・」
血の紅色に染まりながら、皇帝の遺体を抱きかかえる皇女の姿に、その場にいた全員が戦慄を覚えるのであった。
〜〜〜〜〜
皇城 内部
皇城の庭に降り立ったヘリ3機から、地面へと足をつけた強襲部隊は、4つに分かれて、皇城を成す「北穣殿」「東祭社」「西迎苑」「南麗宮」の捜索を行っていた。わずかに残った近衛兵たちを駆逐しながら皇城内を捜索し、すでに4つ全ての隊が各施設1階の占拠を終えていた。
「1階クリア、目標は確認出来ず!」
強襲部隊の隊員たちは2階へと捜索の手を延ばす。
南麗宮 2階
「行け! 行け!」
大野三尉に率いられた南麗宮の制圧部隊は、無数にある部屋の扉をしらみつぶしに開けながら、皇帝の捜索を行っていた。
すでに近衛兵はほとんどが倒され、彼らの前には非戦闘員である侍女や文官が逃げ惑うだけであった。のれんをくぐるかの様に、これと言った障害も無く南麗宮を走る制圧部隊。進撃を続ける彼らは、1つの曲がり角にさしかかった。念の為、1人の隊員が安全確認を行う。
注意深く向こう側を覗く隊員。目にしたものはとある一室、その扉の前で息を切らしながら呆然とした様子で、部屋の中を眺めている1人の男の姿だった。その恰好から近衛兵と思われる。
「敵影あり! 近衛兵1名を発見!」
久しぶりに現れた敵戦闘員の存在を大野三尉に伝える。
(1人か?)
今まで遭遇した近衛兵たちは、5〜6人の集団となって襲いかかって来ていた。少し疑問を感じながら、大野は後ろに身を潜めていた隊員たちにハンドサインを送る。直後、曲がり角の向こう側へ、8人の陸自隊員が一気に飛び出す。
「武器を捨てろ! 抵抗するならば射殺する!」
突如現れたまだら模様の兵士たちに、近衛兵らしき男は驚く。特に抵抗する様子もなく両手を上げる彼の腰には、なぜか剣が収められていない鞘だけが付いていた。
「わ、私はすでに丸腰だ! というより、私はクーデタ軍だ! 貴方方の敵では無い!」
向けられた銃口を前に、その男は必死に弁明を図る。その直後、部屋の中から1人の人影が出てくる。
「!」
一瞬、警戒心を強める大野。だが、出てきたのは剣も何も持っていない非戦闘員と思しき女性の姿であった。
「・・・」
こちらを見つめる女性の妖しい目つきに大野は思わず息を飲む。
「・・・“前”皇帝ウヴァーリト=バーパル4世はすでに逝去なされた。今は私がこの国の正統な長だ!」
「!?」
皇帝はすでに亡くなった。その女性が発した言葉に大野たちは驚愕する。
「アルティーア帝国暫定政府代表・第三皇女サヴィーア=イリアムの名において、ニホン国より提示された“三カ国共同宣言”の受諾を宣言する!」
「!!」
・・・この時、約一ヶ月半に渡って続いた「日本=アルティーア戦争」はついに終結を迎えた。
この場に立ち会わせた大野たちによる“戦勝報告”は、すぐに各部隊へと伝えられたのであった。
その後、皇帝の死と2人の皇子の幽閉を経て、正式に国家元首としての地位に就いたサヴィーアの元、アルティーア帝国は新たな歴史を刻むことになる。
 




