始動
ようやくキャラ設定に基づく描写を出せました。
ジュペリア大陸 クロスネルヤード帝国 首都リチアンドブルク
世界の中央に位置するこの大陸のこの国の首都、そのとある街角で4人の男が話をしている。
「おい聞いたか!? アルティーア帝国のマックテーユが陥落したってよ!」
「えっ! 一体何処の国に!?」
驚いた顔をする男に、もう1人の男が呆れ顔でつぶやく。
「お前、新聞読まねえのかよ。アルティーア帝国と現在戦争中の“ニホン国”といえば、今世界中を騒がせているだろう」
「何でも、極東の外れにありながら高い軍事力と技術力を持っているらしいな。でも、あの記事に書いてあったことは本当なんだろうか? あまりにも現実離れしていてとても信じられん・・・」
「世界魔法逓信社の発信した情報だぞ? まず、捏造や誤報ってことは無いだろう」
「すげぇ国だな、ニホンは。きっとまた“龍”が入れ替わるぞ!」
世界の人々の話題は突如現れた謎の国・日本に関することで持ちきりな様だ。
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2月7日 アルティーア帝国 首都クステファイ 第二皇子の屋敷
自室でくつろぐ第二皇子ズサル=バーパルの元に、屋敷の召使いが1人、来客を伝えるために入室していた。
「ズサル殿下、サヴィーア殿下がお見えになっております」
「サヴィーアが? 何の用だ?」
予想外の来客に、ズサルは頭上に疑問符を浮かべる。
鈴木海将補との密談の翌日、第三皇女サヴィーア=イリアムは腹違いの兄である第二皇子ズサル=バーパルの御所を訪ねていた。
「何でも急のご用件だそうで・・・お通ししますか?」
「・・・ああ」
少し考える素振りを見せた後、ズサルは答えた。
応接間
テーブルを間に挟み、向かい合う兄と妹の姿がある。わずかな沈黙が流れる中、最初に口を開いたのはズサルであった。
「話と言うのは何だ? 私も忙しいのだ。要件があるなら早く言ってくれ」
つっけんどんな態度を取る兄に、サヴィーアは背筋を立てたまま問われたことを答える。
「率直に申し上げます。兄上にお願いがあるのです」
「・・・何だと?」
妹の言葉に、ズサルはやや怪訝な表情を浮かべる。
「ルシム兄様と父上にニホンとの講和を進言して頂けませんか?」
「!?」
ズサルは目を見開き、これ以上ないという程の驚愕の表情を浮かべた。
「馬鹿な! お前、気は確かか!」
兄が発する怒号にも、サヴィーアは姿勢を崩さず冷静なままであった。
彼女が今回この様な行動に出たのは、敵の首都上陸作戦の日程とその内容を知ったあの日、作戦と同時にクーデタを起こす従来の計画ではなく、やはり日本軍が首都へ侵攻してくる前に講和にこぎ着け、首都臣民の被害を避けたいという意思が勝ったからであった。
2番目の兄ズサルにこの要件を伝えたのは、父と皇太子であるもう1人の兄ルシムと比較すれば、彼がまだ理性的なほうであると判断した為であった。
「はい、私は正気です。兄上も知ったでしょう? イロア海戦の真実を! この国には最早戦う力は無いではないですか!」
意見を述べるサヴィーア。第3者が見れば誰しもが彼女の言葉を正論だと判断するだろう。
「・・・父上の判断により、いずれ軍は再建される。より練度を高め、策を講ずればセーレンを占領しているニホン軍を駆逐し、彼の国を火の海にすることなど容易いことだ!」
ズサルの言葉にサヴィーアは頭が痛くなる。相も変わらず、彼は帝国軍を壊滅させた日本が蛮国であるという認識を崩していなかったのだ。
「軍の再建までにどれだけの時間がかかると思っているのですか!? そんな悠長なことをしていれば、間違い無くその間にニホン軍はここへ攻めて来ますよ!?」
「いくら市井の出とは言え仮にも皇族ならば、蛮族相手に講和を打診することが、どれほどこの国の品位を堕とすことになるか、分からぬ訳でもあるまい!?」
彼女の極めて正しい反論もズサルの耳には届かない。やはり彼も皇帝や皇太子と同じ穴の狢だったか、そう思い始めていたサヴィーアは、最後の希望をかけてズサルに訴える。
「他国への面子よりも、国の存続が大切でしょう!? このまま戦争を続けては間違いなくこの国は滅・・・!」
「黙れ!」
この言葉にズサルの中の何かが切れたのか、いきなり立ち上がった彼はサヴィーアの訴えを断ち切ると、怒りの形相で彼女を怒鳴りつける。
「穢らわしい遊女との落胤が知った様な口を! 蛮族相手の講和などそれこそ国を滅ぼすと言うもの! 我々に意見などするな!」
「・・・!」
ズサルの答えにサヴィーアは絶望の表情を浮かべた。
その後、意見の決裂により彼女は応接間から退室し、ズサルの屋敷を後にする。
(やはりクーデタしか無いのか・・・!)
屋敷の玄関から出て行くサヴィーア。苦虫を潰した様な表情でズサルの屋敷を振り返りながら、彼女は決心を固めるのであった。
自衛隊がアルティーア帝国本土のヘムレイ湾に侵攻し、首都防空網を破壊した挙げ句に主要都市の1つであるマックテーユを占領したのは、この次の日のことであった。
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2月13日 シオン自衛隊基地 基地司令室
「失礼します!」
「かが」艦長 反谷大二郎一等海佐/大佐が鈴木の元に訪れた。
「ああ、お疲れ。それで瓦礫はどうだった?」
2月1日以降、日米合同艦隊によって、イロア海戦によって生み出された大量の瓦礫の処理が行われていた。遊撃群の出撃以降はセーレンに残った18隻によって行われていたが、先が見えず、尚且つ地味な作業に日米双方の隊員たちは頭を悩ませていた。
「はい。やはりどこにも“見つかりません”」
「そうか・・・う〜ん・・・」
鈴木の問いかけに反谷一佐は端的に答える。
実は遊撃群が出撃した5日以降、なんと瓦礫が独りでに減り始めたのだ。はじめは誰もそれに気づかず、清掃作業の結果が目に見え始めたと喜んでいたのだが、日を重ねるにつれて、どうも清掃作業の進捗状況と比較して瓦礫の減りが早すぎることが判明した。そして12日には海の上に浮かんでいる瓦礫はついに0になった。
「まあ、あれだけのごみの山を無事片付けられたのだから良かったじゃないか」
結果論としては鈴木の言うとおりであるし、清掃作業をこれ以上行わなくて良くなったのは幸いだが、作業に参加していた誰もが腑に落ちなかった。
「そのことについてですが、街で妙な話を耳にしました」
「妙な話?」
「はい、一種の伝説的なものだとは思うのですが・・・」
鈴木は反谷が聞いたというその伝説に耳を傾ける。
「海に沈んだ船と船乗りの魂は、“最遠の魔女”の力に奮い起こされて、その残骸を再びより合わせることで“幽霊船”となって蘇り、彼女が率いる“幽霊艦隊”に取り込まれて、時折この現世に現れる、と・・・」
部屋が沈黙に包まれる。本来なら一笑に付すべき他愛もないおとぎ話だが、それは元の世界であればの話。実際に瓦礫が消失した事実、そしてここが魔法の存在する世界であるということ、ただの伝説と決めつけるのは尚早というものだ。
「ま、まあ魔女の仕業かどうかはともかくとして、清掃作業が終わったのは喜ばしいことだよ。明日は隊員たちを労う意味も込めて、全ての作業を休止する。各員よく休養を取るように伝えてね」
「はっ! 皆喜ぶでしょう!」
反谷一佐は敬礼をすると鈴木の司令室から退出した。
(幽霊艦隊かあ・・・、長谷川くんたち大丈夫かなあ? まあそんな話しても彼、信じないからなあ・・・)
誰もいなくなった司令室で、鈴木は敵地で奮闘する同志たちの身を案じていた。
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同日 日本国 東京 首相官邸 総理執務室
首相 泉川耕次郎がデスクに座る傍らで、応接用のソファに、経済産業大臣の宮島龍雄と外務大臣の峰岸孝介、防衛大臣の安中洋介、そして転移により新設された特務大臣「夢幻諸島及び海外開発」担当大臣である笹場茂の4人が腰を掛けていた。
「マックテーユ、並びにウレスティーオ鉱山の確保を完了したそうです」
受話器を下ろすと、防衛大臣の安中がその内容を報告する。
「これで我が国の重工業に救いの光が差し込まれましたな」
伝えられた戦勝報告に経済産業大臣 宮島が笑みをこぼす。
「しかし、まだまだ不足している資源は多い。これらを如何にして手に入れるかですな・・・」
国家戦略特別区域担当・夢幻諸島及び海外開発担当の特務大臣である笹場は、手であごを触りながら、さらなる先を見据える。
「鉛、亜鉛は国内鉱山の再開発が進められていますし、また、国内での産出が見込めず、夢幻諸島でも確認されていないボーキサイトやカリ鉱石は、セーレン王国にて大規模な鉱床が存在している可能性が、現地の自衛隊資源調査団より報告されています」
再び防衛大臣の安中に語り手が移る。
「セーレンとの戦後協議においては彼の国に対して、“戦費支払い義務の破棄”を餌に“国土全域に渡る新たな資源の採掘権”を認可させましょう」
外務大臣 峰岸が今後の外交方針を述べる。
「アルティーア帝国の方はどうしましょうか?」
今まで沈黙していた首相 泉川が口を開いた。
「まずウレスティーオ鉱山、炭鉱確保とアメリカ建国のために“ヤワ半島の割譲”は必須です。その他帝国領内の資源ですが、こちらはセーレンと同じく“すでに開発されているものを除く資源の採掘権”を認めさせるという方針でどうでしょうか」
笹場が尋ねる。
「・・・それでいいでしょう。我々が護るのは“日本の平和と繁栄”です」
机に肘を立て、両手の指を組み、人差し指を鼻の下にあてながら、泉川は答えた。
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2月16日 9:22 アルティーア帝国 ヘムレイ湾
(ったく! 好き放題言ってくれちゃっても〜!)
旗艦「あかぎ」の艦橋にて長谷川は憤慨していた。
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昨日夕方 「あかぎ」艦橋
「長谷川司令、シオン基地の鈴木将補より入電です」
「・・・え」
「? どうかしましたか?」
「いや、今行く」
鈴木からの電話が入ったことが伝えられ、長谷川は部下とともに戦闘指揮所に降りて行った。
「今一瞬だけ、長谷川司令ものすごく嫌そうな顔していましたね」
航海員 中島海士長/兵長は長谷川の一瞬の表情変化を見逃さなかった。
「ああ、あの2人は反りが合わないから。」
佐浦航海長が理由を述べる。
「え、そうなんですか?」
「鈴木将補は時々ひょうきんというのか、ユーモラスな所があるでしょ。真面目な長谷川将補には許せないところが有るんじゃないかな? 俺は、鈴木将補は面白い方だと思うけどね」
「へぇ〜、成る程」
戦闘指揮所
艦橋で航海科の隊員たちが自分の話題で盛り上がっているとはつゆ知らず、長谷川は受話器を取っていた。
「もしもし、お電話変わりました。長谷川です」
「・・・?」
応答が無い。しばらく待つと受話器の向こうから少し甲高い声が聞こえて来た。
「はい、鈴木で〜す! 長谷川くん、元気かい!?」
「・・・・」
(・・・平常心、平常心)
長谷川はざわつく心を落ち着かせる。
「・・・要件を言って下さい。我々も暇じゃない」
「こっちも別に暇じゃないけど」
「・・・・」
受話器を握る手に力が入る。長谷川はざわつく心を再び落ち着かせる。
「それで、本題なんだけど・・・」
鈴木の声のトーンが変わったのを感じた長谷川は、その要件に耳を傾ける。
「マックテーユ占領作戦の2日前に“貝”に連絡が入った」
「!」
「・・・帝国の皇女殿下と、元軍事大臣で今は無職かその皇女殿下の付き人かヒモか分からないような男からね」
(ヒモって・・・)
鈴木によって不名誉なレッテルを貼られてしまっている帝国の元軍事大臣に、長谷川は少し同情する。
「奴さんたち、帝国政府に一発しかけるつもりらしい。敗戦を決して認めないであろう皇帝を引きずり下ろし、皇女殿下による新政府を作るために」
「クーデタを起こすということですか!?」
「そう、その通り!」
敵国に大きな変化が起ころうとしている。これは今後の日米軍の行動を大きく左右しかねない重大な一報だ。
「それで彼らは何と?」
「クーデタを起こすのに“最適な日”を教えて欲しいと言って来た」
「“最適な日”・・・? 教える・・・? ・・・!!」
この言葉に長谷川は全てを悟った。
「それって・・・もしや首都上陸作戦の日程を教えたんですか!?」
「事後報告になってしまって悪いね、長谷川くん」
謝罪を口にしつつも、悪びれない様子で答える鈴木に長谷川は詰め寄る。
「そんな! もし作戦日時が皇帝や政府首脳に漏れれば、上陸作戦で彼らを確保することが出来なくなる!」
「心配しなくていい。革命家たちを信じよう。君たちは“予定通り”首都上陸作戦を行えば良いよ。
ああ、作戦の決行時刻だけは6時から、元老院が開廷されるらしい10時くらいにしといてね。それじゃ!」
「え、ちょっと待ってまだ話が・・・!」
ブツッ!
電話が切れる。この後、鈴木は長谷川がかけた電話を取ることは無かった。
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現在・・・
(・・・確かに、首都の海浜への上陸から、皇城・元老院への強襲攻撃の間に生じる、いや、生じさせざるを得ないタイムラグが、この作戦の1番大きな不安要素だ・・・。
潜入した海兵隊員によって皇城・元老院を監視させてはいるが、彼らの位置から全てを見渡せる訳じゃない。より確実に政府首脳を確保するには、皇城・元老院に出入りできる現地人にやらせるのが、一番殉職者を出さずに済む手段だ)
「まもなく作戦決行時刻です!」
思案にくれる長谷川に飯島船務長は時機が来たことを伝える。
結局、マックテーユ占領から1週間待ったにも関わらず、帝国からの正式なコンタクトは確認されなかった。それどころか他地域に展開している戦力を首都へ移している様子が、潜入した海兵隊員によって確認されていた。
それは、皇帝と帝国政府が徹底抗戦を判断したということを意味していた。
「全艦、首都へ向かって進撃開始!」
長谷川の命令を受け、各艦のスクリューが回りだす。
(そちらがその気ならこちらも容赦はしない!)
海自の強襲揚陸艦「おが」「こじま」そして再合流した「しまばら」、米海軍のドッグ型輸送艦「トーテュガ」のウェルドッグ内では、揚陸艇や水陸両用強襲輸送車の中に、陸自隊員と米海兵隊からなる上陸部隊が、各種兵器や装備品を携えて待機している。
ついに最後作戦、「首都上陸作戦」が当初の予定の4時間遅れで動き出したのだった。




