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オリンピック作戦 参

首都クステファイ 第二竜騎部隊基地 竜舎跡地


「けが人の救助を急げ!」


爆撃を免れた航空部隊と応援に駆けつけた陸上部隊の兵士たちによって、負傷者救援と現状の把握が行われていた。


「うっ!」


第二竜騎部隊隊長アレア=ウェルニックは、F−35Bによる精密な爆撃により、かつて竜舎が建設されていた場所に竜の死体が一面に広がっているのを見て、思わず嘔吐く。

息のある個体もいるが、いずれも負傷が激しく航空戦力としては使用出来そうにない。


「竜は全滅か・・・!」


首都防空網が機能不全に陥った。また敵が空から攻めて来たらどうすることも出来ない。その現実にアレアは絶望する。


〜〜〜〜〜


2月9日 9:00 マックテーユ沖合 60km地点


別動隊の作戦成功の連絡を受け、すでにマックテーユの60km沖合まで接近していた日米合同遊撃群の旗艦「あかぎ」では、次なる作戦の実行のために隊員たちが慌ただしく動いていた。


「空爆作戦決行3時間前!」


「あかぎ」を含む各艦の甲板では、ヘリコプターの操縦士や航空士たちが出撃準備を整えている。


「警告部隊出動!」


各艦から、戦闘機団離陸に先立ち哨戒ヘリコプター部隊計15機が出撃した。彼らの任務は空爆を行うにあたって、対象区域となる一帯の民間人に対する避難警告である。


〜〜〜〜〜


10:00 ヘムレイ湾北部沿岸 工業都市マックテーユ 沿岸の工場群


ここには街から16kmほど北側、すなわち内陸に位置するウレスティーオ鉱山から採掘され運ばれて来る鉄鉱石を材料として、剣や砲、そして銃や甲冑などの鉄製武器を作製する軍需工場地帯が存在する。軍から派遣された取締役や警備兵の監視の元、低賃金で雇用されている下層の帝国国民や、属領属国から献上、または連行され、融解した鉄の取り扱いなど危険な作業に無給で就かされる奴隷たち、実に3万人近い従業員が働いていた。


そんな中、完成した大砲の運び出しを行っている1人の青年がいた。彼の名前はパルヴァナ=サラミック。アルティーア帝国の属国であるトミノ王国から献上された奴隷の1人である。


「足が止まっているぞ!」


帝国軍の崩壊が明らかにされたことより、その再建を目的として帝国政府からの武器・軍用品製造の受注が大量に届けられたため、ここ3日程、従業員たちの労働時間が大幅に増加し、その内容も過酷さを増していた。この日も夜明けから続く重労働に足が動かなくなったパルヴァナに対して、警備兵が怒号を飛ばす。


「ご、ごめんなさい。し、しかし、昨日も3時間程しか眠らせてもらえず、そして今日もまだ休息を取らせて頂いていません。どうかご慈悲を!」


少しだけでも休みたい、心からの懇願を警備兵に伝える。


「何!?貴様、奴隷の分際で口答えをするか!」


「い、いえ。そんなつもりは!」


警備兵の怒りを買ってしまった彼は、必死に首を左右に振り弁明を図った。


「うるさい!」


警備兵は棍棒を高く振り上げた。


「ひっ!!」


腕で頭を覆い、思わず保身の体勢を取る。警備兵が彼に殴りかかろうとしたその時、空の彼方からけたたましい羽音が鳴り響くと同時に白い飛行物体の大群が姿を現した。


「なんだ、あれは!?」


都市の上空に「あかぎ」と「おが」「こじま」その他数隻から離陸した哨戒ヘリコプター部隊計15機が出現した。その異様な光景にパルヴァナを殴ろうとした警備兵も思わず手を止め、空を見上げる。


「周囲に敵航空戦力は無い。これより予定通り任務を開始せよ。」


彼らの後方を進みながら、SPYレーダーによって周辺空域を監視していた帝国主要部遊撃群のイージス艦「きりしま」から通信が入る。

その後、哨戒ヘリコプター部隊の機体に取り付けられた拡声器から工業地帯全域に警告が発せられた。


「我々は日本国軍である!今から2時間後、この都市の工場地帯全域を標的として空爆を開始する。民間人は即刻退避せよ!なお、2時間後この工場地帯内部に残っている者に命の保障は出来ない!繰り返す、我々は・・・。」



「に、逃げるぞ!!」


従業員の1人が発したその一言を合図に、従業員たちがパニックを起こし工場地帯は大混乱となった。


「おい、勝手に持ち場を離れるな!」

「静まれ!静まらんか!」


警備兵たちは逃げ惑う従業員たちを押さえようと怒鳴り、棍棒を振るうが、焼け石に水という言葉がふさわしく、3万人のパニックは止まらない。

施錠された工場地帯の出入口には、我先にと大群が押し寄せ団子状態となり、空爆に関わらず圧死や将棋倒しで今にも死人が出そうなほどになっていた。そしてついに大量の人の塊によって出入口の門が破られ、3万人の従業員たちは一気に市街地へと流れ出る。その中にはパルヴァナの姿もあった。


「あっ!しまった!」


門から出たところでパルヴァナは足を止め、大群の流れに逆走しようとする。

その様子を見ていた同僚の1人が思わずパルヴァナの腕をつかみ引き留める。


「おい、パルヴァナ!一体どこ行くつもりだ!?」


「忘れ物!」


「は!?」


驚く同僚の手を外し、パルヴァナは一路工場地帯の中へ戻って行った。

その後自らの宿舎の中に入っていった彼は、寝床の下からネックレスを取り出す。


「これだけは置いて行くわけにはいかない・・・。」


彼が取り出した金色のネックレス、それは平民出身でありながらトミノ王国の独立を掲げ、大衆を束ねて独立運動を指揮し、そして散っていった彼の母親、“女傑”ロムネア=サラミックの形見であった。


〜〜〜〜〜


11:50 旗艦「あかぎ」 戦闘指揮所(CDC)


「まもなく2時間経過! 空爆作戦決行時刻になります!」


時計を観察していた船務士 望月二尉が、帝国に与えた退避時間の終了間近を伝える。それを聞いた長谷川は各戦闘機に命令を下す。


「戦闘機団、離陸せよ!」


直後、空爆部隊計45機が積めるだけの無誘導弾を携えて空母「あかぎ」と強襲揚陸艦「おが」「こじま」の3隻から離陸した。


〜〜〜〜〜


マックテーユ 沿岸の工場群


「また何か来たぞ!」


警備兵の1人が哨戒ヘリコプター部隊に遅れて登場した戦闘機空爆部隊を見つける。45機の群れは標的である工場群を覆い尽くす。


「各機、無誘導弾投下!」

「了解!投下します。」


命令とともに各機から数百発という無誘導弾が工場地帯全域に投下され爆発した。

鉄を作るための溶鉱炉、生産した新品の大砲や銃、その他多くの武器、鉄製品が爆発に巻き込まれて破壊されて行く。


「うわあぁ・・・!」

「ぎゃあぁ・・・!」


逃げ遅れた者たちの悲鳴が、工場地帯の外まで響き渡る。


工場地帯で繰り広げられる圧倒的な破壊。市民や逃げ出した従業員たちはこの都市を支える産業の中枢が無残に破壊されていくのを、ただ呆然と見ることしか出来なかった。




工場地帯警備部 部長室


「工場地帯全域に爆撃を受けています!負傷者死者多数!」


「くそ!何が一体どうなっているんだ!」


部下の報告を受けたマックテーユ工場地帯警備部長ポア=チャネルは、想定外の出来事に右往左往するばかりであった。


「あ、そうだ。首都警備隊へ連絡しろ! 応援を要請するんだ」


「了解!」


指示を受けた部下が信念貝へと手を伸ばす。


「駄目です!連絡が取れません!」


このとき、帝国の首都警備隊の竜騎部隊は空爆部隊とは6時間早く「しまばら」から離陸した首都攻撃部隊によって全滅しており、他地域に航空戦力を送ることなど出来なかった。


「じゃあ一体どうすればいいんだ!?」


警備部長ポアは頭を抱える。

そのとき、警備部の上にも無誘導弾が投下された。


「うわあああ!」


警備部の建物は爆撃に耐えきれずに崩れ去り、その中にいた帝国の役人や警備兵たちは瓦礫の下敷きとなった。




「・・・・あっ!」


形見のネックレスを取りに戻っていたパルヴァナはいつの間にか気絶していた。


「うっ・・・。た、確か襲撃を受けて!」


大きな音と衝撃、パルヴァナは最後の記憶をたどる。

彼のいた宿舎にも無誘導弾が投下され、その爆風と爆音に気を失ってしまったのだ。


「・・・・。」


上を見上げると宿舎の屋根を成していた瓦礫の隙間から日の光が見える。あれをどかせば外に出られそうだ。腕に力を入れ、瓦礫を押し上げる。


「何なんだ・・・。これは。」


言葉が出ない。


壊れた宿舎の中から起き上がったパルヴァナが見たものは、無差別に破壊され瓦礫の山と化したマックテーユ工場地帯の姿だった。




「工場地帯に敵影無し、上陸問題ありません」


哨戒ヘリコプター部隊から旗艦「あかぎ」へと報告が入る。


「よし、上陸開始!」


長谷川の命令を受け、輸送艦「おおすみ」と「しもきた」のウェルドッグからエアクッション揚陸艇(LCAC)4隻がマックテーユの海浜に上陸した。各種装甲車・車輌、そして陸自、海兵隊員からなる歩兵団が破壊された工場地帯に足を付けた。またこれらの輸送艦の甲板から、チヌーク(CH-47JA)部隊3機が追加の歩兵団を乗せて離陸した。


「生存者を一カ所に集めろ! 抵抗するならば容赦はするな、力ずくで抑えるんだ!」


「ヘリは領主の屋敷の確保、またウレスティーオ鉱山の確保に急げ!」


圧倒的な破壊力を見せつけられ、また帝国軍による保護も無く、多くの武器も失い、すでに反抗する意志を失っていた都市の確保は、数時間後に滞り無く完了した。


〜〜〜〜〜


首都クステファイ 行政局


首都への攻撃により、各方面からひっきりなしに入って来る被害報告の対処に追われ、各政府機関は大混乱に見舞われていた。

宰相イルタの執務室にも被害報告や現状報告のため、扉を破るようにして次から次へと局員が入室して来ていた。


「首都警備隊の所有する竜は全滅。クステファイは制空権を失いました」


局員が被害を伝える。その時また別の局員が入室して来た。


「マックテーユにおいても“空飛ぶ剣”による爆撃により、多大な被害が出たとの報告が入っております!

現地からの詳細な報告によると、工場地帯は壊滅、製造されていた武器兵器全てが破壊されたとのこと!」


「・・・何だと・・・!」


軍需産業の破壊。イルタは敵の狙いを悟る。


「失礼します!」


「今度は何だ!」


早朝から何度も繰り返すやりとりに嫌気が差したのか、イルタは声を荒げる。


「はっ・・・! 爆撃の直後、マックテーユにニホン陸軍が上陸。マックテーユとウレスティーオ鉱山は敵の手中へ落ちました・・・!」


〜〜〜〜〜


旗艦「あかぎ」 艦橋


「作戦は成功だな」


各部隊から送られてくる報告に、長谷川は満足げな笑みをこぼす。


「さて、これで帝国がどう出てくるか・・・」


最後の標的・首都クステファイは目前だ。それはアルティーア帝国の終わりがすでに目前にまで迫っていることを意味する。


「せめて、アルティーア皇帝が理性的な判断を伴うお方であることを祈りましょう」


長谷川の傍らで、航海長 佐浦道幸二等海佐/中佐が帝国の英断を祈る。



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