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暴かれた真実 各国の動き

2月5日


アルティーア帝国 首都クステファイ 行政局 イルタの執務室


「し、失礼します!!」


自室にて執務に励む宰相イルタの元へ、1人の局員が血相を変えて飛び込んで来た。


「どうした、そんなに慌てて?」


息を切らす局員に少々驚きながらも、イルタは落ち着き払った様子で尋ねる。


「本日早朝、世界魔法逓信社の号外紙が発行されていました!そ、それがこれです!」


局員が差し出した号外紙には次の様な見出しが書かれていた。


“アルティーア帝国、イロア海戦にて大敗北!総戦力の9割を喪失”


「何だ、これは!」


イルタは愕然とする。


「内容によると、侵攻軍はイロア海においてニホン軍に大敗、ほぼ全滅したとのことです・・・。」


「な、何だと!!侵攻軍の動向は軍事局によって随時報告されている!そんな訳が・・・!」


イルタは奪い取るように局員の手から号外紙を取る。その中にはセーレンにて現地取材を行った記者により明らかにされた、衝撃の事実が書かれていた。


“ニホン軍、死傷者0”

“世界の常識を超越した超兵器”


さらなる衝撃がイルタの体内を駆け巡る。


「軍事局にすぐ連絡しろ!」


「はっ、はい!!」


局員が執務室を退出した後、イルタは怒りと動揺が入り交じった感情を込め、机を殴った。


(シトスの奴、まさか皇帝陛下を、帝国を欺きおったのか!?いや、あれだけの戦力、全滅したということの方が信じがたい・・。とにかく真偽を確かめなければ!)


世界魔法逓信社から発表された帝国軍の壊滅という一大事件は、行政局だけでなくあらゆる政府機関、アルティーア国内、そして世界中に瞬く間に広がり、ついには皇帝の耳にも届けられることとなった。

行政局は軍事局が提出した報告内容について精査するため、急遽元老院を招集することを決定した。


〜〜〜〜〜


首都クステファイ 元老院 大議事堂


イロア海での戦いの真実を明らかにし、軍事局のねつ造の疑惑を追求するため、御前での証人喚問が元老院にて行われることとなった。


「軍事局大臣シトス=スフィーノイド、証人台へ。」


名前を呼ばれ、シトスは元老院のほぼ真ん中に位置する証人台に立つ。


「これよりシトス=スフィーノイド氏の証人喚問を始めます。」


総勢214名の皇族貴族からなる元老院議員と皇帝の御前で、シトスの証人喚問が始まった。参加者の中には第三皇女サヴィーアや皇太子ルシム=バーパルの姿もある。


「証人に問う、貴殿が報告したイロア海戦における戦果、あの内容に虚偽は無いか?」


進行役のデクス=アトリアム侯がシトスに質問した。


「・・・・もうごまかせませんね。」


彼は小声でつぶやくと、ついに真実を語り出す。


「確かに私は嘘をつきました。真実は今日報道された通りです!」


「何を!?」

「帝国を欺いたのか!?」

「この恥知らず!!」


この発言にすさまじい野次と罵声が飛ばされる。しかし、シトスは依然顔色一つ変えること無く証人台に立っていた。


「皇帝たる我を欺いた以上、覚悟はしているようだな・・・。」


彼の様子を見た皇帝はシトスに尋ねる。処刑されても文句は無いな、彼はそう聞いているのだ。


「はい。しかし、私を処刑することは帝国にとって多大な不利益になりますよ・・・。」


軍事大臣のこの言葉に議事堂内がざわつく。


「今更命乞いか!」

「今すぐ処刑台へ送ってやれ!」


更なる野次と罵声がシトスに浴びせられる中、サヴィーアは愕然とし、彼を睨みつけた。


(あいつ、一体何を考えている!?)


「・・・・・。」


サヴィーアの視線に気づいたシトスだが、すぐに目線を前方に戻す。


「皆静かに。」


皇帝の静止に、怒りのままに罵倒を続けていた議員たちが静まり返る。


「不利益とはどういうことだ?お前の代わりなどいくらでもおるのだぞ?」


皇帝ウヴァーリトはシトスの言葉の真意を尋ねる。


「・・・私は国内で唯一、ニホン政府との音信手段を持っているのです。」


シトスは少し間をおいて答えた。議事堂内が再びざわめき始める。


「それが答えか・・・。」


皇帝ウヴァーリトは少し期待はずれといった様子でつぶやく。


「先日彼の国より、講和の打診が届けられました。彼らは我々帝国を滅ぼし、民を虐げる意志は無いと申しております。現在の帝国は兵力のほとんどを失い、身ぐるみをはがされて、猛獣がうごめく荒野に放り出されたに等しい状況です。この状況を打開するには彼らとの交渉が必要だと思われます!」


シトスは実際に突きつけられた内容を、かなりぼかして説明する。何より、皇帝や議員、閣僚たちにとって”一番大事な事”を伝えていない。


「優勢の側から講和を打診するなどありえぬ。」


この世界において戦争の講和とは、劣勢の側から持ちかけるのが常識である。ゆえに講和とは持ちかけた側の敗戦を意味しているのだ。


「彼らは元々、別の世界から来たと主張していたそうですね。故に、我らの常識で彼らの行動をはかるべきでは無いと存じます。」


シトスは少々苦しい言い訳を述べる。


「では、具体的にどうするというのだ?」


「彼らは帝国の一部領域に自軍を設置させろと申しております。故にここはニホン軍の駐留を甘んじて受け入れ、他国に対する盾として利用すべきです。」


毒を以て毒を制す、この提案に元老院は再び騒ぎ出した。


「馬鹿な!」

「あやつ帝国を売る気か!」

「売国奴!」


飛び交う野次を断ち切るようにシトスは声を荒げて説明を続ける。


「し・か・し!報道にも記述されていた通り、彼の国の軍事力はアルティーア帝国だけでなく、世界のあらゆる国家を凌駕しております!その軍が帝国国内に存在すれば、それだけで大きな抑止力に成り得ます。先程も述べた通り彼らには民を虐げる意志はありません。」


「そんなこと信じられるか!」

「蛮族の戯れ言にすがるというのか!」


あまりにも斬新すぎる彼の提案が参加議員の壮絶な罵倒に晒される中、シトスは壇上の皇帝の顔色を伺う。


「言いたいことはそれで終わりか?」


頬杖を付きながら皇帝ウヴァーリトはシトスに尋ねる。


「!?・・・はい!」


「よろしい。」


「!・・では!」


自らの提案が受け入れられた、そう思ったシトスの心は皇帝の次の一言で打ち砕かれた。


「近衛兵、あいつを捕らえよ。」


皇帝の命を受け、彼のそばに控えていた近衛兵たちが瞬く間にシトスを取り囲んだ。


「何を!」


抵抗する間もなく、彼は近衛兵たちによって拘束されてしまう。


「・・・その様な提案が叶えられると思っていたのか。」


「!」


「愚か者が。今までの敗戦、虚偽の報告、そして此度の売国行為、これらを踏まえてお前を軍事大臣から解任する!処罰は後々決めるとしよう・・、覚悟は出来ておるな?」


皇帝の言葉にシトスは青ざめる。


(まずい!ここで殺される訳には!)


「どうか、どうかお待ちを!私の話を聞いて下さい!」


シトスは大議事堂から連れ出されるのに抵抗しながら、必死に主張する。


「このままでは、ショーテーリア=サン帝国による侵攻を受けるのは時間の問題、それだけでは無く、帝国に従属を誓ったはずの属領・属国群でも反旗を翻す動きが出ているとの報告が治安維持軍より入って来ております!

帝国が草刈り場となることを防ぐ為には私とニホンとの間に築かれているパイプが必要不可欠なのです!どうかご英断を、陛下!」


必死の主張も誰の耳にも入らない。

まもなく、強制的に元老院を退出させられたシトスは、同日、軍事大臣の任を正式に解かれ、首都北西部に位置する牢獄へ連行されることとなる。


その後、元老院の総意として早急な軍の再建と日本に対する徹底抗戦が決定されたのだった。


〜〜〜〜〜


ショーテーリア=サン帝国 首都ヨーク=アーデン 皇帝の居城 国家会議室


世界魔法逓信社の報道を受けて、この国でも緊急会議が開かれていた。


「今や長年の宿敵、アルティーア帝国は虫の息!攻めるならこれ以上の好機はありませぬ!」


軍事卿オクタヴィアス=クローヌスが皇帝セルティウス=ミサル=アントニスに、アルティーアへの出兵を訴える。


「・・・駄目だ。」


皇帝セルティウスはオクタヴィアスの提案を静かに否定した。


「なぜ!?初代皇帝の悲願たる大陸統一を果たす唯一無二の好機なのですぞ!」


「・・・恐らくニホンがアルティーア本国へ侵攻して来る日は遠くない。すなわち今、兵を出せばニホンとぶつかる可能性が高い。さすればアルティーア帝国の二の舞になりかねんぞ。」


宰相コンティス=アルヴェオリスが、興奮するオクタヴィアスを抑えるように説明する。


「くっ・・・それは・・・!」


「もし、ニホン軍が逓信社の発表通りの力を有しているとすれば、彼の国と衝突した場合、こちらが受ける被害が甚大だ!」


宰相の的確な指摘に軍事卿オクタヴィアスは黙り込むしか無くなった。


その後、会議の結論としてショーテーリア=サン帝国は日本=アルティーア戦争の静観を継続することとなった。


〜〜〜〜〜


同日 臨時首都シオン 自衛隊/日本軍基地 司令室


幹部たちが集まり、ここでも会議が開かれていた。


「分かってはいると思うが、あまり悠長にしていられなくなったな。」


長谷川は自身を取り囲む幹部たちと、現状について話し合っていた。


世界魔法逓信社の取材によって、当初の目的の1つであった軍事力の誇示は達成された。しかし、1つの問題が発生した。

それは帝国の敗戦が世界へ向けて大々的に報道されたために、第3国が介入してくる可能性が出てきたことだ。帝国が草刈り場となる前に、日本には確保しておかなければならない場所がある。


「すでに全艦、いつでも出撃出来る準備を整えてあります。」


飯島二佐は整備状況が万全であることを述べる。


「よし・・・、本日の午後4時出撃だ。参加する各員に身支度を整えるように伝達しろ!」


会議終了から6時間後、戦闘計画の第5段階・帝国主要都市マックテーユ占領のため、帝国主要部攻撃のために組織された遊撃群16隻がシオンから出航した。



日米合同遊撃群 総司令 長谷川誠海将補/少将


航空母艦「あかぎ」

強襲揚陸艦「しまばら」「おが」「こじま」

米駆逐艦「ベンフォールド」「マスティン」

米巡洋艦「チャンセラーズビル」

護衛艦「きりしま」「たかなみ」「おおなみ」「てるづき」

補給艦「はまな」「ときわ」

輸送艦「おおすみ」「しもきた」

ドック型揚陸艦「トーテュガ」


〜〜〜〜〜


アルティーア帝国 首都クステファイ


首都北西部の牢獄へ行く馬車、その中には兵士に挟まれた元軍事大臣シトス=スフィーノイドの姿があった。


(・・・まあ、良い。いずれニホン軍はここへ攻めて来る。そうなれば陛下も議員どもも私の意見を無視出来まい・・・。)


テマの信念貝への発信コードを知るのは、彼と彼の腹心の部下たちだけだ。


(いずれ返り咲いてやる!そして帝国がニホンによって占領された後も生き残って見せる!)


牢獄へ連行されている最中、彼は決意を心に燃やしていた。


その時・・・


「な、何だお前たちは!?」

「何を・・・、ぎゃああ!」


なにやら外が騒がしくなったかと思うと、騒々しい物音と御者の叫び声が聞こえた。


「何だ、何があった!?」


馬車の中でシトスを護送していた兵士たちが、外の様子を確かめるために彼を残して馬車から降りて行く。

その直後、再び騒々しい音が聞こえたかと思うと、馬車を降りた兵士たちのものと思われる悲鳴が聞こえたのだ。


「・・・!!?」


シトスは恐る恐る窓のカーテンの隙間から外の様子を覗く。そこには異様な光景が広がっていた。

なんと馬車にて彼を護送していた帝国軍兵士が別の帝国軍兵士の集団によって殺されていたのだ。


「ひっ・・・!」


想像を絶する光景に思わず悲鳴を漏らした。襲撃してきた兵士たちはシトスが乗る馬車へ目を向けると、こちらへ徐々に近づいて来る。


(に、逃げねば・・・!)


しかし、体が動かない。目と鼻の先に急遽迫った死への恐怖に腰が抜けていたのだ。そうこうしているうちに、ついに馬車の扉がこじ開けられた。シトスは死を覚悟する。


「・・・シトス様、ある方より貴方様と個人的に対話の場を持ちたいとの申し出がございます。どうか我々と共にお越し頂きたい。」


「!?」


シトスは兵士が発した言葉に目を丸くする。

その後、彼らに言われるがまま、シトスは首都のとある建物へと連れられて行った。

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