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王女の帰還

前二話の一部表現・台詞を少し修正しました。

近衛兵団長シモフ=ラクリマルの手記


我々はニホン国を蛮国だと侮っていた。それ故、アルティーア帝国を退けたという彼の国の戦績に対しては、所詮卑劣な罠でも使ったのだろうと根拠もない虚構を立てることで、我々が軍事力において蛮国よりも劣っていたという事実から目を背け、その中身もない自尊心を保っていた。それ故ニホン国を頼るというヘレナス殿下の提案にも私は断固として反対した。


しかし、事実は私が恐れた通りであった。サファント王国の港町ラーガシュに現れた彼の軍艦は城のように大きく、そして海を泳ぐ魚のように速い。とても辺境国家としてはふさわしくない、七龍すら遙かに超越する技術を目のあたりにすることになった。


そして戦の日、「あかぎ」という艦から飛び立った「戦闘機」という航空兵器は、目視出来ないほどの速さを誇っていた。あのようなものに対処、ましてや迎撃するなど、いかなる手段を執っても不可能だろう。

私はこの時、あの会談の場で富田殿に働いた非礼の数々、その重大さを思い知らされた。次に彼に会う日には、私は彼の元に跪きその許しを請うてしまうかも知れない。もしかすると、蛮族は我々の方だったのかも知れないのだから。




「作戦時間4時間半、アルティーア帝国軍の殲滅を完了しました。どうです、日本は強いでしょう?」


「・・・・・・・・・。」


「きりしま」に乗船していた王女ヘレナスや王子メネラス、そしてシモフを初めとした近衛師団など亡命政府の面々は、目の前で行われた一方的な戦闘に愕然とし、声も出なくなっていた。


「・・!え・・ええ、そうですね!」


少し間をおいてヘレナスは「きりしま」艦長 六谷修平一等海佐/大佐の問いかけに答える。


〜〜〜〜〜


「っ・・・・!」


基地に到着したセシリーを始めとするパルチザンの前に広がっていたのは、あまりにも悲惨な光景だった。


かつて敵の基地が存在したはずの場所は、ほとんど焼けた瓦礫の山になっており、また瓦礫に混じって、かつて人の体を成していたと思しきものが辺りに散乱していた。加えてなにやら黒こげになったものがうごめいているのも確認出来る。恐らくはそれも人“だった”ものだろう。


これらの惨状を前にして、彼らの心には憎き敵だったはずの帝国軍にある種の同情心が芽生えるほどだった。


「隊長、あれを!」


パルチザンの1人が指さした方向を見ると、占領軍を滅した謎の艦隊の一隻が、基地港とは逆側の南西の港に停泊しようとしていたのだ。


「すぐに南西の港へ向かう!全員警戒を怠るな!まだあの者たちが味方と決まった訳じゃない!」




パルチザンたちが南西の港に到着すると、すでに巨大艦の一隻が着岸していた。

周りには街の住民が野次馬となって集まっている。


「どいてくれ!」


野次馬をかき分け、パルチザンたちは民衆の前に出た。


「私はセーレン王国軍の将セシリー=リンバス!我々の敵を滅してくれたことに礼を言いたい!貴艦に尋ねる、指揮官は誰か!」


セシリーが港に着岸した護衛艦「きりしま」に向かって叫ぶ。

その時、艦から下船用のタラップが下ろされる。そこから人影が降りて来た。


「!」


セシリーは警戒する。しかし、その人影は彼らがよく知る人物だったのだ。


「・・・ヘレナス殿下、よくぞご無事で!」


元セーレン王国将軍の1人であるセシリーは本来の主人である王女の元に駆け寄って膝を付き、その手を取って涙を流す。


「申し訳ありません、セシリー。あなたたちには苦労をかけました。」


「もったいないお言葉、この度の戦いで命を落とした同志たちも浮かばれましょう!」


ヘレナスに続き、かつて祖国を追われた亡命政府の人々が続々と「きりしま」から下船し、再びセーレンの地に足をつける。その様子はシオンの市民から歓喜の声をもって迎えられた。


君主と従者の再会を自衛隊の面々は「きりしま」の甲板から満足気に眺めていた。




その後、沖合に停泊していた「あかぎ」から、総司令である長谷川を乗せた小型船が着港した。


「セシリー、こちらが此度の王国奪回のために援軍を出して下さったニホン国の将軍 長谷川誠殿です。」


港にその姿を現した艦隊指揮官 長谷川の名をヘレナスは伝える。


(・・・ニホン?列強国ではなかったのか・・・!?)


予想外の事実を知らされたセシリーは胸の内で驚愕していた。


「・・・宜しくお願いします。セシリー殿。」


ヘレナスの紹介に与った長谷川はセシリーに握手の右手を差し出した。

セシリーはその右手を一瞥すると、長谷川の顔に目線を移す。


「・・・故郷を取り戻して頂いたことにはお礼申しあげます。しかし、私はニホンという国の名を聞いたことが無い。一体貴方の国はどこにあるのですか?」


「我々の国はノーザロイア島よりさらに東、極東世界と呼ばれる領域の東端に存在しています。」


「なるほど・・・・・。」


納得した様子のセシリーは少し間を開けた後、日米合同艦隊の方へ目線を移す。


「それにしてもあの艦隊や先程の攻撃を見るに、貴方がたはとてつもない軍事力と技術をお持ちのようですが、一体どちらの列強から取り入れられた物なのでしょう?」


「我が国はこの世界の列強たる七龍各国とはいずれも国交や貿易交流などありません・・・。あちらに並んでいるのは、我が国で設計され我が国で建造された艦です(米軍の巡洋艦は違いますがね)。それとも貴方はあれらと似た艦をどこか別の国で見たことがあるとでも仰るのですか?」


長谷川の答えを聞いたセシリーは怪訝な表情を浮かべる。直後、表情を戻した彼はヘレナスの方を向いた。


「我々は殿下のご帰還というこの吉報を直ちに全国の同志たちに伝えて参ります。後にしかるべき場にて改めてお会いしましょう。」


そう言うとセシリーはパルチザンを引き連れ、ヘレナスと長谷川の前から立ち去った。


「・・・ヘレナス殿下、この国には握手という習慣は無かったのでしょうか?彼にはこの右手の意図を掴んで頂けなかったようですね・・・。」


セシリーとの対話の最中、差し出し放ちで引っ込みがつかなくなっていた右手を動かしながら長谷川は尋ねる。


「いいえ・・・、そのようなことはありません。」


ヘレナスは小さな声で答える。彼女にはセシリーが握手に応じなかった理由には察しが付いていた。恐らくは・・・・




その後、長谷川は「きりしま」の隊員たちによる護衛のもと、亡命政府の人々とともに旧シオン領主の屋敷へ向かう。


「・・・・。」

「ヘレナス様が連れて来られた彼らは、一体どの国の軍なのだろう?」

「見たことの無い顔立ちだ・・・。」


占領軍を圧倒的な力で殲滅した異国の軍隊による凱旋を、市民は畏怖の目で眺めていた。


~~~~~


旧シオン領主の屋敷 執務室


「では、セーレン王国奪回における協定に従い、この地に日本軍の基地を建設しますがよろしいですね。」


「・・・はい、約束を反故にするつもりはありません。」


長谷川の言葉にヘレナスはきっぱりと答えた。


その後、シオンの港に接岸した輸送艦「おおすみ」や護衛艦「かが」から、新たな基地建設のための物資やトラック、重機が下ろされる。屋敷のバルコニーからその様子を見ていたヘレナスは複雑な気持ちになっていた。


(あのアルティーア帝国軍があっという間に全滅した・・・。)


国を取り戻せたのは確かに奇跡だ。だがそれは王国の勝利ではない。彼女の記憶の中で奇襲戦の凄惨さが何度もフラッシュバックする。


(彼らは天使か、それとも悪魔か・・・。)


サファント王国で行った協議の中で、日本が好戦的な国ではないことは分かっている。彼らがアルティーア帝国とは違い傲慢な侵略者ではないことも。


「シモフ。」


「はい、殿下。」


「私はセーレン王国を救うつもりでとんでもない怪物をこの国に呼び込んだのかも知れません。」


「・・・・。」



翌日早朝、自衛隊の施設科隊員と民間の作業員により、湾港設備の完成を最優先として急ピッチでの基地建設が開始された。


~~~~~


アルティーア帝国 首都クステファイ 皇帝の居城 皇帝の執務室


「今、何と言った?」

「うぅっ・・・申し訳ありま・・・」

「何と言ったと聞いたのだ。」

「はい!帝国軍シオン基地はニホン軍の奇襲を受け壊滅しました!」


静寂を装う皇帝ウヴァーリト4世の血走る目から分かる巨大な怒りに、軍事大臣シトスは萎縮しながらセーレン王国での大敗の報告を繰り返した。


「申し訳ありません!」


床につけんとばかりに頭を下げ続ける。


「・・・どうやら生半可な戦力ではニホンに対しては甘かったようだな、イルタ。」


ウヴァーリト4世は側に控えていた宰相イルタに問いかける。


「はっ!ニホンの軍事力は極東の蛮国としては飛び抜けており、外務局極東課の報告内容をはるかに超えていたものと思われます。」


「外務局のたわけどもが、敵の力を見誤りおって・・・。極東課の連中にはそれ相応の処罰を与えるとしよう。」


ウヴァーリト4世は立ち上がり、イルタとシトスに次なる命令を下した。


「軍全体に命じよ。我がアルティーア帝国軍の総力を以てニホンを殲滅するのだ!」


「はっ!仰せの通りに!」


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