セーレン王国奇襲作戦 壱
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セーレン王国西部内陸に位置する王国の首都セレニア。そして南方の海岸に位置するセーレン王国最大の港町シオン。帝国の占領軍はこのシオンの港付近に陸上基地及び海軍基地を置き補給等を行っており、占領軍のほとんどがここに集結していた。
首都セレニアやシオンの町では毎日のように帝国兵による暴行、略奪、陵辱が発生しており、また度々起こっていたセーレン王国軍残党からなるパルチザンの基地襲撃は、帝国軍の陸砲や最新兵器である「銃」などによる火力差の前に全て失敗していた。
「働き盛りの若者が皆殺された!男手が足りない・・・。」
「また若い娘が帝国兵に連れて行かれた・・。これで何十人目だ?」
「食糧を村から根こそぎ奪われた!明日からどうやって生きて行けばいいんだ・・・?」
度重なる悲劇。明日のない、希望の無い日々にセーレン王国民は絶望の底にいた。
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1月10日未明、シオンから70kmほど離れた海上に日米合同艦隊11隻が人知れず停泊していた。
〈日米合同艦隊 先発隊〉
総司令 長谷川誠 海将補/少将
海上自衛隊
護衛艦「あかぎ」「まや」「きりしま」「たかなみ」「かが」「いかづち」
輸送艦「おおすみ」
強襲揚陸艦「しまばら」
米軍第7艦隊
ミサイル巡洋艦「シャイロー」「チャンセラーズビル」「アンティータム」
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1月10日 AM1:00 旗艦「あかぎ」艦内 多目的区画
敵基地奇襲に先立ち、作戦の詳細を確認するため「あかぎ」内の各科の長や艦長、そして先発隊総司令の任に就いた長谷川などの幹部が集い、最終作戦会議が行われていた。
「1時間前、偵察ドローンより敵基地の画像が送られてきました。こちらがその画像です。」
「あかぎ」船務長 飯島晃二等海佐/中佐が、空から撮られた数枚の画像を大型画面に写し出す。
「見て分かる通り、敵基地はセーレンの南の海岸にあるシオン市の南東部市街地を潰したその上に作られています。すなわち街と港、両方に接した形になっており、陸海空全ての機能を複合したものとなっている。これほど大きな基地はセーレン国内には他に無く、現状として王国を支配する占領軍の本拠地となっています。ここを落とせば、事実上セーレンの奪還は完了したことなります。」
飯島は次に、基地の中で画一的に並んだ建物群を指さす。
「恐らくこれらが竜舎・・・そしてこれらが兵舎でしょう。今回の作戦にあたり最優先の空爆対象です。」
さらに今度は港を示しながら説明を続ける。
「港には敵の軍艦が並んでおり、竜舎及び兵舎を破壊した後は艦砲による攻撃を行います。また戦闘機による攻撃終了後の地上残存戦力については先程述べた通りに対処を行います。」
説明を聞いていた総司令の長谷川海将補/少将は、少し眉間にしわを寄せる。
「基地が市街地と接しているとなると、無誘導弾の投下には細心の注意を払わなければならないな・・・。」
「もちろんパイロットには市街地との境界付近には投下しないように注意喚起を行います。」
飯島は簡潔に答えた。
「よし、予定通り3時間後、・・・作戦開始だ。」
会議終了後、各幹部たちはそれぞれの持ち場に戻り、その時まで待機を続ける。
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AM3:59
「・・・いよいよだな。」
時計を見ながら長谷川はつぶやいた。数十秒後、秒針が12を差すと同時に、作戦開始のコードが全艦に向けて発信された。
『ニイタカヤマ、登レ。〇一一〇』
「あかぎ」より艦隊全てに伝えられたその通信を合図に空母「あかぎ」から早期警戒機E−2D 2機、F−35C 22機、及び在日米海兵隊第1航空団のF/A−18Dレガシーホーネット 11機が、強襲揚陸艦「しまばら」からはF−35B 5機が日米合同の戦闘機団として大量の無誘導弾と、また万が一の為に少数の空対艦ミサイルと空対空ミサイルを乗せてシオンの帝国占領軍基地へ向けて飛び立った。
この世界ではレーダーが存在せずステルス性を維持することが不必要だと判断され、各戦闘機はそれを無視した通常ならありえない弾装が施されている。
また、戦闘機団の発進と同時に日米合同艦隊がシオンに向かって進軍を開始した。海空に戦力を分けた彼らの目的はただ一つ、敵基地の殲滅である。
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セーレン王国 港湾都市シオン沖合 10km地点
「ん〜?何だ、ありゃ。」
「鳥の群れ・・・にしちゃ速いな。」
夜間哨戒中の竜騎兵が水平線の向こうから超スピードで接近する戦闘機団を発見したが、夜明け前の漆黒のためその姿を正確に視認できない。
「うわっ!」
それらは彼らの近傍を、轟音と突風を伴い高速で抜き去る。彼らの乗っている竜は轟音に驚き制御が取れなくなる。
「て、敵襲だ!」
竜騎兵は暴れる竜を立て直しながら未知の飛行物が敵であることを悟った。彼はすぐさま「信念貝」によって基地へ緊急事態を知らせる。
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アルティーア帝国占領軍基地 司令部
当直の音信兵が眠い目をこすりながら、着信を伝えるために光輝く「信念貝」を取る。
「司令部に連絡!司令部に連絡!」
「ふあ〜あ、そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ・・・。」
音信兵は少し夢見心地のまま竜騎兵の音信に応える。
「基地に向かって高速飛行物体が接近している!敵襲だ!」
「っ・・・な、何だって!」
竜騎兵の報告内容に通信兵は一気に眠気を醒ます。
「は、早く司令に伝えないと、・・・・?」
椅子から立ち上がったその時、彼はこちらへ接近している謎の音に気づいた。この時、基地の中で起きている者は彼を含め、数十名しかいない。
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シオン沿岸部 上空
早期警戒機ホークアイにより、敵航空戦力が基地上空を飛行していないことが戦闘機団に無線で伝えられ、各機は任務を遂行するための態勢を整えていた。敵基地の内容は事前に艦隊から飛ばされた偵察ドローンにより、すでに把握されている。
「最優先爆撃対象上空に到達」
敵基地上空に到着した戦闘機団の眼下には、画一的に並んだ横に広い建物群があった。それは占領軍が保有する竜が飼育されている竜舎であり、先程抜き去った夜間の哨戒のために飛んでいる5〜6騎を除いて全ての竜がここに保管されていた。暗視装置を付けたパイロットたちはその標的を暗闇に惑わされることなく確認する。
「全機、無誘導弾投下!」
「了解。爆撃開始します。」
「3、2,1・・・投下!」
戦闘機団隊長機の号令とともに、各機に装着されていた無誘導弾が切り離され、竜舎区域に優先的に、尚且つ基地全体に降り注ぎ爆発した。
辺り一帯に響く爆音は、ある者にとっては強烈な目覚まし、そしてある者にとっては人生の幕切れを告げる音となる。
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アルティーア帝国占領軍基地
「敵襲!敵襲!」
「竜舎が被弾した!」
「弟がやられた!治療してくれ、頼む!」
「足が!俺の足がどっか行っちまった!」
「司令に連絡を!早く!」
夜明け前の奇襲という攻撃は帝国軍に最悪の悲劇をもたらした。ほとんどの兵士が就寝中であったため、この第一撃で基地に属する大半の兵力を失ってしまったのだ。運良く自分たちの宿舎が被弾せず生き残った兵士たちも、突然の奇襲爆撃にパニックになる。
・・・
同基地内 司令部
「一体何事だと言うのだ!」
夜明け前に叩き起こされた基地司令サファル=リブは、部下に状況を確認する。
「敵襲を受けています!敵の航空戦力より基地全体に爆撃を受けました!」
「なに!?・・・すぐに竜騎を飛翔させろ!敵を迎え撃つんだ!」
「了解!」
命令を受けた部下はすぐに竜整備員に連絡する。
「何だって・・・!」
「どうした!?」
基地司令サファルは驚愕した声を上げた部下に状況を尋ねた。
「竜舎全てが敵の爆撃を受け、保管されていた竜は全て死亡が確認されたそうです・・・。」
「な・・・!」
信じがたい現実にサファルは声が出なくなる。
その後、哨戒活動から帰還した竜騎兵も戦闘機によって瞬く間に堕とされ、アルティーア帝国シオン基地は奇襲攻撃の1時間後に全ての航空戦力を失い、制空権を失った。
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旗艦「あかぎ」 艦橋
洋上を進む「あかぎ」に戦闘機団のE−2Dから通信が入る。
『トラ、トラ、トラ(我奇襲に成功せり)!』
「作戦の第一段階は大成功だな。」
合同艦隊先発隊総司令 長谷川誠海将補/少将はE−2Dの通信を聞き、満足そうにつぶやいた。東の水平線を見ると一筋の日の光が合同艦隊を照らしているのが見える。
(この世界でも朝日は東から登るのか。)
日の出を眺めながら、長谷川は懐かしさを感じていた。
 




