高貴なる島国 セーレン王国
混乱を避けるために前置きとして
「『七龍』の一角」にチラッと出てきた「セーレン王国」は極東連合には加盟していません。
そのため、「ロバーニア沖海戦壱」の一文に出てきたアネジア王国は海戦後、極東連合軍によって帝国の残兵が駆逐されましたが、セーレン王国は未だに占領下に置かれたままなのです。
ロバーニア沖海戦から2日後、ノーザロイア5王国の一、サファント王国の首都ポートレイに本拠を置くセーレン亡命政府から、日本政府と会談の場を設けたいという申し出があったとサファント外務局より日本大使館に伝えられた。
同日、日本政府代表として在サファント日本大使 富田和重が会談に臨むこととなった。
「気を悪くしないでください・・・。」
会談場所である亡命政府本拠に向かう馬車の中、外務局長のサリアは申し訳なさそうにつぶやいた。
「?・・・どういうことです?」
サリアは重い口を開く。
「・・・セーレン王国は島国ではありますが、ウィレニア大陸文化圏に属しているため、他の極東諸国を軽蔑する風潮が根付いているのです。亡命政府の代表であるヘレナス殿下は心優しい方なのですが、その他の者はちょっと・・あれでして・・・。」
「・・・・。」
会談の場に向かう中、富田は悪い予感にとらわれる。
亡命政府本拠に到着、そして会談場の扉を開けると3人の男女が富田を待っていた。そしてサリアの仲介のもと、日本とセーレン王国の協議が始まった。
「ヘレナス殿下、こちらが在サファント王国ニホン大使の富田和重殿です。富田殿、こちらは右から亡命政府代表にしてセーレン王国第一王女であるヘレナス=ミュケーナイ殿下、同じく第三王子のメネラス=ミュケーナイ殿下、そして近衛師団長のシモフ=ラクリマル殿。」
「宜しくお願いします、富田殿。」
そう言うと、ヘレナスは握手を交わすため右手を出した。
「こちらこそ宜しくお願い致します。さて、我が国に一体どのようなご用件でしょうか?」
手を握り返しながら富田は会談の場を求めた理由を尋ねる。
「ロバーニア沖海戦で貴国が上げた戦果、お聞きしました。貴国は非常に優れた軍隊をお持ちのようですね。」
「ヘレナス殿下御自らそう仰って頂けるとは、我々も鼻が高いですな。」
軽く言葉を交わした後、富田はヘレナスの目つきが神妙になるのを感じた。
「・・・単刀直入に申しあげます。セーレン王国をアルティーア帝国から奪回するためニホン軍を派遣して頂きたいのです。」
やはりそういう話か。富田は心の中でつぶやく。
「それは・・・、本国に連絡してみなければ、返答しかねます。しかし、未だ国交の無い貴国のために見返りもなく日本政府が軍を出すかどうかは微妙な所ですな。」
富田は事実を淡々と述べる。
「黙って聞いていれば、貴様あまりにも不遜ではないか!」
「・・・はい?」
近衛師団長のシモフがいきなり立ち上がり怒鳴り出した。
「ヘレナス王女殿下御自ら、貴様ら極東の未開国にわざわざ対等な立場に立って頼んでいるのだ!所詮まぐれでアルティーア帝国軍を退けたからっていい気になりおって!」
「!?」
「あまり姉上を煩わせるな。お前たちはただ我々の命令に従い軍を出せばよい!極東洋でもどうせ蛮族にふさわしき卑劣な罠でも使ったのだろう?」
王子メネラスも一緒になって富田を罵倒する。
それが仮にも人にものを頼む態度か。富田はそう叫びたいのをぐっと我慢する。サリアが言っていたことはこのことだったのだ。
「やめなさい!シモフ!メネラス!」
「!!」
王女の怒号にその場にいる全員がおののいた。
「富田殿、臣下の非礼をお詫びします。もちろん今すぐ返答はもとめません。しかし家族と国を奪われた我々は、藁をもすがる思いでサリア殿にあなたと引き合わせてもらうようにお願いしたのです。」
「・・・・・・・。」
「どうかセーレン王国を取り戻すため、お力を貸してください!お願いします!」
そう言うと、ヘレナスは富田に頭を下げる。富田は王女の切実な思いと誠意ある行動に心を動かされる。
「・・・分かりました。この件、日本政府に報告させて頂きます。」




