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旭日の西漸 第1部 極東の騒乱篇  作者: 僕突全卯
第1章 列強との邂逅
13/42

初戦闘 ロバーニア沖海戦 弐

一部描写を訂正しました

旗艦「あかぎ」 艦橋


『各艦、標的の振り分けが完了しました』


 戦闘指揮所(CDC)の船務長から艦橋の鈴木に、攻撃態勢が整ったことが伝えられる。


「敵の数は?」


『400隻程が確認されています』


「400÷7で護衛艦1隻あたり、60隻弱か。主砲だと弾数は・・・まあ大丈夫だな・・・」


 部下の報告を受けた鈴木海将補/少将は少し考えるそぶりを見せると、各艦に向けて命令を発した。


「各艦、速射砲・単装砲によって4発ずつの連射を11回まで行い、その後、残存艦がある場合は続けて砲撃、万が一弾切れの際にはSH−60Kによる対艦ミサイル攻撃で撃破する!」


〜〜〜〜〜


アルティーア帝国極東洋侵攻軍 旗艦「アカイメネス」


「捕らえたロバーニアの民は好きにするが良い!」


「うおおお!!」


 将軍サトラフの言葉に、帝国兵士は下種な想像に身をゆだね、その士気が高まる。いよいよあと1時間もすれば戦闘だ。サトラフも軍人としての血が昂ぶっていた。

 その時、極東連合軍の巨大艦の砲が突如、閃光を放ったのだ。


「砲撃か?奴らあんな所から何を・・・」


 前方を進む艦に乗っていた兵士の1人がそう言いかけたとき、彼が乗船していた艦も含め、前方を進んでいた複数の軍艦が、巨大な火柱を上げながらほぼ同時に轟沈した。


ドン! ドン! ドン! ドン!


「なっ・・・!」


 軍艦の轟沈と時同じくして、敵艦の砲撃音が彼らの耳元に届いた。眼前で繰り広げられた想像を絶する光景に、将軍サトラフは声が出なくなる。呆気にとられている指揮官に、兵士の1人が被害状況を伝える。


「報告します!前方の艦30隻近くがほぼ同時に撃沈されました!」


 部下の言葉に、サトラフは思わず自身の耳を疑った。


「どういうことだ!火薬庫で事故でも起こったのか!」


「いえ、極東連合軍のあの巨大艦より砲撃を受けたものと思われます!」


ドン! ドン! ドン! ドン!


 再び巨大艦の砲が閃光と砲撃音を放つと、別の軍艦が30隻近く同時に海の藻屑と消える。


「ええい、何をしている!こちらからも早く砲撃せんか!」


「無理です!とても届きません!奴ら、完全に我々の砲の射程外から攻撃しています!しかも驚くべき正確さです!」


「くそ!一体どうなっているんだ!?」


 さらに巨大艦の連続射撃第3波に遭い、周りの軍艦が一方的につぎつぎとゲームのように沈められていく。パニックを起こす兵士たち、艦隊は瞬く間に統率が取れなくなっていく。

 沈められた艦からは、各艦に載せられていたアルティーア帝国が誇る「紅龍」と「青龍」の竜騎が、断末魔を上げながら飛び立つことも無く、艦の残骸に巻き込まれて海の底に沈んでいった。わずか3回の攻撃によって、帝国の船団は旗艦を含め残り4分の3ほどとなっていた。


「竜は!あと何騎残っている!?」


 サトラフの質問に、部下の兵士は顔を青ざめながら答える。


「の、残り80騎ほどです・・・!」


「すぐに残存の全竜騎を飛翔させよ!その総力をもってあの黒い船を沈めるのだ!」


 支援軍艦隊の第3波砲撃終了後、サトラフの命令は竜騎を乗せている残存の艦全てに伝えられた。


・・・


軍艦「アシュール」 艦内竜舎


「急げ!すぐに竜騎を飛ばすんだ!いつこの艦も沈められるか分からん!」


 整備長の支持のもと、整備兵たちによって竜騎兵の離艦準備が迅速に整えられていた。


「甲冑良し、固定良し、準備完了!いつでも飛べるよ、ドルサ!」


「ああ!悪いな、ランバル!お前は手際が良くて助かる!」


 竜騎兵の青年は幼なじみの整備兵に礼を言うと、竜騎用軽式甲冑の兜を頭にかぶせる。


「飛行口を開け!」


 整備兵3人の力によって船体の右舷後部に設置された竜騎兵の飛行口が開かれる。その向こうはすでに軍艦が何隻も沈められた戦場の海だ。


「行け行け行け!」


 整備長の号令とともに、軍艦アシュールに乗せられていた竜騎5騎が次々と飛行口から飛び上がって行く。そして最後の1騎、ドルサが飛び上がろうとしたその時・・・


ドン! ドン! ドン! ドン!


 支援軍艦隊による第4波砲撃の轟音が響き渡った。

 飛行口の向こうに目をやると、右を走っている軍艦の材木が飛び散り、人が吹き飛ばされる様子が見えた。少しのタイムラグの後、その軍艦の火薬庫の位置から爆発が起こり、海の藻屑と消えた。

 迫り来る死を目の当たりにした整備兵たち、軍艦アシュールの艦内竜舎は沈黙に包まれる。


「おい!びびってるのか、間抜け面ァ!」


 その沈黙を裂くようにランバルは飛行口で呆然としていたドルサを怒鳴りつけた。


「・・・はっ!びびってるだと?死ぬ覚悟は出来てるってんだよ!俺が死んだら憶えとけ!悪霊になって真っ先にお前の寝床に出てやるよ!」


 親友の活に普段の元気を取り戻したドルサは、憎まれ口を叩き返すと勢い良く艦から飛び立った。


(・・・だからお前、死ぬなよ・・・!)


 艦から離れた直後、ドルサは小声で親友の生存を祈る。


「・・・俺は死なないよ、親友。」


 聞こえていたのか、または以心伝心か。空高く飛び立ち他の竜騎兵と合流したドルサの姿を見ながら、ランバルはつぶやいた。

 ドルサの竜騎が飛び上がった後、支援軍艦隊の第5波砲撃の直撃を受けた軍艦アシュールは、同じく火薬庫の爆発を起こし海に沈むこととなる。


〜〜〜〜〜


戦闘海域 上空


 サトラフの命令を受け、第4波砲撃の最中、残存の軍艦から無事に飛び上がった竜騎兵は53騎であった。その様子は上空より敵を観察していた早期警戒機ホークアイ《E-2D》によって確認される。


「『あかぎ』に通達する。敵の航空戦力を確認した」


『了解。直ちに戦闘機を離艦させます』


 ホークアイ《E-2D》の報告を受け、「あかぎ」のカタパルトからF−35Cが次々飛び立った。




 竜騎部隊が護衛艦に迫る中、航空部隊の隊長機を操るパイロットが無線で「あかぎ」と連絡を取る。


「こちらシェパード1、敵航空戦力の竜騎兵を確認」


『ただちに全て迎撃せよ!』


「了解!」


 「あかぎ」の指令を受けたパイロットは、ミサイルの発射装置に指をかける。同様に旗艦の命令を受けた各戦闘機でも竜騎に標準をあわせていた。程なくして各ミサイルのシーカーが目標を捉える。


「目標補足・・・・発射!」


 隊長機の両翼から、2基の中距離空対空ミサイルが発射される。それに続き、各機の翼からも中距離空対空ミサイルが連続して2基ずつ発射された。


・・・


 竜騎兵隊長カビュスに率いられ、護衛艦に襲いかかろうと迫る竜騎兵隊。彼らの目は、ニホンという国の圧倒的な軍事力の前に迫る死への恐怖を押さえ込むように血走っている。


「あのでかい船をすぐに沈めるんだ! 各騎炎放射用意!」


 竜騎兵隊長カビュスの号令で、各竜騎兵が護衛艦に対して攻撃体勢をとる。全ての竜騎が口を開けたのを見計らって、カビュスは攻撃命令を出す。


「よし、撃・・!」


ドドドドーン!!


 攻撃開始の直前、突如前方から爆撃を受け、竜騎兵の3分の1が海の中へ消えた。


「なんだ、今のは!?」


ドドドドーン!!


 再び謎の爆音とともに竜騎兵20騎が海に落ちて行く。そのときカビュスはとてつもない速さで近づいてくる物体に気づいた。


「あれは竜騎か?いや、違う!」


 未知の飛行物体が自分たちの竜騎を遙かに超える速度で接近する。それらはある程度こちらまで近づくと隊をなして急上昇し、その後も編隊が乱れることなく一列になって竜騎兵隊へ向かって急降下する。

 カビュスはその曲芸ともいえる飛行に呆然としながら見入っていた。


「ああ・・・・何と!・・・あの高速でこのような飛行が可能なのか・・!」


 未知の飛行物体はその両翼から火を吹く槍を発射した。仲間の竜騎兵を撃墜したものの正体だろうそれらはまっすぐ超スピードでこちらへ飛んでくる。


「回避!」


 カビュスの命令を受け、竜騎兵隊各騎はとっさに逃げようとしたが、槍の群れは各個が各竜騎に向けて方向転換し、これらを追尾する。


「ば、ばかな!」


 カビュスは叫ぶ。その直後、彼は爆音とともに海に消えた。

 残存の竜騎20体は中距離空対空ミサイルにより撃墜され、侵攻軍の竜騎は全滅した。最後に撃墜された竜騎兵隊の中には軍艦アシュールから最後に飛び上がった青年の姿もあった。


〜〜〜〜〜


旗艦「アカイメネス」


 瞬く間に海の藻屑と消えた竜騎部隊の無残な姿を目の当たりにした各艦の兵士たちは、まるで死んだ魚のように、締まりの無い表情を浮かべていた。


「俺たちは夢でも見ているのか・・・?」


 1人の兵士がつぶやく。彼らは目の前で繰り広げられた一方的な惨殺を、現実として受け止められないでいたのだ。

 それは指揮官のサトラフも同様であった。魂が抜け落ちたかのように唖然としていた彼に、兵士の1人が報告を入れる。


「報告!軍艦ズサ、戦線を離脱して行きます!」


「・・・なに!?」


 部下の言葉で我を取り戻したサトラフは、その報告内容に愕然とした。

 竜騎も全て失い、護衛艦の主砲による正確無比な砲撃が帝国軍艦隊を次々と沈めていく一方的な殺戮ゲームとも言える惨状を前に、軍艦が一隻逃げ出したのだ。


・・・


軍艦「ズサ」


「冗談じゃない!俺たちが相手しているのは悪魔か何かだ!このまま犬死になんてごめんだ!」


 軍艦ズサの艦長ゴルタは吐き捨てるように言った。逃げ出すズサのあとを追うように他の軍艦2隻も勝手に戦線を離脱して行く。


・・・


旗艦「アカイメネス」

 

「あいつら・・・!それでもアルティーア帝国の軍人か!」


 怒りを湛え、叫ぶサトラフ。冷静さを欠いている様子の指揮官に部下が注進する。


「我々も撤退すべきです!このままでは全滅です!」


「ばか!そんなみっともないまねができるか!」


 サトラフは部下を怒鳴りつける。傍目に見れば誰がどう考えても、この状況では撤退が正しい。しかし、列強国を相手にしているならともかく、今相手にしているのはあくまで”極東の未開国”なのだ。もしここで逃げ延びても、皇帝の怒りに触れるのは間違い無い。さすれば敗軍の将に与えられるものは一族郎党を含めた”死”だ。


(そんなはずは無い! 我々がこの極東洋で負けるなどあってはならない!)


 目の前の現実を受け入れられないサトラフ。もしかしたら、すでに彼の精神は侵されていたのかも知れない。その瞬間、サトラフは変化に気づく。


「・・・?」


 第11波砲撃の後、敵の艦に動きが無くなったのだ。


「はは!弾切れか!?いいざまよ!」


 高笑いするサトラフ。彼は立ちすくむ部下たちの方へ振り返ると、意気揚々とした声で新たな命令を下した。


「全艦、敵艦隊に向かって突撃!」


 この一時の静寂を好機と見たサトラフは、20隻も残っていない艦隊に進撃命令を下した。彼の言葉に、周りにいた兵士たちは、“冗談だろう”と


「なっ! ご冗談を! 最早戦闘を続けられる状態ではあり・・・」


パアンッ!


 命令の実行不能を伝えようとした部下を、サトラフは兵士の1人から奪い取った銃で撃ち殺したのだ。


「!?」


 その様子を見ていた兵士たちは、指揮官の凶行に震え上がった。


「退くも死、蛮族相手ならば降伏も死・・・それなら奴らの腹に一発、砲を撃ち込んでやる!」


 凶悪な形相を受かべるサトラフ。その目には狂気を湛えている様に見えた。

 その後、20隻も残っていないアルティーア艦隊は、よたよたと毛皮をはがれた羊の様に、最初とは比べものにならない、覇気の無い進行を始めた。その直後・・・


「・・・敵艦、砲撃発砲!!」


「な・・・!」


 各護衛艦の砲から最後の砲撃が放たれた。旗艦「アカイメネス」は、第12波砲撃による主砲の弾丸を受け爆発を起こした。


「こ・・・、こんなことがありえる訳が・・・・!」


 サトラフは爆炎に飲み込まれた。砲撃を受けた残存の軍艦はゆっくりと海に沈んで行く。アルティーア帝国の艦隊は、逃走した3隻を残し、文字通りこの海上から姿を消したのだった。


〜〜〜〜〜


旗艦「あかぎ」 艦橋


 その数分後、洋上から全ての軍艦が姿を消したことを確認した「てるづき」から、旗艦「あかぎ」に通信が入れられる。


「『てるづき』より連絡、敵戦力の殲滅を確認したようです」


 通信士の報告を受けた鈴木は、全部隊に対して最後の命令を下した。


「全艦戦闘終了。生存者の救出作業に入って」


・・・


極東連合軍 各艦


「何・・・という・・!」

「これがニホン軍の強さか・・。なんて強大な力なのだ!」

「ロバーニア王は彼のような者たちを味方に引き入れていたのか・・・。」


 極東連合軍の武官たちは、盟主ロバーニアが助力を求めた未知の国、日本のあまりに強大な軍事力を目にして放心状態となっていた。兵士たちも帝国軍艦隊の残骸が浮かぶ水平線をただ呆然と眺めている。


〜〜〜〜〜


同時刻 ロバーニア王国 首都オーバメン近郊


「戦闘終了だってよ。」

「・・・俺たち出番無かったな。」

「まあ、それが良いんだけどさ。」


 戦車と装甲車に乗り、最終防衛線としてアルティーア帝国軍の上陸と首都侵攻に備えていた陸上部隊の自衛官たちは口々につぶやいた。


〜〜〜〜〜


ロバーニア北西部の漁村 アチュ村


「すごい・・・、こいつは特ダネだ!」


 海岸にて今回の戦争の取材に来ていた「世界魔法逓信社」の記者リヨードは、世界の常識を覆す目の前の光景に胸が躍っていた。


「早く号外を出さなくては!」


 そう言うと彼は、すぐさまこの世界の通信機である「信念貝」に手をかける。


 戦闘の結果、帝国軍の軍艦324隻は逃亡した3隻を残し海中に消え、竜騎110体は艦ごと海に沈むか、またはF−35Cの餌食となり全滅し、帝国軍の生存者は派遣された兵力の1%ほどの700余名しか残らなかった。一方で極東連合軍の死傷者は0であり、この「ロバーニア沖海戦」は極東海洋諸国連合の大勝に終わったのだった。

 その後、無傷で帰還した兵士たちの報告を受けた極東海洋諸国連合の各国によって、それらの国々の大使がロバーニアの日本大使館に押し寄せることとなる。

 また世界魔法逓信社によって、この事件は世界中に広まっていくこととなる。

F−35Cがちょっとしたアクロバット飛行をしたのは完全にフィクションの演出です。


余談ですが漫画「ブラックジャック」でFー35Bの様なVTOL機がBJ邸に横付けする描写が出てくるんですが、それって大丈夫なんですかね?

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