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旭日の西漸 第1部 極東の騒乱篇  作者: 僕突全卯
第1章 列強との邂逅
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「七龍」の一角

ついに脅威が現れます。

「転移」から3ヶ月後、日本は新たな世界の中で、少しばかり不自由もありながら比較的安定した生活を営めるようになっていた。


〜〜〜〜〜


事件は突然起こる。


ノーザロイア島とウィレニア大陸北部の間に位置する島国セーレン王国が、近年極東方面への勢力拡大姿勢を強めているアルティーア帝国に滅ぼされた。

その3日後の12月7日、かの帝国が極東洋に対しても、その魔の手を伸ばしてきた。特使を介して帝国がロバーニア王国、ひいては極東海洋諸国連合にしてきた要求は次のとおりだ。


・ ロバーニア国王は連合最高理事の座を帝国より派遣された者に譲渡する。

・ 全連合国の領土領空領海及びそこに位置する各種資源は全て帝国の管理下に置く。

・ 連合は毎年指定された数の奴隷を差し出す。

・ 帝国政府は全連合国民の財産を管理下に置く。


どれもこれも飲んでしまえば主権国家とは言えなくなってしまうような要求ばかりである。

そして最後はこう締められていた。


・セーレンの二の舞にはしたくない。


セーレン王国もまた、これらの要求を提示され拒否したから帝国に滅ぼされたのだろう。


「とうとうこの極東洋にも野心を向けて来たか。大陸の半分を手中にしながらまだ足りぬとはな・・・。」


ついに恐れていた事態が現実となってしまったことに、ロバーニア国王アメキハ=カナコクアは頭を抱える。


「しかし・・・、ふざけているな、これは・・・。」


アメキハは、執務室にて帝国の特使より渡された書簡を見つめそうつぶやいた。


「ですが、率直に申し上げればアルティーア帝国と我ら連合とでは、その戦力は雲泥の差。奴らにあらがう術など無いのが現実です・・・。」


王国宰相アトト=イスキイアは、自分たちが帝国の要求をはねつけられる力など持っていないという現実をそのまま述べる。


「・・・私は帝国の足下に下るつもりはない。」


「!?・・・では、どうされるおつもりですか?」


アトトはこの状況で抗戦の意志を示した王の胸中を理解しかねていた。彼は全面戦争に突入するより、ここは屈辱に耐え帝国に屈する選択を取る方が、少なくとも多くの連合国民の生命は救えると考えていたからだ。


「愚問だな・・・、今すぐ連合国全てに伝えよ!極東海洋諸国連合はアルティーア帝国と開戦する、と。・・・そしてニホン、彼の国にも軍事支援を求めるのだ。」


「!」


日本!あれほどの品々を生み出す未知の技術を持っている彼らなら、アルティーア帝国を退ける力も持っているかも知れない。国王の真意を理解したアトトは、膝をついてその命令を拝聴する。


「・・・はっ!仰せのままに!」


(ニホン国、そなたらの力とくと見せてもらうぞ!)


翌日、在ロバーニア王国日本大使館を介して、極東海洋諸国連合からの軍事支援要請が日本政府に伝えられた。


〜〜〜〜〜


「ロバーニア国王は我々の要求を拒否しました。さらに早くも各連合国に戦争準備と軍の集結を呼びかけています。」


アルティーア帝国特使が本国の外務局に、「遠隔地間音信魔法」を用いるための魔法道具である「信念貝」を用いて交渉決裂を報告する。


「なんと愚かなことだ。セーレンの惨状を見てなお帝国に抵抗の意志を示すか。正気の沙汰とは思えんな。まあ良い、これで我ら帝国の版図はさらに広がる・・・。」


アルティーア帝国外務大臣カブラム=クレニアはほくそ笑んだ。彼は立ち上がるとそばに控えていた秘書に命令を出す。


「皇帝陛下にお伝えせよ。ロバーニア王国は我々に敵意ありと!ロバーニアを攻め滅ぼすため、軍派遣の許可を!」


その後、アルティーア帝国皇帝ウヴァーリト4世の決定によりロバーニア王国への派兵が正式に決まった。


〜〜〜〜〜


日本国 東京 首相官邸 国家安全保障会議 9大臣会合


国家安全保障会議の中でも必要に応じて開かれ、武力攻撃事態の対処等、国防に関する重要議題を総合的・多角的観点から審議するためのものである。

今回は議長たる内閣総理大臣の許可のもと、本来なら参加資格の無い農林水産大臣も含めた9人の議員が参加している。

議題内容は在ロバーニア王国日本大使館より伝えられた、極東海洋諸国連合からの軍事支援要請の可否についてである。


「平和主義の精神は変わらない。出来れば戦闘は回避するに越したことはありません。ただ・・・もしロバーニア王国との貿易が途絶えたらどうなりますか?」


転移してまだ3ヶ月しかたたない日本にとって、数少ない友好国を1つ失うことはそれだけで打撃である。泉川はその事実を危惧していた。


「ロバーニア王国は現在、日本で消費される海産物と果実の主要な輸入源です。この友好国を失ってしまっては、これらの品目はまた配給制を布くしかなくなる。」


臨時参加が許可された農林水産大臣 小森宏は最大の懸念材料である国内の食糧事情への影響を説明する。


「もっとも、ノーザロイア5王国からの輸入量だけで全国民の食を支える量はありますが、相手は近世のスペインやイギリスのように対外進出を国是とする覇権主義国家・・・。極東連合を手中にした後は、ノーザロイアにその矛先を向けるのではないでしょうか?

もしもそうなってしまっては、日本は再び餓死者大量発生の国家危機に直面することとなってしまう・・・。」


「そうなっては日本は滅ぶか、略奪による修羅の道を行くか、どちらかを選ぶしかなくなるな。」


外務大臣 峰岸孝介は腕を組みながらしかめ面でつぶやいた。

その後、防衛大臣 安中洋助が手を上げて発言する。


「先の戦争を経て、我々も国民も積極的に自らの身を守ることの重要性を知ったはずです。我々は国民と国家を守ることを第一に考えるべきです。

アルティーア帝国がロバーニア王国を滅ぼすことが、将来日本国民の生命の危機を招くことになりかねないならば、この不穏の種を我々は全力をもって払拭すべきではないでしょうか。」


「たとえ・・・、その後この世界の強国たるアルティーア帝国と戦争になりかねないとしてもですか?」


もし派兵するとしたら、現在国交開設交渉中のアルティーア帝国とは完全に敵対することになるだろう。それどころか、両国の間で戦争になりかねない。

泉川のこの不安に安中は少し間を置いて答える。


「・・・準備はしておきましょう。」


「外務省としても、現在帝国に派遣している外交団に安全確保のため、一時国外退去の命令を出すことにする。」


峰岸も続けて答えた。


「ただ・・・野党の反発は必至でしょう・・・。」


泉川は2つめの不安要素を口にする。


「・・・野党も反戦市民団体も、先の戦争以降、国民からの求心力を大きく失っている。今更気にとめるようなものでもありません。」


そう述べると、副総理兼財務大臣の浅野太吉はペットボトルの茶を口に含む。他の議員たちも何か異を唱えるそぶりは見せない。


「・・・わかりました。春日さん、お願いします。」


進行役である官房長官 春日善雄は無言でうなずく。


「では、採決を取りましょう。」



・ ・・かくして日本政府も、食糧輸入源確保による国民の生命保持のため、国交を結んでいるロバーニア王国に防衛対象を限定するという方針で自衛隊派遣を決定した。第2次大戦後二度目の集団的自衛権発動である。



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