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第五章 友は風の彼方に‐3

 それから少し歩いた。

 次の行動の相談をしたいところだが、さすがに牢獄の近くではしたくない。広い道は避け、路地裏を進む。水溜りとゴミと排泄物だらけのカトと違い、パノの路地裏は、きちんと石畳が敷かれており、ゴミも人影も見当たらなかった。

 ただし、当然といえば当然だが、残念ながら明かりの類もない。月明かりだけが頼りだった。

「どこかあてでも?」

 どちらが主導権を握っているのかわからないまま歩く中で、ジンはディーに訊く。

「お前はどうなんだ、ジン」

 脳みその足りない返答だな、とジンは内心うぞぶく。地理もろくに知らない俺にあてがあると本気で思っているなら、病院に連れていって麻酔なしで開頭手術をしたほうがいいんじゃないか? そちらは口の先まででかかった。

「武器が欲しいな」

 しかし実際は、気持ちを切り替えて話を進めることにした。

「武器か。二人ならそんな大層なものもいらねえだろ? それとも何か? 大砲でも欲しいのか? どうやって運ぶんだよ、そんなでかいの!」

 まともな銃もない世界だ。確かに量があっても意味がない。ならば。

「人を何度も殴れる頑丈な棒がいい」

「お、結構、エグいこと考えてやがるな」ディーの声が弾んだ。

「いや、長丁場な上に、武器の交換ができないだろうから。長く確実に戦える武器がいいだけだよ」

「なるほどな、お前も少しは考えてるってわけだ」

 ――お前は少しは考えろ。

 ジンは必至で感情が表に出ないよう、気持ちを落ち着ける。

「それでディー、武器のあてはあるのか?」

「教会の武器庫なら、場所がわかるぞ」

「近いか? いや、遠くなければ問題ない」

「安心しろ、すぐだ」

「ありがたい。急いで行こう」

「ああ。でもなあ……」

「問題でも?」

「今の武器管理者はダンドだ。あいつは、俺たちにすんなり武器を渡すとは思えねえ」

 ジンは小さく、しかしディーにははっきりわかるように笑った。

「何が面白いんだよ」ディーが怪訝な顔をする。

「ちょうどいいじゃないか。俺はコーレイの前にダンドを殺すつもりだった。居場所がはっきりしているなら、武器の調達のついでに命を奪うまで。それとも、ダンドを殺したくないと?」

 ディーは慌てて「まさか、誤解するなよ。俺も、ダンドを殺すのに異存はねえ」と答えた。

「わかってるよ」

 ぞんざいな物言いだと自覚していたジンだったが、そのことにディーが何もいわないのに驚いた。これまでだったら、ジンの些細な一言でさえ突っかかってきた男だ。状況が変わるだけで、こうも態度も変わるものか。まあ、扱いやすいぶんには一向にかまわないのだが。

「じゃあ、ダンドのところに行き――いや、行く必要はなさそうだ」

 ジンが立ち止ると同時に、横にいたディーも足を止める。

「どういうことだ」

「追っ手らしい」

「本当か!」

「間違いなく」

 彼らのいる路地裏。その前方に、今まで見えなかった人の姿を、人狼であるジンの目は認めた。そして、背後からは殺気。

「牢獄にいた男が知らせたのかな?」

 ジンは人影に向かって問いかける。

「いいや、あいつにそんな知恵はないよ。ただ、あんたを気にかけるように上からいわれてたんでね」

 人影は若い男だった。二十代前半だろうか、髪を後ろに流し、目付きは鋭いままで、口だけでおどけている。手には何も持っていないが、油断はできないだろう。

 ジンは横目でディーを確認した。虚勢を張ろうとしているが、目のはしがひくついていた。若者がわざとディーを無視しているのは明らかだった。ディーの誇りは、さらに破壊されていることだろう。手を組んでいるところだが、胸がすっとした。

 そして、ジンは目を若者に戻す。肉体的にはジンとそう変わらないように思える。

「俺たちは先に行きたいんで、道を譲ってくれないか」

「さっきもいったが、上からあんたを気にかけるようにいわれてるんでね」

 ジンは肩をすくめた。

「俺は馬鹿なんだよ。気にかけるっていう遠回しな言い方じゃあ、何にも伝わんないんだ。見てるだけなら邪魔だから失せろ」

「本当に気にかけるようにしかいわれていないんだがな」

 若者は、自分にいい聞かせるようにつぶやく。声に怒気がまざる。

「でもまあ、俺は気が利く人間なんでね。言外の意味をくみ取ろうとするわけですわ」

「上ってのがコーレイなら、それは余計なお世話ってやつだと思うぞ」

「あんたがコーレイさんやダンドさんの気持ちがわかるとは、とても考えられませんね」

「まあな。お前みたいな馬鹿を寄越すとは思いもしなかった」

 返答しながら、ジンは獣化を始めた。そして、いい終わるや否や、ディーをかかえ、全力で跳んだ。建物の屋根に着地する。ディーが何やらわめいているが、無視した。

 改めて自分が立っていた場所を見下ろす。

 背後にいたのは、一人だけだった。殺気は大したものだったが、若者と二人ならどうにかなったかもしれない。とはいえ、まだ戦う気はなかった。

 二人は、こちらを見上げているが、追おうとはしない。

 自分たちが気の利かない人間だと、気付いてしまったのだろう。

 そう考えたジンだったが、すぐあとに、自分の考えが甘かったことを悟る。

 別の屋根へと飛び移ろうと、顔を上げたときだった。

 耳に風切音。同時に、眼前を何かが通り過ぎる。「うわっ」というディーの情けない声もした。すぐさま、何かが来た方向を見る。

「おわっ!」

 情けない声を出してしまったが、ディーをおろして、急いで身を伏せる。もちろん、ディーも手で強引に伏せさせた。

「弓矢かよ!」

 それも一人ではなかった。シルエットしか見えないが、遠くの屋根の上には何人もの弓手が横に並んでいた。

「十人以上いるぞ!」

「わかってるから、黙れ!」

 ディーが中途半端に数をかぞえたのが恨めしい。

 脱獄したジンが追っ手と遭遇したら屋根に逃げるはず。そうコーレイは予想し、その通りになった。

「少なくとも、あいつは俺のことをよく知ってるみたいだ」

「なに楽しそうにつぶやいてやがんだ! 矢は飛んできてんだぞ!」

 伏せた上に首をすくめているディーがわめく。運がいいのか、声で居場所が把握されているだろうに、この男には矢がかすりもしない。

 いっそ当たってくれたほうが話は楽なんだが、とジンは少々うんざりした。

 どうせ、ここで身体を張って助けたところで、ディーがジンに感謝することもなく、仲間意識のようなものを持つこともないのは、わかっていた。ディーにとって、ジンはいつまでも手下であり、亜人なのだ。

 はっきり言えば、脱獄できた時点で、ディーの存在価値は消滅している。これまで散々馬鹿にされたことを思えば、すぐにでも殺してやりたいくらいだし、実際歩いているときに何度か誘惑に負けそうになった。

 とはいえ、今はもうディーを殺すつもりはない。むしろ、この困難の中、見捨てることなく守りきろうと思っている。

 ディーのためではない。ジン自身のためだった。

 ディーは大嫌いだ。だが、理性によってその感情を抑え込み、共闘するという約束を守る。それは、崇高なことではないだろうか。少なくともジンはそう信じはじめていた。そして、相手がどんなふるまいをしようとも約束を守ることができれば、自分も正しい方向に変われるのではないか。

 正しい人間に生まれ変わる。

 ジンの前世からの願いだった。それが、たとえ自己満足だったとしても、かなうかもしれない。なら、やるしかない。

 ジンは息を大きく吸い込んだ。

「このままじっとしていてくれよ」

「動かないで当てられたらどうすんだよ!」

「そのときはうまくよけるんだ」

 ディーの返答をまたずに、ジンは立ち上がり、数棟先にいる弓手に向かって駆けだした。

 矢は飛んでくる。いいのか悪いのか、弓手たちはジンに狙いを絞っていた。

 だが、ジンは笑みを抑えられなかった。

 久しぶりの狩りに、興奮しているのだ。

 湾曲する軌道を走り、矢をかわしていく。時折、先読みして放たれた矢を、手で叩き落とす。人狼の動体視力であれば、たやすいことだ。

 ――こいつらはそれを知らない。聞かされていない。つまり、捨て駒だ。コーレイは、知っている。こいつらが、俺の敵ではないことを。

 ジンが唯一警戒したのは、屋根と屋根の間を飛ぶときだけだった。ここだけは、よけるのが困難だ。とはいえ、人狼の硬くこわばらせた筋肉を貫くだけの力を持った弓手はいなかった。

「なるほど、アランがあんなおかしな仕掛けをつくるわけだ」

 ジンは弓手に近づく。

 暗闇の中、弓手の顔が見える距離にまで迫る。

 彼らの表情は恐怖にそまっていた。一心不乱に矢を射るが、逃げ出す者はいない。

「命令に忠実なのは、立派だな」

 ジンの手が、弓手の一人の頭をつかむ。頭がい骨がきしむ感触が伝わった。弓手はジンを攻撃しようとはせず、弓を捨て、ジンから逃れようと身体をねじっている。

「無駄だよ、普通の人間が人狼を振り切れるもんじゃない」

 ジンが思い切り力をこめて、頭がい骨を割ろうとしたとき、弓手がはねた。それも数度。弓手の背中には矢が突き立っていた。狙いを外したのか、楽にしてやろうと思ったのか、負けたことに対する制裁か。いずれにしろ、ジンにとっても、手のうちにある弓手は用がなくなった。

「ほうれ!」

 ジンは叫びながら、生命が失われた弓手を、彼のかつての仲間たちに向かって投げつける。何人かに当たった。死体ともども、不運な彼らは屋根の下へ落ちていく。避けた者の中にも、足を滑らせてジンの視界から消えた者がいた。

 残ったのは五人。全員が茫然とジンを見ている。彼らが再度弓を構える前に、ジンは近づいた。

 一人目は、顎を打つ。勢いが強かったため、首がおかしな方向に曲がってしまった。

 二人目は、指を突き出したときに、顔の上半分が吹き飛んだ。

「さすがに、脆すぎるんじゃないか」

 三人目は、口に手を差し入れ、そのまま下に落とす。手を外すとき、前歯も何本かついてきた。泣いてはいるが、死にはしない。

 四人目は、弓をいる時間がないとみて、矢を手にしてジンに向かってきた。ジンはにやりと笑う。こいつ、嫌いじゃない。しかし、それと勝負は別物だった。

 矢は近接戦闘には向かない――人間の力では。

 四人目が、手にした矢をふりおろす。ジンは腕を差し出す。そのとき腕には力をこめる。四人目の顔が、興奮から失望に変わった。矢は突き刺さらなかった。硬い人狼の体毛によって、体内への侵攻をはばまれたのだ。

 彼の気力は、攻撃に失敗した時点でゼロである。

 ジンがそっと腹を押してやるだけで、四人目の兵士は態勢を崩し、屋根から落ちていった。

 五人目は、失禁して気絶している。もう向かってくることはないだろう。

 ジンは大きく深呼吸をしたあと、ゆっくりディーのもとに戻った。

 運がよかったのか、ディーは無事だった。

「俺は知ってんだ。あいつらは、相当な使い手だった。それを、あっさり片付けちまいやがって」

 しかし、ジンに対して苦々しげな表情をする。ジンは何か言おうと思ったが、素直に彼の言葉を受ける必要もないと感じていた。

 小さく息を吸い、吐く。わずかに冷静さを取り戻す。

「コーレイの作戦は悪くなかった。でも、手下は所詮人間。人狼にたち打ちできるわけがない。攻撃のタイミングが正しくとも、威力が弱ければ意味がない」

「戦術を無価値にするほど、お前が強いって言いたいんだな」

 ジンは首を横に振った。

「いや、強さに差があると言いたいだけだ。俺が強いんじゃない。人間が弱すぎるんだよ」

 内心で「この世界では」と付け加える。

 ディーの不快そうな表情が見られるかと思ったが、予想に反して、彼は笑ってジンの背後を指さした。

「どうも、そう簡単な話じゃないようだ」

 ジンが振り返った。

 眼前に炎塊が迫っていた。

 避ける間もなく、直撃を受けた。

 一瞬、意識が飛びそうになるが、かろうじて堪える。炎はジンに当たった瞬間に消えたため、熱さと衝撃以外のものをジンにもたらさなかった。

 目を凝らすと、さらに数発、炎塊が自分を襲いかかっていた。

 ジンはディーをまたも無理やり抱えると、大地へ飛び降りる。

 着地してディーを立たせたジンは、目の前の光景を見て苦笑した。

「なるほど、コーレイの作戦はまだ終わりじゃなかったってわけか」

 道幅いっぱいに、ローブを着た者たちが、手にした杖をジンに向けている。フードをかぶっているせいで顔は見えないが、骨格からして男であるのは間違いない。

「いかにも魔法使いって感じだな」

「なに、余裕かましてんだ、ジン! 後ろにもいるぞ!」

 ディーが背後を指さしている。ジンも首だけそちらに回すと、確かに前と同じような連中が杖を持って立っている。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ここで魔法をぶっぱなせば、反対側にいる味方も無事じゃいられない。上に逃げたり、どちらかを突破しない限りは死なない」

「それって、何の解決にもなってねえじゃねえか」

「追われるってそういうもんだよ」

 ジンは前に向きなおった。並んでいる魔法使いの中で、中央に立つ者を見据える。殺気どころか、意思さえ伝わってこない。命令を守るためだけに動いているようだ。

「なあ、あんたら」

 そんな彼らに話しかけてみる。

「俺たちをどうしろって言われているんだ?」

 返答はない。

「何も言うな、と言われているのか?」

 やはり、ローブの男たちは動かない。

「人間のお前たちが、亜人の命令で亜人を追わされる。俺が逆に立場だったら、屈辱だがね」

 まだ無言は続いた。

 ジンは鼻を鳴らす。

 そして、前に歩きはじめた。ディーが「お、おい」と声をかけるが、止まらない。魔法使いたちは身構えても、それ以上のことはしようとしない。

 ジンはどんどん進む。

 眼前の魔法使いの胸ぐらをつかもうと手を伸ばした。

 そのとき、男の口が動いているのが見えた。喋り声ではない――おそらく呪文だ。

 ジンが後ろに飛び退くと同時、二人の間に人間大の炎が生まれ、彼に襲いかかる。よける間もなく、ジンは炎を全身に浴びた。またもぶつかった瞬間に消えたが、先ほどよりも、熱さも衝撃もはるかに上だった。

 気力を振り絞って前後の魔法使いの中間まで戻る――つまり、様子を見ていたディーの横に立った。

「お前、すごくダサいな」

 ディーが本気で馬鹿にしたような目をジンに向ける。

「侮辱をされても反応のない奴らが、仲間に当たる覚悟で撃つとは思わない。非人間的だ」

「ジン、人を馬鹿にしてるから、そういう目に遭うんだよ」

「まさか、あんたにそんな忠告を受けるとは思わなかった」

 ジンがぼやいたとき、足音がした。

 音のほうを見ると、さきほどジンに魔法をぶつけた男が一歩前に出ていた。そして、自らフードを取る。

 短髪で痩せ型。無機質な目に、薄い唇。無精ひげがうっすら生えていて、青年にも中年にも見える。ジンの嫌いな顔だ。

「二人とも捕まえろと命令を受けた。手間取るようなら死なせてもかまわないとも」

 感情のこもっていない声だった。

 ジンの眉間のしわが深くなる。

「俺たちがおとなしく捕まると思うか?」

「そちらの思惑はわからない。私たちは命令を果たすだけだ」

 男はそう言って、杖をかざす。ディーは身構えるが、ジンは動かなかった。

「なあ、あんた。それはおかしい」

「何がおかしいのか」男が杖をかざしたまま問いかける。

「命令を果たすだけなら、わざわざ俺に話しかけずに、さっきの攻撃を最初に、続けざまに攻撃していけばいい。生死を問わないみたいだしな」

「私たちは魔法使いだが、無傷で人狼に勝てるとは思っていない。言葉で応じるなら、それがもっともお互いの利益になると判断した」

「俺の利益にはならないな」

「死なないというのは、最大の利益だと思っている」

 ジンは思わず鼻で笑ってしまった。言えない。言えないが、死はすべての終わりではない。死の先にも生が存在する。転生者である彼は、身をもって知っている。死の苦しみは存在するが、それは肉体の苦痛だ。嫌な体験ではあるが、何がなんでも回避しなければいけないことでもない。

 真理を知りつつも、他者に伝える意味が見いだせないジンは、違うことを訊く。

「なあ、あんた。生きていて楽しいか?」

「考えたこともないな。死なないようにしている。それだけだ」

 男は即答すると、魔法で炎を放った。先ほどと同じ大きさ、速度。ジンは、半歩身体をずらして避けた。炎はジンの横を通り過ぎてすぐに消えた。

「なるほどな。俺にぶつかったから消えたわけじゃなくて、短時間で消えるようになっているのか」

 追撃が来ないところからすると、見せつけようとしたのだろう。自分たちが圧倒的に優位だと言いたいわけだ。

 男がうなずく。「そうだ。接近戦のための魔法と言ってもいい。魔法研究は俺たちの目的であり、娯楽だ。それができるかぎり、俺に不満はない」

「実践は? 研究と実践は違う。よき研究者が、よき運用者とが限らないんじゃないか」

 男は炎を放った。同時に、別の魔法使い数人が、同じくジンに炎を放つ。ジンはある程度予想していたため、避けることができた。連携は取れていた。しかし、危ういというほどでもない。もう少し彼らの実力を見るべく、すぐに反撃するのはやめた。

「人狼」男が再び呼びかける。

「なんだ」

「くだらないことばかり口にしていたが、私たちの説得に応じる気はないのか」

「ないな」

「そうか。先ほどの攻撃が最後の警告だった。私たちはお前らを死体で回収する」

「なんで俺まで入ってんだよ!」ディーが叫んだ。

「おとなしく連行されるのか?」

 ジンが思わず問いただすと、すかさずディーは首を横に振った。

「なら、諦めろ」

「ジン、頼りにしてるからな」

 ディーはジンの肩を叩いて、脇にどこうとしたが、彼の進路に人間大の氷塊が落ちてきた。氷塊はディーの目の前でくだけ、破片がディーにかかる。怪我はないが、ディーは全く想像していなかったのか、「うわ」と声を上げて腰を抜かした。

「あなたも身柄も、私たちの目的だ」

「そうかよ」

 ディーの代わりにジンが答える。同時に間合いを詰めた。すかさず男が炎を放とうとする。

「さすがに、何度も同じ手は食わねえな」

 ジンはぎりぎりで横に避けた。男はかろうじて引きつった顔だけをジンに向ける。そのときにはもう、ジンの手刀が彼の脇腹を貫いた。

 男が絶叫した。全身を痙攣させる。

 ジンは手を引き抜き、男をディーに向かって投げた。

「てめえ、何すんだ!」

「そいつを盾にして魔法から身を守っていろ。あと何人か渡すからな!」

 そう言って、ジンは残った魔法使い連中に向きなおる。

 あまりの光景だったためか、誰一人魔法を使っていない。それどころか、わずかながら後ずさっている。

「次は誰だ?」

 ジンは自分が笑っているのに気づいていた。魔法というのは大した攻撃だが、肝心の使い手たちが実戦慣れしていない。いや、喧嘩慣れしていないというほうが正確か。

 ――背後から熱気。衝撃と熱がジンにぶつかる。

 ジンが振り返ると、及び腰の魔法使いと目があった。一瞬で間合いを詰め、首を思い切り握りしめた。「きゅっ」と情けない声を出して男は死んだ。ジンはそのまま持ち上げて、またもディーに放り投げる。

「これで前後が守れるだろ!」

「そんな残酷なことできるか!」

「死にたくなければ、こいつらの命を踏み台にするしかないだろうが! そんなこともわからないのか!」

「悪かったよ、言ってみただけだ」

 ジンは内心でうなずいた。そうだ。ディーは他人を食い物にしてでも保身に走る男なのだ。これくらいで良心を痛めているようでは、彼らしくない。

「これで心おきなく戦えるな」

 そう言って周囲を見回そうとしたとき、頭部に衝撃を受けた。殴られた? 再度の衝撃。視界が歪む。正面? 違う。ジンは振り向いた。

「よう、ジン」

 そこには、槍を持ち、裾長のコートを着たダンドがいた。

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