0章-1「始まりの夢」
ここはどこだろう。
ふと歩いている足を止め、見慣れているはずの景色を改めて見回してみる。
見慣れたお店。
歩きなれた坂。
通い慣れた学校。
いつも見ている景色のはずなのに、今はいつもと違って感じる。
何故だろう。
自分はなぜこんな所に居るのだろう。
考えても答えは出ない。
さっきまで、ベッドの中で本を読んでいたはずなのに、今は何故か街の中を歩いている。
もしかして、これが明晰夢というやつだろうか。
夢の中で夢だと認識することができ、自由に夢を操ることができるというアレだ。
レム睡眠時の脳の活性化によるものだという話を聞いたことがあるから、
電気をつけたままの寝落ち状態なら条件も満たされるのかもしれない。
そう思い、空を飛ぼうとしてみるも、夢叶わず。
夢の中なのになぁ。
しかし、そんなことを思って空を見てみると、どこからか声が聞こえてきた。
「もうすぐだ。次で最後だ。」
空の彼方から降ってくるような声。
どこから聴こえてくるのかも分からず、辺りを見渡してしまう。
「これでようやく、終わらせられる。」
空を見て、周囲を見て、ふと気づいた最初の違和感。
いつもの町並みと同じはずなのに。
ここには、風が吹いていなかった。