今日も人がゴミのように我らに集まる
【今日も人がゴミのように我に集まる】の続編です。
一年前、この動物園の新たな目玉としてやってきたのが我ら、パンダである。
そして、その中でも、我こそがこの動物園一番の人気アイドルである。
今日も人がゴミのように我に集まる。
モッテモテなのだ。ほんと、困ってしまうのだ。
しかし、そんな我に危機なのだ。
我らパンダの園に新たな新人がやって来たのだ。
「う~」
例の新人が動き出した。
我のフラフープ芸を見ていた人間共は、一気に新人の方に視線を移す。
一気にやる気がなくなたぞ。
フラフープを腹に引っ掛けたまま、その場にグデッと伸び、新人に目をやる。
我の後輩カップルが生んだ子だ。名前は知らない。
覚束ない足取りで歩く新人。急にコテッとこける。
その瞬間歓声が上がった。前まで我が受けていたものだ。
なんなのだっ。ただこけただけで騒ぎよって! 新人が来るまでは我にゴミのように集まってきたではないか!
イラつき、正面のガラスの向こうを見た。
目の前にはガキがいた。女のガキだ。ボールを抱えたパンダのぬいぐるみを持っている。
ほほぅ? 我に似ておる。可愛いのだ。流石なのだ。
おい、そこの者。我のプリティーなお腹を見せてやらんでもない。もう少し近う……。
プリプリプリチィな白い腹を見せつけようとしたその時、ガキは新人にぶんぶん手を振った。
なぬ……っ!??
もともと狙いは新人だったようだ。
納得いかぬ‼
寝ころびながら、新人と新人に群がる人間共をジトーっと見ていた。
別に見たいわけではない。動くのが面倒で、新人らの姿がたまたま目に入っているだけなのだっ!
「おとーさん」
今度は男のガキが我の前にいた。父親と見に来たらしい。
おうおう。見る目があるな。今、我の輝く純白の腹を見せ……。
「あのパンダ、テレビの前のおとーさんみたい!」
な……?
「ごろごろパンダー!」
何を言っているかは分からんが、馬鹿にしているだろう⁉ そのくらいは分かるのだぞ!??
プイッとガキから目をそむけると、新人が目に入る。その場にあったボールに乗ろうとしているようだ。
先ほどの、パンダのぬいぐるみ似ているのだ。ハッ!? だっ、だからといって、あいつが可愛いと言っているわけではないぞ!? 断じて!!
新人がボールの上に乗る。
やるではないか。
だが、安定感がなく、グラグラしている。
おおう……。危なっかしいのだ。落ちるでないぞ?
なんなのだ。ひやひやしてドキドキするのだ。
そう思った矢先、新人がボールから落ちた。コロンと転がったその姿に、人間共が狂ったかのようにカシャカシャと光を新人に向けた。
ま、眩しい……。
助けを我に求めるかのように、よちよちとこちらへ来る。雪原のように白い新人の毛が光を反射して輝き、ブラックオパールの瞳は潤みを増している。
きゅん。
我は我に返る。
み、認めん! 新人が可愛いなどと!!
新人が徐々に近付いてくる。
く、くるなぁぁ~!
我は歩き出した。可愛らしい腹にフラフープを付けたまま。
それが可愛かったのか、我の方に人間が寄ってきた。いつもなら、そこでどや顔を決めるところだが、新人が追ってくるので、止まらず歩く。よけいに歓声がうるさい。
我の可愛さが一番発揮される食事の時間がやってきた。
今日も笹がうまいのだ。
すると、新人がやってきた。
笹に夢中で気が付かなかったのだ。
「先輩、隣失礼します」
新人は我の隣に座った。我は無視して、続けて笹を食する。
「あの……。先輩、僕ってなんなのでしょう?」
急にぶっ飛んだ疑問をぶつけないでほしいのだ。
「僕、皆さんに嫌われているんでしょうか? パパとママはあんまりかまってくれませんし、他の先輩達も無視するんです」
「……それは、我も同じこと」
今だって向けられる視線を我は返していない。
「いいえ。先輩は今日、僕のこと見てくれました。今だって応えてくれたじゃないですか」
「普通のことなのだ」
「それでも、うれしいです」
なんだ、こいつ。なかなか良いヤツではないか。
「皆、貴様に嫉妬しているのだ」
「しっと?」
「うらやましいと、思っているのだ。貴様はこの中で一番人間共から視線を集めているのだ。勿論、我もその一匹」
「そうなんですか……。僕は普通にしているだけなのに。でも、僕は先輩がうらやましいです」
なぬ……?
つい、新人の方を見た。
新人と目を見て話す日が来るとは思わなかったのだ。
「先輩は、この中で一番どうどうとしていて、カッコいいです」
「カッコいい? 初めて言われたのだ」
今まで、可愛いとしか……。すごく新鮮なのだ。
「先輩は、アイドル! って感じなんです。あこがれます」
「そうだ! 我はアイドルなのだ!! とーぜんなのだっ」
「はいっ」
むぅ……。こいつ、悪いヤツではないのだ。
「名は? 名なんと言う?」
「僕は、まだ名前がありません。今、お客さんが考えてくれているみたいです」
「遅いのだな」
「そうですね。先輩の名前は何ですか? 僕知らないです」
「キングだ! キングパンダなのだ!!」
「王様ですか! じゃあ、僕を家来にしてください!」
「なぬ?」
「僕、先輩みたいになりたいんです! 家来がだめなら、子分でも!」
あまり変わらないと思うのだ……。
「よかろう。我の下につくがよい! まずはフラフープを教えてやるのだ! ……食事を終えたらな」
「はい!」
一ヶ月後。
「せーの」
「「ふんっ」」
見事にフラフープが一回回った。
歓声と光が我らを襲う。
「ジャック、やるではないか」
「ありがとうございます!」
「決め技で決めるぞっ」
ジャックが我の上に乗る。
「「鏡餅~!」」
その可愛さにのたうち回る人間共の姿。
「決まりましたね!」
「うむっ。今日も気持ち悪いくらい人が集まったのだ」
我ら二人は、この動物園の大人気アイドルだ。
今日も人がゴミのように我らに集まる。
【今日も人がゴミのように我らに集まる】を読んでいただきありがとうございます!
まさかの続編ですよ~。HELIOS自身も予想外でした。
でも、楽しかったです!
キングの名前を決めるとき……。
「名前何にしよ~。パンダ、ダンパ、キングパンダ。……キングパンダ!? やっべ! なんかしっくりキター!!」
って感じでさくっと決まりました。
ジャックも流れで。
キング、ジャック、残るはクイーン……。いや! 続かないですからね!?