ドМではありますが?
短編第二弾。
ルビの付け方に慣れたついでに、ふと、ネタが浮かんだので。
とりあえず、乙女ゲーム要素がある風味です。本当に風味だけですけど。
あと、一瞬のいじめ要素も。これは本当に一瞬。
今回は6000文字前後に納められたかな?
とある学園の、日が落ちて暗くなり始めたとある教室には、時間はもう下校時刻間近だというのに、多くの生徒が残っていた。
ある一人の少年がサッカーボールを蹴るように、足を後ろに上げて何かを蹴り上げた。ガッと後ろのロッカーにソレは当たり、蹴った奴は「よくやった!」と周りから褒められている。
体をくの字に曲げゴホゴホと大きく噎せる“ソレ”は人間だったが、蹴った奴も褒めた奴らも汚らわしいものを見る目付きで、“ソレ”を睨み付けていた。
――あぁ、怖い目だ。敵を見る目だ。その目が、“私”にはたまらない。胸がキュンキュンして、気を抜いたら私の性癖がバレてしまうかもしれないっ! いや、それはそれで……?
「尊ちゃんは優しいからお前のことも許してるけど、あたしらは許さないからさぁ? なんとか言えよこの屑!」
「陰険なやつはとことん陰険なんだねぇ? あんな可愛い尊ちゃんを虐めてたとか! お前何様のつもりだよ!!」
蹴る殴るのオンパレード。吐かれるのは罵声と暴言。使われるのは掃除用具入れの箒やバケツに組まれた水。ハサミにカッター、その他凶器になり得る道具諸々。
ちなみに私の言い分では、「虐めはやっていない」のである。言っても聞いてくれた試しがないので、今はもう黙りをしているのだけれど。そして更に言えば、尊ちゃんとやらを私は知らないのだ。
何より、彼女がこの学園に転入して来た時、私は丁度インフルエンザで欠席していたはずなのだから。しかし今は、私がインフルエンザだと知ってる担任は何故か居ない。
そんな訳で、久々に学園に戻って来たら、この状況である。私一人置いてきぼりのこの状況、ドウイウコトナノ。
まぁ、インフルエンザで欠席していたことは事実なので、インフルエンザで出る例の診察紙? があるので、いつでもそれを出せば私の冤罪は潔白になるのだが。
問題は、それを私が良しとしていないのである。え? 何故かって?
大変美味しいからですよ!! んぅもう! 最初なんてね! この学園に私がドМだって事がバレたから痛ぶってくれるのだと思ってましたよ! ええ! 容赦無く痛ぶってくれて、興奮して噎せたりもしましたとも! 自分でやるのと他人にやられるのとじゃ勢いが違うよね!!(力説)
なーんて最初こそは悦んでいたのですが、その原因が言われのない罪だったのが何だか納得行かなくてですね。
今じゃあ、痛ぶられて嬉しい反面・言われのない罪を着せられムカつく反面で、欲望に背を向けてインフルエンザであった事を他の教師に抗議するか、欲望に溺れてこのまま殉職するか否か……。
――あぁ、これぞまさに究極の選択!
* * *
……と、まぁ。
そんなこんなで私の心配を他所に、理不尽な虐めとやらはいつの間にか、それこそ突然に終幕を迎えてしまった。解せぬ。
せっかく悩みに悩んで欲望に溺れようと思った矢先に、その欲望の矛先である皆からの嬲られがなくなってしまった!
何故、そんなことになったのかというと実のところ私にも分からない。でも終幕を迎えたのは、究極の選択を悩みながら蹴られ殴られていた日から三日後のこと。
消えていた担任は気が付いたら戻っていて(姉妹校に居たことが判明した)! その日のお昼休み明けに、教室に入った途端にクラスの皆から頭を下げられたのだ。
「桐栄さんが事実を証明してくれたんだ! 東間さんは本当は何も悪くないって! 全部、尊ちゃん……いや、常盤尊、あの糞阿婆擦れが悪いんだったって!!」
東間さんは私の苗字さ! 桐栄さんも初めて聞く名前だなー何年生だろ? 二年生かな? クラス一のイケメンと称される……ええっと、何だっけ……とにかく、その名前忘れた君にそんな台詞を吐かれた瞬間、あ、私の楽園終わたと思った。
それに、きっかけはその常盤尊ちゃんとやらかもしれないけど、実際に蹴って殴ってしてたのアンタらだろとツッコミをしたかった。
でも、そんなツッコミの前に、その桐栄さんとやらがうちのクラスにやって来たのである。
桐栄さんはスレンダーな美人さんだった。クールなお姉さんっぽい雰囲気を醸し出してて、それでいて芸能人みたいなオーラを出してた。びっくりしたのが、同い年でしかも同じクラスメイトだったってこと!
なにそれ私のインフルエンザ時期に転校生二人も来たのかとビビったのに、担任に聞きに行くと不思議な顔をされて「一年の頃から居ただろ? ほら、一年時にお前ともクラスメイトだった桐栄陽子だよ」って言われてしまった。
私以外のクラスメイトは桐栄さんがここのクラスの、同じ学友だと信じて疑ってないし。挙句の果てには、そんなにキツいインフルエンザだったんだな……と心配される始末。もう何が何だかさっぱりだよ!
とにかく、分からない事が多いんだよね。結局のところ私の楽園が終わってしまったこともだけど! 何故か、例の尊ちゃんという子が、黒髪の清楚系可愛子ちゃんが、今度は私の代わりに虐めを受けているということも! ズルイ! 嫌がる尊ちゃんを嬲るくらいなら、私を嬲ってくれたっていいじゃないか!!
――私ならいつでもウェルカムだよ!?
そんな感じで、心身共にウズウズしてたからなのか、やっぱり欲望に溺れたかったのかは分からないけど。嬲られてる尊ちゃんを見かけて思わず、私は尊ちゃんを庇うように彼女の前に出た。
――あぁん…! すっっごいイイところに当たって、はぁん、痛気持ちいぃ! プリーズ ワンモア ペイン!!
言葉には出してないけど、自分が変態なのは自覚してる。もっと言うと私は蔑む目も好きなので、そんな目で見られるともっとゾクゾクできるから、是非ともお願いしたい……!
ちなみに私が庇った(違うけど)尊ちゃんはビックリしてた。
どうして? なんで? と聞かれた。……あれ、尊ちゃん、容姿に似合わず素敵なアルトボイスですね? いや、男前的な低さでこれはなかなか……もっと高い声だと思ってたけど!
そんでもって、私も、流石にこの場でドМだからです! 痛みが欲しかったの! とは言えない空気だったから、適当に漫画か何かで見たことある台詞を吐いた。
「意味がわからないけど、私を理由に尊ちゃんを嬲るのはやめてよね? 私はこんなことまったく望んでなんかないんだから! おかしいよ、みんな!
それに何と無くだけど尊ちゃんは実際には何も悪くないと思うんだ!」
初めて尊ちゃんを見たのはこの日で、初めて会話したのもこの日だけど。我ながらドヤ顔で言いたい台詞だったんだな、これが。
ドヤ顔は流石に空気的にしなかったけど、その後動揺してるっぽい嬲ってた生徒らに笑みを向けて言った言葉。
あの時、タイミング悪く桐栄さんに邪魔されて言えなかった、どうしてもツッコミを入れたかった言葉を吐き出した。
「殴るなら、蹴るなら私を倒してからにしなさいよ。(あ、願望も言っちゃった!)
そりゃ、きっかけは尊ちゃんかもしれないけど、実行したのは君たちでしょ? 何、自分達は尊ちゃんのせいでやってたんだとか言ってんの? 馬鹿なの? ドSなの?」
ドSなら私をもっと嬲ってくれたっていいじゃないか! そんなことを期待して、正確には逆切れしてくれないかな、ぐふふ! とか願いながら思っていたんだけどね! 笑みを向けてしまったのはそういう考えからだったりするんだな! てへぺろ!
そんで、よく分からないけど……というか、いつかなまだかなって感じのワクワクしている笑顔! を見せてたら、何か嬲ってた生徒らが顔を真っ青にして逃げやがりまして。……ちくしょう。
そんなに私の笑顔はブサイクでしたかね! ちくしょう! でも放置プレイも好き!
そしてそして、よく分からないままに、尊ちゃんとも仲良くなった私。何故かって尊ちゃんが生粋のドSだったからだよ!
そして、初めて学園で私が言わなくてもドМだと気付いてくれた子だからだよ!
更に尊ちゃんが実は──!!
――あぁん、蔑んだ目も素敵すぎてご飯が美味しいです! 尊ちゃん! 好き!
* * *
そうそう。
ちなみにあの桐栄さんは、学園のイケメングループ(notアイドル)である五人組に逆ハーレムされてるんだよね。何でもそこそこ仲が良いクラスメイト曰く、「桐栄さんは彼らの幼馴染なんだって! 美女美男で絵になるよね! でも高橋くん、桐栄さんにくっつき過ぎ! もっと離れてほしいー」って。
ところで、私は一言言いたい。このクラスメイトちゃんに。だってさ、前はあんなにイケメングループの──茶髪ピアスこと高橋君が好きで付き合いたい! とか、君、言ってなかったっけ? なんで桐栄さん好きーになってるのかしらっ。
もう、わけわからん。
まぁ、マブダチになった尊ちゃん曰く、桐栄さんの目は見ない方がいいよとのこと。何故かは分からないけど、確かに桐栄さんの目は私も嫌いだ。なんか、生理的に受け入れられない。
見下している眼は好きなんだけど、彼女のあれは、何かキモチワルイ気がして。……せっかくの美女さんなのに!!
そーそー。そういえばもう一個、はっきりした事があるんだよね!
何でも私の例の虐め、きっかけは尊ちゃんじゃなかったみたい。
オカルト好きで情報屋さんな保健の先生に教えて貰った! もちろんお礼はイケメングループの写真! だって先生、イケメン好きだし! やすい対価だよね、有り難う御座います! うっしっし!
何でも、転校生の尊ちゃんがあまりにも可愛かったから、実際に性格もいい子だし? 桐栄さんがイケメングループを取られると思って、嘘デタラメを噂話として流したらしいよ!
マジかよ……なんて独占欲高いんだ、桐栄さん! たかがそんなことで、私は罪を擦り付けられていたのか……!! いや、気持ち良かったけど。ご馳走様ですけど。
それで何故、インフルエンザで居なかった私を利用したのかはその気持ちが全く分からないんだけどね! だってうちのクラスメイトも私が居なかった時期、私がインフルエンザのことを知ってるはずで、何よりSМ関係なく仲のいい友達にはメールも送って知らせたはずなのに……結果として、誰一人として知らなかったんだからさ! ドウナッテルノ。
オカルト先生曰く、桐栄さんの目がそういう力を持ってるのかも? だってー! 何それキモチワルイ! まさか、そんな非科学的なこと、あり得るわけないでしょー!
ちなみに戻ってきた担任は、理事長先生から直々に、姉妹校に臨時教師として行ってくれと言われたらしく。私のインフルエンザ時期と上手く? 重なったらしいその時期を姉妹校へ。
更に理事長先生と桐栄さんは叔父と姪の関係らしく、桐栄さんにデレアマなんだとか。
あはあは! うちの理事長ロリコンかよきめぇ! まるで女の子が好きそうなゲームの設定みたいだな……桐栄さんの立ち位置とかが。いやいや、なーんてね!
で、あの例の頭を下げられ事件は、一頻り満足したのか、桐栄さんは全責任を尊ちゃんに押し付ける事にしたのが、あの結果だろうと推測。挙句の果てに、後はご勝手にどうぞみたいな感じで、後始末はなし! 尊ちゃんを悪者に仕立て上げたままなのです! なんということでしょう!
あはあは。ホント、桐栄さんってキモチワルイなぁ。……私の中の桐栄さんのイメージがどんどん損なわれて行くよ。元から良いイメージ無かったけど。
それにしても、世界はすべて彼女の思うが儘ってか? ホント、ゲーム脳だったりしてね~?
まぁ、今は私が尊ちゃんのマブダチになったこともあって、私の前では他の誰も手を出して来なくなったけど。教室違うけど、休みの時間はいつも一緒にいるよ!
尊ちゃんは私に、適度なSを与えてくれる神様みたいな存在なので、私には学校内で幸せが増えたみたいでドッキドキの毎日なんです!
でも、最近は桐栄さんの勧誘みたいなのが鬱陶しいのである。
「ねぇ東間さん。
あんなキモチワルイ子なんて放っておいて、アタシと友達にならない?」
あはあは。虐めっ子から虐められっ子を助けた第三者と、その虐められっ子が仲良くなるのが素敵なストーリーとか、確かにあるよねー。
でもね、私、知ってるんだ! オカルト先生から教えて貰った秘密をね! ただのドMと思って、馬鹿にしないでくれるかな! ぷんぷん!
それに、キモチワルイのはどっちだろうね? 確かに、可愛いけどぶっちゃけて変でドSな尊ちゃんよりも、可愛いみんなのアイドルみたいな桐栄さんが、何故か生理的にキモチワルく見えるのって、ホント異常なことだと思うんだよ? 私の感覚違いかもしれないけどね!
それに、桐栄さん達と居ると窮屈かも。私のドМ要素に気付いてない桐栄さん達と、私のドМ要素に気付いて、尚且つ、適度に刺激をくれる尊ちゃん!
――どっちがイイかなんて、考えなくても分かるでしょ?
だから、ゴメンね! それに私と尊ちゃんがマブダチになれたのは、ドМとドSだからだけじゃないんだ! 秘密を共有する仲だからなんだ! だからね、乙女ゲームちっくな謎の桐栄さんは結構です。
* * *
「遅い」
「ゃん! ゴメンね、尊ちゃん! だからもっと蔑んで! 罵って! ちょっとだけでいいから!」
「えーと、今日は何処にいくんだっけな」
学園がない、休日! 晴天で心地いい風! そして、目の前には私服の尊ちゃん! うっとりしたのに無視だなんて酷い! でも好き!
今日の尊ちゃんは、黒のスラックスに白のワイシャツと、黒のベストでシンプイズザベスト! ちょっとお洒落に腰のとこに鎖とか付けてて、厨二っぽいけどカッコイイ!
その鎖で私の手首を縛って欲しいなー! なんて、ワクワクドキドキしてるけど、これ以上尊ちゃんをイラつかせてはいけない……と我慢我慢。
「休日万歳」
「あはあは! 尊ちゃん学園では大変だもんね! 色々とさ!」
「全体的に桐栄のせいだけどな……」
確かにね! 桐栄さんが余計な事をしなくても、尊ちゃんはあのイケメングループに興味が湧かなかったのに。
それどころか、その余計な事のせいで尊ちゃんってば学園ですごい窮屈な目にあってるからかわいそ! 是非私と代わってください!
これじゃあ、今尊ちゃんのとっておきの秘密を暴露したら、大変な事になるもんね! 否定的な意味で取られるか、肯定的な意味で取られるか……ねぇ。
まぁ、私は、どっちだろうと、尊ちゃんと一緒に居ますけどね! だって、大好きですもん!
そもそも。
こんなに可愛くて乙女っぽくて可憐で華奢な女の子が、実は“女装男子”とは思わないよね!
女装は趣味だけど、好みのタイプは普通に女性で、だなんてね。まぁ、そのおかげで、私にもチャンスが……! なんてね。
あはあは! 桐栄さん、この真相を知った時にどうなるんだろ?
結構、いじめ問題無事解決☆ で、作り上げた人望は厚いみたいだし、男女関係なく先生たちからも
優秀で優しくて可愛いけど気取ってなくって云々……って感じで人気みたいだから、一気に信者が居なくなったりして! うふふ! なんだか楽しみだなぁ!
「ドMの反対は、ドSってよく言うよな」
「えっ?! 尊ちゃんドMなの!? わ、私、尊ちゃんの為なら、え、Sも……っ」
「お前のことだよ、このクソバカ。何先走ってんだ、ボケが口閉じろ」
笑顔なのに全力で頭をはたかれた。もっとお願いします! とは言えない。
だって今、お外だもの。流石の私もそういうところは気をつけますですのよ! ……帰り道は、自重できないかもしれないけどね! えへへげへ!
さてさて、桐栄さんとイケメングループ達と、ごく自然な感じで鉢合わせしましょうかねー? ちなみに、尊ちゃんはもちろん、私が今からやるつもりのこの作戦――暴露しちゃいなyou大作戦――を知っているのである!
――きゃはっ! まっててねぇ、すぐ、楽しい事してあげるからぁ……♪
ちなみに東間幸乃ちゃん、ドMではありません。彼女がそう思っているだけで。本来の性癖的には、ただのM寄りのSです。
別視点も考えたいなー。
常盤尊くん視点と、桐栄陽子さん視点。
きっと前者は今回と同じようで可笑しな話を、後者は本当に乙女ゲーム風になるんじゃないだろうかと模索中。