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ショートショート集ですの。[東京多摩]

辺獄

作者: 東京多摩

 一人の男がとある惑星の調査に訪れた。

 辺境の有人惑星、その人々がどのような文化を持ち生活しているかの調査だ。

 彼は人々に恐怖を与えないため、惑星に降り立った宇宙船を偏光フィルムで隠し、自身も現地の人間と同じ格好に化けた。

 そして歩いて人の集まる街を目指した。


 彼が最初に訪れたのは、どの建物も金・銀・珊瑚や煌びやかな宝石に装飾された、絢爛豪華な街だった。

 ガラスケースの向こう側では気品があふれるスーツが飾られ、ホテルボーイですら映画スターのようなオーラを纏っていた。

 彼は手帳に街の様子と建物について書きとめると。街を歩く男を呼び止めた。

 手早く煙状の薬を嗅がせると、彼に路地裏について来るよう命じた。

 薬を嗅がされた男は、何も言わず彼の後ろを追って路地裏に入っていった。


「この街はとても住みよい、まるで天国のような街です。」


 男は開口と同時にこう言った。

 脈拍や血中酸素濃度、各種体内ホルモンに変化見られず、彼が本心からそのように思っていることが読み取れた。


「偉大なる姉妹が、我々を常にご覧になっているのです。私を含む人々は彼女に陶酔し、彼女の為にその身を粉にして働きます。彼女は善き行いをする者にはこの地に住まうことを許し、豊かな生活や人々と仲良く暮らすための律文という褒美を、そうでない者には追放や迫害などの罰を与えます。彼女は極めて公正明大で、我々にとってはまさに神にも等しい存在なのです。私はこの街に住み、そして彼女の為に働くことを名誉と思っています。」

 ただ、と彼は続けた。

「中には、この街に住まう我々を、彼女の奴隷だという者もいます。何も考えず、自らの為に生きることをしない我々をロボットの様だとも言います。可哀想に、そう言う者は彼女からの祝福を受けないどころか、彼女を貶める発言までします。嘆かわしい限りです。ですが、いつの日か彼らもわかってくれるでしょう。彼女の為に生きることが、どれほど素晴らしいか!」


 彼は男の言う言葉をメモに取り、一通り話し終えたことを確認すると男を生活に帰るように命令した。

 彼は最後に街を一回りすると、また歩いて次の街へと向かった


 彼が次についた街は、弾痕と未だ燻る煙に覆われた街だった。

 人々は今にも崩れ落ちそうな壁にビニールを張り、段ボールを敷いて寝ていた。

 煮炊きをする槇は、散らばっている木っ端や角材、果てにはカラカラに乾いた人の腕が使われていた。

 人々は痩せこけ、子供さえ目の下に隈を作り、誰も彼も今生きていることが不思議に思える様だった。

 彼は、また街で歩いている男を捕まえ、薬を嗅がせた。


「この街はとても住みよい、まるで天国のような街です。」

 

 男は一言目にこの言葉を放った。


「この街には、食べ物も無く、きれいな水など見たこともありません。しかし、ただひたすらに自由なのです。この街は以前姉妹と呼ばれるプログラムによって支配され、歩き方や食事の仕方、果てには人付き合いまで管理されていました。我々は、まるでロボットのような生き方を強要されていました。しかし、あるとき一斉に人々が蜂起し、プログラムを葬り去ったのです。どのような生き方もできる、この街はまさに天国のような街なのです。」

 ただ、と彼は口ごもった。

「我々の生き方を野蛮だと言う者もいます。支配者がいない場所では、誰も生き方に節制ができず、まるで動物のように生きていると揶揄されることもあります。しかし、我々は信じているのです。そう言う者も、いつの日か自由を選択し、蜂起によって真なる自由を手に入れることができると。その時がいつ来るかわかりませんが、我々は彼らが自由を手にすると信じているのです!」

 

 彼は話を聞き終わると、男に帰るように命じた。

 そうして、また街をぐるりと回ると、歩いて次の街に向かった。


 彼がたどり着いたのは、コンクリートの建造物が立ち並ぶ街だった。

 街には気品がなく、また自由も無かった。

 彼はそれまでのように、また街を歩いてい男に薬を嗅がせ、路地裏へと連れ込んだ。


「この街は、天国のような街です。」


 男は開口一番に言った。


「この街は圧倒的な支配者も、永遠なる自由もありません。しかし、どちらにも偏ることなく、平穏な生活がここにはあります。」

 ただ、と男は一瞬言葉に困った。

「他の街の住人からは半端者の住む町と呼ばれています。彼らは両極端な生き方しか知りません。それゆえ、私たちの生き方が中途半端に見えるのでしょう。しかし、私たちは知っています。何事も半端なくらいが生きやすいと。だから、私たちは信じているのです。いつの日か、他の街の人々も半端な生き方が一番だと気づいてくれると!」


 男は目を輝かせ、こう締めくくった。

 彼は男に帰宅するよう命じると、街を一周周り、そして宇宙船へと帰っていった。




 遥か宇宙を遊泳する船の中で、彼は報告書を書いていた。

 曰く、この星はある者にとっての地獄であり、同時にある者にとっての天国であると。

 そして、彼は調査の締めくくり、惑星名を決めた。

 彼の信じる教義にある、地獄でも天国でもない場所という意味。


 惑星「THE LINBO」と。

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