第2話 入学初日の悲劇
校中に入ると、そこには別世界が広がっていた。
「うわ……すげぇな」
「……だね」
噴水のある広場、何個もある体育館、イベントやライブに使われるであろう特設会場に植物園まであるじゃないか。
中でも、ひときわ目立つのが校舎だ。中世ヨーロッパの城をイメージさせるかのようなデザインと、それによって生み出される威圧感。
凝っている……凝りすぎていて若干引いた。
オレは夢でも見ているのだろうか……? 勉強はまるでダメだった。中学1年のときに行なった全国模試でオレは見事にぶっちぎりの最下位を叩き出したのだ。過去にも今にも、オレの記録を下回った奴は居ないらしい。
確か、そのあと皆からは『逆走するウサイン・ボ○ト』って異名を名付けられたなぁ……。
オレの異名についてはノーコメントで。深く考えたら泣けてくる…。
溢れそうな涙を堪えながらそんなことを頭の中で考えていると、オレ達が入ってきた正門から、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「うにゃ――――っ!!」
あの奇声、まさか……。
その声を聞いた途端、中学の悲劇が脳内で駆け巡った。あれ? おかしいな、足が震えてるんだけど……。
「……ゼロ、今の声……」
「あぁ……出来れば聞きたくなかったよ……」
聞き覚えのある女子の声に。徐々に近づいてくるその声に。どこかに逃げたいという衝動に襲われる。が、このまま放置するのは、少し気が引ける。
「しょうがねぇな、あのバカを止めに行くか」
と、カッコよさげな台詞を言ったと同時に、正門のほうから馴染みのある女子が飛び込んできた。
長年愛用の白衣を身に纏っているポニーテールの女の子はオレに気が付くと、明るい口調で叫んできた。
「零次! 五十嵐! 久しぶりやな~! ちょう、これなんとかしてや~!!」
彼女はなぜか、モーターバイクに乗っていた。
しかも、MAXスピードでまっすぐオレのほうに向かってくるではないか。
「なんでバイク!? ……ぐふぅっっ!!」
よける間もなく、バイクにぶつかった時、オレは昔の光景が瞬間的に頭の中でフラッシュバックされ、「あぁ……これが走馬灯か……」など悠長なことを考えていた。
そのまま、オレの意識は闇の中へ消えていったのであった。
~☆★☆~
ここはどこだ? 学校じゃないぞ。……もしかして死後の世界ってやつだろうか。
あっ、向こうに綺麗な花畑が……。ってこれガチなやつじゃん!!? 急いで引き返さないと……!
花畑の方からから聞こえる『おいで』という言葉を無視し、反対方向に歩き出す。あれはきっと幻聴だ……耳を貸したらそこでオレの人生が終わってしまう……っ!
そもそも何でこんなことになったんだっけな。
……そうか。全ては、オレをバイクで轢いたあいつのせいだ。
忌々しい彼女の名前は紅 りんご。中学の時にオレの通っていた学校に転入してきた。関西からきたらしく、関西弁を多用している。
りんごの厄介な趣味が『開発』である。人の役に立つ開発ならまだ許せたが、チョークにミサイル機能を搭載したり、巨大なロボットを作ったり、靴にジェット機とローラーを付けたりと、それはもう多種多様だ。そしてそのほとんどが失敗・暴走し、その全部がオレに攻撃をしてきたのだ。
……今考えても恐ろしい。
中学のころ、授業中は先生の話を聞くより、りんごの発明品が無いかを必死に探していた。
別に勉強が嫌いだからとか、そういう理由ではない。見つけられなかった時は、オレの死と直結するからだ。だから決して勉強が嫌いだからとか(以下略)
きっとオレがバカなのもりんごのせいだ。そうに違いない。
因みに、あいつの着ている白衣は『科学者らしさ』を演出するためだとか……。
おそらく今回のバイクも発明品なのだろう。じゃなきゃ、あそこでオレに向かってくるはずがない。
毎回、わざとやっているとしか思えないぐらい、ピンポイントでオレの所に来るんだよな……。オレに対して何か恨みでもあるのだろうか。
「くそ…なんで入学初日にこんな目に遭うんだ。今日を厄日と言わずなんと言う! りんごめ…現世に帰ったら覚えてろよ…………って…あれ?」
ここで一つ疑問が生まれた。
……ここからどうやって、元の世界に帰ればいいんだろうか…?