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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

D.S.

作者: カコ夢
掲載日:2012/04/06

この小説はBL小説です。


特に性的描写はありませんが、同性での恋愛表現に嫌悪感を感じる方は、閲覧をお控え下さい。

「……だから。いい加減にしろよ」

 話を締めくくるような喜一の言葉に、教卓に腰掛けた田屋は顔を上げた。

 ただ顔を上げただけなのに、まるで何かを見下すような表情になる。

 右の耳朶に光る金色のピアスが、きらりと光を放った。

「……それをなんであんたが言いに来るんだ」

 薄闇に沈み始めた講義室で、田屋の真っ白く見える程の金髪が異様に浮き立って見える。茶色のショートパンツに着崩した派手な色のシャツ、到底学生には見えない田屋は、錐をもみ込むような剣呑な視線を喜一に向ける。

 初めて真正面からさらされた彼の視線に、喜一は背中に冷やりとするものを感じた。しかし、喜一は怯んだのを悟られまいと、意識的に彼の視線を真っ直ぐ見据えた。背筋を正して、もう一度同じ言葉を繰り返す。

「仁谷に付きまとうのはやめろって言ってるんだ。君が仁谷を好きだってことは問題じゃない。問題は君がやってることだ。仁谷は君にちゃんと、付き合うつもりはないって言ったんだろう? 君は潔く諦めるべきだ。それを毎日付きまとって。迷惑だってわか」

 喜一の言葉が終わらない内に、田屋は腰掛けていた教壇から飛び降りた。底の厚いコンバットブーツがごとりと重い音を立て、喜一は思わず息を呑んだ。

 喜一はもともとこういうタイプの人間が苦手だ。

 明らかに彼の属するのとは違う異質な服装。

 周りを無視するような自分勝手な態度。

 人を食ったようなその表情。

 どれも喜一が馴染めないものばかりだった。

 そういう人種はどこにでもいるものだが、特に田屋はその白く見える程の金髪で誰よりも目立った。

 教室で、あるいは食堂で、常軌を逸した馬鹿騒ぎのただ中に、その白い頭を見つけるたびに、また田屋か……とひそかに眉をひそめた。

 仁谷が相談してこなかったら、多分一生関わりを持たなかっただろう。

 仁谷は同じゼミの比較的仲の良い同回生だ。

 最近田屋に付きまとわれていると聞いて、カツアゲでもされてるのかと聞いたら、付き合えと脅されたと答えた。

 仁谷本人では埒があかないらしく、それならと喜一が仲介役を引き受けた。

 そうでなければ、喜一が田屋に話しかける理由などなかった。

 喜一は、見抜かれまいと再度視線に力を込めた。

 しかし努力の甲斐なく、喜一の逃げ腰は悟られたらしく、田屋は不意にこわい視線を緩めた。

 ゆっくりと喜一のすぐ傍に立つと、田谷はにこりと唇を歪めて微笑った。近くに立つと田屋は喜一の鼻辺りまでしかない。彼が意外に小さいことを喜一は初めて知った。遠くからみる田屋はもっと大きく、集団の中でも際立って見える。それでも、極近くから放たれる威圧感に、喜一は息が詰まりそうになるのを感じた。

 田屋は、馴れ馴れしく喜一の肩に手を置いた。

「まぁ、座れや」

 有無をいわせない力で、彼は喜一を椅子に座らせた。それから自分も喜一の向かいに腰掛けると、無造作に足を組んだ。ショートパンツから伸びたすんなりとした足には薄い筋肉が脈動している。

 田屋は、で?と尋ねるように首を傾げて見せた。そういう本来なら幼い仕草が、一層彼の威圧感を助長した。

「仁谷が男だから、悪いのか?」

 喜一は首を振った。

「違う。それは嗜好の問題だから、俺のどうこういうことじゃない。俺が言ってるのは、君のやってることだ」

 田屋はひどく面白そうな表情を浮かべた。

 組んだ足の上に、ゆっくりと頬杖を突くと、へぇ…と眼を細める。

 見透かすようなその視線に、喜一は居心地の悪さを覚えた。

 思わず眼を逸らした喜一の頭の上で、息を漏らすような田屋の笑い声が聞こえた。

 教室は既に完全に夜に落ちていた。窓から射し込む切れ掛けた街灯のせいで、ちらちらと教室全体が暗い点滅を繰り返す。

 冷やりとした汗が頬を滑り落ちて行くのが、喜一にはまるで他人の皮膚のように感じられた。

「なぁ、坂本よぉ」

 意外にも、田屋が自分の名前を知っていたことに、喜一は顔を上げた。

 田屋は喜一を見つめている。

 ニヤニヤ笑いを浮かべながら、田屋は穏やかな声で言った。

「なんか、暑くね?」

 急にそういうと、田屋はシャツの襟元を無造作にくつろげた。

 開いた隙間から黒いタンクトップと、彼の陽に焼けた肌が覗いた。

 だらしない。

 そう感じて、喜一は彼から目を逸らした。

 目を逸らした喜一の横顔を田屋は、面白そうに眺めた。

「で、さっきの話の続きだけどさ」

 田屋は椅子の上に片膝立てると、話を元に戻した。

「何が駄目なのか言ってみな」

 喜一はカラカラに乾いて張り付きそうな唇を一舐めし、ともすれば震えそうになるのを堪えて、仁谷から聞いていた田屋の付きまとい行為を言い並べた。

「……ケー、タイに変な言葉入れたり」

「それから」

「アパートの前で待ち伏せ、とか」

「うん」

「学校で変な噂、流したり、とか。それじゃまるで」

 喜一は言い淀んだ。それを引き継ぐように田屋が言った。

「ストーカー、ってか?」

 憚られるような気がして、喜一が言い淀んだ言葉を、田屋はずばりと口にした。ぎくりとした喜一に、彼はくつくつと声を立てて笑った。

 剥き出しの喉がその度に生々しく動く。

「なんであんたがビビんのさ。ストーカーってるのは俺だろ」

 田屋は湧き上がってくる笑いの発作を堪えながら、ちらりと喜一に視線をくれた。その一瞥に、喜一は身体中にふつふつと汗が沸いてくるのを感じた。

 田屋は言葉を継いだ。

「それともなにか、あんた」

 途端、穏やかだった彼の視線が粘つくようなモノに変わった。

「後ろめたいことでもあんの?」

「……っっな、なんで俺が」

 弾かれたように、喜一は立ち上がった。

 立ち上がったが、まるで金縛りになったかのように動けなくなった。

 田屋は片膝を立てた姿勢のまま、喜一を仰ぎ見た。

「やっぱ、後ろめたいことがあるんだ」

 にやにやと田屋の口の端が嫌らしく歪む。

「なぁ……あんた、なんで今日俺のとこ来たの? 仁谷が好き?」

「違う」

「俺にムカついてた?」

「違う」

「じゃあ、何」

 喜一は言葉を失った。

 田屋の視線が喜一の身体を突き刺す。

 言ってやれ、おまえが仁谷を付けまわすからだって。

 変態みたいな真似するからだって。言ってやれよ。

 頭の中で、そう叫ぶ自分がいたが、その一言とて喜一の口からは零れなかった。

 立ち尽くす喜一に、田屋はますます声を立てて笑った。やがて、笑いをおさめると、舌なめずりするような声でこう言った。

「同類はわかるってね。仁谷のことを見てたってことは、あんたのことも見てたってことだ」

 ひそめられたその言葉に、ぞわりと毛穴がそばだった。

 田屋が見ている。

 それだけで、身の底からぞくりと何かが這い上がってくるのを感じた。

 田屋は粘つく視線で喜一を仰いだまま、かちりと爪を噛んだ。その仕草が、田屋の興が乗った時の癖だということを、喜一は知っている。

 そう、とうの昔に知っている。

 千切れるほど強く爪を噛みながら、田屋は言った。

「俺のこと、ずっと見てたよな? しかめっつらで、死にそうな顔してさ。目障りだったのか? それとも……うらやましかったか?」

 笑いを含んだその質問に、喜一は答えられなかった。

 違う、俺は、所かまわず騒ぐこいつらにうんざりしてただけだ。いつだって見ないようにしてたはずだ。教室でも、廊下でも、田屋から目を逸らして。見ないように。いつだって、目を。

 見る間に汗みずくになっていく喜一に、視線を注いでいた田屋は、やがてすくと立ち上がった。

 ゆっくりと喜一の前に立つと、喜一の顎の先を指で摘み上げる。

 近づいて来る田屋の瞳に、喜一は遠く、俺は終わりだと思った。

 舌をねじ込むようなキスは、喜一から何かを剥ぎ取っていく。

 唾液に光る唇で、田屋は今度こそ喜一を見下す笑みで微笑った。

「あそぼうぜ? 変態同士、仲良くよ?」

 ちかちかと、街灯が点滅した。

 どうやら、もうすぐ切れるようだ。


サイコっぽい雰囲気を書きたかったんだが、筆力不足で失敗してます。

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