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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
7章 デマドへの道程
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十五話 母との別れ

太陽に照らされた道。その周囲には田畑が広がっていた。


レンガに到着したときは慌てふためいていたグレンも、デマドではさすがに落ち着いた様子で。


「清水で成り立ってるわりには、よくある農村の風景っすね」


と言っても、農村を見た経験はないんだけどな。所々に農作業をしている村人の姿を見てとれる。


「毒をもつ生物が確認されていたとしても、源泉を一ヶ所みつけるだけで収入源にはならんよ」


鉄工商会の協力により十年の歳月を経て、七ヶ所の源泉を実用化したとのこと。


それぞれの源泉から調達した清水をデマドに集めて、そこから脇道にそれないでレンガへ運ぶ連中もいるってことか。




源泉を発見できたとしても、そこまでの道作りは慎重に行う必要がある。


「誤って清めの力を消しちまえば、毒をもった魔物や魔虫なんかが広まる可能性があるんすね」


「源泉への道を造るには専門の知識が必要となるため、清水関係の仕事はデマド組合が指揮をとっている。それ以外の村人は農業を中心に生活しているのだろうな」


デマドは町への発展を目指しているから、勇者の村とは金の使い道が異なっているんだろうな。



アクアは二人の会話に興味を持ちながら、一方を指さすと。


「あちこちに小屋なんかはあるけどさ、人が住んでるって感じじゃなさそうだよ。グレン君なら平気だろうけど、ボクにはとても住めないね」


失礼な。俺の住んでた家はもっと素敵だったぞ。


不満を浮かべるグレンを余所に、ガンセキはデマドの説明を続ける。


「すでにここは村内だが、人の住む場所は一ヶ所にまとめられている。これほど広い田畑を維持できているんだ、デマドが金に余裕がある証拠とも言えるな」


鉄工商会の管理下で農地を広げるのは難しいってことか。


「鎧国に存在する都市の中でも、レンガは群を抜いて大きい。あそこは武具や防具が有名だが、世界から見ても一流の製鉄技術を有している」


剣や鎧を拵える前に、まずは原材から鉄を造りだす必要がある。地面からでも鉄鉱石ってのは採掘できる場合もあるらしいけど、レンガは鉱山からそれを仕入れている。


本当はレンガの近場にあった方が良いんだけど、工業には魔物の弱さとかも関係してくるから仕方ねえってとこか。魔族が現れる前から鉄工商会ってのはあったらしいけど、その頃は魔物もいなかったし、鉄とは関係のない物を扱ってたのかね。


「農業に力を注いでいる都市は、こういった村々の田畑や家畜を守るのにも、兵士を向けているってことですか」


護衛ギルドもそういった仕事は引き受けてくれるけど、連中の本業は旅人や旅商人を守ることだからな。


「フスマを例に上げると、あそこは徴兵した村人を訓練したのち、各地にそれを割り振っている。兵の管理は都市と町で行なっていると聞いたが」


確かにレンガは大きいけど、そのぶん仕切っている範囲は他の都市よりも狭い。フスマは徴兵により多くの兵士を管理することで、不足している所に回したりできるってことか。


「勇者の村に住んでいた俺たちは感覚が薄いけど、収める税なんかも他村は考える必要があるんすかね」


「詳しくはないがあるにはある。だがレンガの場合は金や物よりも、魔力を有する人材を要求することが多いらしい」


都市への出稼ぎが許されるのは成人を迎えてからだったか。


グレンは納得した表情で頷きながら。


「村ってのは鉄工商会からしてみれば、人材を集めるためにあるんでしょうね。煙害を防ぎたいってのもあるだろうから、炎使いなんかは真っ先に欲しがりそうだ」


農業は難しい。不作ってこともあるし、農地を魔物から守って維持させる必要もある。土地を肥えさせる技術はあるらしいが、結局は自然の偉大さに勝てないのも事実だ。


他の都市はそういった環境作りをしているけど、レンガはそれがまったくねえ。


「国や都市の補助がなければ、各村の生産量に期待はできない。勇者の村みたいな小規模な農地だと、自分たちが食うぶんには困らんが、それで金を稼ぐには無理があるな」


責任者は勇者に視線を向けると。


「たとえ戦争が終結しようと、あの都市が保有する製鉄技術を活かす道は他にもある」


でなければ鉄工商会は、刻亀討伐への協力を渋るはずだしな。それにレンガの主な収入源は、一般兵が使用する剣や鎧なんかだ。


白魔法補助や金属を頑強にするのが宝玉具だからよ、元来の武器に比べればそれらは壊れにくいんだ。


大型の魔物に鎧は無意味だけど、群れと戦うときは大きな効果を期待できる。魔物の中には皮膚が硬いのもいるから、普通の武器だと余計に壊れやすい。


打撃を優先させた両手剣は確かに丈夫だけど、そいつを長年の相棒とするなんて、誰にでも可能なことじゃねえ。


戦争が終わっても剣や鎧なんかの必要数が減るだけで、鉄工商会に大きな打撃はないと俺は読んでいる。魔族がこの世界から消えようと、魔物はこれまでどおり残るだろうしよ。


「だいたい戦争が終わった場合のことすら考えてないとすれば、これほどまでに周囲から恐れられる組織にはなってねえっすよ」


ガンセキとグレンの会話を聞いたセレスは、少し不満そうな口調で。


「レンガの管理する村々は、人材をよこすためだけに存在している。でもそれじゃあ村がなくなっちゃうもん。そしたら鉄工商会も困っちゃうんじゃないかな」


国内外の関係が整っているといっても、仕入れは遠距離になるほど費用はかさむ。セレスの言うとおり、それに頼ってばかりじゃ成り立たないのは事実だ。


デマドのように裕福な村なら護衛ギルドを利用できるし、それなりの農地を維持できる。ここのほかに清水の源泉があるのは大森林だけど、あそこは森の民がいるから鉄工商会も下手に手をだせない。


「まあ漁業ならある程度は可能だろうしよ、この国は魔物の素材も金にできるんだ。弱いのしかいないから期待はできねえが、それで生きてきた人間がここにいるだろ」


俺は一人で戦ってたから危険が多かったけど、本当はそんなことする必要なんてねえ。ちゃんとした人数で戦えば、ここいらの単独なら安全に退治できるんだ。例外もそりゃいるけどよ。


ガンセキがグレンの発言に続く。


「鉄工商会は農業の環境作りはしていないが、それ以外は確りと管理している。出稼ぎに都市へ向かう者たちの護衛などは、全額でなくとも一部は負担していると思うぞ」


レンガから各村に要求する納税は、余所と比べれば少ないらしい。


「この国で生活している村々は貧しくとも、都市で知識を得る術を知っている。収めたものがどのように使われるのかを理解しているからこそ、文句をいう者は少ないのだろうな」


駄目な管理でも回しているのは国や地方だ。そんなところは民に知識を与えたりしないから、一揆を起こしたとしても事態は悪化する。


対して鉄工商会は集めた税を利用して、村がギルドへ依頼するさいの手助けをしている。よく解らねえけど、ギルド税ってな感じか。


生活を続けるために村人は都市に集まり、大鉄所や小鉄所で仕事をする。そして一定の年齢を過ぎれば、故郷に帰って都市で得た知識を若者に伝える。




お偉いさんが欲に塗れた政治をしていたとしても、民は村を出ようとは考えないだろうけどな。


「少なくとも俺なら、故郷ってのはそう簡単に捨てれねえよ」


難しい話は解らなかったが、その言葉に納得したようで。


「オババや大切に育ててくれた皆がいるから、私も勇者の村が大好きだよ」


セレスは少しだけ嬉しそうに笑っていた。


金に余裕がある村で育った人間に、本当の苦しみは解らねえけどな。


そりゃあ誰かさんは例外かも知れねえが、自分勝手に貧乏してただけだからな。もし周囲に余裕がなければ、俺は東の森でとっくに死んでるな。



姉の仕立ててくれた水の服を見つめながら、アクアも自分の故郷を想う。


「帰ったらボク、お姉ちゃんの仕事を手伝うんだ」


草だったり木の皮だったりよ、それらがどんな過程で糸になるのかは解らねえが、かなり厄介な作業だと婆さんから教わった記憶がある。


糸を織って布にするってな技術が、今もそれなりの村へ伝わっている。鉄工商会って連中は本来、そっち関係を主体に進めていく予定だったのかね。



グレンは書物や修行場の軍人から教わった知識を、この場で三人に向ける。


「今から千年以上の昔。レンガを都市だと認めさせるために、先人は時計台を建築して、その技術力を周囲へ示した」


もともとレンガってのは、他都市が管理する町の一つだったらしい。



ガンセキも時計台の歴史を知っていたようで、時を司る青空を見つめながら。


「当時それを望んだのは、鉄工商会の重役たちだと伝えられている。だがもしそれが間違いだとすれば、俺たちの知っている解釈は一転するぞ」


もしも。


レンガを都市にすることを望んだのが、古代種族や敗国人の側だったとすれば。


「あの商会は国を動かすほどの権力なんて、本当は求めてなかったことになりますね」


これはただの予想だ。過去にガンセキさんが本腰を入れて調べたわけでもないから、なんの確証もない話だろうよ。


それに過ぎ去った時代の物語だからよ、今さら考えても仕方ねえのかもな。



責任者は師との記憶を辿り。


「鉄工商会。魔族が現れた当初は、そのような呼び名ではなかったと教わったな」


決して見ることのできない過去へ、想いを馳せる。


大した知識もないが、青年は楽しそうに笑っていた。


「グレンちゃんは魔獣討伐よりも、聖域探索のほうが好きそうだもんね」


「でもよセレス。魔物退治のほうが解りやすいし、そっちを望む勇者が多いのも事実だろ。なによりいかにもって感じじゃねえか」


ガンセキは二人を交互に見て。


「レンガに到着した日の晩、お前たちに伝え忘れていたことがある。罪人の捕縛や聖域探索などは、魔獣討伐に失敗した一行が、地道に名声を得るための選択肢だ」


魔獣は一体を討伐するだけで充分な名声を手にすることが可能であった。


「俺は前回の討伐で二人の仲間を失った。だが魔獣を倒すことには成功したんだ」


責任者の言葉。その裏に隠された本音を、アクアは感じとっていた。


「でももしそれに失敗していたら、今もガンさんは」


オバハンの息子と旅を続けていた……かも知れねえ。


「魔王の領域で相棒を失ってから、俺はそのような想像を繰り返し、現実から逃げていた時期があった。だが過去を変えることなどできん。もしもはただの叶わない願いであり、用意されていたはずの未来ではない」


認めたくない過去ほど、向き合うことができない。


呪縛の過去ほど、辛い想い出に変化させるのは困難である。


だから臆病者は、もしもの未来に逃げだした。



ガンセキの経験を学んだ勇者は、赤の護衛に視線を向けると。


「私たちもいつか、過去を後悔するときがくるかも知れない。それに溺れて現実を見失うことも、きっと一つの経験だと思う。でもグレンちゃん……その失敗を今に活かすことが、生きる上で大切なことなんだよ」


消し去りたい真実と、忘れたくない過去。


彼は自分自身を騙し続けて生きている。矛盾に矛盾を塗り固めたグレンに、セレスの想いが届くことはない。


赤の護衛は逆手重装を握りしめると、相手のまっすぐな瞳を睨み返し。


「過去の出来事に溺れながら、今を誤魔化して生きる。そういった生き方は都合が良かったんだけどよ、残念ながら最近は上手くいってねえんだ」


それによセレス。俺にそんな生き方をやめろって言うけど、気づいてないだけで、お前も色々と誤魔化して生きてるだろ。



その判断が間違いだったとしても、自分で考えて行動することくらい、本当は昔からできたよな。


意識してやってたのが、そのうち無意識になり、わざとしているって気づかなくなる。


グレンは揺るぎない意思をセレスへ送る。


「まだ現実を見つめる勇気は持ててないんだ。悪いけど当分は、この生き方を捨てる積りはねえ」


たとえ魔獣具の呪いで弱まろうと、青年が自分へ与えた暗示は頑強なものだった。


黙って話を聞いていたアクアは、何気なくグレンに質問する。


「君は今、どこにいるんだい」


農作業をする村人たちを、赤の護衛は遠くから眺めていた。


「この風景を良いもんだって俺は感じている。少なくとも、そんくらいの余裕は持ててるな」


時々自分を見失うけど、まだ立っている場所なら理解できる。


青年はいつもの苦笑いを浮かべると。


「ここはデマド村だ」


気づけば村人たちは一行に意識を向けていた。セレスは彼らに下手な動作で挨拶をすると、相手もこちらへ手を振り返してくれた。


それが嬉しかったのか、勇者は満面の笑みで。


「グレンちゃんはここにいるもん。ちゃんと私の目に写ってるよ」


そんな言葉を鼻で笑うと、青年は頭をかきながら村の観察をする。






遠目に木と石で造られた壁が見える。恐らくあの内側で村人は夜を明かすんだろうな。このまま歩けば十分くらいで到着するか。


壁の外側には白い布で造られた住処がいくつか存在している。



田畑の一角を川が流れていた。あれは平原に向かって流れてはいねえ。少し離れた場所に目を向ければ、斜面に人の手を加えた段々畑も見える。



平原の川はデカイからよ、物資の搬送なんかにも利用はできる。だけどレンガはそこから魔物が侵入するのを警戒している。壁の内側を可能な限り安全な空間にしたいんだろうな。


意外と水門とかいう施設に、川からの物資が集まるようになってんのかな。だけどそうだとすれば、レンガの北側を通る旅商人がもっと多いはずだ。俺たちが通ったのとは別の道でもあったのかな。



あとデマドから本陣への物資は川を利用していない。山中を流れるのは狭いからよ、勢いの激しいところが多いんだ。そこを通るには工事をする必要がある。


四人だけで本陣を目指すなら、歩きだとしても二十日はいらない。物資を運ぶ連中を護衛しながら進むからよ、嫌でも日数は伸びちまうんだ。


・・

・・

なにかを忘れたいのか、その後もグレンは狂ったように考え続ける。

・・

・・


数分後、勇者一行はデマドの居住地にたどりついた。


村人と思われる姿は少なく、それよりも軽鎧をまとった兵士が目につく。居住地はそこまで広いわけではなく、兵士は壁の外側で幕を張っていた。すでに長い時間そこにあるようで、幕の白色は薄汚れているが、なかなか丈夫そうな造りをしてた。


レンガ軍の兵士は都市の護衛だけを専門としている。刻亀討伐には、あのようなものを用意する必要があるのだと思われる。


ガンセキは兵士に視線を向けながら。


「村人の多くは農作業にでているのだろう。俺たちは組合の建物に泊まらせてもらう予定だからな、先にそちらへ向かうぞ」


デマドの組合は清水をレンガへ運搬する者たちであるため、ヒノキへの物資も彼らが管理をしいるのだろう。


兵士たちの小隊長は中継地におり、デマドで彼らの指揮をとっているのは、恐らく鉄工商会の人物だと予想する。



アクアは居住地を見渡すと、あることに気づいたようで。


「てっきり畑だけかと思ってたけどさ、家畜は壁の内側で放し飼いなんだね」


家畜という単語を聞いた次の瞬間だった。


グレンは肩かけ鞄をその場に置くと、物凄い勢いで地面に倒れこみ、低い姿勢からなにかを探し始めた。


責任者はそんな赤の護衛を無視しながら。


「家畜は食べたぶんだけ排泄をする。ここは清めの水が豊富だが、あれを使った浄化は大切なものまで落としてしまうため、肥料として利用することはできなくなる」


そもそもデマドに集められた清めの水は、レンガで使うためにある。



もしこの村が畜産に力を注いだ場合、そこから発生する糞尿は物凄い量であり、それを肥料にする場合は専用の施設が必要であった。


「ここが町となっていれば可能かも知れんが、現状で家畜の数を増やせば環境が崩れるだろうな」


グレンは地べたを這いずりながら。


「巨大化すれば害となるものが多いってことっすよ。あに……家畜の糞も接し方さえ覚えれば、そんだけの恵みを与えてくれるんだ」


「グ~ちゃん。恥ずかしいから止めた方がいいよ」


お前にだけは言われたくないとグレンは考えていたが、それを口にだすことはなかった。


「もしかして君……本気で家畜の糞に土下座するつもりなのかい」


「彼はいつだって俺に勇気と希望を与えてくれる。感謝の気持ちは土下座だけでも足りないくらいだ」


青年は真剣だった。責任者は目もとを手の平で隠しながら。


「これまでに築いてきたお前の人物像が崩れるから、そういうことをするのはできれば止めて欲しいのだが。もう一つ言わせてもらえば、土下座はどちらかと言えば謝罪だと思うが」


セレスはグレンの兄者探しを止めさせるために。


「放し飼いをしているのに、ウンチとかは見当たらないよ。村人さんたちがお掃除してるんじゃないのかな」


勇者の村と同じで獣臭さが多少あるが、ここの環境はかなり整っていると思われる。


「もともと豊かな土地だとすれば、肥料が不十分なのだとしても、しっかりと休ませれば作物は育つ。そもそもデマドからしてみれば、農業は清水の副産物なのかも知れんな」


清水は作物を病から守る役割も担っているとのこと。しかしアクアはその内容に疑問を抱いたようで。


「毒とかだけで病気には効果がない。前にガンさんそう言ってたじゃないか」


「被害がでる前に予防として使うんだ。もっとも作物を清潔にしすぎれば、別の問題がでてくると思うが」


そもそも清水の効果は解毒や浄化などが有名だが、その全貌は未だ把握されていなかった。


「人間や自然に有害なものを清めると言われているが、それらの範囲が曖昧なのも事実だ。もしかすれば田畑に清水を利用するのは、逆効果なのかも知れんな」


グレンは兄者との再会を諦めると、その場から立ち上がり。


「清水を使って育てられた野菜は安全だって唱えりゃ、なにかしらの銘柄でも付くんじゃねえっすか。まあそれでも生で食う奴は少ないと思いますが」


火を通すと味が落ちる野菜などは、保存食に加工されたり、湯がいてから食べられることが多い。



適当なグレンの発言に怒りを覚えたのか、アクアは普段よりも少し強い口調で。


「安全かどうかの確証もないのに、そういった宣伝で人に売ったりするのは止めた方が良いんじゃないかい。もしその銘柄でなにかあったらさ、きっと印象が凄く悪くなるよ」


「アクアの言う通りだ。もしグレンの考えが実現されろば、偽物との違いを明確にしなければ駄目だ」


銘柄を持つということは、それだけの保証を用意しなくてはならない。


「信用を落としちゃ終いってことですかね。楽して儲けりゃ、そのうち痛い目に遭う……勉強になりますよ」


そんな三人の会話を聞いていたセレスは、少し嬉しそうにしながら。


「信念旗の対策を話し合っているときより、私はこういう内容の方が良い。勇者一行とは関係ないけど、それでも穏やかな気持になるもん」


果たして無関係なのか。責任者は己の意見を勇者に伝える。


「人々がどのような生活をしているのか。この国はどのように成り立っているのか。それを無視すれば、お前はお前の信じる勇者を見失うことになるぞ」


赤の護衛はセレスに解りやすいよう。


「世界の全ては無理だとしても、ある程度は知らないとよ、人々のためってのは難しいんじゃねえか」


本当は世界のことなんてどうでもいい。だって魔人の現実とどこかで繋がっているかも知れないから。それでも彼は夢のため、どうでもいいと考えながら、この世界を調べ続ける。



グレンはセレスではなく、無意識にアクアへ視線を向けると。


「上辺だけの解決じゃ、根本はなにも変わらない。そんなこと解ってるだろ」


言いたいことを伝えた終えた男たちは、自分勝手に二人を残して歩きだした。



アクアは難しい顔で考えこむと。


「グレン君は悪い意味で変わっちゃったよ。本心を言うとさ……セレスちゃんだけは、昔のままでいて欲しかった」


素敵な笑顔の友達へ。勇者の首にかけられたそれを見つめながら、アクアは震えた声で。


「でもボクは青の護衛だから、守るだけじゃ駄目なんだ」


少女はセレスと出逢ってから、始めて勇者の敵に回る。


「どんなに望んでも、二人だけの物語は、もう帰ってこない。そんなの所詮……ただの過ぎ去った記憶なんだ」


女の子はなにかを必死に堪えながら。


「幸せな想い出で、終わらせないと駄目なんだよ」


複雑な表情で想いを伝えると、青の護衛は勇者から離れていく。




一人とり残された勇者は、グレンの背中を見つめて。


『変化の先を望んでこそ、成長があるのかもな』


勇者は俯き、両手を握り締めながら。


「そんなこと言われても、難しくて解んないよ」


セレスは今を誤魔化して、過去の想い出に溺れている。


















「グレンちゃんは……私の家族だもん」

















この日。一行は四人での旅を終えた。








世界。人物の内面。神話。


無理やり矛盾を加工して繋ぎあわせているけど、探せば所々に綻びは見つかります。


こんな世界でも良かったら、これからもお付き合いください。


あと家畜の糞に矛盾があったので、ちょっとだけ『軍所に行きたい』を書き直しました。


グレンは本気で家畜の糞を好きという設定に今はなっていますが、その話だと単なる冗談になってましたので。


なぜ好きになったのか。後付だけど理由付けは考えてあります。格好いいよりも、格好悪い主人公を描いていきたい。

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