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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
7章 デマドへの道程
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八話 雨ふり道中

遠くで雷が鳴っている。


普段よりも急いで進んでいたが、俺たちが歩くよりも雨雲のほうが速かったようだ。歩きながらの昼飯を終えたあたりから、本格的に降り始めてきた。


最初の内は楽しんでいたアクアとセレスも、時間が過ぎると元気はすべて雨に流されてしまい、今は水の音だけが耳に入ってくる。


相性が良くても、こう雨が強いと体力は奪われるってことか。でも合体魔法の修行は俺と違って捗ったんじゃねえかな。


炎が上手く扱えないから、今日の修行は魔力練りだけを繰り返している。逆手重装を使わずに、右腕だけを極化状態にさせる。


防水粉はまだなんとか頑張ってくれていた。荷物の中身が濡れると困るため、粉をかけた布で鞄をおおっている。


ガンセキさんも本が湿ってしまうと困るだろうからな。買うとなれば、安くはない品物だからよ。


俺は常識がないから、書物にとって炎使いは天敵だと思ってたんだけど、どうも違うみたいなんだよな。後になって聞いた話なんだけど、レンガで世話になった書官さん、本職は火の神官らしい。


魔法の使えない人間が神官になるのは認められている。炎使いが火の神官になるときと同じように、各都市で年に数度ある国家試験を受けて、なおかつ合格する必要があるけどな。


土使いが火の神官になる。このように他属性の神へ仕える場合は、試験に合格しても余分に金を払って儀式みたいなのをしなけりゃ駄目なんだと。


土神に自身の意思を送ったのち、火の神に魔法陣を使い魔力を送る。儀式の場には火の神官が数名いなくてはならない。


神に仕える気なんてねえし、細かい作法までは教わってないけどよ。



この世界で文字の読み書きができる人間が多いのは、火神官の功績なんだと。言われてみれば俺の故郷に神官はいなかったけど、炎使いが率先して子供に読み書きを教えるって風習があったからな。


遥か古に人類へ知識を与え、そこから神話を教えたのは、火の神だってくらいだしよ。当時の人々にホノオの声が聞こえたんだと。魔族が現れるずっと昔だから、資料もなんもない口伝らしいけど。


詳しくは熱心な信者にでも聞かないと解らねえな。俺が神を好きじゃないって知ってるから、セレスはあんま言ってこないし。


だけどホノオはなんでまた、人間にだけそんなことをしたのかね。



雷の神官が罪と罰の重さを判断するのなら、火は教育って感じなのかな。治安維持軍で高い地位を得るには、土の神官って資格がないと駄目だったりして。


でもそうなるとよ、水と風の神官はなにをすんのかな。考えてはみたけど、そこらへんは解んねえや。



グレンは責任者の隣まで足を進めると、雨音に負けないよう普段よりも大きな声で。


「ガンセキさん。神官ってのは勇者一行みたいに証明する物はあるんすか」


「また随分と急な質問だな。いったいお前は頭の中で何を考えているんだ」


返事はせず、苦笑いだけをガンセキに向ける。


「宝玉に紋様を彫った物を彼らは持っている。それを見れば、神官としての地位も解るらしい」


下っ端は濁宝玉で、偉くなると宝石玉になる。純宝玉は強度が低いから無理だそうだ。


そんで位が上がるごとに、宝玉に彫られた紋様が付け足されていく。属性紋とは違い、神官であることを証明する紋様なんだと。かなり高度な技術が必要だから、偽物を作んのは難しいとのことだ。


しかし宝石玉を使うとは、勿体ないことをするもんだ。


「そういえば前から気になってたんすけど、土の宝玉って原石を加工して作るんすよね」


グレンの質問にガンセキは頷く。


だけどそうなると、ちっと変じゃねえか。俺は武具について簡単な知識はあるけど、宝玉ってのはあんま知らない。


「宝石玉までは解るんすけど・・・純宝玉って脆いから加工できないんじゃ」


火の宝玉だってヨウガンってのに埋まっているらしいけど、純宝玉だと無理だよな。


「お前の言う通り宝玉は自然の産物なんだが、純宝玉だけは入手方法が異なっている」


地震や嵐などの異常な自然現象が、この世界では各地で確認されていた。それが静まったのち、稀にその場所で発見されるのが純宝玉である。


「俺たち人類が魔族と戦っているように、神々は闇の存在と戦っている。異常な自然現象はそれにより起こったものだと言われているな」


その戦いに人間や獣を巻き込んでしまったとき、神は涙を流し、それが純宝玉となった。これが現在の通説である。


ガンセキから説明を受けたグレンは、左手を握りしめていた。


神が流した涙とかはどうでもいい。でも犠牲の上で純宝玉は造られるのかよ、あんまいい気分はしねえな。


闇と光。魔族と人。魔物と宝玉。


この国は魔物具を造っても罪にはならないらしいけど、他の国はどうなのかな。


「ガンセキさんは盾国の同盟軍に参加されたんですよね。あそこは魔物具に対してはどうなんすか」


「今後の予定にはないが、盾国の領地に入るとすれば、逆手重装を外さんと捕まるぞ。あの国を収める者たちは、神を信じる気持ちが特に強いからな」


あんま行きたくねえ国だな。盾国の治安軍も、その特色を受けているだろうし。


「魔物は闇により無理やり変化させられたが、本来は太陽と月の子供たちだ。そのことから二大国は魔物具を一応だが認めている」


なるほどな、そういった考え方もあるのか。


通説 本来は太陽と月の子供だから、魔物の魔力なら宝玉は反応する。だけどそれは闇魔力のため、神に送っても魔法にすることはできない。


別説 闇魔力は宝玉を乗っ取り、無理やり反応させる。だが魔物の魔力では、属性神の力を奪うことはできない。


闇の存在が属性神から力を奪い、それを送られてきた闇魔力と重ねて黒魔法とする。


魔物としての本能が、闇の存在に魔力を送る行為を可能とさせている。こんな感じにすれば、どちらの説でも筋は通る・・・かな?


「しかし剣国はここ数年、魔獣具の製造を禁止にしようという動きがある」


以前そんな話をレンゲさんから聞いた覚えがあるらしい。呪い関係でなんか事件でもあったのかな。


そもそも魔獣が素材を残すなんて滅多にないから、造りたくても造れないけどな。行く気もないけど、国内に持ち込めるなら、俺が気にすることでもない。


そりゃあどの国にだって、魔物具に反対する人間はいる。逆手重装が魔獣具と知られたら、貶されるもんだと思い込んでおこう。


受け入れられない奴は心が狭いなんて思わない。そんな彼らを否定する資格なんて俺にはねえからよ。


それよりもさ、魔物を認めてくれるなら、魔人も認めてくれると有難いんだけど。まあそう簡単にはいかないか。


人間になると獣とは違い、裏切り者と判断される。


グレンはガンセキの言葉にはなにも返さず、黙って空を見上げていた。



灰色の雲から沢山の水滴が落ちている。


それにしても良く降るもんだ。朝は体調が優れなかったけど、今はなんともないから良かった。まあ雨のせいか、肩が少し痛むんだけどな。


俺以外の三人は盾のような形状の雨具を手に持ち、自身の頭部を濡れないようにしていた。素材は木製だが特殊な加工により、水分が染み込まないようになっている。


しつこいかも知れないが、これも防水粉と同じで雨魔法は防げない。


たしか表面に液体かなんかを塗るんだけど、それをしないと水を含んで重くなるらしい。見てくれが盾だけあり、防御力はそれなりにあるが、あまり期待はしない方がいい。


これはあくまでも雨具で、名前を雨盾あまだてと呼ぶ。


雨のせいで歩きにくい。心配だから聞いてみるか。


「進み具合はどうなんすかね、日没までには間に合いそうですか」


厚い雲に太陽の光は遮られていた。こう暗いと少し不安になる。


時計は持っていないため、正確な時刻は解らない。そういうのに頼らない生活をしてきたから、大まかでいいなら十四時を回ったあたりかな。


「予定よりも速いくらいだ、あと二時間もすれば到着すると思うが」


ガンセキの返事を聞いたアクアとセレスは。


「ボクもう疲れたよ。そろそろ少し休んだほうが良いんじゃないかな」


「私もアクアに賛成だもん。足がパンパンだよ~」


グレンは後方を歩く二人に視線を向けながら。


「我慢しやがれ。文句も言わずに歩いてる俺を見習え・・・どうだ、立派だろ」


雨が降ったくらいで無駄にはしゃぐから疲れんだよ。


「ふえ~ グレンちゃん立派だね~」


「肩が痛いのに涙を堪えて必死に進んでいるんだ。こんな俺の姿を見たら、きっと沢山の人に勇気と感動を与えることができるはずだ」


アクアは鼻で笑うと。


「雨の音がうるさくて、君の声がよく聞こえないよ。誰が立派なのか、もう一度ボクに教えてくれないかな?」


「・・・俺だ」


「え、なに? 君は立派な人間だったのかい、ボクは驚きだよ」


グレンの顔は赤くなっていた。


俺も驚きだ、もう恥ずかしくて泣きたい。



だいたいお前ら、自然の雨とは相性がいいんだろ。文句いわずに歩けよ。


まあ俺は雨が降ってようが、こういう天気の中で行動するのには慣れてたりする。魔物とは戦わなくても、南森の把握とかをしてたからな。


もっとも俺の場合は体術が中心だから、魔法が使えなくてもそこまで困らない。ただ剛炎が思うように使えないのはちっと痛い。


炎魔法ってのは徐々に火力を上げる必要がある。火・炎・剛炎って順序を無視することはできず、自然雨の中だと、通常よりもこれに手間取る。


火力を上げている隙を魔物に突かれるって感じだな。


ちなみにオッサンの体術には構えってのがない。あえて言うと心構えで自然にできたのが、ギゼル流魔力拳術の構えだ。


相手が人間なら特定の構えを作るんだけど、魔物ってのは大きさも姿も違うんだ。変に決めちまうよりも、その方が良いんだと。


そのときの状況に合わせ、数百通りの構えを用意している流派もある。



不恰好かも知れねえが、俺は決められた構えより、自分にしっくりくる構えで相手に挑みたい。


伝えられている構えは、師から弟子へと何代にも渡って試行錯誤を繰り返し、時代の中で鍛えられたものだ。それとは逆にオッサンは、敵と対峙したときに拳心を何処へ向けるかで、構えは自然に造られるという考えに至った。


拳心ってのがギゼル流の中核なんだと。俺にも奴の言っていることはよく解らない。問題を上げるとすれば、その場で自然にでたものだから、構え自体の鍛錬が甘い。


言っちまえば俺の構えなんて鉄鉱石みたいなもんだ。人の手が加わってないから、不純物が混ざりまくっている。


古代種族の知識も入っているかも知れねえが、人は長年かけて鋼を造りだした。ギゼル流の構えなんて、それに遠く及ばない。


石炭を蒸し焼きにしないと骸炭は造れない。それと同じで人が手を加えなければ、魔力は人内魔法を発動させない。


たとえ鉄鉱石のような俺の構えでも、骸炭のかわりに魔力を使えば、硬くてもろい銑鉄になるんじゃねえのかな。そもそもギゼル流は人内魔法の補助を目的としているから、構えよりも心構えの方が重要なんだろう。


拳士としての心を戦闘時でも保てるよう、俺は呼吸法を教わった。ちなみに不動の構えってのは、拳心を足腰と足裏に向けている。


土は安心と居場所を司るから、大地には者や物を引き寄せる力がある。足腰と足裏に拳心を向けることで、重力を活かす構えとなる。


正直に言わせてもらうと、拳心がなんなのかすら俺には解ってない。


喜びを何処に向けるのか。心の弾みを何処で抑えるのか。感情を何処に持っていくのか。


戦える今を喜び、そして楽しむ。これが拳心らしい。


身体に魔力を込めるだけじゃ未熟、身体に拳心を込めるだけでも半端。魔力に喜びを込めて、それを自と他の境へと向ける。


意味不明なんだけど、これができれば俺はもう皆伝なんだとさ。


それと関係があるかどうかは解らない。


『誰かのためって言葉は胸糞が悪くなる。自分のために戦ってこそ、本当の勝利がまってんだ。手加減はしねえぞ、俺がお前を殺してやる、死にたくなけりゃあ殺してみせろ』


拳士としてオッサンに向き合うと、何故か無性に先手を打ちたくなるんだ。罠だと頭では理解していても、飛び込みたくなってしまう。


相手が隙だらけってわけでもないし、挑発を受けたわけでもなく、ましてや強者特有の威圧とも違う。オッサンの感情が伝わってきて、俺も無性に楽しくなって、奴の拳心に包まれていた。


あの変人はどうしようもない負けず嫌いだ。奴は俺の師匠じゃない、どうしても倒したい敵だった。



グレンは考えるのをやめると、息を吐きながら空を見上げる。


物思いにふけていれば、他のことを忘れてしまう。


ガンセキはそんなグレンに意識を向けながら。


「考え事はいいが、修行をしなくて大丈夫なのか」


「ギゼル流について考えてたんすよ、これも修行の一旦なんで。そういえばガンセキさんの体術に流派はあるんすか」


グレンの問いかけにガンセキは苦笑いを浮かべると。


「親父から剣と拳の基礎を教わって、その後は手を加えないように修行している」


基礎があっての技であるから、基礎だけに拘り続ければ、そこら辺の拳士に負けることはない。


「それに俺の中心は魔法だからな、重点はそちらへ向けている」


レンゲさんは例外として、ガンセキさんには恐らく土使いとしての師匠はいない。誰かに師事を仰ぐより、自分で突き進めたほうが速そうだからよ。解んないことがあったら自分で調べるだろうし。


「確かに土使いとしての師匠はいなかったが、カインと互いに評価をしていたからな」


そりゃあ俺も魔物って敵がいたから、自分の成長具合はある程度だけど解ったからな。


「人にものを教える。それは俺からしてみれば、過去の失敗を癒すための手段なのかもな」


前回の旅でガンセキは沢山の迷惑を仲間にかけた。だが五年の時がたち、今は修行をつける側となっている。


「お前らを成長させることよりも、俺は指導者という言葉に喜びを感じている」


グレンは意味がよく解らなかったが。


「婆さんは教えるだけでなく、全力で俺と戦ってくれた。レンガの修行でも結果はでたんだから、別に気にすることでもないと思いますが」


ガンセキは自分の手の平を見つめながら。


「修行に逃げていた時期が長くてな。今すぐという訳ではないが、いつか土使いに自分の技術を伝えたいんだ」


勇者一行は四人全員が別属性だからな。ガンセキさんは本格的に弟子を取りたいって気持ちがあるのか。


「師と弟子ってのはどんな理由にせよ、関係を築いてから始まるもんです。そのうち現れると良いですね」


責任者との会話に一区切りを打つと、次にグレンはアクアの方へ視線を向け、雨の中でも聞こえるように。


「たしかアクアさんには弓の師匠がいたよな」


二人の距離は少し離れていたため、アクアはグレンに近づくと。


「お師匠は弓に重点を置いていたけど、数種類の武器を使って戦う人だったんだ」


こいつは魔法も同じ人から教わっていたらしい。


ガンセキは成る程といった表情で。


「お前が戦闘で一通りこなせるのは、師から受け継いだものか」


「そうだよ、お師匠はボクと同じで器用な人だったんだ」


「お前はどっちかって言うと、器用貧乏じゃねえのか」


アクアはニッコリしながらグレンの頭をはたく。


グレンは痛みをこらえてアクアに微笑み返しをすると、そのまま右足を前にだし、左腕で殴りかかる。


その拳打を雨盾で受け止めると、そこから可愛らしいアクアの笑顔をのぞかせた。



こいつの師匠が高位属性使いかどうかは解らねえけど、調和を意識して修行する人なんだろうな。


土使いにも防御と攻撃を両方習得する調和型がいるけど、実践で戦えるようになんのは時間がかかるんだ。


ガンセキさんは高位攻撃魔法も使えるから、どちらかと言うと防御よりの調和型って感じだ。



などと考え事をしながらも、彼の攻撃は続けていた。


拳が盾に触れた状態のまま、グレンは左足を一歩進める。


体重移動と同時に彼の左腕は折りたたまれ、肘と前腕で盾ごと押しこみ、小柄な相手は体勢を崩す。その隙をつき、グレンはアクアの雨盾を奪い取った。


右肩が余計に痛くなっていたが、グレンは優しい眼差しでアクアを見つめながら、左腕を高く上げていた。


小さい女の子は顔を真っ赤にして、なんども一生懸命に飛び跳ねている。


「頑張れアクアさん、その努力がいつかお前をボルガにしてくれる」


「ボルガって誰さ!! 返してよ、頭がぬれちゃうじゃないか!!」


「俺なんてもうびしょ濡れだぞ。お前ばかり不公平だとは思わないか」


左腕しか使えないし、修行するのに雨盾を持っていると邪魔だからな。


意地悪をするグレンに怒りを抑えきれず、アクアは彼の頭上に水塊を造りだし、それを落とそうとした。



しかし相手はガランと戦った赤の護衛。アクアの魔法はすでに読まれていた。


水塊を避けるために後方へ移動するさい、グレンはとっさに雨盾を手放してしまう。


四人が歩いているのは人工道であり、土がむきだしになっていた。


「あ・・・ボクの雨盾」


雨盾は泥まみれの地面に落ち、汚れてしまっている。雨が降っているため、俺の思い過ごしだろうけど、なんかアクアが涙ぐんでいるような気がする。


どうしよう、俺はまたやっちまったのか。


セレスは駆け寄ると、自分の雨盾でアクアの頭をぬらさないようにして。


「グ~ちゃん」


睨まれたグレンは頭をかきながら地面の雨盾を拾い上げると、肩掛け鞄に括りつけていた自分の物をアクアに手渡す。


「一回り大きいけど、これを使え・・・悪かったな」


アクアは元気な笑顔を向けると。


「君にもこんな心配りができるんだね」


どうやらグレンの思い過ごしだったが、茶化しているわけでもなく、彼女は本当に嬉しそうにしていた。


青年はその言葉に照れたのか、返事もせずに歩き始める。



セレスはそんなグレンに近づくと。


「ねえねえ、私の先生については聞かないの」


「前に教えてくれただろ、魔法の雷は罰だって。それだけで充分だよ」


「・・・そっか」


セレスは簡単に引き下がった。でもすこし、残念そうな顔をしていた。


先生とやらが婆さんの家にくるのは月に数度で、それも僅かな期間だったらしい。


恐らく会話だけの修行だったんじゃねえのかな。こいつは村の修行場には行かなかったし、まだ俺が世話になる前だから、裏庭も散らかったままだ。


天の神と同じ髪色の赤子。


土の領域で意識して相手を観察すれば、結界で隠さない限り魔力量はなんとなく解る。


それだけじゃねえ。五歳で高位魔法を覚えた突然変異だ。


イカヅチの化身と崇められてる奴に、雷魔法の使い方や心構えを教える。そんな人がいたってだけですげえよ。


ちなみに婆さんは長生きしすぎて人外となった化物だ。魔物でもなければ獣でもない、この世界の人間は、そういった存在を妖怪と呼ぶ。


まあ千歳を超えるなんて不可能だから、お伽話から伝わった言葉なんじゃねえのか。


冗談はここらへんにして、婆さんと先生だけが、セレスを神さま扱いしなかったんだろう。


先生ってのは女性だったらしいから、セレスにしてみれば母親がわりだったのかな。




それから一時間ほどが経過した。


雨により視界は遮られているが、霧などは発生していない。この感じからすると、恐らく数日は降り続くだろう。


遠目に村が見えてきたが、そこまで大きくはないようだ。


「自然の雨に紛れろば、夜間の村に侵入することは可能ですかね」


宿を利用すれば地面が使えない。そうなると領域の効果は半減する。それに加え今は雨だ。


「見張り番は宿の外でってことかな。正直ボクは嫌だけど、仕方ないんじゃないかい」


グレンは三人を見渡して。


「俺もお前と同じで正直言いたくないんだけど、魔獣具が新たな能力を開放した。お疲れのところ悪いんだがよ、村に到着したら確かめたいんで、少し付き合ってもらいたい」


セレスは悲しそうな表情で。


「呪いが発症したなら、もっと速く教えてくれなきゃだめだもん」


「信念旗と戦っている最中に開放されたんだけど、なぜか今日の朝まで忘れてたんだよ。今のところ新しい呪いは確認されてねえ」


嫌な夢をみた覚えはあるんだけど、内容は忘れちまった。


「だから確認を込めて、ガンセキさんに付き合ってもらいたいんだ」


「村の中で魔獣具の能力を調べるなんて、そんなことして大丈夫なのかい」


「そこら辺の判断はガンセキさんに任せますよ。それじゃ、簡単に能力の説明をしますね」


グレンから説明を受けたガンセキは、立ち止まり考える姿勢をつくる。


「確かレンゲさんの工房で、黒手の能力を調べたんだったな。今回は魔法を使う必要があるから、修行場を利用したほうが良いか」


セレスが暴走したレンガのと比べるのはあれだが、どの村だって修行場はそれなりの広さがある。


「許可を貰えば余所者でも使わせてもらえるはずだ。宿で部屋をとったら、修行場を探してみるか」


「二人は休んでても良いんじゃねえか、荷物をそのままにしておけないしよ」


グレンの提案にガンセキは。


「修行場が宿から離れていたら、四人で荷物を持ったまま向かった方が良いな。しかし近ければ休んでても構わない・・・二人はそれで良いか」


意見を求められたアクアは困った顔をして。


「ボクは休みたいけど、セレスちゃん次第かな」


勇者は外套に隠れたグレンの左腕を見つめながら。


「私も一緒に行きたいけど・・・グレンちゃんは嫌でしょ」


「お前に睨まれながらじゃ調べられねえ、悪いけど宿から近ければ休んでてくれ」


正直なグレンの発言に、セレスはぶ~と言いながら頷いた。


今後の予定が決まり、一行は村に向けて歩き始める。




信念旗のせいで、本当に面倒だな。一々こういった対策を練んのは勘弁してもらいたい。


でも戦ってみて、少しだけどどんな連中かは解った。


連中の中には理想に酔っているのや、自分たちの考えが絶対だと思っている人間もいると思う。


だけど治安軍や勇者一行と戦ってきた実行部隊。それに命がけで敵組織に紛れている奴らは、ただ自分の理想を信じているだけだ。


考えながら苦しみながら、それでもいつか道が拓けると信じている。少なくとも俺が戦った奴らは、信念旗の理想が絶対だなんて思っちゃいなかった。


失ったものが多すぎるから、理想を捨てることが許されない。


理想はなにもしてくれない、それを叶えるために奴らは足掻いている。


だからこそ、俺は実行部隊が嫌いになれない。ガランは自分の理想よりも、オルクとの友情を優先させるような奴だったしな。


実行部隊は勇者を否定していても、それを無理やり他人に押し付けるようなことはしない。


だけど協力者を含めた全ての連中が、それと同じ考えとは限らねえ。


我らの理想を否定するこの世界は悪で、理想を受け入れる者は正義ってな考えかも知れない。


どんな方法で同志を増やしているのかは解んねえ、弱みを握って無理やり引き入れるのもいるだろうし、拒否すれば殺害するって奴もいるんじゃねえか。


だけど強引にことを進めていれば、実行部隊があそこまで結束することはねえだろう。


相手を調べた上で、理想を受け入れてくれるかどうかを決め、確信が持ててから会話を持ちかける。敵しかいないこの世界で、現在まで残っている組織だからよ、勧誘は慎重に行なっているはずだ。


信念旗の全体像・・・悩みながら信じて進む者が大半を締めており、恐らく狂信しているのは少数だ。


たとえ理想を狂信していても、敵が多いため慎重になっている。


奴らは準備を整えてから行動を起こす。警戒するに越したことはねえ。


対策を練るのが面倒くさいと言いながら、自分が楽しそうに笑っていることに、本人は気づこうとしない。


彼の拳心は今、信念旗に向けられていた。



十五のとき、俺はオッサンに勝利した。



あいつは本気で悔しがっていた。そのときは言い訳ばかりでよ、心の中で馬鹿にしてたんだ。


片足のことはガンセキさんに教わって始めて知った。


あんなに言い訳たらたらだったのに、なぜそれを俺に言わなかったのか、ずっと考えていた。


恐らく今のオッサンにとって、それが現状の実力だから。


俺はまだ、本当の意味で奴から勝利を奪っていない。


決めるのは他者でも自己でもどっちでもいい。弟子はたとえ相手が消えようと、死ぬまで挑み続けて、最後は勝たなきゃいけねえ。


敗北して地面にひれ伏した恩人を見下しながら、弟子は嫌味をこめて師匠と呼ぶ。


弟子を育てるのが師匠なら、師の腕を証明すんのは弟子しかいない。



婆さんの凄さを、俺は証明できない。


自分のために振り翳す、生憎そんな拳しか持ってねえんだ。


あんただけは師匠と認めたくない。


それがどういった存在なのか、未だによく解らねえ。


覚悟一つ貫けない。


越えられる気がしねえんだ。


夢に逃避しているだけなんだよ。


ごめんな・・・おっちゃん。



炎拳士を継ぐなんて、俺には荷が重すぎる。



7章:八話 おわり

雷や地震による火災 豪雨による洪水 地震による津波。風の場合は台風や竜巻。


噴火には雷も発生するらしいから、火だけじゃなくて雷の純宝玉もありですね。


だけどそういうのが起こる原理がいまいち解らないので、神々の戦いってことにしました。


物語の世界が球体で自転しているのかも自分には解りませんし。海の波とかだって、太陽の摂理にした方がいいのかなって。


俺は立派な人間を演じようとしてしまうけど、本当は楽に流れる駄目人間です。基礎が大切って言っても、その基礎すらなかなか守れません。


深い知識は入れれないと思うし、志も低いけど、彼らの応援をしたいから、やれることからやってみます。

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