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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
7章 デマドへの道程
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五話 旅人の宿にて

時刻は15時をまわったころだろうか。当初の予定どおり、一行は旅人の宿に到着した。


護衛ギルドを雇っているのか、宿の周辺を20名ほどの人間が守っていた。


「こんなんで魔物の対策になるんですかね?」


木製の小さな柵で囲ってはいるみたいだが、所々に隙間がある。これじゃあ魔物どころか、子供でも簡単に進入できちまうな。


「柵の役割は宿の敷地だという目安だろう。立派な物を作ろうとすれば、平原では材料を集めるだけで苦労しそうだからな」


他所から木材を仕入れるにしても、費用がかさみそうだ。


でっかい建物が平原の真ん中にあるのかと思ってたけど、小さいのが敷地内にいくつか建っているだけだ。


木製の骨組みに屋根がついているだけのや、確りと壁がある建物もある。


「建物が少なすぎるんじゃないかな、これだと入り切れないよ」


アクアが言うとおり、ここはレンガから近いせいもあり利用者が多い。


「室内は料金が倍になるからな。悪いが寝床は地面だ」


そうか・・・ここで夜を明かすだけでも金を取るんだな。言われてみれば建物が小さい割りに、敷地はそれなりに広い。




ガンセキは敷地の入り口付近に存在する受付所で金を払うと、腕章らしき物を換わりに受け取る。


宿の従業員と思われる人物と会話をかわしたのち、グレンたちのもとへ戻り、人数分の腕章を手渡す。


なんでもこれが客の証であり、身に付けないまま敷地に進入すると怒られるそうだ。


「金払ってまでここを利用する必要があるんすかね」


正直これなら、ほかの旅人と協力して野宿するのと変らないよな。


「ボクもグレン君に賛成かな。利用するなら、お金だして室内で休みたいよ」


セレスはアクアの影に隠れながら。


「人がいっぱいいる場所は苦手だから、私もお家の中に入りたい」


まあ・・・俺も人込みだと落ち着かねえな。


ガンセキは困った表情を浮かべながら。


「無理を言うな、そんな金があれば俺だってそうしている」


文句は婆さんと国にってことか。


「安全という理由でここを利用するには、敷地の広さに対して護衛の人数が少なすぎます。他者との接触を避けている現状、建物での宿泊が無理なら、昨日のように四人で朝を待つほうが良い気がしますけど」


ガンセキはグレンの言葉に笑みを返し。


「安全面なら問題ない、旅人の宿を護る人間は、客の数だけいるからな」


なんか嫌な予感がする。


「時間は暗くなってからの3時間だ、今の内に休んでおけ」


旅人の宿は護衛ギルド登録団体とは契約してないらしい。


3時間以上で宿代は半額、6時間で無料になるそうだ(室内は別料金)


入り口にいる宿の職員に腕章を渡し、その換わり木札を受け取る。


木札には仕事の時間帯が書かれており、終了したら受付に返し再び腕章をもらう。


柵の周辺には見張りがいるから、ずるしたらとても怒られるとのこと。


ほかには敷地内の見回りなんかもあり、腕章をつけてない奴を探して怒る。この場合は5時間で宿代が無料になるそうだ。なかには性質の悪い客もいるから、あまり人気がない。


見回りは宿の従業員が中心で行っているけど、腕に覚えがあったり、喧嘩好きな奴が好んでやるらしい。


客が多くなると、宿の警護や見回りの仕事を受けれなくなる。だからガンセキさんは、速めの到着を目指していたのか。


旅人の宿を護る人数が増えすぎると、楽しようとする奴がでてくるからな。



ガンセキから一通りの説明を受けたあと、四人は敷地内を移動し休む場所を決める。


焚き火などは禁止されているが、所々に明かり火が用意されていた。


このあと仕事を控えているため、まだ寝床の支度はしない。俺たちの荷物は自己管理のため、盗まれないように警戒しないとな。


アクアは空を見上げ。


「暗くなってから3時間お仕事すれば、あとは安心して朝まで休めるってことだよね。まだ時間があるからさ、ボクとセレスちゃんは売り場を見に行きたいな」


受付で別料金を払うことで、決められた場所で商売ができる。俺たちが持っている腕章とは色が違うらしい。


「別行動は止めた方がいいんじゃねえか。俺は魔力を回復させたいから、できろば少し寝たいんだけど」


グレンの発言に二人はしょんぼりと肩をおとした。


ガンセキは溜息をつくと、腰から杭を手に持ちセレスに渡す。


「暗くなるまでじゃないぞ、暗くなる前には戻ってこい。働く前に食事をすませたいからな」


二人は先程までのしゅんとした顔を一変させると、仲よく手をつないで歩きだした。



買いもしないのに、なんであんな楽しそうなんだ。


グレンは二人を見送ると、魔力を回復させるために地面へ座り込む。


今日は安全な場所で寝れると思ってたから、修行で魔力を消耗していた。


使っていたのは極化と下級の炎だけど、移動中ずっとだったからな。戦えるだけの魔力は残してあるけど、夜間の警護には少し心持たない。


ガンセキは苦笑いをグレンに向けながら。


「もっと速く伝えておくべきだったな。すまん、お前の魔力量が標準だったことを忘れていた」


高位魔法は級が上がるほど、修行に必要な時間が多くなる。まあ当然なんだけど、魔力の消耗が激しいからだ。


俺の魔力量は三人と違って並位属性使いと同じだから、下級の炎でも連発すればいつかは意識が途切れる。


「人内魔法は扱いが難しいぶん、魔力の消費は少ないんですが、意識を集中させる必要があるからけっこう疲れるんですよ」


まあ未熟なのもあるけどな、変人くらいになれば違ってくるんだろうけど。



グレンは立っているガンセキを見上げると。


俺のことなんてどうでもいいんだ。今はそれよりも、ガンセキさんに聞きたいことがある。


「昨日一人で工房に向かった俺が偉そうなことは言えませんけど、勇者を護るためなら手段は選ばないんじゃないんすか」


セレスとアクアが別行動を取るのを、なんであんな簡単に許したのかを知りたい。


ガンセキは腰を下ろし、視線の高さをグレンに合わせる。


「覚悟を実行するのは難しいな。心を鬼にすると決めておきながら、情けない話しだ。しかしな・・・俺とカインは仲間を失ってから、他には一切の目を向けず、魔王の領域を目指した」


王都に到着するまで誰かと接することもなく、二人は旅を終えてしまった。


勇者の旅をそれで終わらせたのは、失敗だったのではないかとガンセキは考えていた。



ただ目的を達成させるだけで、勇者は成長できるのか。多くの人と関わることで、旅は成功なのではないだろうか。


戦場に向かう少し前に、勇者の村を調べている人物と知り合えただけでも、ガンセキにとって大きな価値があったから。


「他人の死を間近に感じることで、セレスは立ち止まり変化する。知らない誰かと触れ合うことで、彼女は人として成長していく。2つとも、俺は重要なことだと思う」


セレスならきっとできるさ。あいつは人見知りでも、関わりたいと願っているからな。


「だが覚悟を貫けなくとも、俺はその意志を真直ぐに信じたい」


もう、失うのは嫌だから。


鬼になる・・・か。


心の闇や手段を選ばない人のことをそういうけど、よくよく考えるとなんでそれを鬼っていうんだろう。


過去に誰かがオニという言葉を広めたんだろうけど、その人は本来の鬼がどんな存在なのかを知っていたのかな。


光の一刻という時代に、古代種族が現れた。


古代文字の解読はできてもよ、それをどのように発音するのかは誰も知らない。


連中が使っていた古代文字の中に・・・オニって言葉はあるのだろうか。


この世界に存在する単語の一部には、古代種族から意図せずに広まったのもあるんだろうな。


単語だけは知れ渡っていても、本来の意味と違っている言葉もあると思う。



セレスは神位魔法を使ったとき、この世界では聞いたことのない言葉を喋っていたらしい。普通に考えれば、それが古代言語なんじゃねえか。誰かが教えてくれたと抜かしていたが、歌が終わったら忘れたらしい。


魔法か・・・神が魔王を倒すために、人へ与えた力だと婆さんから教わった。


光の魔力は心から発生する。それと共に人間の想像を神に送ることで、願いを叶えてもらっている。


だけど人内魔法をするとき、俺は魔力に願いなんて込めてない。


思うんだけどよ、それって宝玉具と似ているよな。玉具も全部じゃないかも知れないけど、魔力を送ったり纏わせるだけで能力が発動する。


魔法陣には古代文字が込められている。だから願いを込めなくてもいいのか。



人の心から発生する魔法の元となる力。それと宝玉や古代文字が合わさることで、普通の玉具は能力を発動させる。


だけどそうなると、造神はどんな仕組みになるのだろうか。


俺の仮説でいくと、白魔法は神に魔力を送る必要はなく、人の意思と魔力だけで成立しちまう。


グレンは思考の世界へと入っていく。


ガンセキはそれを邪魔することもなく、荷物から本を取りだすと読みはじめる。



手に炎が灯る現象を頭で思い浮かべ、それを心の中で言葉にして送る。


想いは言葉や文字にしないと、相手には届かない。


魔力だけなら造神に送ることができるけど、想像は願いに変化させる必要がある。


そうか・・・わかったぞ。


属性使いが造られた神に送った願いは、この世界で使われている言語なんだ。俺たちの言葉じゃあ、魔力と合わさっても想像を実現させることができない。


造神に込められている能力の一つは、恐らく古代文字と魔力が合わさることで、人が神へ送った願いを古代言語に変換するって感じかな。


人の願いを全て叶えるなんて不可能だから、本当はもっと細かいんだろうけどよ。



宝玉具や造神は人体と切り離した魔法だ。宝玉ってのはもしかして、魔力を古代文字に合わせる装置みたいな役割なのかな。


魔力の質が高ければ古代文字と合わさったとき、より大きな力を引きだせる。だけど古代文字との相性が良すぎると、並みの宝玉では魔力と合わせることができない。


宝玉の属性と魔法陣(能力)の相性が悪ければ、魔力を通しても合わせることはできない。


属性紋や古代文字が複雑になるほど、高い位いの宝玉を使わなければ、その力を完全に引きだせない。



俺の仮説を整理するか。


【造神】 魔力と共に想像を願いにして神へ⇒送られた魔力は宝玉を通り、古代文字に合わさる⇒神への願いを古代言語に変換⇒白魔法発動。


【玉具(属性紋あり)】 魔力を玉具へ⇒宝玉により魔力が古代文字と合わさる⇒属性紋⇒造神⇒能力発動。


【玉具(属性紋なし)】 魔力を玉具へ⇒宝玉により魔力が古代文字と合わさる⇒能力発動。




どうもしっくりこない。俺の仮説にはなんか足りない。


裁きの雷や、人に都合の良い炎。究極玉具は人間の願いとは関係なく、送られてきた魔力を利用して、これら能力も上乗せしている。


だけど造神が、どのような方法でそれを行っているのかが解らない。


受け取った魔力が宝玉を通り、古代文字に合わさることで、造神は人の願いを古代言語に変化させている。


そのとき一緒に他の能力も発動していた。このように考えることもできるんだけど、それだと矛盾が生まれるんだ。


俺が火の究極玉具に送った魔力は、手に炎を灯すのに必要な量だけだ。煙をださなかったりする能力を発動させるには、相応の魔力がいるはずなのに。


あくまでも推測だけど、魔力の質が高ければ、造られた神は特殊な能力をそいつに与える。これとなんらかの関係があるのだろうか。




人内魔法についても考えてみるか。


古代種族に魔力を与えたのは、一説によると本物の神らしい。光ってくらいだから、太陽が連中に授けた力なんだろうな。


太陽から古代種族、そして人類の順に魔力は伝わった。


土の領域では名前や顔で個人を特定するけど、熟練の高い人は魔力でもなんとなく解るらしい。


魔力は人によって違いがある。そのことから、神との繋がりはすでに失っているのではないだろうか。


人が送りたいと思わなければ、魔力は造神に届かない。それに俺と深く繋がっているのは火の神であり、太陽じゃない。


火の究極玉具には光の宝玉も使われているだろうけど、中心になっているのは火の純宝玉じゃねえのかな。



だけど光の魔力にはまだ、遠い過去に太陽が込めた意思だけは残っているのかも知れねえ。


『魔力をまとわせることで、人を強くする』


本物の神が光の魔力に込めた、人類を闇から護りたいという想い。それが人内魔法の元となっている。


魔力と太陽の意思は常に合わさっている状態だから、人内魔法は宝玉を必要としない。


でもよ、そうなるとまた矛盾が生まれる。闇の魔力をまとうクロの力で、なで人内魔法を操作することができるのか。


そもそも黒魔法と白魔法は似すぎている。闇の魔力もまとうだけで身体を強化することができんだからよ。


神と闇が非常に近い存在なのは解る。だけど俺の知っている神話には、闇を司る神なんて聞いたことねえ。


神話を詳しく調べたことなんてないから、俺が知らないだけかもしれないけどな。


でも闇の正体を突き止めようとしている人がいるってことは、まだ明らかにされてないのか。そのわりに国が本腰をいれて神の敵を調べないのは何故だ。


それとも・・・知られたらまずいから、隠しているだけなのか。



駄目だな、このことは別の機会にしよう。


今考えているのは、なんで魔獣具で人内魔法の補助ができるのか。


これが答えになるのかどうか解らないけどよ、闇魔力が光魔力と同じで、すでに何者かとの繋がりを失っていたとする。


それなら利用することはできるのかも知れねえ。でもそれはそれで危険だよな、だから魔物具や魔獣具を否定する奴が多いのか。




グレンは意識をもといた場所に戻すと、一人で考えることに疲れたので、話題を変えてガンセキに質問する。


「読書中に悪いんすけど、合体魔法について質問してもいいっすか?」


ガンセキは目線をグレンに向けると、頷きを返し本を閉ざす。


セレスが持つ魔力の質により、アクアの全魔法が強化されるのかをグレンは聞く。


「雷に特化したセレスの魔力でも、水魔法を強化することは可能だ」


俺の魔力は火属性と相性が良いけど、土や水の玉具を使うことができる。


次の数字は適当だが、各属性との相性とする。


白の勇者 雷10・水2・火2・土2。


青の護衛 雷2・水4・火2・土2。


合さることで雷12・水6・火4・土4。


炎と水は属性として反発しているが、魔力の相性だけだとそこまで違いはない。


「しかし4から6に増えても、アクアの高位魔法は豪雨とまではいかないんだ。それともう一つ、共鳴率が高くても、雨量の調節はできない」


降る勢いが増し効果は大きくなるが、そこまでの期待はできない。


熟練はある程度の操作を可能としているが、魔力の質は産まれた時点で決まっている。


「だがアクアの高位魔法を豪雨とさせる方法はあるぞ。神話を知っていれば解ると思うが、水と雷は互いに協力して天を司っているだろ」


天が合わさることで、魔力の質ではなく、魔法そのものを強化できるってことか。



合体魔法は制限が多いぶん、やっぱ強力なんだな。


「ありがとうございました、なんとなく解りましたよ。あと大地の兵についても知りたいんですけど、大丈夫ですか」


他属性の魔法も一通り知っているけど、高位魔法となると全貌までは解らないんだ。


「俺は魔力の量が三人に比べて少ない。人内魔法で誤魔化しているけど、刻亀との戦闘に一日を要するのなら、さすがに限界があります」


魔力が底をついてしまえば、全快させるには時間がかかる。だけど戦っている最中に休憩時間があるだけで、状況はかなり変ってくる。


休息を取るために戦場から離れても、大地の兵を使えば刻亀に休息を与えないですむかもしれない。


だけどそうなると、ガンセキさんにかかる負担は大きくなる。


「お前の言いたいことは理解したが、大地の兵についてなにを説明すればいい」


グレンは思いつくことを全て質問する。


・兵の維持にどれ程の魔力を使うのか。


・兵がガンセキのもとから移動できる距離は。


・一度に造りだせる兵の数。


・上級兵について。


・地の祭壇を使うことで、どれほどの違いがあるのか。


・祭壇を使わなかった場合、戦いながらでも兵士たちの維持は可能か。



どのようにしてセレスとガンセキが信念旗の足止めをしたのか、それを少し前にグレンは聞いていた。


「杭を使っても下級が15で、中級は3か・・・祭壇がないと、正直あんま使えませんよね」


責任者はしばし腕を組み、何から話すかを考える。


「土使いは戦闘の前に地面の慣らしをする、お前もそれは知っているだろ」


大地の兵はこれが特に重要であり、完全な状態で使いこなすには、相応の時間を求められていた。


実行部隊と戦ったときの兵数は、地面の慣らしが不充分だったときの限界である。


動くことも消えることもない大地が、いつも土使いの足下には存在していたため、魔法を使うときは必ず地面に手をそえなくてはならない。このようにして、間違った風習が生まれたのではないだろうか。


造神説を知らないガンセキを含めた土使いは、遠くの神に魔力や願いを送る感覚が、どうしても薄くなってしまう。土属性の魔法は扱いが難しいと言われる原因は、恐らくここにある。


土使いは目に見える属性と、どこかに存在している神を別々にするのが難しい。


大地を創造したのは土という名の神であり、大地は土神の一部でもある。意思を持った固体としてのツチは、人類が見ることのできないどこかにいる。


原因に気付いたとしても、根付いた先入観を振り払うのは困難だと予想される。


地慣らしをすることで、彼らはツチとの繋がりを強めていた。気持ちの問題だとしても、それだけで魔法が強化されることもある。


「充分な時間・・・半日は欲しいところだな。それがあれば、下級兵なら祭壇なしでも百体は造りだせる」


その数は凄いけど、12時間は長いな。


「勇者の村みたいに慣れた地面なら、すぐに百体を召喚できますか。あと祭壇を使った場合の数も教えて下さい」


ガンセキは触れることのできる土を掴み取り、その感触を味わいながら。


「地の祭壇を利用すれば二倍は余裕だな、無理すれば3倍もいける。だが下級兵と中級兵を同時に召喚させると、兵士の数は一気に少なくなるぞ」


勇者の村でも、百体を造るのに六時間は必要とのこと。ちなみに中級兵は十体までらしく、祭壇からの召喚でも二十から三十体が限界である。


下級兵100を召喚した場合と、中級兵10を召喚した場合、1時間維持させるのに消費する魔力は後者の方が大きい。そしてこれら二つを同時に存在させるには、より高い技術を必要とする。


「兵士の移動は可能だが、俺から離れるほどに維持が難しくなる」


造りだした兵士たちの操作や維持に多くの魔力を必要とするが、下級兵の数が10から100に増えても、消費する量に大きな違いはない。


「ほかの高位魔法と消費する魔力はそこまで違わないが、今の俺が持つ同時魔法の技術では、この数が精一杯だな。あと、すまんが上級兵はまだ実戦に使えなくてな、説明しようにも俺が今調べている段階だ」


祭壇を使わない状態で大地の兵を召喚しても戦うことはできる。ただし兵の維持をしながらになるため、数は期待できないとのこと。


大地魔法は広範囲の攻撃が多いと言われるだけのことはある。



かなり強力な魔法だってことは解った。でも使いどころを見誤ると、すごく痛い目に合いそうだ。魔力消費は思ったほど多くないみたいだけど、扱いがそのぶん難しい。


名前が似ているけど、中級兵と下級兵は別々の魔法なんだ。だからそれぞれの維持も、別々となっている。


下級兵を同時魔法で15、中級兵を同時魔法で3。それらを別々に維持させるなんて、同時魔法が複雑になりすぎて頭が変になる。


ガンセキさんの話だと、一方に中級と下級を混ぜ合わせるよりも、北に中級兵で南に下級兵といった感覚で使ったほうが良いらしい。


一方に中級と下級を使う場合、肉眼に頼っていると同時魔法を失敗する。目を閉ざし、頭の中だけで兵士たちを操作するのが大切なんだとさ。



大地の兵について学んだグレンは、次の質問に移る。


「ガンセキさんが嫌じゃなければ、現在判明している杭とハンマーの能力を教えてくれませんか」


けっこう沢山あるみたいだから、できれば俺も把握しておきたい。


「俺の想像も加わるが、それでも良いなら説明する」


グレンの頷きを確認すると、ガンセキは己の武具を語り始める。



恐らく使われているのは土の純宝玉を一つのみ。予想ではハンマーが中核であり、宝玉の五割が練りこまれている。杭は五振り存在しているから、一割ずつだろう。


他者が地面に突き刺していない状態で、杭に魔力を送るとハンマーが反応する能力。


本来は杭からハンマーへの一方通行だが、なぜがレンゲはガンセキが送った魔力に気付いた。



ハンマーには叩きつける面が二ヶ所ある。


五振りの杭が描かれているのが裏面で、なにも描かれていないのが表面。


白魔法補助の能力は、ハンマーに魔力をまとわせた状態で、表面を地面に叩きつけて発動する。


これは地慣らしの補助と考えてもいい。神との繋がりを強化しているんだろうな。


魔力をまとわせた杭の先が地面に触れている状態で、ハンマーの表面を叩きつける。これで白魔法の補助を、神言不要って能力に強化させるそうだ。


ハンマーの五割が杭と重なって、六割の宝玉が使われている状態になる。そうすれば古代文字と魔力がより上手く合わさり能力が強化される。予想だけどこんな感じなんじゃねえのかな。


当たり前だけど、声にだしたほうが想いは届くんだ。並位魔法でも神言を使った方が効果は高いんだろうけど、敵にこちらの攻撃を知らせているようなものだからな。


この能力により、ガンセキは苦手としている攻撃魔法を使いこなしていた。


大地の兵は攻撃魔法とされているが、防御魔法でもある。大地の巨腕は杭を使うことで、神言なしで発動させることに成功する。




相手の魔法を奪う能力は、杭を突き刺すと同時に纏わせていた魔力を流し込むことで成立する。ハンマーで杭を打つときは、表面でなくてはならない。


なお大地壁は大地の呼吸、大地盾は大地の鼓動を使わないと、杭を突き刺すことはできない。しかし残念ながら、奪えるのは同属性の並位魔法だけらしい。


「岩の鉄壁に通用するのかは、確かめたことがないから解らんがな。あと同属性の黒魔法は対象外だ」


味方の魔法を自分の岩魔法として使える。そのように考えることもできるよな。ハンマーだけで岩の壁を叩いても、奪うことはできない。たぶん5割の純宝玉だと、成立しない能力なんじゃないかな。


宝石玉でも凄腕の職人が武具に練り込み、強力な魔法陣を覚えさせることに成功すれば可能かもしれない。



・地面にハンマーと杭を使えば、白魔法補助。


・他者の岩魔法(白)にハンマーと杭を使えば、魔法奪い。



祭壇は四振りの杭を地面に突き刺すだけで完成となり、中央に立ったガンセキが魔力を送ることで能力を発動させていた。杭にのみ魔力を送ることで神との相性を高め、杭とハンマーに魔力を送ることで同時魔法の補助をしている。


九割の純宝玉を使用しているからなのか、一振りの杭を除き、残りは全て黄鋼と変化する。


しかし魔力の質を高める能力は、純宝玉が四割のため黄鋼とはならない。


「つまり宝石玉でも強力な魔法陣と凄腕の職人がいれば、セレスより魔力の質を高くできるんすか」


ガンセキは首を左右に振りながら。


「この能力を宝石玉で実現させた研究者は、歴史上でも数えるほどだろうな。それを劣化させずに武具へ覚えさせるなど、常人の域を超えている」


宝玉としての質が宝石玉と同じだとしても、使われている魔法陣は最上位に位置している。それだけの陣を手に入れるには、宝玉具職人としての高い地位が必要である。


鉄工商会と契約している研究者たちからでは、それほどの魔法陣を入手するのは不可能。レンガの宝玉具職人では、挑戦することすら叶わない。


もし十割の純宝玉でこの能力を発動できるとすれば、そいつの岩壁は大地の盾よりも強力ってくらいにはなるのかな。下級兵にそんなのが影響したら、ガンセキさん一人で敵軍を相手にできたりして。


あと気になったんだけどよ、玉具を使って魔力の質を高めた場合だと、セレスのように特殊な能力を造神から与えられるのか。正直なところ、俺にもよく解らない。


ガンセキさんの杭は土神との相性を高めているけど、もし祭壇の能力が魔力の質を二,三倍にするものだとすれば、俺は元が低いから期待できない。そもそも土の造神がどのような特殊能力を授けてくれてるのかも知らないんだ。



驚いた表情でグレンはガンセキの説明を聞いていた。


「ハンマーの裏面には、五振りの杭が描かれている。だかこれをどのように使うのか、まだ解き明かせていない」


ふざけんな・・・まだ能力が隠されてんのかよ。


強力な武具なんて段階は越えちまっている。異常って言葉を使った方が良さそうだ。


おっちゃんには悪いけど、宝玉具としての逆手重装なんて、これに比べれば大したことねえ。


「無銘なのは知ってますけど、かなり個性の強い玉具ですよね。鑑定にだせば、作者とかも解るんじゃないっすか」


濁宝玉の武具でも、腕の立つ職人が造った品はある。


俺の持っていた短剣は剣身に炎をまとわせ、その熱による鉄の軟化を防ぐ能力が込められていた。凄腕ってわけじゃないけどよ、それなりの経験を重ねた職人が造った品だと思う。


宝玉具職人は土台となる武具を造りながら宝玉を組み込み、研究者から提供された魔法陣に手を加えることで能力を覚えさせる。


軟化を防ぐ能力を火宝玉の武具に込める場合、自分の魔法を弄くるわけだから、他者の炎だと鉄は軟らかくなる。


対して土宝玉の武具は鉄を強化し頑強にすることで、全ての熱から限度はあるけど軟化を防ぐ。


犬魔のねぐらに置いてきた短剣は濁宝玉だったけどよ、値段はその中だと高いほうだったのかもな。


だけど濁宝玉を使った武具は、下級の炎しかまとうことはできないし、それなりの熱しか防げないのが普通なんだ。



ガンセキはハンマーを手に持つと、それをしばらく見詰め。


「正直いうとな、俺とレンゲさんも作者の検討はついているんだ。しかしこの武具を鑑定にだし、本物だと証明されたら・・・面倒なことになるかも知れん」


欲しがる人間は大勢いる。手に入らないと解れば、強硬手段に打ってくるかも知れない。


もしガンセキが黄の責任者でなかったら、下手すれば国宝として没収されかねない。


「この杭とハンマーを造ったのは、恐らく有名な人物だ」


宝玉具職人として位が高くなれば、その武具を持つ人間は限られてくる。


権力者の多くが求めるのは、武具の本質よりも見た目の美しさ。


宝玉武具を造る職人だった者は、地位や名誉と引き換えに、芸術品を造れと要求された。


「この杭とハンマーには美しさの欠片もない。ただ使うことを目的とした無銘の武具だ」


ガンセキさんは製作者の名を明かさなかった、俺もそれ以上は聞かないことにする。





なんかオッサンに悪いから、宝玉具としての逆手重装について説明する。


逆手重装の魔法陣をレンゲさんに提供したのは、俺の故郷に住んでいる道具屋だ。


おっちゃんの店には古代文字の資料なんてなかった。もし奴がその知識を持っていたとしても、忘れちゃいけねえ・・・奴の字は下手くそだ。


文字が汚いってのは、たぶん魔法陣のできに影響する。


恐らく変人が考えたのは能力だけで、婆さんの協力により魔法陣を完成させたんだろうな。


もちろん勇者の村にも、魔法陣の知識がある人は少ないけどいる。でも村に伝わる属性紋の在り処を知っているのは、儀式責任者の婆さんだけだ。



ギゼルがレンゲに提供したもの。


武具の形状。魔法陣。一つの武具に二つの宝玉を組み込む方法。


レンゲは提供された魔法陣を利用して、なんらかの方法で造った武具に覚えさせた。


これが宝玉具としての逆手重装だ。



グレンはガンセキに頭を下げると。


「いろいろと勉強になりました。暗くなるまで時間もないんで、俺はそろそろ休ませてもらいますよ」


魔物と戦う予定はないのに、なぜ責任者は三時間の仕事をすることに決めたのか。


もし戦闘になれば、俺は参加することができない。信念旗の件もあるから、一人でここに残るわけにもいかねえ。


速くても俺が戦えるようになるのは、デマドに到着してからだ。旅人の宿は世界各地に在るらしいけど、平原からヒノキの間にはない。


今後の予定が狂えば、宿に到着するのが暗くなる直前になってしまうかも知れない。そうなれば仕事を受けるのは難しい。



人々を魔物から護る。ガンセキさんは刻亀と戦う前に、それを俺たちの勇者に経験させたかったのかな。


全ての旅人が一度はやったことがありそうな仕事だけど、小さな役割だとしても、セレスの自信に繋がればいいんだけど。


万が一のことがあるから戦わないにしても、魔力は少しでも回復させとかないと。


しばらくして、グレンは意識を手放した。



7章:五話 おわり

古代文字はあくまでも古代文字です。送る相手が属性神または造神なので、文法よりも能力の仕組みのほうが重要なのかなと思っています。だけど文字がギゼルだとさすがに駄目かなって。



作者自身の文章はすでに諦めています。変化はしていくと思いますが。


読者の皆様には苦労をかけると思いますが、温かい目で見ていただけると有難いです。


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