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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
1章 俺の故郷
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六話 決戦に向けて


ガンセキとセレスの戦いが終わり、妖怪が偉そうに喋り始める。


「勝ち残った火と雷の決戦は、夜明け前に始める」


「なお、ワシも含めた誰一人として、立会いは禁ずる」


「勝敗は二人で決めよ・・・良いな」


俺とセレスは同時に頷く。


「勇者は、夜明けと共に現れる者とする」




解散後、早々にオババはその場を後にする。


祭壇の頂上には4人が残る。



「セレスちゃん、グレン君なんてボコボコだよ!!」


「アクアさんよ、なんて事を言いやがる」


「だって、グレン君が勇者なんて似合わないじゃないか」


そりゃ俺だって同感だが。



ガンセキは笑いながら。


「どっちが勇者でも、俺が全員護って見せるさ、だから安心しろ」


「はい、頼りにしてます・・・でもガンセキさんに何かあったら、俺達も全力で助けますから」


「ああ、その時は頼んだぞ」


ガンセキは少しの間を空けて。


「それよりグレン、これから家に戻るのか?」


「はい、ちょっと寝ます・・・魔力、もう殆ど空なんで」


「セレスは?」


「私は元気一杯だから、ご飯食べてお風呂に入りま~す、その後は秘密だよ~」


セレス・・・お前一人で湯を沸かせないだろ・・・水風呂に入るのか?



アクアが不満そうに。


「ガンさん、ボクには何で聞かないのさ、寂しいじゃないか」


「あ、すまんすまん・・・で、アクアは何かご予定は?」


「グレン君と遊ぼうと思っています!!」


おい、こらっ!!


「アクアさん・・・俺の言った事、聞いてたのかな?」


「大丈夫だよ、君の言ってた事は一言一句忘れてないよ」


「そうか・・・偉いな、それじゃあ俺が寝ると言ってた事、覚えてるよな?」


「だからグレン君を寝かさないようにしようと思って・・・」


どうやらアクアは悪意の塊だったようだ。


「いっその事、お前を深い眠りに導いてやるよ」




セレスが手を上げる。


「それじゃあ私も~ グレンちゃんと遊びた~い」


もう良い・・・好きにしてくれ。




「ガンさんも一緒に遊ぼうよ」


「すまんな、そうしたいのは山々なんだが少しグレンに用事があってな、1対1で話がしたいんだ」


「え~、ガンセキさんばっかりずるいですよ!!」


「グレン君は皆の物だよ!!」


こいつ等・・・。


「お前らウザイ、俺はガンセキさんと一緒に行くって、今さっき決めた」


セレスはどうか知らんが、アクアは俺を馬鹿にしているだけだ。



「はは、2人とも悪いな・・・それに少しグレンを休ませてやれ。今日の深夜には事が始まるんだからな」


「分かったよ、ガンさんがそう言うなら諦めるよ。それじゃグレン君またね」


「え~!! 私はグ~ちゃんと遊びたいよ~」


「セレスちゃん行こ、ボクと遊ぼうよ」


「良かったなセレス、アクアさんが遊んでくれるってよ」


「いいもん、アクアと遊ぶから!! グレンちゃんなんてガンセキさんと遊べば良いんだ!!」




セレスが俺に向かって舌を出す・・・セレス、お前の将来が俺は心配で堪らない。


2人に手を振り、別れを告げる。





改めてガンセキさんに、お礼を言う。


「ありがとうございました、マジで助かりました」


「気にするな、それにお前に話があるのは本当だからな」


「ん? なんすか話って?」


「いや、本当はセレスにも聞いて貰いたかったんだけどな、あの状況じゃ致し方ない」


「話ってなんすか?」


「此処じゃ何だから、飯でも食いながらにしよう」


「分かりました、それじゃあ行きましょう」


お金・・・大丈夫かな。


「安心しろ、飯くらい奢ってやるよ」


ガンセキさんに心を読まれた・・・。




暫く二人で歩き、飯食い所に向かう。




「ガンセキさん、足は大丈夫ですか?」


「問題ない痛みに慣れろば普通に歩ける」


「そうですか・・・しかし流石ですね、セレスをあそこまで追い込んだのは、婆さん以外だとガンセキさんが始めてですよ」


あの妖怪でも、セレスには勝てない。あんだけ元気だが150歳超えてるんだ、全盛期なら今のセレスより強いかもしれないけどな。


「まあ、確かに今のセレスなら何とか勝てるかも知れないが。だがな・・・お前はセレスの力があの程度だと思うか?」


「確かにセレスは凄いですけど・・・俺から言わせれば、ガンセキさんも充分に凄いっすよ」


「まあ、4人の中で一番長く生きてるからな。それなりの経験はしているさ」


「だがセレスの戦い方、それ自体の無駄は少ない・・・ただ考えが浅はかと言うか」


確かにセレスは剣技も一通りこなしてるし、意外と戦闘に隙は少なかったりする。


しかし心構え、と言うか・・・死ぬ事への恐怖、見たいなものが殆ど無いんだ。


あいつは今まで負けた事なんて一度もないし、この村周辺の魔物など恐れるに足らないだろう。






「それでも・・・彼女は才能だけで俺に勝った」


もちろんセレスが才能だけで今の強さを手に入れた訳じゃない、あいつだって努力はして来た。


だがガンセキさんとセレスでは・・・次元が違う。


俺だってガンセキさんと同じ事をして来た訳じゃないから、知ったような事は言えない。


だけどこの人が、何を見てきたか。想像くらい出来る。



俺は仕事でヘマをして、死ぬかと思った事は何度もある。


でも・・・この人は自身死にかけ、仲間の死を目の当たりにして来た。


ガンセキさんは標準の体格だ・・・だけど彼の全身に刻まれた傷あとが、それを語っている。


「恐らく本気になった彼女は、魔族ですら止められないだろう」


そんなことは分かっている。


この世界で神位魔法を使えるのは、恐らくセレスだけで、あいつに勝てる奴なんて、たぶん魔王だけだ。


俺自身セレスの神位魔法を直接みたことがないが、あいつはまだそれを完全に扱えない。


オババが使用を禁じている、何でも本人の身にも危険が及ぶらしい。


神位魔法を抜きにしても・・・あいつが突然変異な事実は変わらない。




「彼女に、死の恐怖を実感させる方法が一つだけ有る」


グレンは何も言わない。


「仲間の死を・・・その目に焼き付ける」



「仲間とかどうとかは関係なく、あんまいい気分はしませんね」


「そうだな、俺だってそんな積もりはない」


「セレスだけじゃない、アクアにも、それにお前にだってそんな想いさせないさ」


俺は何故かその時だけ、ガンセキさんの心の声が聞こえた。


《俺自身。もう、あんな想い・・・二度と御免だ》



ガンセキさん・・・それでも何で再び旅に出ようと思ったんだ?


何があんたを、そこまで縛り付けるんだ。


俺が考えても仕方ないことなのか。



二人は無言で歩く。




数分程で食事所に到着する。


オバハンにメニューを頼んで適当な席に座る。




グレンは気まずそうに。


「ガンセキさん・・・やっぱ金は自分で払いますよ」


「なんだ急に。飯くらいそんな高くもないだろ、気にするな」


「いや、俺は自分で生きられるように仕事してるんで、飯の為に仕事をしてたような者ですし」


「お前は昔からそうだったな。しかしグレン・・・たまには人に甘えろ」


「俺は今までの人生で、充分甘えてきました」


「良いから、今回は俺に持たせろ。年長者の建前ってものがあるんだ」


グレンは暫し沈黙。


「すみません・・・ありがとうございます」


ガンセキはグレンに諭すように語り掛ける。


「いいかグレン、人任せにするのと、人に頼る事は違うんだ。それくらい分かるだろ」


「・・・はい」


「これからは4人で旅をするんだ、お前は俺たちを頼りにする必要がある」


「お前は頼られても、頼ることをしない・・・頼らんと成り立たんぞ」


「分かってます、皆を頼りにします。そうしなきゃ、生き残れませんから」


「それじゃあ、この話は終わりだ」


「すんませんね、気を使わせちゃって」


「それがいけないんだ、少しくらい気を使わせろ」


二人は笑い合う。



「それより、何か用事が有るんですよね」


ガンセキは頷く。


「決戦の事で話がある」


「オババは何も言わなかったが、この事を言うのは俺の役目でな」


「何ですか、役目って?」


「勇者の儀式ってのは、勇者を選ぶ為の儀式だ」


グレンは頷く、それは誰だって知っている事だ。


「勇者の旅ってのは、勇者を育てる為の旅だ」


まあ、そう言う事に成るんだろうな。




グレンはガンセキに説明を受ける。


なんでも勇者の儀式、その責任者はオババで、旅の責任者はガンセキさんだったらしい。


「詰まりだ、俺は最初から勇者候補じゃないってことになるな」


勇者の資格が有るのは俺とアクアとセレス、その三人だけだったのか?




・・・ちょっと待てよ。


「もしですよ、ガンセキさんがセレスに勝ってたら、どうなってたんすか?」


「その時はお前が勇者だよ」


セレスが勝って良かった。




ガンセキは本題に入る。


「火対水と雷対土、この初戦は言わば神に勇者としての力を見せる為の戦いだ」


「決戦はその名の通り、決める戦い。勇者を決める戦いだ」


「方法はお前とセレスで決めるんだ、戦っても良い、話し合いでも良い・・・2人で決めるんだ」




「分かりました、その事をセレスに伝えとけば良いんすね」


「ああ、そう言う事だ」


「でも何でこんな面倒な方法取るんですか?」


普通に候補4人選んで、旅の責任者を含めた5人で旅に出たら良いのに。


「知らん・・・大昔からの慣わしだそうだ」


昔の人間が何考えているのか、俺には良く分からないな。




料理が運ばれて来た。


オバハンも今日が勇者の儀式だって知っている筈だが、勇者が決まるまでは決してその事には触れない。


「ほらよ、たんと食え!! あと金は置いて行きなよ、2人とも」


「おうよ、食った分だけな」


「そうかい、あたしゃ今日は機嫌が良いんだ、特別に安くしてやるからな」


「すまんなおばさん、奢る身としてはあり難い話だ」


オバハンが笑い飛ばす。


「なんだいガンセキ、気前が良いじゃないか。ろくに仕事もしないお前が、人様に飯を奢るなんて」


このオバハンは相変わらず容赦ないな。


ガンセキは苦笑い。


「修行ばかりしてないで働け!!」


笑いながら去っていく。




「久しぶりにオバハンに会ったけど、相変わらず凄い迫力っすね」


「あの人には・・・敵わない」


二人で脂っこい、大盛りの飯をたいらげて店を後にする。



「それじゃあ、ガンセキさん・・・また今度」


「ああ、次に会う時はお前が勇者かもな」


「はは、勘弁してください」


グレンは頭を下げる。


「ご馳走様でした」


片手を上げてガンセキは去っていく。





グレンは家に向かう。


その道中、声を掛けてきた人が居た。



「グレン君、こんにちは」


「あ、ども」


「あら、アクアは一緒じゃないの?」


「いえ、飯を食う前に別れましたよ」


「あらそう・・・しょうがない娘ね。お昼ごはん作って置くって言ったのに」


「セレスと遊んで居ると思いますよ」


「そうですか、セレス様と。なにか失礼なこと、してなきゃいいんだけど」


「大丈夫ですよ」


「それじゃあオババ様のお家に行ってみるわね」


「はい、それでは」




アクアのお姉さんと別れる。


数年前にこの村を襲った流行り病で、この2人の両親は亡くなっている。


実質的にアクアの育ての親は彼女である。





家族がいない、そんな奴もそれなりに居る・・・なんたって此処は勇者の村だからな。


オババは必ず候補を選ぶ時、子供が一人にならないようにする。


それでもセレスのように、一人になっちまう子供も居る。



だけどさ・・・この村は皆で支え合って、勇者を創り出すんだ。


この村の人たちが居なかったら、俺は生きて行けなかった。


俺はこの村が大好きだ。



六話 おわり







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