二十五話 偽りの言葉でも
どこまでも広がる青空を背景に、時計台は今日という時間を刻む。
時を象徴する属性を操る少女は、澄んだ瞳で塔を見上げていた。
広場に入ることはできないけどさ、それでも旅立つ前にこうやって時計台を近くで見れて嬉しい。
時計台がレンガという都市の中心で、この建物が鳴らす鐘の音で一日が始まり、そして一日が終わっていくんだ。
時を操る魔法をボクは多分使えない、それでも時計台は間違いなく時間を皆に教えているんだ。それって凄いことだよ、ボクには真似できないからさ。
人間の体内時計を狂わせることで、雨魔法は体力を奪っているのではないかと考えている学者もいれば、氷魔法そのものが時を操る力を持っているのではと考えている学者もいる。
氷は食べ物を長持ちさせることができるのも時の力ではないのか、なぜ物を冷やすだけである程度だが保存できるようになるのか。
この世界で水の神は時間を司っている。だから水や氷の魔法にもその力が宿っていると考えられていた。
時の王は雪を降らす・・・でも学者さんたちはそれを魔法とは認めなかった。だけどさ、刻亀の領域には魔物の進化を促すって信じられない力が宿っているじゃないか。
刻亀の領域は神位魔法とは違うけど、それと同等の黒魔法なんじゃないのかな? だけど魔物なんかが神位魔法と同位の黒魔法を使うなんて認めたくなかったから、学者さんたちやこの国の偉い人たちは刻亀の降らす雪を魔法じゃなくて、ただの異常気象なんだと考えた。
時を操る魔法こそが神位魔法・・・神の雪。
そして魔物や魔族に黒魔法を与えている誰かも、ボクたちが崇めている神様と凄く近い存在なのかもしれない。
水属性の神位魔法って一体どんな能力で、どんな力なのかな。過去を知ることができたり、未来を予言できるのかな?
もしかしたら未来や過去に行けたりするのかも。
でも・・・やだな、ボクはそんな力は要らないよ。今という時間を精一杯生きている人たちに、なんか失礼な気がするんだ。
アクアは確りと時計台を見詰めると。
ボクはこの時計台みたいに、今という時間と過ぎた過去だけを刻んで行きたいんだ。そうすれば必ず明日が訪れるから・・・その明日を拒んだとしても、受け入れたとしても、絶対にくる明日を一生懸命に生き抜きたいよ。
青の護衛は大好きな時計台を堪能していたが、時間は何時までも待ってはくれない。ミレイはアクアに近付き、そっと少女の肩に触れる。
「アクアちゃん、そろそろ行かないと」
優しくも悲しそうな声に振り向くと、そのままアクアはミレイに抱きついた。
お姉ちゃんとは違う匂いだけど、ミレイちゃんの胸は柔らかくて、暖かい匂いがした。
セレスちゃんは弱い自分を元気で隠して、強くあろうとする素敵な匂い。
ガンセキさんは色んな自分を全部受け入れて、一歩一歩少しでも何とか前に進もうとする、なんとなく安心させてくれる匂い。
グレン君は・・・分かんないや、ボクに心を開いてくれないから。
アクアはミレイに抱き付きながら顔だけを上げると、申し訳なさそうな表情で口を開く。
「せっかく紹介したのに・・・あんな態度とってさ。ごめんね、ミレイちゃん」
ミレイはそう言うアクアを両腕で抱き返すと、首を左右に振りながら。
「二人から話を聞いてたから、何となくどんな人かは想像してたけど、アクアちゃんがいってたより良い人だったと思うな」
いつも勝手に物事を自分で決め、一人でいることを格好良いと勘違いしており、暇があればセレスを虐める。アクアが教えたグレンの人物像はどれも悪口ばかりだったが、そこには憎しみが感じられなかったため、何となくだがミレイはグレンがどんな人物か想像できていた。
それにアクアから教えて貰った内容は悪口ばかりであったが、いつも虐められていると言われていたセレスから聞いたグレンの人物像は、逆にとても良い内容だった。
ミレイはアクアに微笑を向け。
「一度しかお話をしてないから確かなことはわからないけど、セレスの言う通り優しい人だと思ったかな。まあ・・・アクアちゃんが教えてくれたことも間違いじゃなかったけど」
グレンは不器用で優しい人。それが実際に会話をしてミレイが感じたグレンの印象であった。
「優しさは人によって感じ方が違うけど、グレンさんは優しい人だと私は感じた。セレスは彼の良い所だけを私に教えてくれて、アクアちゃんは彼の悪い所を私に教えてくれた」
セレスは二人に近付くと、寂しそうな口調でミレイに語り掛けた。
「でもグレンちゃん・・・約束しなかったもん」
ミレイは彼を受け入れ、もう一度いつか会いたいと願ったが、グレンはその約束を拒絶した。
セレスはそれがとても悲しかった。それでもグレンを優しい人と評価してくれたミレイに感謝をしたい。
「グレンちゃんはミレイだけじゃないよ、私やアクアとも約束はしたがらないから」
ミレイはセレスの落ち込んだ顔に優しく頷きを返すと、気にしてないよと気持ちを声にする。
「誰とも約束をしたがらないのは、多分だけどそれもグレンさんなりの優しさなんじゃないかな?」
約束を果たせないのが嫌だから、グレンはできる限り誰とも約束をしたがらない。
しかしアクアはその言葉に納得せず、ミレイに反論する。
「そんなの優しさじゃないよ・・・グレン君は逃げてるだけじゃないか」
間違いではないだろう。グレンは絆を結びたくないから、誰かと約束をしないだけかも知れない。
「アクアちゃんの言う通り、グレンさんは素直になれない人みたいだからね。でも彼はもしまた会えたら仲良くしてくださいと言ってくれたから、私はそれだけでも嬉しかったよ」
捻くれ者は自分を守る。必死に守れば守るほど、グレンは自分を見失う。
彼はセレスがいるから迷わずに歩いていられた。目指す場所が存在していれば、たとえ道を踏み外したとても、そこだけを目標に歩けたから。
だがグレンはそんな自分を認めることができなかった。
セレスに支えられていることを頭では理解しても、その事実を受け入れるなど、捻くれ者にできるはずがない。
認めることができないから捻くれるのか、捻くれているから認められないのか、どちらなのかはグレンにも解からない。
彼は生き方を変えたくない。もし変えてしまったら、自分が消えてしまう気がするから。
・・
・・
ミレイは小柄な少女を抱きしめていた、セレスはそんなアクアをどこか羨ましそうに見詰めながらも、嬉しそうに少女へ笑顔を向けて独り言を。
「アクアは私に甘えられないから、それだけでもミレイと出逢えて本当に良かった」
青の護衛は勇者を支えなくてはならない、その使命によりアクアが心の底からセレスに甘えることは難しいだろう。
ミレイという存在はアクアだけではない、セレスにも確かな安らぎを与えてくれた。
セレスは誰にも聞こえない小さな声で、ここにはいないグレンへ質問する。
「グレンちゃんはどうして、絆という素敵な言葉を否定するの?」
ここに彼はいないから、その問い掛けに返事はない。
ミレイは兵士でもなければ、長きに渡る契約を交わした宿の主でもない。ただの民である彼女と勇者一行が深く繋がることの危険を考えれば、この絆を繋がないほうが良いのかもしれない。
たとえミレイは何も知らなかったとしても、勇者一行と深く関わっていた事実だけで、信念旗は彼女がなにか有力な情報を持っているのではと狙うかも知れない。
二人がミレイと関係を深めることの危険を知ったとき、ガンセキがセレスとアクアに伝えた言葉がある。
『友情を深めるのに立場や身分を気にしてたら、何も始まらんだろう。全てを明かすことが友情だというのなら、この世界に友情なんて何一つ無くなる。隠し事一つで崩れる関係ならそこまでだろう』
勇者一行という正体をミレイに教えることをガンセキは許さなかった。それでもミレイとの関係を否定する権利は誰にもない、そうガンセキは二人に伝えた。
四人が勇者一行であると公にすれば、この都市に住む者達は四人を優遇するだろう。公にする利点も有れば、逆に難点もでてくるのは目に見えている。
情報とは一種の力であり、それを手にすれば必ず代償もついてくる。
民である彼女が全てを知った上で二人と接するのと、知らないで二人と接するのとでは、互いに降りかかる危険は増すとガンセキは考えた。
ミレイが何も知らないまま信念旗に狙われる可能性もある。だが勇者だと知った状態で関係を深めれば、より危険な情報を互いに望まないまま、ふとした切欠で持ってしまうかもしれない。
彼女に正体を明かすことも間違いではない、だが事実を隠すことも間違いだとは思わない。
どちらの選択にも良い点や悪い点は存在しているが、ガンセキは後者を選んだ。
セレスとアクアは全てを知った上で、それでもミレイとの関係を、絆を深めたいと望んだ。
全てを打ち明ける行為が誠の友情というのなら、この関係が友情でなくてもいい。セレスもアクアもただ、この都市で出逢ったミレイという女性と絆を繋ぎたかっただけだから。
ミレイはアクアから離れると、セレスの方を向き語り掛ける。
「私も軍所までお見送りして良いかな、ここでお別れするのも寂しいから」
その言葉にセレスは嬉しそうな笑顔で頷きを返す。
今までセレスに敬語を使わないで接してくれた人は殆どいない。グレンにアクアにオババだけであり、ギゼルは彼女との関わりをさけていた。理由は解かるだろう・・・ギゼルもまた、過去に縛られながら今を生きている。
セレスの母親と父親が原因で、ギゼルはセレスの顔を見ることが上手くできなかった。
人とは違う異常な力を持つことの苦しみ。
強大な力を充分な経験や修行もなく手に入れた所為で、セレスはその力に見合うだけの覚悟を持つことができなかった。
まるで神のように周囲から崇められ続けた彼女が、人見知りになるのは当然である。
三人は一緒に時計台を後にする。
人の疎らな坂道を下りながら、セレスはミレイを視界に映す。
ミレイはその視線に気付き、セレスに柔らかな笑顔を向ける。
大柄な女性の笑顔は上からセレスに向けられていた。だけどその笑顔は上からでも下からでもなく、本当の意味で正面から、セレスに向けられた暖かい微笑みであった。
《私は神様なんかじゃない。ただの・・・人間だもん》
だからセレスは神を信仰する。心の拠り所が少なかった彼女にとって、信じる神はグレンに出逢う前の幼少期、誰よりも自分を支えてくれた存在だった。
一人ぼっちで寂しかったとき、私を支えてくれたのは、オババと神様だけだったから。
たとえ誰も姿を見たことはなくても、神様はちゃんと私の中にいる。だって神様は魔法という力で、魔物や魔族から私たちのことを護ってくれているもん。
グレンちゃん・・・神様はどこにもいないんじゃないよ。どこにでも存在しているから、その存在が大きすぎるから、私たちが気付かないだけなんだよ。
だがグレンは知っていた、セレスがどれ程に神を想い、神を信じているのかを。
彼は真実を明かさない。
彼は真実を、明かせない。
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・・
レンガ大橋、またの名を爺橋。
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他に何をする訳でもなく、まるで置物のように老人は橋を行き交う民達の馬鹿面を眺めていた。
自分なりの魔獣具職人として答えをだしてから、彼は職人であることを辞めた。こうして暇な一日を橋の上で過ごし、狂気に満ちていた頃の面影はもうどこにもない。
究極の魔獣具を目指していた頃の情熱は、どこかに忘れてきたかのように。
魔獣具職人はどれ程の実力を身に付けようと、宝玉具職人と違い特別な役割を国から与えられることはない。
だが魔獣具の力はどれも凄まじいからこそ、多くの戦士たちはそれを求めた。だからこそ魔獣具・魔物具職人たちは多くの誰かから今も必要とされている。
しかし国によっては魔獣具や魔物具の製作自体を禁止されているのが現状であり、老人も闇に魂を売った愚か者と罵倒された経験が今までに何度かあった。
それでも彼が魔獣具の職人であり続けたのは、今になって考えれば・・・呪われているからなのかも知れない。
魔獣と心を通わせる力。いつ頃から身に付いた能力なのかは覚えてないが、この力も一種の呪いではないかとログは考えていた。
恐らく今後もこの仕事が世界に認められることはないだろう、だが必要としてくれる者達が大勢いるからこそ、ログは魔獣具職人として生きたこれまでの人生に誇りを持っていた。
オイラたちを認め、必要としてくれる連中は沢山いる。しかしあの者共はどうだ、存在自体が罪であり、生きているだけですら許されない。
ログは重ねてきた年月により、まともに見えなくなった目で、橋を行き交う人間共を見詰めながら。
「こんな世界を造りだしたのは人間でぇ、いつか絶対に痛てえ目をみるだろーなぁ」
まあオイラも偉そうなことを言ってるが、誰がどう見ても人間だ・・・文句は言えねえ。
魔者に魔物や魔族が憎しみという殺意で戦争をするように、人類の大半も闇の魔力を身に宿した連中に憎しみを持っている。
この世界で行われている戦争の目的は、領土を奪うための戦いではなく、滅ぼすことを最大の目的とした戦いである。
奪う為の戦争ではなく、殺すための戦争。もし古代種族が現れなければ、人類は既に滅びていたかも知れない。
そんな世界に置いて、魔人が人間にどのような扱いを受けるのか。
『魔人とは闇に魂を売った人外の存在』
『人々に不幸を齎す災いに等しい』
『魔族は外側から世界を破壊して行く恐怖の者』
『魔人は人間の生活に溶け込み、内側から世界を腐らせる卑しい者』
これが魔人に対する世界の評価であった。
老人は力なく、弱々しい声で。
「おりゃーよ、情けねえ糞爺だ」
ログは魔獣具職人として生きた日々の中で、闇をその身に宿す化け物を心の底から憎めなくなっていた。彼は世間よりも魔人に対する偏見は持っていない。
実際に会ってみてよく解かった、魔人は魔物や魔族とは違う。本能で人間を憎んだりしてねえ、オイラが話した魔人は人間を憎んだりしちゃいなかった。
間違っている・・・世間が、世界が魔人に対する考え方は間違っている。
「だけどよー 死ぬのが怖ええから、世間に対してそれを、間違いだと叫ぶことすらできねー」
どんなにそれが正論だとしても、正しいことだとしても。
闇の魔力を宿す存在は人類にとって天敵であり、無条件で憎み合う構造が組み上がっているこの世界では、魔人は生きているだけで悪という考え方こそが正しいとなっていた。
千年戦争が終わり勝敗が決しない限り、どう足掻こうと世界は変化しないだろう。
魔族を、魔物を憎んでいる人間が余りにも多いこの世界で、魔人を認めることができる者は何人いるのか?
ログでさえ実際に青年と逢うまでは、魔人に少なからず偏見を持っていたのだ。
犬が教えてくれなけりゃ、今もオイラは魔人を心の底から認めることはできなかった。
情けない・・・時代が変るのを待つことしかできない自分が本当に情けない。
ログはそんな自分を好きになることはできなかった。
だから彼は橋を歩く民達の馬鹿面を拝んでいた、時代が変るのをこうやって待ち続ける。
残り少ない余生をそれに費やす積りで、これからは釣りもせずここに毎日座り続けようと思っていた。
もし戦争が終わったとしても、世界がログの願うように変るとは限らない。
・・
・・
暫くの時間が過ぎた、ログは身動き一つせず置物のように座っていた。
彼の前を沢山の人たちが通り過ぎてゆく、ログは黙って見詰めていた。
大柄な女性がログの前で立ち止まり、珍しそうな顔をしながら語り掛ける。
「あれ、珍しいですね、ログさんが釣りしてないなんて」
その言葉にログは顔だけを動かして。
「おりゃーよ、毎日釣りしてたからよー 流石に飽きちまったー」
ミレイは彼が魔獣具職人であったことを知らない。いつもレンガ大橋で釣りをしている老人として認識している。
アクアとセレスは刻亀の情報をどのように入手したかを簡単にグレンから聞いていたが、ログが魔獣具職人だということは聞いていなかった。
それでもアクアは人見知りをしない性格のようで、初対面の老人に質問をする。
「でもおじいちゃんさ、こんな所で座っているだけだと飽きちゃうんじゃないかな?」
ログは声のした方を向き、小柄な少女をじっくりと観察しながら。
「そりゃーよ、飽きるだろーなぁ。ただ外から誰かを眺めているだけじゃ、いつかは飽きらー」
彼は自分のことを言っているのか、それとも小柄な少女のことを言っているのか。
「だけどよー オイラは他に何をしたら良いのか分かんねぇー。他人に踏み込みすぎるのは面倒だからよー こうして離れた安全な場所で眺めてらー」
老人の意味不明な言葉にアクアは少し不満そうな表情を浮かべ。
「でもさ・・・踏み込まないと、何も解かんないじゃないか」
ログは呆けた顔で口を開けたまま空を仰ぎ。
「抱きつけば近くが見えて、離れりゃ遠くが見れる。遠くの景色は汚いもんも混ざっちまうけどよー 近くばかり見てると目が腐っちまうなぁ」
アクアは困った顔で老人に注意する。
「おじいちゃん駄目だよ、ボクにも解かるように言ってくれないとさ」
だが老人は呆けたまま、アクアの言葉を無視して空を見上げ続けた。
ミレイはログがどういう人物なのかを何となく知っていたから、そろそろ行くねと伝えると、三人で歩き始めた。
外套を纏っていた女性はミレイの物陰に隠れたまま、結局一度もログに話しかけることはなかった。
三人は少しずつ老人から離れていく。
ログは青空を見詰めたまま、思い出したかのように声をだし、ミレイたちを呼び止めた。
「そうそう、聞きてえことがあったんだ」
黙り込んでいた老人が突然声を発したため、三人は立ち止まりログの方を見る。
女性は珍しい髪の色をしているが、勇者が銀髪だという情報を知る者は限られている。だがグレンの逆手重装を掴んだとき、外套の下から僅かに見えた服とアクアの衣類が良く似ていたため、老人はこの二人が青年の仲間だと勘付いていた。
その上で聞いておきたいことが一つあった。
ログはできるだけ呆けた口調で。
「お前さん・・・魔人は好きか?」
老人の言葉にアクアは首を傾けたまま。
「なんでそんなこと聞くのさ、会ったことないから分かんないよ。あまり良い印象は持ってないけどさ・・・話したこともない相手を悪くは言えないからね」
ミレイもアクアの意見に賛同し。
「魔人という言葉以外にも、判断基準はあると思います・・・でも正直、あまり関わりたくはないです」
魔人と下手に関われば、自分だけでなく家族にも迷惑を掛けることになるからだ。
セレスは黙ったまま、老人の問い掛けには答えようとしなかった。
ログはゆっくりと空からセレスに視線を移し、再び勇者に問う。
「銀髪の娘さん・・・お前さんは魔人が好きか?」
セレスは怯えた眼差しを老人に向けながらも、ミレイの影から一歩前にでる。
「オババは魔人だけで判断しちゃ駄目っていった。人の評価だけを信じないで、そこだけはちゃんと自分で決ろって」
勇者の表情は俯き、嘘を付きたくなる。それでも残る言葉を、本当の気持ちを胸の底から振り絞って声にする。
「だけど魔人は闇に染まった人たちだから」
グレンはセレスの答えを知っていた。
だから彼は誰かと絆を繋ごうと、誰にも心を開かない。
「私は魔人を、神様を裏切った人たちを・・・許せません」
神を信じれば信じるほどに、神を裏切った者達への憎悪は増して行く。
信仰することは決して悪いことではない。魔人を悪と決めたのは神ではなく人類だから。
セレスも自分の考えが正しくないと理解はしている、もし目の前に魔人が現れたなら、それだけで判断はしたくないと思っている。
だけどそれができるかどうか、自信は持てなかった。
ログは青年を想い、せめてもの言葉をセレスとアクアに伝える。
「オイラは過去に一度だけ魔人と話したことがある。奴等の言うことは殆どが嘘でえ、魔人の言葉は信じないほうが良いとオイラも思うなあー」
ふざけた口調だが、何時もとは何かが違う。
「でもよおー あいつらを嘘つきにしたのは何処の誰か。魔人はたぶん人間を信じてねえーだろうよー」
本当は自分を含めて誰も信じてないくせに、それでも誰かを信じようとするのは、グレンがどうしようもない馬鹿だからだ。
今は無理でも、いつか来るその時・・・嘘でも良い、あの若者を認めてやってくれ。
6章:二十五話 おわり
冷凍マンモスをみて凄いなあと感動したから、水属性は時間を司るってしてみました、あとNHKの歴史ドラマをみて、ああ・・・川は歴史なんだなあと感じたのもあります。
マンモス以外の生き物は永久凍土から発見されてないんですかね?