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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
6章 赤鋼
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十九話 仲間

時計台での戦いから一夜が明け、昨日の戦いが嘘のように、穏やかな時間が過ぎていく。


速めの昼食を4人で取ると、ガンセキとアクアは旅支度を整えるため宿をでる。


当初の予定通り明日には旅立つことに決まり、せめて今日だけでも安静にしておくようガンセキから厳しく注意されてしまい、グレンは大人しく宿で静養していた。


逆手重装は専用のケースが手元にないため、保管できないという理由で未だグレンの左腕に装備されていた。


使わない時はケースに入れて置くよう、レンゲさんに言われてたからな。


この武具は装着するだけでも時間が掛かり、一々取り外しているといざという時に使用ができない。そのため旅の道中など戦闘が予想される場所では取り外してはならない。


今はそこまで困らないけど、暑くなってきたら蒸れそうだな。



逆手重装を手に入れ、今後俺のすべきことは。


左腕の魔力を練り込みながら、左腕に魔力を纏い、尚且つ左腕に炎を灯す。


とりあえずこれができるよう修行していこう。あと魔獣具の力で魔力練り完成までの秒数は短縮されているけどよ、その力に頼ってばかりだと痛い目に遭うかも知れねえ。


だから魔獣具に頼らず、自分だけで極化魔法発動までの時間を短縮させられるよう、その訓練もできる限り取り入れたほうが良いか。




昨日の戦闘で受けた傷の具合は、どちらかと言うと数週間前の魔犬戦で負った傷の方が重く、実をいうと未だ完治している訳ではなかった。


その上で牛魔と戦い、さらには信念旗と戦ったことにより、魔犬戦での傷が開いたわけではないが治りは遅くなっている。


グレンはこれまでの魔物狩りで傷を負いながら戦った経験が何度もあり、余程の重症でない限り痛みを堪えながら戦うことにはある程度だが慣れている。


何となくだが怪我の度合いでこのまま戦えるかどうかも分かるし、問題ないと判断したから軍での仕事を引き受けた。


昨日の戦闘では敵の攻撃に三度の直撃を受けた。


近距離で喰らった雷撃の痛みは既に引いている。


腹筋を使うと腹部が痛いが、無理すれば戦うことも何とか可能だと思う。


問題は・・・右肩だな。当分は激しく動かさない方が良さそうだ。



だけどよ、人内魔法や属性魔法があるのに、傷を癒すような魔法は一切ないんだよな。


そんな魔法があれば非常に助かるんだけど。現状として、自然治癒や専門の知識と技術を持つ人間に頼るしかない。


魔法陣の開発や研究を専門としている連中が色々と試しているらしいけど、治癒系統の能力を備えた魔法陣は思うように進んでないのかな。



ベッドで休んでいたグレンは腹部の痛みを堪えながら上半身を起こし、何気なくその場から窓の外を眺める。


外に並ぶ建物の隙間から見える空は青く、部屋の汚れた窓は開かれており、外気が中に入ってくる。


気持ち暖かいレンガの風がグレンの頬をなで、昨日の戦いが嘘のように心が穏やかになっていた。



死んだ者は魔法により神の下へ・・・か。


グレンは死にたいと思ったことは一度もないが、死後の世界について真剣に考えたことも殆どなかった。


生きているだけで楽しいことは沢山ある、だけど辛いことはもっと沢山だ。どんなに楽な生き方をしようとしても、面倒事は色々付いてくるもんだ。


その中で何か一つでも希望を見いだせれば、俺の世界は一変するのかも知れない。


グレンは視線を窓から外し、椅子に座りながら机にもたれて寝息を立てているセレスを見る。



こいつが俺にとっての希望なのか?


なんか違う気がする・・・セレスは俺にとって、生きる意味なだけだ。


もしこの先、俺が死ねば身体は失っても故郷に帰るらしい。その点は勇者の村って世界の常識と違うんだよな。


勇者の村では死後、魔法により神の下へ誘われるって考え方がないんだ。


俺の故郷である勇者の村には、過去の記録が殆ど残ってない。現在に残されているのは掟とかだけで、村の成り立ちとかは婆さんですら分からない。


でも大昔から、村人はどんなに故郷から離れた場所で死のうと、必ず故郷へと帰るって言い伝えられてきた。


勇者の村で信仰されている神も世界と同じなのに、その点は世界と違う。


もしかしたら村の成り立ちと、その点に関係があるのかも知れない。



勇者の村はどのように創られたのか、なぜそこから勇者と呼ばれる者達が旅立つことになったのか。


そもそも勇者の村では世界の標準よりも、なぜ多くの属性使いが産まれるのか。それ以上に高位魔法を使用できる者が世界より圧倒的に多いのか。


第一に俺達の祖先は何処から来たのか・・・なんか引っ掛かるな。


そう考えた瞬間だった、突如グレンの背筋を悪寒が襲う。



これ以上この謎に踏み込むなと、俺の本能が警告しているのは・・・果たして気の所為か?



グレンはなんか恐ろしくなって、今はそのことに付いて考えるのを止めた。


それでもよ、死んで故郷に帰れるのなら良い。でも、俺の身体には闇魔力が宿っている。


俺は勇者の重荷になるのが嫌だから死にたくない。


俺を護って死んでいった者達の犠牲を無駄にする訳にはいかない、だから死にたくない。


俺は別に神の下へ行きたいなんて微塵も思っちゃいない、だけど魔人は死んだら故郷に帰ることができるのか?


それが分からないから、俺は死ぬのが怖いのかも知れない。


このように死にたくない理由や、死ぬのが怖い気持ちがグレンには複数ある。だが、生きたいと願う感情は希薄だった。


目標は在る、此処に存在している意味も在る・・・だけど生きる希望という言葉の意味が、グレンにはよく分からない。



希望 一つの実現を目指し強く望む。


生きる希望 生きるを強く望むこと。



楽しいという感情は分かる、嬉しいという感情も分かる。だけどそれらを生きる希望に繋げることができない。


『君には自我なんて・・・自分なんて最初から持ってない!!』


自分という者が俺にはない。それは生きる希望が俺には無いってことか?


苦笑を浮かべながらグレンは息を一つ吐き。


俺には難しすぎて分からねえや、少なくとも俺は死にたくないと思っている、それだけで充分だろ。




グレンは気持ち良さそうに眠っているセレスを見て、自然と笑みが表情から漏れる。


死後の世界なんて考えても仕方ない、俺は悪い方へ考えちまう癖があるからな、今の俺は誰がなんと言おうが生きているんだ。


馬鹿丸出しの面で眠っているセレスは間違いなく生きている、それを見ている俺も生きている。


ガンセキさんがいれば安心できる。


アクアがいれば飽きは来ない。


セレスがいれば笑っていられる。


勇者一行の支えを拒んでも、結局この時点で俺は充分に支えられている。


今このとき・・・俺は幸せだよ。


口に出すことは絶対にないが、グレンは三人を仲間だと思っていた。


三人に何かしてもらう必要なんて無い、此処に居てくれるだけで良いんだ。それだけで支えになっているから。


時計台での戦いにより、グレンはそのことに気付いた。いや、本当は前から気付いていた。


力を合わせて犬魔と戦ったとき、俺たちは仲間なんだと。


今後アクアとセレスに対し、一切の隠し事はしない。以前二人としたこの約束を破ろうと思う。


グレンの中に芽生えた仲間としての感情を、死ぬまで隠し続ける。


俺は最後まで同志として、仲間と共に戦うんだ。


セレスと同じ時間を俺は共に生きている・・・それ以上の何を求める必要があるんだ。




グレンは明日の出発に備え、再び背をベッドへ預ける。


折角の機会だ、たまには考えるのを止めて、ゆっくり休もう。


・・

・・

一方その頃、ガンセキとアクアは。

・・

・・


宿をでた二人はそのまま大通りに向かい、まずは食料の買い付けを。


ユカ平原での野宿はこれまで以上に危険となる。


平原に存在する村は少なく、野宿を覚悟する必要もあるだろう。


だがこの平原には村は殆どないが、旅人専用の宿泊施設のような場所が幾つか存在している。


多少遠回りとなっても、野宿は避けながらデマドへ向かいたいとガンセキは考えていた。



アクアは周囲の景色を見渡しながら。


「レンガに到着したときは怖かったけどさ、もう大分なれたよ。それに友達もできたから離れるのが寂しいかな」


俺たちが良く利用した食事所に二人と同年代の娘がおり、何度か足を運ぶうちに仲良くなったようだ。


母と長男とその娘で切り盛りしている店で、次男はレンガの兵士として働いているとセレスが言っていたか。


寂しそうなアクアの横顔を眺めながら、ガンセキは穏やかな口調で話しかける。


「明日旅立つ時に寄ると良い、レンガでは世話になったからな」


俺は修行場に挨拶へ行ったあと、南門軍所でゼドさんと今後の打ち合わせをすることになっている。


三人はグレンの荷物を取りに工房へ向かうことになっているから、その途中で寄ることもできるだろう。


ガンセキの言葉にアクアは笑顔を向けると、元気な声で返事をする。


「旅立つときに時計台で待ち合わせすることになってるんだ、ミレイちゃんにグレン君を紹介したいと思って」


それは実に喜ばしいことだが、問題があるな。


「残念だが、昨日の一件で時計台の広場は封鎖に成っている。なんなら今から店の方へ足を運ぶか?」


時計台への坂道は通ることができるが、実際の戦闘現場である時計台は数日入れないだろう。


アクアはガンセキの提案に嬉しそうな表情をしたが、首を左右に振りながら。


「今忙しい時間だし、時計台の前で待ち合わせになっているから大丈夫。それにさ、旅立つ前にもう一度近くで時計台を見たいんだ」


時刻は調度昼時だ、押しかけるのも悪いか。それにアクアはレンガで一番のお気に入りが時計台だと以前言っていたな、昨日の戦闘で広場は傷ついたが、時計台は傷一つなく無事だった。


「確りと見てこい、あそこはレンガの象徴だからな」


何時かまた、時計台を眺めるその日の為に。


・・

・・

数時間後

・・

・・


食料の調達を終えた二人は宿へと帰る道中。


アクアは魔力を纏いながら買った荷物を両腕に抱え、ガンセキに質問をする。


「ねえガンさん、あの燻製って保存食は美味しいのかな?」


レンガは都市だけあり、保存食も種類が多い。


塩漬けにした魚や肉などを、煙でいぶした物を乾燥させたのを燻製と呼ぶらしい。


「独特の味と匂いだが、不味くはないと思う。まあ好みは人それぞれだ、食べれなければ俺が一人で食べさせて貰おう」


ガンセキの含み笑いを見て、アクアが怒る。


「酷いじゃないかガンさん!! 自分の好みで買うなんて!!」


アクアの予想通り、ガンセキは燻製が好きだった。


ガンセキは笑みを絶やさずに言葉を返す。


「食べれるかどうかは食べて見なければ分からんだろ、折角の機会だしな、色々な物を食べてみると良い」


グレンからグニュリを食べたという話を聞き、後日俺たちもその果物に挑戦したことがあった。


セレスは美味しいと言いながらアクアの分まで食べ、アクアはそこから分かるようにグニュリを食べれなかった。


俺はあの食感がどうも駄目だったが、味のほうは悪くなかったから残さず食べることはできた。まあ・・・美味いとは思わなかったが。


通になるとあの食感が堪らないらしいが、俺は通には成れそうにない。


俺の好物は、やはりおばさんの飯だな。



笑いながらガンセキはアクアに語り掛ける。


「もともと保存食は保存が目的だからな、味には期待できない物もある。それに好き嫌いが多いと大きくなれないぞ」


その言葉にアクアは顔を真っ赤にさせながら怒りを露にする。


「気にしてること言わないでよ! それにセレスちゃんは何でも美味しいって言うけどさ、そこまで身長は大きくないじゃないか!!」


ガンセキは苦笑いを浮かべながら。


「身長のことじゃない、人間として大きく成れないという意味だ。時が流れれば個人差はあるが嫌でも身体は成長する、だが心は時間だけで成長はしないだろ」


赤くなりはじめた空を見上げながら、ガンセキは話を続ける。


「偉そうに俺も言ってはいるが、己の未熟さは隠せんな」


前回の旅を含め、レンゲさんとの一年を経て、俺も多少は成長したと自負していたんだが。レンガでの日々で思い知らされた。


一人の人間として、俺はまだ未熟すぎる。


見上げていた空から視線を動かし、ガンセキは隣を歩くアクアを見る。


「俺もお前も、セレスもグレンも・・・修行が足らんな」


ガンセキの言葉にアクアは頷くと、暫し黙り込む。





アクアは意を決しガンセキを見詰めながら、確りとした口調で話しかけた。


「ガンさん、ボクは青の護衛として、責任者に相談があるんだ」


真剣な表情を向けてくるアクアに対し、ガンセキは頷くと歩みを止める。


手に持っていた荷物を地面にそっと置き、ガンセキはアクアと向かい合った。


アクアもガンセキの行動に続く。


「それで・・・お前の相談とはなんだ」


責任者としての口調、これまでの和やかな空気は既に消えていた。


アクアは息を吸い込むと、青の護衛として意見を述べる。


「これから先、決断をすることが増えていくと思うんだ。その時に今の決断方法だと、失敗するたびにガンさんはボクたちに謝らないといけない」


確かに今の決断方法では駄目だという思いはある。今まで俺が相談を持ちかけたのはグレンだけだからな。


その考えをガンセキはアクアに伝える。


「これからはお前たち二人にも相談していこうと考えている、だが最終的に決断するのは俺の役目だ」


物事に対し、三人の意見を聞き、最後に自分の考えを加えた上で決断する。今後俺はそうして行こうと思っている。


だがそのことに対し、アクアが自分の考えを。


「ボクが思うにさ、ガンさんは決断するのが速すぎる気がするんだ。物事に対してまず始めに皆の意見を聞いて、そこからガンさんが今後どうして行くかを決める。時間が過ぎると状況って変化するものだと思うんだよ、だから決断はここぞって時にするべきじゃないのかな」


確かに俺は決断するのが速かった。刻亀討伐に関しては内容上、他の三人に相談する訳には行かなかった。


だがこれからは4人で話し合いをしながら進めていく、その上で決断する頃合を見計らう必要もでてくるだろう。


相手がどう動くか分からない状態で、速くに決断をしてしまうのは危険だ。


街中でグレンが襲われたからには、信念旗は刻亀討伐に関係なく仕掛けてくる可能性がある。


既に一行の全員が信念旗の存在を知っている現状、今後の行動を四人で話し合い、確りと対策を練っておいたほうが良いな。


考え込んでいるガンセキを見て、アクアは発言を続ける。


「焦りは動揺となり、動揺は混乱を招く、混乱は恐怖を生む。ボクは今までのガンさんが、なんか焦っているような気がするんだ。責任者の背負う使命は重いけどさ、重いからこそ仲間と沢山話し合って決めるべきだよ」


アクアの目には俺が焦っているように映っていたか。否定はできない、事実俺は焦っていたのかも知れん。


魔王の領域を知っていたからこそ、勇者の旅が終わる前にセレスを成長させなくてはならない。その考えが間違いだとは思わない、だが焦りが無かったといえば嘘になる。


ガンセキは目線を逸らすことなくアクアに答える。


「焦らない為にも、今後は相談に重点を置き、物事を慎重に運ぶ必要が在るか」


その言葉にアクアはゆっくりと頷いた。


「話し合った結果、納得できない仲間だっていると思う。だけどさ、皆が納得した上で決断することができたなら・・・その決断が失敗しても、ガンさんはボクたちに謝る必要はないよ」


アクアが本当に言いたかったことはここだった。今回のことは確かにアクアは納得できない内容が多かった。でもガンセキが一生懸命考えて決断したのに、失敗したからといって謝られるのがアクアは嫌だった。


それなら皆で考えて、失敗した上で反省したほうが良い。


だがその点に関して、ガンセキは譲らなかった。


「反省し、その失敗を次に活かすのは大切なことだ。だが失敗した責任を背負うのが俺の役目だ」


アクアは悲しそうな瞳でガンセキを見詰めながら。


「なんで責任者が一人で責任を背負わないと駄目なのさ、皆で考えて決めたことなら、失敗した責任は皆で背負うべきだよ」


お前の気持ちは嬉しく思う、だがそれを認める訳にはいかない。


それは責任者の責任。


ガンセキには目標とする責任者が存在した。


その人こそが、本物の責任者だとガンセキは信じている。


責任者としての親父を知らない俺にとって、目指す責任者はあの人だ。



ガンセキが持つ責任者としての考え方は、彼の影響が強かった。


責任者の死は混乱を招く、だからこそ生き残らなくてはならない。


だが時に命を掛け、勇者の死と仲間の全滅を防ぐのも、旅の責任者が背負うべき使命である。


実際に彼から責任者としての使命を教わった訳ではない、だがガンセキは彼の背中を、生き様を脳裏に刻み付けていた。


白鋼の剣を片手に、命を刃として白い魔牛を討伐した人物。


その者がいたからこそ、勇者一行は全滅を免れた。




あの人が最後に残した言葉で、俺はカインの盾と成った。


あの人が最後に託した想いで、カインは俺の剣に成った。




彼こそがガンセキの考える、理想とする本物の責任者。


そして今、黄の責任者となった臆病者は、青の護衛に述べる。


「責任を背負う者・・・それが責任者だ」


四人で失敗の反省をし、今後に活かすための努力をする。


だが失敗の責任を背負うのは、責任者一人でなくてはならない。


次に放つガンセキの言葉には、威圧とは違う何かが込められていた。


「失敗に対してお前がするべきことは、その失敗を忘れないことだ。同じ失敗を繰り返すことだってある、だけど生きてさえいれば、失敗を取り返すことができるんだ」


ガンセキの脳裏には、尊敬する責任者の背中が映っていた。あの時、俺は彼の背中に手を伸ばした。


でもその手は届かなかった、全身が恐怖で振るえ、彼の最後をただこの眼に焼き付けることしかできなかった。



過去の失敗がなければ、その言葉に重さは宿らない。


アクアはガンセキの声に何かを感じ、責任者を説得することを諦める。


「でもボクたちは仲間なんだ、辛かったら助けての一言を叫ばなきゃ駄目だよ」


ガンセキはその言葉に頷きながら。


「そうだな・・・責任者として未熟な俺には、仲間の支えが必要だ」


お前にもセレスにも、グレンにも頼らせて貰う。だが、頼ってばかりでは駄目だな。


だからこそ日々の修練が重要となる。






親父との想いでは修行しか無かった。嫌がる俺を無理やり修行させて、当時は本当に嫌だった。


だけどいつ頃からか修行が癖になって、修行してないと落ち着かなくなった。


同年代の者達から馬鹿にされるのを怖れた俺は、夜の修行場でカインと仲良くなって、修行のお陰でオババに認められた。その後レンガでは修行をする為にレンゲさんと出逢った。



嫌なことがあると、俺は何時も本に逃げていた。


本に逃げたお陰で、色んな物語に俺は救われたよ。逃げ場があったから、前回の旅を泣きながらでも続けることができた。


修行で知り合った相棒に支えられて、共に戦った仲間に背中を押され、様々な物語に護られながら俺は旅を続けた。


沢山の別れが悲しくて、今度は修行に逃げた。逃げて逃げて、狂ったように逃げ続けた。


逃げ続ける俺を支えてくれたのはレンゲさんだ。


もう一度、足を前に踏みだす勇気をくれたのもレンゲさん。


俺の帰りを待ってくれている相手が二人いる。


息子だと言ってくれた人と、大切な女性。



趣味は俺に生きる希望を与えてくれた。


他人に友に親、そして仲間が俺に覚悟を授けてくれた。


大切な人と唯一の相棒が・・・生きる意味を俺に持たせてくれた。


そこに恐怖は無い、怖くても怖くない。


俺は背中に多く想いを背負っている、だから一人ではないんだ。



ガンセキは地面に下ろしていた荷物を持ち上げると、アクアに向けて話しかける。


「それでは行くか、セレスとグレンが待っているからな」


アクアはガンセキに頷きで応えると、魔力を纏い両腕で荷物を抱える。



空が赤くなり、もう直ぐ夜が来る。


多くの傷痕が刻まれたガンセキの表情を、アクアは強い眼差しで見上げると。


「ねえ・・・ガンさん」


ガンセキは隣を歩く小柄な仲間に視線を向け。


「なんだ」


アクアは視線を逸らしながら、少し言い難そうな口調で。


「いつでも良いんだけどさ・・・ガンさんしか知らない勇者の旅、いつかボクたちに聞かせてよ」


ガンセキは眼を閉ざし、過ぎた仲間たちとの日々を想いだしながら。


「俺としては恥しい話が多くてな、正直あまり知られたくない」


その言葉にアクアはニヤケながら。


「だからボクは聞きたいんだよ」


ガンセキは苦笑いを返す。


俺はこの先も過去に縛られて生きていくだろう。だけど悪いことばかりでもない、俺は過去に縛られながら、今を生きたいと思っているんだ。




二人は仲間の待つ宿へ足を進める。






6章:十九話 おわり

本編から5年前の白い魔牛との戦いは、そのうち簡単にですが書きたいと思っています。


では、次回もよろしくです。

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